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白き聖女の下剋上  作者: 上村 俊貴
獣人抗争とコリンズ
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第1節「剣術指南と婚約者(4)」

 わかりきっていたことだが、エドマンドがコリンズに抵抗できるはずもなく、そのまま受付を済ませ、二人は今、宿の一室にいた。


 そのまま襲われるかもしれない、ということまで覚悟し、不安と期待の入り混じった状態だったエドマンドだが、予想に反して部屋に入ってからというもの、コリンズはこちらと目を合わせることすら避けている。


「えーっと、コリンズ? ここからどうするんだ?」


 気まずい沈黙に耐えかねたエドマンドが、先ほど同様腕を組んだまま、エドマンドと一緒にベッドに腰掛けているコリンズに話しかける。


 落ち着け、だの、早まるな、だの言っていたエドマンドの方から、催促するようなことを言うことに、抵抗がなかったと言えば嘘になるが、それよりも、閉鎖空間で密着し、二人ともで黙り込んでいる、という状況に耐えることの方が辛かったのだから仕方ない。


「え? あ、ああ、そうだな……」


 ビクッと肩を震わせたコリンズは、慌てながらも、なんとか平静を保とうとしている。


 それから少しして、コリンズはなにか覚悟を決めたように頷くと、ゆっくりとエドマンドの腕に絡めていた腕を解くと、体ごとエドマンドの方を向いた。


「エド、こんなところに君をつれてきたのは他でもない」


 顔を真っ赤にしながら話すコリンズに、とうとうか、とエドマンドも覚悟を決める。


 もはやコリンズに関節を決められているわけでもないため、コリンズのすきをついてこの場から脱走することも可能かもしれないが、据え膳食わぬはなんとやら、事ここに至って逃げ出すほどエドマンドは甲斐性なしではないつもりだ。


 まあ、そもそもエドマンドがコリンズのすきをつける可能性もゼロに近いのだが……。


「私の頭を撫でてほしいんだ!」


「わかっ―――え?」


 てっきり「君の子供がほしい」といった内容のことを言われると思っていたエドマンドは、コリンズが意を決した様子で言ったその言葉の意味がすぐには理解できず、気の抜けた返答しかできなかった。


「え? ではない! 君は私に恥をかかせるつもりか!? 私の頭を撫ででほしい、とそう言ったんだ!」


 コリンズにとってはかなりの覚悟を持って発した言葉に、エドマンドが「え?」などと返してきたので、コリンズは怒りやら恥ずかしさやらでよく分からなくなり、早口でそうまくし立てた。


「いや、それは聞こえてたけど……そんなことでいいのか? というか、そんなことのためにわざわざステイシーやカリサに気づかれないように宿まで来たのか?」


 拍子抜けも拍子抜け。そんなことなら別に「幼子の遊び場」の中でも良かったじゃないか、と言うのがエドマンドの正直な感想だった。


 だが、エドマンドの思いとは裏腹に、コリンズはむしろエドマンドの方が、何を言っているんだ? と驚愕の表情を浮かべている。

 

「そんなこと、だと!?」


「違うのか? だって頭を撫でるだけだろう? それくらいなら頼まれればいくらでも……」


 何をそんなに驚いているのかエドマンドにはさっぱりわからないが、とにかくコリンズにとって、頭を撫でる、という行為にはなにか特別な意味があるのだろう。


 そこでエドマンドは、エルフの森でのことを思い出した。


 そういえばあの時は、エドマンドがコリンズの頭を撫でた時は、その手を止めようとしたエドマンドの手首を掴み、続ける様に言い、その後「また撫でてやる」といった時はなぜだか顔を真っ赤にしたコリンズに突き飛ばされたのだ。


「いくらでも!?」


 エドマンドの言葉に、コリンズはますます驚愕の色を濃くした。


 そしてここでようやく、コリンズは冷静な思考を取り戻した。


 あまりにも驚いたのかことで返って冷静になってしまったのだ。


 そして、重要なことを思い出した。


 それは、エドマンドには獣人に関する知識がほとんどないのだということだ。


 そもそも、そうだからこそエドマンドを利用しようとしていた。


 そこまで考えて、コリンズの心はスッと冷える。


「いや、済まなかった。何でもないことだな、頭を撫でる、くらい、な」


 冷静になったとはいえ、その意味を知るコリンズにとっては、やはり完全に平静を保つことは無理だったようで、言葉が少しとぎれとぎれになってしまう。


「そうなのか? なんかさっきまでめちゃくちゃ慌ててたみたいだけど……。それに前だって―――」


「大丈夫だ、本当に、大丈夫だから」


 エドマンドの言葉に被せるように、コリンズは少し強めの口調ではっきりと言う。


「そ、そうか。じゃあ、何だっけか、頭を撫でればいいんだっけ?」


 エドマンドはコリンズの語気に少し気圧され気味だ。


「ああ、私の頭を撫でてほしい」


 改めてそう言葉にすることにどのような意味があるのか、エドマンドにはわからないが、とにかく言われた通りにコリンズの頭を撫でることにした。


「ひゃんっ!」


 耳に触れた瞬間、コリンズが変な声を出したせいで、エドマンドは思わず手を離そうとするが、その前にその手をコリンズが掴んだ。


「いいから、私がいいと言うまで続けてくれ」


 見上げる形で、少し涙に濡れた金の瞳に見つめられ、エドマンドはその瞳に吸い込まれそうな気分になり、同時に鼓動が大きくなるのを感じる。


 それほどに、今のコリンズは艶やかな魅力を放っていた。


「……わかった」


 コリンズに言われるままにしばらくしてその頭を撫でていると、エドマンドは途中で自身の体の中に、何かが流れ込んでいるように感じられた。


 そしてそれは同時に、自分の中からも何かが流れる出しているような、そんな不思議な感覚だった。


 しかし嫌な感じはしなかった。


 むしろ心地よいその感覚に、エドマンドは少しずつ身を委ねていく。


「ありがとう、エド。もう大丈夫だ」


 少し朦朧とし始めていたエドマンドは、コリンズの声で現実へと意識を引き戻された。


 目の前には、まだほんの僅かに先ほどの艶やかさが残るものの、それ以外はすっかりいつもの通りに戻ったコリンズの姿があった。


 いつもどおりなはずなのだが……


(コリンズってこんなに可愛かったっけ?)


そう、エドマンドにはいつもよりコリンズが可愛いと思った。


 いや正確には、愛おしい、と確かにそう思った。


「どうした?」


 コリンズの顔をまじまじと見つめるエドマンドに、コリンズ首を傾げる。


 そんな見慣れた仕草すら、今のエドマンドには可愛く見えた。


(どういうことだ? 確かに、最初からコリンズ可愛かったけど……)


 自分の中に起こった変化に戸惑いながらも、エドマンドはとりあえずこの場はごまかす事にした。


「いや、何でもない。それで、本当にこれで終わりなんだな?」


 おそらくコリンズには気づかれていないだろう。


 その程度には、平静を装えている自信があった。


「そうだな、帰ろうか」


 そう言って立ち上がったコリンズは、自然な流れでエドマンドの腕に自身の腕を絡めてきた。


 それに対して、それが当然であるかのように応じるエドマンドは、ここに来る前、コリンズが腕を組んでくることを疑問に思っていたことを、全く思い出すことはなかった。


 そんな自分の変化に、エドマンドは気づいていなのだった。

読んでいただきありがとうございます。


まあ一般小説なので、ね。


そんな過激なことはできないですよね。


拍子抜けした方もいるかもしれませんが、今回の話は今後の展開にとって重要だったりします。


明日も読んでいただけると嬉しいです。


それでは。

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