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白き聖女の下剋上  作者: 上村 俊貴
白雪姫(この章からが本編です)
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第5節「スヴェルトアンメンシュ(6)」

「あ、あああああ、ああああああああああああああああっ!?」


 エドマンドは、突然全身の血液が沸騰しているのではないかというほどに熱くなり、頭が割れるように痛んだ。


「エド!?」


 よろけて倒れそうになったエドマンドを、ステイシーが慌てて支える。


 その体は、薄っすらと魔力を帯びており、体温は信じられないほど上昇していた。


(おかしい、さっきの強制魔力暴走(マジックブラスト)は私が解除したはずなのに……。何が起こってるの?)


「あああ、あああああああっ!!…………」


 エドマンドはその叫び声を最後に、全身の力が抜け、ステイシーに全体重を預けて項垂れてしまう。


「ステイシー、さっきあのダークエルフが言っていた強制魔力暴走(マジックブラスト)とかいう魔法のせいか?」


 コリンズが、ステイシーに代わりエドマンドの体を支える。


「いや、それは私は解除したから、違うと思うんけど……」


 マイヤーの魔法がエドマンドの魔力に干渉し始めるのとほぼ同時に、ステイシーはその魔法を解除した。


 エドマンドの体の中で起こったことといえば、せいぜい体内の魔力分布が変わった程度なはずだ。


 しかもそれにしたって、誤差の範囲くらいしか変化していないだろう。


「クククッ、感謝するぞ、ダークエルフの魔法使い」


 ステイシーがエドマンドの症状について考えているいると、コリンズにほとんどおぶられる形になっていたエドマンドが、彼らしからぬ口調で話し始めた。


 声としてはエドマンドのものにもかかわらず、どこか背筋が凍るようなその声に、ステイシーは直感的に危険を感じ取る。


「コリンズちゃん、離れて!」


 そこはコリンズも一角の戦士ということか、ステイシーの声音から危険を感じ取ると、エドマンドを突き飛ばすようにして距離をとり、ステイシーの隣に立った。


「……あれはなんだ? ステイシー……」


 離れてエドマンドを見たコリンズは、一瞬のうちに変化したエドマンドの纏う魔力を雰囲気を感じ、ステイシーに尋ねる。


「わからない、でもあの感じはおそらく……」


 乗り切っていない、という表現が適切かはわからないが、今のエドマンドの状況を的確に表す言葉だろう。


 今現在エドマンドの中にある魔力は、本質的にはエドマンドのものと同じものなようなのだが、どうも、エドマンドの力が弱すぎるため、その魔力がうまく(はま)っていないのだ。


「これで、どうだ!」


 それならば、と遠距離からその謎の魔力に干渉を試みるも、弾かれてしまう。


 相手は自分の内部に対する干渉で、ステイシーは遠距離から他人の内部に対する干渉であるということを考慮しても、ステイシー魔法が弾かれる、ということは相当に久しぶりのことだった。


 つまりそれは、ステイシーよりも濃度の高い魔力、またはステイシーよりも高い精度で魔法を使っている可能性がある、ということだ。


 本当に久しぶりのことすぎたため、ステイシーは驚くというよりも興味が湧いてきてしまう。


「……あなた何者?」


 ステイシーの言葉に、ふむ、と頷き考え始めたエドマンドの中の何者かは、しばらくして、逆にこちらに尋ねてきた。


「何者、か……。私の方こそ、君の名前は聞いておかなければならない。私には、君ほどの魔法使いがいた、という記憶はないのでね」


 まるで、この世界に自分の知らないことがある、という事が不思議だと思っているような口ぶりに、ステイシーは違和感を覚える。


「……私はステイシー。ステイシー=マレット」


「なるほど、覚えておこう」


 エドマンドの中の何者かは大仰に頷く。


 その仕草には、まるでいつもそうしているかのような自然さがあった。


「私は、そうだな……フルーレティ、とでも名乗っておこうか」


 明らかに今考えた偽名なのだろうが、どうやら、本当の名前を教える気はないらしい。


「そう、フルーレティ、ね。それであなたはどうしてエドの中にいるのかな?」


 

