第2節「狸と狐(2)」
コリンズの考えに従う。
エドマンドの答えはそれだけだと思っていたステイシーにとって、エドマンドの答えは少し意外なものだった。
「俺もそれがいいと思う。もしその婚約者ってのが来ても、俺がコリンズを守ればいいだけだしな」
そう言ってコリンズの頭に手を置くエドマンドに、ステイシーは強烈な違和感を感じた。
エドマンドが自然な、あまりにも自然な流れでコリンズの頭に手を置いたことでも、そのまま今もコリンズの頭を撫で続けていることに、ではない。
いや、そのことにも、もちろん違和感を感じるのだが、それよりももっと強烈な違和感を感じたのは、エドマンドの発言の方だ。
だってそうだろう。
コリンズがエドマンドを守る、と言うならよくわかる。
エドマンドとコリンズでは、圧倒的にコリンズの方が強い。
しかし、先ほどエドマンドは「俺がコリンズを守ればいい」と言ったのだ。
それはおかしいだろう。
なぜコリンズより弱いエドマンドが、コリンズを守るなどと言えるのか。
いや、言うこと自体は問題ない。
エドマンドも男だ、少しくらい格好をつけたいこともあるだろう。
でもそれは現実的ではないし、それがわからないエドマンドでもないはずだ。
エドマンドは頭が回る方だと思っていただけに、ステイシーはますますわけがわからなかった。
困惑したステイシーがカリサの方を見ると、カリサも目を丸くしてエドマンドの方を見ている。
しかしなぜだか、ニルダは驚いている様子もなく流していた。
ニルダもエルフの森での一件で、コリンズとエドマンドの実力差は知っているはずだ。
そしてそれがエドマンド達とニルダが別れてからの短い期間でどうにかなるものではないレベルのものだということも、ニルダならわかっているだろう。
「そうだよね、コリンズちゃんにはエドくんが付いてるんだもんね」
しかし、なぜかそんなことを言うニルダにステイシーとカリサは思わず視線を向ける。
「ん? どうしたの二人とも、鳩が豆鉄砲を食ったような顔して?」
むしろステイシーとカリサがおかしいかのような口ぶりに、事態の異常さを感じ取ったステイシーはカリサにそっと耳打ちした。
「カリサちゃん、よくわからないけど、ここは話を合わせておいたほうがよさそうだよ」
それを聞いたカリサは、小さくうなずく。
「そうですね、なんかお姉ちゃんまでおかしなこと言ってますし、一旦様子をみましょう」
表情からの推測通り、どうやらカリサは正常らしい。
ということで、ステイシーはこの場を取り繕うことにした。
「そうだね、エドが付いてるし、もし何かあっても大丈夫だよね、ね? カリサちゃん?」
ややわざとらしいかもしれないが、ステイシー無理やりカリサに話を振る。
「そうですね、そう思います」
ステイシーに内心感謝しながら、カリサもなるべく会話の流れに逆らわないように返した。
「じゃあみんな、私とカリサは夕食用意があるからもう行くね。ニルダちゃんも食べていくでしょう?」
「いいの?」
「もちろん」
「じゃあお言葉に甘えて」
「はいよ〜」
そんなやり取りを経て、ステイシーとカリサは、自然な形で他の面々から離れることに成功する。
「さて、どう思う、カリサちゃん」
夕食の用意をしなければならないもの事実ではあるので、ステイシーは手早く食材を取り出しながら、カリサの意見を聞く。
「そうですね……ステイシーちゃん、これを見てください」
ステイシーがカリサの方を見ると、そこには魔力を纏った白雪姫があった。
「なんか魔力が込められてるけど、それがなにか関係してるの?」
一見今の話に関係ない様なカリサの行動に、ステイシーはカリサが何を言いたいのかわからなかった。
「多分関係あると思います。ステイシーちゃんももう知ってると思いますが、この白雪姫には、所有者に対して発動された精神干渉系魔法の一切を自動的に感知して、無効化する効果があります。そして今、私が特に魔法を使っていないのに白雪姫が魔力を纏っている、ということは……」
原則として、使用者が何もしていない時にワンドが魔力を纏うわけがない。
ワンドは魔法の行使を補助するものであり、自ら魔力を精製するものではないのだから当然だ。
そしてそれは、白雪姫といえど同じだ。
しかし、もちろん例外もある。
例えば条件発動式の魔法がワンドに込められていて、その発動条件が満たされている時などだ。
「今カリサちゃんが、何か精神干渉系魔法を仕掛けられてるってこと?」
カリサの言葉意味を瞬時に理解したステイシーがカリサの言葉を引き継いだ。
そう考えれば、ニルダまで様子がおかしかったことにも説明がつく。
「おそらくですが」
残念ながら、白雪姫は所有者に対する精神干渉系魔法を無効化する効果はあっても、その精神干渉系魔法を行使したのが誰かまではわからない。
そのため、カリサに言えるのはここまでだった。
「なるほどね、よし! ちょっと調べてるよ」
ステイシーは、周囲に発動中の魔法が無いか、そして、エドマンド、コリンズ、ニルダの3人がどういう状態か調べ始める。
だが、すぐにステイシーは魔法の行使をやめてしまった。
「どうしたんですか、ステイシーちゃん」
ステイシーは魔法探査と魔法状態確認の2つの魔法を行使し、発動し終わるとほぼ同時に止めてしまったのだ。
いくらステイシーとはいえ、それで見つかるのは早すぎるだろう。
カリサが疑問に思うのも当たり前だ。
「うん、その〜もう終わった?」
半信半疑といった様子で、なんとも言えない表情のステイシーは首を傾げる。
「え? いやいやいや、それはおかしくないですか? そんな、それこそすぐそこに魔法を使ってる人がいれば話は別ですけど……」
確かに、例えば先ほどステイシーとカリサがいた隣の空間に問題の精神干渉系魔法を行使している魔法使いがいれば、今程度の時間で見つけることができるかもしれないが……、とそこまで考えて、カリサはあることに気がついた
「え? もしかしてそういうことですか?」
流石にそれはないだろう、と思って言ったカリサの言葉に、ステイシーは頷いた。
そうだとすると、獣人であるコリンズは一般的な魔法は使えないはずなので、ニルダかエドマンドが魔法を行使していることになるのだが、現実的にはニルダが魔法の行使者だと考えるべきだろう。
確かにそれなら筋は通るが、ではニルダは一体どうしてそんなことをしたのだろう?
カリサの言葉を、ステイシーが首肯する。
そして、
「ねえカリサちゃん、獣人って魔法使えないよね?」
とそんな当たり前のことをカリサに確認してきたのだった。
読んでいただきありがとうございます。
獣人が、魔法を? ということは、どういうことでしょうね?
一応おさらいしておくと、獣人は基本的に身体強化以外に魔力を使うことができません。
その代わり、身体強化に効果が大きく、極めて優れた単純戦闘力を誇ります。
しかし、例外もあるんですね。
それについては次回以降のお楽しみ、ということで。
明日も読んでいただけると嬉しいです。
それでは。




