第1節「剣術指南と婚約者(5)」
「あれ、お姉ちゃん?」
時は少し戻り、エドマンドがコリンズに引きずられて、宿へと連行されいている頃。
ステイシーと一緒に昼食片付けを終え、そろそろ夕食の準備をしようかと思っていたカリサは、不意に姉の魔力を感じた。
「お姉ちゃんってことは、ニルダちゃんか。どれどれ?」
カリサの言葉にステイシーもダンジョンの外に意識を向ける。
確かに、金髪に尖った耳で純血のエルフの少女がこちらに向かってきていた。
「ホントだ。すごいねカリサちゃん。流石に私もまだあの距離じゃ気がつかないよ」
ステイシーはダンジョンの外からこちらに接近してくる存在の、その全てを念の為感知するようにしている。
しているのだが、今ニルダいる場所は流石に範囲外だった。
その程度にはニルダはダンジョンから離れていたのだ。
「そうですか? 私としては、私とお姉ちゃんが存在を認識しあえるギリギリの距離でも、確認しようと思えば確認できてしまうステイシーちゃんの方がよっぽどすごいと思います」
エルフの血縁者同士は、お互いの魔力を感知することで、おおよその相手の位置がわかる能力がある。
どうしてこのような能力があるのか、はっきりとはわかっていない。
一般には、その昔エルフがまだ親族単位の集団で、各地の森に点在して暮らしていた頃、森での狩猟の際に、誤って親族のエルフに攻撃してしまうことのないよう、自然に身についた能力だと言われているが、確証はないらしい。
そして、この親族間の相互感知能力は、血縁的に近いものほど完治可能範囲が広がる、という特性がある。
カリサとニルダは、腹違いとはいえ姉妹なので、相当な距離、少なくとも目視ではわからないほどの距離でも相互感知可能なのだ。
カリサはもはや、ステイシーがどんなとんでもないことをしても驚かないが、やはりすごいとは思った。
「そうかな? あれだけ派手に移動してれば誰でも気がつくんじゃない?」
カリサに限らずだが、誰かに褒められると胸を張って嬉しそうにすることの多いステイシーだが、今回はやや呆れ顔で魔法の行使を続けている。
カリサの側から改めて見てみると、ステイシーの目の前の空間が淡く光っている。
おそらくステイシーが行使している透視の裏側だろう。
透視は空間系魔法の一種だ。
空間筒の劣化版だと思われがちだが、実際は違う。
事実として空間筒がレベル3であるのに対し、透視はレベル4とされている。
空間系魔法は各属性魔法と異なり、魔力属性を問わず使用できるが、難易度は各属性魔法において2レベル上の魔法を修得するのと同等とされるため、空間筒と透視の修得難易度はそれぞれレベル5とレベル6、ということにとなる。
ではなぜ直接空間をつなげる空間筒より、ただ透視するだけの透視の方が難易度が高いと言われているのか。
その理由は、透視の発動工程を考えるとよくわかる。
透視はその発動工程で一度空間筒とほとんど同じものを形成している。
これが、透視が空間系魔法に分類される所以だ。
そして、空間筒を形成して終わり空間筒と違い、そこから光以外を通さないように処理したものが透視という魔法だ。
この処理がある分、難易度が高い。
話は戻るが、空間系魔法である以上、ステイシーの側からか見れば外が見えていても、その正面に立つカリサの、側から見た時は、透視が行使されている空間に魔力の淡い光が見えるだけで、何もわかりはしない。
つまるところ、「あれだけ派手に移動してれば……」と言われたところで、相互感知能力でニルダがいる位置しかわからないカリサにはよくわからない、ということだ。
「ごめんごめん、ほらこれだよこれ」
カリサとニルダの間の相互感知能力についてステイシーがその存在を知っているのか、知っているとしてどのくらい知っているのかはわからないが、とにかくカリサには今のニルダの姿が見えていないことを察したステイシーは、近くに壁一面に透視で見ている映像を映し出した。
「えぇ……お姉ちゃんって、あんな派手に移動してたっけ……?」
そこには、やたらとカラフルな絨毯を何らかの魔法、おそらく緑属性魔法で操り、全力疾走する馬くらいのスピードでこちらに飛んできている姉を姿が映っていた。
*
「えーっと、久しぶり、お姉ちゃん?」
謎のカラフル絨毯乗りと化した姉に、カリサは少し複雑そうな表情をしている。
「久しぶり、カリサ。って、まだ一月くらいしか経ってないけど」
先ほどまで乗っていたカラフルな絨毯を丸めて脇に抱えるニルダは、服装もその絨毯よろしくカラフルなことを除けば、いつものニルダだ。
そう、服装と絨毯を除けば、だが。
「ニルダちゃん久しぶり。それにしてもよく入ってこれたね?」
「お久しぶりです、ステイシーさん。カリサから入り方を聞いていましたから」
カリサに話す時と違い、畏まって話すニルダに、ステイシーは苦笑する。
「そんな畏まらなくてもいいってー、カリサちゃんと話すときみたいな感じで話してくれていいから、ね?」
「いえ、それは……」
「私がそうして欲しいの。ね、いいでしょ?」
「ステイシーさんがそこまで言うなら……」
ステイシーに押し切られ、ニルダはしぶしぶ了解する。
「よーし、じゃあ早速、私のことはステイシーでもステイシーちゃんでも呼びやすいように呼んでね」
「わかり……じゃなかった、わかった、ステイシー」
「うんうんそれでお願いね」
ちなみに、未だにステイシーにもエドマンドにもコリンズにもカリサに、ステイシーは今のようなやり取りを何度かしたのだが、最近では諦めている。
カリサは、家族以外に対して誰にでも敬語で話すほうが性に合っているのかもしれない。
「それで、ニルダちゃん、どうしたのその格好?」
ステイシーはニルダの不思議な格好をまじまじと見る。
「ああ、これはドワーフのキャラバンで貰ったの」
何でも、旅の途中で流行り病に苦しむドワーフのキャラバンに遭遇したニルダは、エルフの森から持ってきていた素材で薬を調合し、看病してあげたらしい。
その際、ぜひ持っていってくれ、と渡されたのがさっきまで乗っていた絨毯と、今着ている服一式だった、ということだ。
「それで私たちエルフの間じゃあまり見ないデザインなんだね」
基本的にシンプルなデザインが多いエルフの服とは異なる、凝った意匠が多く施された服も、ドワーフが作ったものだと言われれば納得できる。
「そうね、確かに私たちの国じゃあんまり見ないデザインよね」
裾を持ち上げたり、振り返ったりしながら自分が着ている服を、見ているニルダは、そうは言っても嬉しそうだった。
ニルダは昔から新しい物好きなところがあるので、エルフにとっては珍しいその服が気に入っているのだろう。
「そういえばまだ聞いてなかったけど、ニルダちゃんはどうして突然「幼子の遊び場」まで来たの?」
ステイシーの言葉に、ニルダは大事なことを思い出した。
「そうだったそうだった、これを見て」
そこには、
〜迷い人捜索への協力願い〜
名前:ベタニア=コリンズ
上記の者の消息を知っている者は、ご連絡ください。
〜マルダーフント族族長〜
と書かれていた。
読んでいただきありがとうございます。
ニルダ再登場です。
もっとどんどん新キャラ出そうかとも思ってましたが、なんとなくキャラを使い捨てるみたいで嫌なので、やめることにしました。
なので、今後も昔出てきたキャラが再登場する流れは何度もあると思います。
明日も読んでいただけると嬉しいです。
それでは。




