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白き聖女の下剋上  作者: 上村 俊貴
獣人抗争とコリンズ
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第1節「剣術指南と婚約者(1)」

「がはっ……」


 「幼子の遊び場」内裏側の広場で、エドマンドはコリンズに吹き飛ばされて地面叩きつけられた。


「エド、君は何回行ったらわかるんだ……。そんな正面からバカ正直に突っ込んできてどうする」


 ニホントウを肩に担いだ状態で、コリンズ呆れた様子だ。


「そんなこと言ったってよ……」


 ステイシーが「幼子の遊び場」の裏側全体に定期的の発動している回復魔法の効果で回復したエドマンドは、ゆっくりと立ち上がった。


「緑属性魔法で剣を加速させるのはいいが、エドの頭がついていっていないようだな」


「頭がついていってない、ね」


 正直そんなことを言われても、どうすればいいのかわからない。


 そもそもこちらの世界に来るまで戦ったことなど殆どないのだ。


 戦闘時の頭の使い方などわかるはずもない。


「どうすればいいかわからない、と顔に書いてあるぞ? 安心しろ、解決策は簡単、だっ!」


 そう言うとコリンズは、いきなりエドマンドに斬りかかってくる。


 突然のことに驚いたエドマンドだったが、なんとか横にした基礎術式剣(エレメンタル)(クインテット)で受け止めることに成功した。


「あっぶねえ……」


「なんだ、少しは成長したみたいじゃないか」


 ぎりぎりとはいえ、コリンズの不意打ちを受け止めたエドマンドに、コリンズは少し感心していた。


 つい一週間前まで、エドマンドは今くらいの攻撃には対処できず、そのまま斬られてステイシーの回復魔法が発動するまでそこらに倒れていたからだ。


 こちらにやってきて、エドマンドに剣術を教え始めて二週間。


 エドマンドも成長していた、ということだろう。


 それにしても、なぜだかわからないがエドマンドが、基礎術式剣(エレメンタル)(クインテット)に付与された魔法を使いこなせるようになっていたことには驚かされた。


 どうしてそのようなことが起きたのか、ステイシーが長々と説明していたが、結局の所、今状態はわかるが、どうしてそうなったのかはわからないということだった。


「少しは余計だ!」


 刀を振り下ろしたまま考え事をしていたコリンズのすきをついて、エドマンドはコリンズの刀を地面に受け流し、コリンズの間合いから脱出した。


「そのようだな」


 コリンズは、「少し本気を出してやろう」と言うと、ニホントウを鞘に納め、トレードマークの狐耳をピンッと立てて、静かに目を閉じた。


「死ぬなよ?」


 冗談半分にそう言うコリンズだが、エドマンドには笑い事ではない。


「いや、ステイシーがいるからだいじょ―――」


 言い切る前に斬り伏せられたエドマンドの記憶はそこで途切れた。



「あーあーあーあー、全く、コリンズちゃんはすぐやりすぎちゃうんだから〜」


 壁にできた通り道から現れたステイシーは、今週何度目かの八つ裂き状態になったエドマンドに直接回復魔法をかけた。


「……ごめんなさい」


 ステイシーに怒られてしゅんとしているコリンズは、その幼い容姿も相まって、母親にいたずらを咎められている子供のようだ。


 怒っているステイシーも見た目はただの子供なので、姉に怒られる妹、という方が適切かもしれないが。


「もしかして、またエドが強くなったからやりすぎちゃったのかな?」


 今までのパターンからして、コリンズはエドマンドの成長が目に見える形で現れると、つい本気で相手をしてしまうらしい。


「……それは……うん」


 どうしてそうするのかステイシーにはわからないが、今のようにどこか歯切れの悪い返事をするのも、毎度のことだった。


「はあああああ、まあ私じゃ剣術は大してしっかり教えられなし、助かってはいるからいいけどさ、一応今回も言っておくけど、やりすぎちゃ駄目だよ?」


 何か隠している様子のコリンズことが気にならない、と言えば嘘になるが、いつかコリンズは自分から話出すまでは、そっとしておこうとステイシーは考えていた。


 その結果、毎回、もうやりすぎないように、と注意するだけにしている。


「わかった、ありがとう、ステイシー」


 そのことに気がついているのだろう、コリンズは何度か前のやり取りの時から、今回のようにステイシーにお礼を言うようになっていた。


「うん。それじゃあ私はご飯の用意があるから行くね。しばらくしたらエドも起きると思うから、そしたらエドも連れて食堂に来てね」


 そう言うと、ステイシーはやってきた時のように、壁にできた通り道を使って去っていった。


「ああ、わかった」


 後には、コリンズとエドマンドだけが残された。



「んっ……あれ、何で俺寝てんだっけ?」


 ステイシーが去ったあとしばらくして目を覚ましたエドマンドは、まだ少しぼんやりしている頭で、寝る前の記憶を辿る。


 確か、またコリンズが本気を出すとか言い出して―――


「起きたか」


 そこで、コリンズの声がすぐ近くから聞こえたことで、エドマンドは「またか」とため息をつく。


 エドマンドが目を開けると、案の定すぐそこにコリンズ顔があった。


「おはようコリンズ……それで、なんでここ最近、毎回俺が倒れた時に膝枕してくれてるんだ?」


 そう、エドマンドは現在進行系でコリンズに膝枕されていた。


 コリンズから剣術を教えてもらう前、まだエルフの森に向かっていた頃、全員が一つのテントで寝ることに女性陣の中で唯一エドマンドと一緒に異を唱えてくれた彼女が取る行動としては意外だった。


 最初に膝枕されていた時は、それはそれは驚いたものだ。


 今ではすっかりなれてしまったが。


「いいじゃないか、別に。エドは嫌なのか?」


 不安げに聞いてくるコリンズ。


 その様子は、エドマンドに拒否されることを恐れているように感じられた。


「そんなことないって、ただどうしたのかな? と思ってさ」


 エドマンドはコリンズにぶつからないように注意しながら起き上がると、コリンズに手を差し伸べる。


「ありがとう。それからすまない、もう少ししたら事情は話すから……」


 エドマンドの手をとって立ち上がったコリンズは、そう言って申し訳無さそうに頭を下げる。


 コリンズの性格から考えて、黙っておくのも心苦しいのかもしれない。


「いや、こっちこそごめんな。話せるようになったら教えてくれ」


「ありがとう……」


 そのまま夕食に向かった二人は、手を繋いだままだった。



「なあカリサ」


 夕食の後、コリンズが自室に戻ったタイミングで、夕食の片付けをしていたカリサにエドマンドは話しかけた。


「はい、どうかしましたか、エドくん」


 片付けを中断し、カリサはエドマンドが座っているテーブルの反対側の椅子に座る。


「最近のコリンズ、ちょっと変じゃないか?」


「そうですか?」


 そう言って首を傾げるカリサは、本当に心当たりが無いようだった。


「わからないか?」


「そうですね、私には今までと変わらないように見えますけど……」


「そうか……、俺の考えすぎかな?」


「何かあったんですか」


 仕方がないので、最近のコリンズのことについて、ありのままカリサに話すことにした。


 話し終えたエドマンドは、これで少しはカリサもコリンズの異変に気づいてくれるだろう、と思ったのだが……。


 何故かそこには、キラキラと目を輝かせているカリサの姿があった。


「それは、恋ですよ! エドくん!」


 そして、なぜカリサがそんなに嬉しいのかわからないが、たいそう嬉しそうにそう言ったのだった。

読んでいただきありがとうございます。


新章です。


コリンズメインの話です。


明日も読んでいただけると嬉しいです。


それでは。

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