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白き聖女の下剋上  作者: 上村 俊貴
白雪姫(この章からが本編です)
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第5節「スヴェルトアンメンシュ(3)」

「エドマンドさん」


 コリンズの話を聞いて黙ってしまったエドマンドに、アルノーが優しく話しかける。


「確かに、人間は私たちエルフに対して、信じられないほど残酷なことをしてきました」


「……」


「でも、それが人間の全てではない、と私たちは信じ、人間と歩み寄る努力を続けてきた」


「……それは、そうかもしれませんけど……」


 エドマンドとて、エルフに危害を加えてきた人間がごく一部だということはわかっている。


 しかし、だとしても、エドマンドが人間だということに、かつてエルフを狩ってきた人間の一人だということに変わりはない。


「あなたは優しい。だから、あなたは自分自身はなにも悪くないとわかってはいても、気に病み続けるかもしれない。しかし、これだけは覚えていてください。私は、私たち家族は、カリサを救ってくれたあなたに感謝しています」


「……はい」


 助けたと言っても、エドマンドはステイシーに助けられないかな? と言っただけで、実際にカリサを助けたのはステイシーだ。


 先ほどカリサが自爆させられそうになった時だって、エドマンドは何もできず見ていることしかできなかった。


「はいはい、そこまで。エド、相手が感謝してくれてるんだから、もっと堂々としてないと相手に失礼だよ?」


 まだ釈然としない様子のエドマンドと、苦笑気味のアルノーの間に、ステイシーが割って入ってくる。


「すまん」


 落ち込んだ様子で謝るエドマンドに、ステイシーもやや呆れ気味だ。


 正直、エドマンドの心がここまで弱いとは、予想外だった。


 そもそも、昔のことはエルフ自身ですら、不幸な事故だった、程度にしか考えていない。


 もちろんそれも、全てのエルフがそう、というわけではないようだが……。


「いやだから謝るんじゃなくて……。まあいいや、アルノーさん、話を戻すけど、スヴェルトアンメンシュとコンタクトは取れるのかな?」


「無理でしょうね。彼らが私たちから離れて以来、一切連絡などとっていませんから」


「そうだよねえ……」


 しかしそうなってくるとどうしたものか。


 ここに来た時のように無理やり転移し、結界魔法を破壊してもいいが……。


「もう襲って来ないなら、何も乗り込んでまで倒す必要もないんじゃないか?」


 スヴェルトアンメンシュにどう潜入しようか考えているところで、エドマンドはそんなことを言ってくる。


 やはり、先ほどのコリンズの話を引きずっているのか、その言葉には破棄がなかった。


「それもそうかもしれないけど……」


 果たしてそうなのだろうか?


 例えば仮に、カリサを殺す必要がないなら、そもそもなぜカリサ最初にカリサを狙った?


 いや、心当たりはある。


 しかし、もしその心当たりがその通りだとしたら、事態はこれからもっと悪くなる、ということだ。


 そうなってくると、彼らの最終目的は――


「エルフの殲滅、それが彼らの目的です」


と、まるでステイシーの思考を引き継ぐかのように、どこからか声がした。


「!?」


 ステイシーたちが驚いて見上げると、アルノーの後ろ、巨木の内側を魔法でくり抜き作られたカリサの家から出てきた少女が、ゆっくりと階段を降りてくるところだった。


 その手には、意匠はシンプルでありながら、全て水晶で作られているという、珍しいワンドが握られている。


 人間で言えば十六、七歳のいったところだろうか? エルフであることを考慮すると、おそらく百六十から百七十歳であろうその少女は、腰まで垂らした金の髪をわずかに揺らしながら、ゆっくりとした足取りでこちらに向かってきた。


 髪の隙間からは、ピンッと尖った耳が覗いている。


「ニルダ、それはどういうことだ?」


 ニルダ、と呼ばれた少女は、慌てた様子のアルノーの問いかけに頷き、


「先ほどの言った通りです、お父さん」


しっかりとそう返した。


「ニルダってことは、彼女がカリサのお姉さんか?」


 エドマンドは、隣りにいたコリンズに小声で尋ねる。


「そうだ、彼女はニルダ=レヤード。カリサの腹違いの姉で、白雪姫(シュネーヴィトヒェン)の現所有者」


 エドマンドは自分で聞いておいて、どうしてコリンズがニルダのことを知っているのか疑問だったが、エドマンドの些細な疑問など解消する余裕もなく、話題はダークエルフ達の計画へと戻っていく。


「エルフの殲滅と、カリサちゃんの誘拐になんの関係が?」


 だいたい予想はついているが、ステイシーは確認のため、というよりは、そうではない一縷の望みにかけて、ニルダに問いかけた。


「あなたがステイシーさんですね。この度は妹を助けていただきありがとうございました。ステイシーさんはカリサから聞いているかもしれませんが、このワンド、白雪姫(シュネーヴィトヒェン)の適正はカリサのほうが上です。ですから彼らは――」


 そこで言葉を切ったニルダをステイシーが引き継ぐ。


「カリサちゃんが白雪姫(シュネーヴィトヒェン)を継承して、手がつけられなくなる前に殺しておこうとした、ってことか」


「そういうことです」


「そして、次にニルダちゃんとアルノーさんを殺して、白雪姫(シュネーヴィトヒェン)を継承できる人物を殺しきって、そのままエルフを殲滅しようとしてた?」


 これが、ステイシーの考える最悪のシナリオ。


 エルフの最大戦力である白雪姫(シュネーヴィトヒェン)を先に潰すことで、確実にエルフの根絶やしにするための、凶悪な計画。


「おそらく。カリサが行方不明になったあと、私のところにもダークエルフの刺客がきましたから。どうも過小評価されていたみたいで、あまりにも弱かったので返り討ちにしましたが」


「そうなんだ……。そういうことなら、たぶんまたカリサちゃんを襲いに来るだろうね」


 ステイシーとニルダの予想が正しければ、ダークエルフの計画は第一段階としてカリサを始末する必要があるはずだ。


 転移魔法で姿をくらませたため、あちら側がカリサの自爆魔法が不発に終わったことに気がつくまで多少時間は稼げるだろうが、あれからの時間経過を考えるといつ仕掛けて来てもおかしくはない。


「そうでしょうね、でもステイシーさん、実は一つだけ解決策があるんです」


 そう言ってニルダは、少し意地の悪い笑み浮かべる。


「それは、こっちから乗り込んでダークエルフたちを倒す以外の解決策ってこと?」


 ニルダの口ぶりからは、おそらくはステイシー達が考えている解決策とは違うのだろう。


「はい、つまり――」


 ニルダの説明に、エドマンドとコリンズは何を言っているのかよくわからず、アルノーは頭を抱え、ステイシーはなるほど、と手を打った。

読んでいただきありがとうございます。


前々回の続きがこの話になります。


エドマンドが感じた人間の醜さと、それによって感じているエルフへの負い目が少し先で重要になってくる(予定)ので、覚えておいていただけると。


明日も読んでいただけると嬉しいです。


それでは。



追記


明日の更新は作者が所要のため16時の予約投稿を予定しています。

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