「簡単なことだ―――」


 話し始めたフルーレティの言葉を遮るように、カリサの叫び声が響いた。


「エドくん危ない」


 マイヤーの強制魔力暴走(マジックブラスト)がなぜだか発動しなかったことで、エドマンドを人質にとる作戦に変更したシュパンが、エドマンドに襲いかかっていたのだ。


 しかし、彼は、シュパンは知らかなった。


 今のエドが、エドではないことを。


 緑属性魔法、風圧加速(ウィンドブースト)で加速し、その勢いも乗せて放たれたシュパンの水威切断(アクアセーバー)は、いつものエドマンドならひとたまりもない。


 そう、”いつもの”エドマンドならひとたまりもない、はずなのだが……


「なるほど、確かに速く、鋭い一撃だ。ただ、私に当てるなら、もう少し何か無いと、な?」


今のエドマンド、もといフルーレティは、人差し指と中指で挟むようにして難なく水威切断(アクアセーバー)を受け止めた。


「っ!?」


 驚愕するシュパンに余裕の笑みを返すフルーレティは、そのまま水威切断(アクアセーバー)の制御を奪うと、シュパンを投げ飛ばす。


「そうだ、私がなぜこの少年の中にいるか、という話だった、んぐっ!?」


 フルーレティ言葉は、向き直った時には目と鼻の先にまで迫っていたステイシーの唇に遮られた。



 シュパンがエドマンドに襲いかかっている間、ステイシーはエドマンドの中の魔力の流れを観察しながら考えていた。


(どうする? どうすればエドを助けられる?)


 この距離からでも魔力干渉は効かない。


 つまりそれは、おそらくいくら近づいても、あのフルーレティとかいうやつにはステイシーでさえ魔力干渉は不可能ということだ。


 ならばリスクは高いが、ここは一旦フルーレティにエドマンドの体を渡し、策を練ろうかとも考えたステイシーだったが、どうもそれは無理なようだ。


(持ってあと一分ってとこかな)


 なぜだか知らないが、エドマンドとフルーレティはほぼ同質の魔力を持っている。


 そのため、魔力の扱いに劣るエドマンドの精神が、後から出現したフルーレティの精神に侵食されているのだ。


 そしてそれは後一分もしないうちに、エドマンドの精神は完全に消滅することを意味していた。


(一か八か、やってみるしかない!)


 シュパンが投げ飛ばされた瞬間に、ステイシーは一瞬でフルーレティとの距離を詰める。


 そして、その唇に自分の唇を重ねた。


「そうだ、私がなぜこの少年の中にいるか、という話だった、んぐっ!?」


 フルーレティが驚いている間に、ステイシーは迷わずエドマンドの口の中に舌を入れる。


(貰った!)


 粘膜と粘膜の接触。


 ここまで持っていくことができれば、純粋な魔力操作の勝負だ。


 そして、自分の体ならいざしらず、エドマンドの体を借りているフルーレティに、ステイシーが魔力操作で負けるわけがなかった。


 そして、エドマンドの中のフルーレティの魔力を一気に吸収した。


「やめっ、んぐっ!」


 必死に抵抗し、ステイシーを引き剥がそうとするフルーレティだが、その首に腕を回しがっしりと拘束しているステイシーを引き剥がすことはできず、またすぐに唇を奪われる。


(後……少し!)


 後一秒でもあればエドマンドの中のフルーレティの魔力を吸収しきれる、というところで、フルーレティはエドマンドの体から脱出した。


「ちっ、覚えておけよ、ステイシー=マレット。私は必ず再びお前の前に現れるからな」


 魔力体となったフルーレティは、そう言い残すとどこかへ消えていった。

読んでいただきありがとうございます。


エドマンドの中の謎の存在、フルーレティとは何者なんでしょうか?


この章の終わりにはヒントを出す予定なのでお楽しみに。


そういえば、今日が毎日更新30日目です。


もう1ヶ月経つんですね。


明日も読んでいただけると嬉しいです。


それでは。

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