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白き聖女の下剋上  作者: 上村 俊貴
白雪姫(この章からが本編です)
26/49

第5節「スヴェルトアンメンシュ(2)」

「んんっ」


 カリサが目を覚ますと、そこには見慣れた天井があった。


 見慣れている、けれどしばらく見ていなかったその天井は、カリサの部屋の天井に間違いない。


 カリサの記憶が正しければ、エドマンドたちと一緒に、テントの中で寝ていたはずなのだが、夢でも見ているのだろうか?


 そんなことを考えながら、カリサがゆっくりと体を起こすと、


「カリサ? カリサ! 目が覚めたのね!」


未だ状況の飲み込めていないカリサは、カリサの寝ているベッドの隣においた椅子に腰掛け、カリサの看病をしていたであろう姉、ニルダに抱きしめられた。


「おねえ、ちゃん?」


 懐かしい姉の声と感触に、ゆっくりと覚醒し始めたカリサの頭は、とりあえずこれが夢ではないことを理解した。


「そう! そうよ、お姉ちゃんよ……!」


 そう言ってカリサの頭を優しく撫でるニルダの声は震えていた。


 抱きつかれているため確認することはできないが、おそらく泣いているのだろう。


 無事家に帰ってこれた安堵感からか、姉に再開できた喜びからか、あるいはその両方からかもしれないが、いつの間にかカリサは、自分よりも小柄な姉の胸に顔をうずめ、静かに泣いていた。



「それで、どうして私は家に買ってきてるの?」


 ひとしきり泣いて落ちついたカリサは、ベッドの端に腰掛けると、椅子に座ったニルダにそう言った。


「そうね、カリサを連れてきたステイシーって子が言うには――」


 姉の話をまとめるとこうだ。


 カリサは何者かに操られ、ステイシーやコリンズに襲いかかった後、ステイシーには勝ち目が無いとみたカリサを操っていた何者かが、カリサに仕掛けてあった自爆魔法、強制魔力暴走(マジックブラスト)を発動した。


 それをなんやかんや(どのような芸当でその状況を打破したのかは姉にもわからなかったらしい)でエルフの森までやってきて解決した、ということだそうだ。


「ステイシーちゃんらしいといえばらしいけど……相変わらず何でもありだね」


 苦笑するカリサに、ニルダは表情を曇らせた。


「カリサ、あの子は本当に信じられるの?」


 ニルダは、ステイシーという少女を、正直得体のしれない存在だと思っていた。


 おそらくだが、自分が白雪姫(シュネーヴィトヒェン)の力を完全の引き出せたとしても、ステイシーとは刺し違える事すらできないだろう。


 ニルダにとって、そんなふうに感じる相手は初めてだった。


「うーん、どうなんだろうね? でも私を助けてくれたのはステイシーちゃんなんでしょ?」


 ステイシーが信じられるか、と聞かれると、カリサの中にもはっきりとした答えはなかった。


 ただ確実に言えることは、ステイシーはカリサのことを、ニ回も助けてくれている、ということだ。


「それは、そうらしいけど……」


 言いよどむニルダは、ステイシーの力が強すぎることを不審に思ってはいるものの、妹であるカリサの命の恩人であることも事実なため、ステイシーにどう接すればいいかわからないのかもしれない。


「それはそうとお姉ちゃん、私を操っていた人には心当たりはあるの?」


 先ほどの、ニルダがステイシーから聞いた話によれば、ダークエルフということは確からしい。


「ああ、それはたぶん。マイヤーというダークエルフの男だと思う。実際に操っていたのがそのマイヤーかどうかはわからないけど」


 意外にも具体的な情報に、カリサはどうやってそんな情報を手に入れたんだこの姉は……、と呆れと尊敬と心配が入り混じった様な気持ちになる。


 それが顔に出ていたのか、ニルダが少し慌てた様に


「誤解しないでカリサ、別にお姉ちゃんスヴァルトアンメンシュに乗り込んだりしてないからね?」


と付け足した。


「じゃあどうしてそんなこと知ってるの?」


 慌てた様子から更に訝しんだカリサは、ジト目でじーっと姉を見る。


「それは……」


「それは?」


 少し顔を近づけて問い詰めるカリサに、ニルダは降参、と両手を上げた。


「わかったって、話す、話すから。実は私のところにもダークエルフの刺客? みたいなのが来てね」


「ええっ!? 大丈夫だったの?」


 何やら自分が捕まっている間に、こちらもいろいろあったようだ。


 まだこの部屋以外を見ていないのでわからないが、もしかするともうこのエルフの森にカリサの見慣れた風景は残ってない、なんてこともあるかもしれない。


「もう、カリサは心配性ね。全然大丈夫だったって。で、その刺客をこう、ね?」


 そう言って顔の横に上げたニルダの手に、一振りのワンドが現れる。


 そのワンドは、まるで混じり気のない氷のような、透き通った水晶で作られていた。


 白雪姫(シュネーヴィトヒェン)


 レヤード家に伝わる伝説のワンドにして、エルフが持ち得る最大戦力。


「まさか、氷漬けにして保管してるの?」


 極めて真面目に、あまりにとんちんかんな事を言い出した妹に、ニルダは耐えることができなかった。


「ぷっ……あっははははははは!」


 ニルダが笑いだしたことで、カリサは自分が言ってことを落ち着いて考え直し、しばらくして顔を真っ赤にした。


「もう! そんなに笑わないでよ〜!」


「ごめんごめん、つい面白くて」


 目の端の涙まで浮かべている姉に、


「もーう!」


と言っても頬をふくらませる。


「いやいやごめんって、そういえばカリサにはまだ教えてなかったね」


 そう言ってニルダは、白雪姫(シュネーヴィトヒェン)の力の本質を語り始める。


「この白雪姫(シュネーヴィトヒェン)は、確かに水を生み出して凍らせる力があるけど、それはこのワンドの本質じゃない。このワンドの本質は氷という概念を発生させること」


「概念?」


 わけのわからないことを言い出した姉に、カリサは首をかしげる、オウム返しに尋ねることしかできない。


「そう概念。まあわかりやすくに言っちゃえば、氷とか凍るって名のつくことなら理論上何でも起こせる、ってこと」


 じゃあ最初からそう言ってくれればいいのに、と思ったカリサだったが、そういえば姉には昔からそういうところがあったことを思い出し、口にはしないことにした。


「それでつまり、どうしたってこと?」


「刺客の心を一時的に凍らせて、私の質問の何でも答えるようにしたの」


 そこそこえげつないことを、さらっと言った姉に、


「うわー、お姉ちゃんひっどーい」


と、わざとらしくニルダから離れながら、カリサはそんなことを言う。


「ちょ、カリサ、そんな言い方ないじゃない〜? ちゃんと殺さず返して上げたののよ?」


 妹にからかわれたニルダは、怒ったふうな言い方でそう返した。


「えー、そういう問題じゃないでしょー?」


「もう、カリサは―――」


 その後しばらくの間、カリサの部屋をふざけ合う二人の賑やかな声が満たしていた。


 未だダークエルフとの問題は解決していないが、二人は戻ってきたつかの間の日常を楽しでいた。

読んでいただきありがとうございます。


回想でしか登場していなかったカリサの姉、ニルダが登場しましたね。


ちなみに、カリサが敬語じゃないですが、私が設定を忘れて間違えたとかではなく、姉と話しているからです。


一応回想の時もそうしてあったはずです。


明日も読んでいただけると嬉しいです。


それでは。

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