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白き聖女の下剋上  作者: 上村 俊貴
獣人抗争とコリンズ
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第1節「剣術指南と婚約者(2)」

「いやいやいや、それはないだろ」


 恋とはなんとも突拍子もない。


 確かにエドマンドの話した内容を大雑把にまとめれば、コリンズのスキンシップが増えた、と言えなくもないが、それだけをもって、恋だと断定するのは飛躍し過ぎだろう。


「いえ、絶対そうです。そもそも好きでもない相手に膝枕なんてしませんって」


(っていわれてますけど、ステイシーさん)


 エドマンドはかつてステイシーに膝枕されていたことを思い出し、心のなかでツッコミを入れる。


「そうは言っても、それ以外これと言ってなにもないじゃないか」


「それでもですよ」


 カリサにしては珍しく、なかなか食い下がらない。


 普段は大人びた彼女だが、その見た目に反して、心は人間で言う十三歳くらいということで、まだまだ恋に恋する少女ということなのだろうか?


「まあいいや、それは一旦置いといて、だ。カリサはそれ以外にコリンズのことで思い当たることとかあるか?」


 もうしょうがないので、エドマンドは無理やり話を、もとの方向戻すことにした。


「そうですねー、そういえばコリンズちゃんには婚約者がいるとかいないとか? 聞いたことがあります」


 エドマンドがカリサの、コリンズがエドマンドのことを好き説、を取り合わなかったことで、少し不満そうにしながらも、カリサはそう答えた。


「いや、それはいるのか、いないのか、どっちなんだ……」


 あまりに曖昧なカリサの物言いに、エドマンドは呆れてしまう。


「なんでも、親同士が決めた婚約話らしくて、二人が大人になったら最終決定すればいい、って感じだったらしいんですが……」


 文化の発展具合を考えると、親同士が婚約話を進める、ということは普通にあるのだろう。


 むしろ、最終決定を当人たちに任せているあたり、コリンズとその婚約者の両親はかなり良い親なのではないだろうか。


 しかし、カリサの口ぶりからして、どうやら明るい話ではないらしい。


「何か問題があったのか?」


「はい、実はその婚約者の方がコリンズちゃんより年上らしく、その関係で先に成人した婚約者の方が、コリンズちゃんと結婚する、と言い出したらしいです」


「それで、コリンズはどう答えたんだ?」


 どうも話の流れ的に、揉めているのだろうことはわかっているので、「はい、じゃあ、あなたと結婚します」とはなっていないだろうことは明白だ。


 そしてカリサの答えは、そんなエドマンドの予想を通り


「断ったそうです。ですけど」


「相手が納得しなかった、と」


 カリサの言葉に引き継いだエドマンドの言葉に、カリサは頷く。


「らしいです。ちなみに、それで家出したところを、何者かに捕まって売り飛ばさた結果、私と同じ奴隷商人のところに来たらしいですよ」


 コリンズは、並の冒険者などよりもよほど強い。


 確かに、ダークエルフのシュパンとかいう男よりは弱いようだが、あれはシュパンが強すぎるだけなので例外だろう。


 だからこそ、エドマンドは長らく疑問だったのだ。


 どうしてコリンズが捕まって奴隷などになっているのだろう? と。


 しかし今回、思わぬ形でコリンズが捕まっていた理由が判明し、エドマンドはようやく納得することができた。


「というかカリサ、普通に考えてコリンズの様子がおかしい理由はそっちの婚約者関係だろ? なんでコリンズ俺のことを好きだなんて突拍子もないことを言ったんだ?」


 極めてまともな指摘を受けたカリサは、開き直ったのか、正直にエドマンドに話した。


「だって、そっちのほうが面白そうじゃないですか」


「おらっ!」


 そして、エドマンドから軽くチョップされた。


「いったーい、なにするのエドくん」


 涙目で頭を抑えながら、カリサはエドマンドに非難の目を向ける。


 驚いたのか、いつもの敬語ではなく、ニルダなどと話すときのように素の喋り方になっている。


「いったーい、じゃねーよ全く。ニルダといいカリサといい、実はレヤード姉妹は結構なトラブルメーカーなのか?」


 あの後、ステイシーがエルフの森全体に結界魔法をかけ、ダークエルフが侵入してきた場合はカリサが強制的にエルフの森に転移するようにしたことで、白雪姫(シュネーヴィトヒェン)からも、エルフの森守る指名からも開放されたニルダは、早々に旅に出てしまったらしい。


 その自由奔放さに、エドマンドは内心、カリサに白雪姫(シュネーヴィトヒェン)を所有権を移したのは、自分が自由になるためだったのではないか、と思っている。


「だって、普通に答えても面白くないし……。それにそれに! コリンズちゃんと婚約者さんのことはもう終わってる話だと思ったんだもん」


 そう言い訳する姿は、子供のようだが、見た目は成人女性なためなんとも言えない感じだ。


「はあ、わかったよ。そういうことにしといてやる。それとカリサ、そっちのほうが可愛いし、俺はいっこうに構わないんだが、その、素の話し方が出てるぞ?」


「……っ〜〜〜」


 カリサは顔を真っ赤にして黙ってしまう。


 その姿がまた可愛らしいのだが、それを言うと白雪姫(シュネーヴィトヒェン)で氷漬けにされかねないので黙っておくことにした。


「とっ、とにかく! コリンズちゃんが、悩んでいる理由はわかってよかったじゃないですか、ね?」


 どうやらカリサは、先ほどのことをなかったことにしたいらしく、ごまかすように語気を強めてそう言った。


「そういうことにしておいてやろう。もう終わってる話だと思ったんだもんな、仕方ないよな〜」


 少し意地悪したくなったエドマンドは、わざと先ほどのカリサの口調を真似した上、だもん、の部分を強調してそう返した。


「……っ〜〜〜、エ〜ド〜!」


 案の定、今度は耳の先まで真っ赤にしたカリサは、エドマンドが気がついた時には、どこからか取り出した白雪姫(シュネーヴィトヒェン)を手にしていた。


 「あ、終わった」とエドマンドがやりすぎたことを察した時には時既に遅く、


氷結拘束(アイシング・リストレイント)!」


次の瞬間、エドマンドは氷漬けにされていた。



 私は利己的な人間だ。


 エドマンドが私たち、ヴォルペのことを、もっと言えば獣人全般のことをよく知らないのをいいことに、利用しようとしている。


 でも、仕方ないじゃないか、そうしないと私は、あんな奴と結婚することになってしまうのだから。


 もちろん問題もある。


 獣人の世界で女は力で奪うものだ。


 もしエドマンドがあいつに負ければ、なんの意味もない。


 だからこそ、コリンズはエドマンドを鍛えているのだ。


 幸いなことに、エドマンドは物覚えがいい。


 剣術の筋も悪くない。


 もう一月も鍛えれば、一角の剣士となるだろう。


 問題は、それまであいつに見つからないでいられるか、だ。


 もちろんそれでもエドマンドがあいつに勝てる確証はない。


 だがもっと時間をかけてエドマンドを鍛えることができれば、エドマンドも勝率は上がるはずだ。


 それはあいつに見つかるまでどれだけ時間が稼げるか、にかかっている。


 エドマンドに悪いことをしているとは思っている。


 でも仕方ない。


 そう、仕方ないのだ。


 コリンズは今日もそうして自分を納得させると、眠りについたのだった。

読んでいただきありがとうございます。


コリンズの事情が少し明らかになりました。


次回は一旦、コリンズの婚約者視点の話にする予定です。


明日も読んでいただけると嬉しいです。


それでは。

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