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白き聖女の下剋上  作者: 上村 俊貴
獣人抗争とコリンズ
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第1節「剣術指南と婚約者(3)」

 大きな屋敷の一室。


 ゆうに十人は寝れそうな巨大なベッドがあるその部屋で、一人の獣人の女性倒れた。


 その獣人の女性は、まだ年若く、女性というよりは少女と言う方がふさわしい。


「ちっ、もうへばりやがったか」


 獣人の男性はそう言うと、ベッドから立ち上がり、カーテンを開けた。


 月明かりにに照らされたベットには、先ほど倒れた獣人の少女を含め、十人のあまりの獣人の少女が息も絶え絶えになって倒れている。


 その少女たちは皆、丸い耳をした狸の獣人だ。


「やっぱりこいつらじゃダメだな。おい、誰かいないのか」


 ドアの向こうに獣人の男性が声をかけると、男性の声が返ってきた。


「いかがいたしましたか、ジェス坊っちゃん」


 男性をジェスと呼んだドアの向こうの声に、ジェスは満足気に頷く。


「リードか。あの女は見つかったか?」


 ジェスはリードのことを信頼している。


 この男は、良い状況なら良いと、悪い状況なら悪いと、正直に答えるのだ。


 族長の息子であるジェスに対しても、取り入ろうとして良い報告しかしない、などということがない。


 誰も彼も自分に気を使い、いつもいつも愛想笑いを浮かべる奴らばかりの中で、唯一リードのもたらす情報だけが信用に足る、とジェスは思っている。


「いえ、まだ見つかっておりません」


 悪びれた様子もないリードだが、ジェスもそれに腹を立てた様子はない。


 リードが「まだ見つかっていない」と言ったということは、「いつかは見つける」ということだ。


「そうか」


 ジェスがドアを開けて部屋を出ると、部屋の前に控えていた白髪交じりの男性、リードが深く頭を下げてくる。


「こいつらをどうにかしておいてくれ」


 ジェスが部屋の中を視線で示す。


「かしこまりました」


 部屋を一瞥したリードは嫌な顔ひとつせずに、再びジェスに頭を下げる。


 毎度のことだが、リードに後始末を頼むと、それ以降その女達の姿をジェスが目にすることはなかった。


 リードが女達をどうしているのかはわからないが、ジェスにとってはどうでも良いことだった。



 青い空の下、エドマンドはいつもよりゆっくりと街を歩いていた。


 街とはいっても、「幼子の遊び場」のすぐ外の街だ。


 初めて来たときはステイシーと一緒だったが、それ以降は基本的に一人で来ることがほとんどだったのだが、今日はそうではなかった。


「コリンズ、なんで俺は今こんなことになってるんだ?」


 そう、今日はコリンズと一緒に来ていた。


 実はそれだけなら別段珍しくはない。


 魔法具を買いに来るときはステイシーと来ることもあるし、カリサが食材の買い出しに行く時には荷物持ちとして同行することもある。


 同じ様に、武器を買いに来る時は、コリンズと街に来ることもあるのだ。


 だから、エドマンドの言っている「こんなこと」というのは、コリンズと二人で街に来ている状況のことではない。


「なんのことだ? 君と街に来るのは初めてではないだろう?」


 その声は、エドマンドの肩の向こう、エドマンドのすぐ近くから聞こえている。


「いや、そうじゃなくてな?」


 エドマンドは、彼と腕を組んでいるコリンズに向かって言った。


「じゃあなんなんだ?」


 わざとらしく首を傾げるコリンズに、エドマンドは思わずため息をつく。


「じゃあなんなんだじゃなくてだな……どうしてコリンズは俺と腕を組んでいるんだ」


 コリンズのような美少女に腕を組まれて、悪い気はしないエドマンドだが、それはそれ、これはこれ、である。


 どうしてそんなことをしてくるのか、やはり疑問は疑問なのだ。


「嫌か?」


 最近よく聞く返しに、エドマンドも何度目かわからない返しをする。


「そんなことはないけど……」


 コリンズは可愛い。


 確かに人間とは違い、狐の耳と尻尾を持っているが、日本育ちでアニメやゲームの中で同じ様なキャラクターをよく見ていたエドマンドは、そこまで違和感を感じはしなかった。


 加えて、大きな金の瞳に、狐耳同じ金色の髪を肩にかかるくらいで切りそろえた彼女は、その幼い容姿を考慮しても十分魅力的だ、と思う。


 だからこそエドマンド今日も、そして今日までも、エドマンドは強く拒絶できないでいた。


「じゃあいいじゃないか、それより早く行かないと」


 コリンズは腕を組んでいるエドマンドを半ば引っ張るようにしながら、どんどんと進んでいく。


「ちょっ、おい、わかった、わかったから引っ張るなって!」


 結局今日も、エドマンドはコリンズに押し切られ、カリサに聞いた婚約者の話を聞けなさそうだ。


「それで、今日は何を買いに来たんだ?」


 諦めたエドマンドは、もう一つ疑問に思っていたことを尋ねる。


 いつもの通り剣術の練習をした後、特に理由を告げられぬまま、エドマンドは街まで連れて来られていたのだ。


「今日は、宿に行こうと思う」


 なぜだからわからないが、少し恥ずかしそうにもじもじしながら、コリンズはそう言った。


「なんでまた宿なんかに行くんだ?」


 コリンズの意図がさっぱりわからないエドマンドは首を傾げる。


 なぜエドマンド達が住んでいる「幼子の遊び場」からすぐその街に来て、宿に泊まるのだろうか?


 そこまで考えて、エドマンドはあることに気がついた。


 コリンズに引っ張られるまま歩いていた来たため気が付かなかったが、エドマンドたち二人は、昼間だというのに少し薄暗い区画に来ていたのだ。


 そして、加えて言えば、なぜだか男女のペアが多い。


 しかも、男性は比較的普通の格好だが、女性の方はやや露出の多い格好が目立つ。


(つまり、そういうことか!?) 


 そう考えれば、先ほどコリンズが恥ずかしそうにしていたことにも納得がいく。


 つまり、宿に泊まる、とはそういうことなのだろう。


「ま、待て! 待ってくれコリンズ、なにか悩んでるなら相談に乗るから! その、だからなんだ……早まるんじゃ、いってててて!」


 ようやくコリンズの意図を理解したエドマンドだったが、遅すぎたようだ。


 言い切る前に組んでいた腕の関節を決められてしまい


「うるさい! 男なら覚悟を決めろ!」


と顔を真っ赤にしたコリンズに一喝され、そのままエドマンドは、休憩のある宿へと引きずられていったのだった。

読んでいただきありがとうございます。


何やら新しい獣人が出てきましたね。


まあもうどういうポジションかバレているような気がしないでもないですが……。


明日も読んでいただけると嬉しいです。


それでは。

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