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白き聖女の下剋上  作者: 上村 俊貴
白雪姫(この章からが本編です)
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第4節「ダークエルフ(5)」

「ふう」


 直立不動で動かなくなったカリサを、ゆっくりと地面に横たえながら、ステイシーはやっと一息つくことができた。しかし、事態が予断を許さない事に変わりはない。


「おいステイシー、カリサはどうしちまったんだ?」


 離れたところで見ていたエドマンドとコリンズがステイシーとカリサのところに駆けてくる。


「今はとりあえず大丈夫、でも、時間稼ぎに過ぎないから、安心はできないね」


 珍しく少し緊張感のある声音のステイシーに、エドマンドも自体の深刻さを感じ取った。


「すまない、ステイシー。君がいなければ、私は――」


 ステイシーの前に立ち、申し訳無さそうにしているコリンズ。おそらく、先ほどのことを気にしているのだろう。


「いいっていいって、それにたぶん、コリンズちゃんの予想は正しかった。あのままやっていても、カリサちゃんが死んじゃうようなことにはならなかったはずだよ」


 コリンズの分析は正しかった。実際、あのままコリンズのニホントウとカリサの水威切断(アクアセーバー)がぶつかっていれば、コリンズの斬撃をカリサが同時に行使していた風威防層(ウィンドレイヤー)が防ぎ、変形させた水威切断(アクアセーバー)がコリンズの背後から、その後頭部を刺し貫いていただろう。おそらくこれは、両者の魔力の流れを観察し、分析していたステイシーしか気がついておらず、エドマンドはもちろん、コリンズもこのことには気がついていない。


 おおかたコリンズは、一矢報いることくらいはできるだろう、と考えていたために、自分の行動は一歩間違えばカリサを傷つけてしまっていたかもしれない、と気に病んでいるのだろう。


 このことを素直に伝えれば、コリンズの悩みは解消されるだろうが、それは同時に彼女のプライドの傷つけることにもなる。なにせ他人から、お前のほうが圧倒的に弱かった、と言われるに等しいのだ。コリンズは、なまじ強いだけに、それを言われるのは辛いだろう。


 だからステイシーは、カリサが死ぬようなことはなかった、と煙に巻く様な表現にとどめたのだ。


「そう言ってもらえると、助かる……」


 コリンズも、ステイシーの本心には気づいているのか、少し歯切れ悪くそう返した。


「それより、急ぐよ二人とも、今すぐにエルフの森へ転移するからね」


 ステイシーがそう言うと、4人が寝ていたテントや、炊事場、テーブルや椅子、その全てが、ゆっくりと地面へと沈んでいく。


 いや違う、あれは地面が魔法空間収納(マジックチェスト)に置換されているのだ。そしてそこに、あらゆるものがゆっくりと収納されている。


「「え?」」


 エドマンドとコリンズが異口同音にそう言った時には、二人は垂直落下を始めていた。



「いってて、ったく、どんだけ唐突なんだステイシーのやろう」


 カリサの近くにしゃがみこんんだ状態だったエドマンドは、その姿勢のまま落下し尻もちをついていた。その横で、しっかりと着地を決めたコリンズがあたりを見回している。


「……ここは、確かにエルフの森の近くだが、こんなところからエルフの森に入れるのか?」


 そもそもコリンズの見立て通り、本当にここがエルフの森の近くであるならば、先ほどまでいた場所から相当距離が離れていることになるのだが……。やはりステイシーは、コリンズが考えているよりも遥かに異次元の力を持っているようだ。


 そんな二人のもとに、一人ふわふわとゆっくり降りてきていたステイシーと、ステイシーの魔法によって運ばれているカリサが降りてきた。


「じゃあ行こうか」


 そう言って森の方へ歩き出したステイシーを、コリンズは慌てて止めようとする。エルフの森の周囲には、強力な結界魔法は展開されている。許可のないものがその魔法に触れると、ダメージを受ける仕組みだ。死にはしない、と聞いているが、それだって正しい情報かどうか――。


 カリサの思考は、ガラスの塊が砕けるような大きな音によって、遮られる。


「………」


 コリンズの視線の先には、ワンドを取り出し、目の前の蜘蛛の巣でも払うかの様に、エルフたちが数人がかりで展開した結界を次々に破壊しながら進むステイシーの姿があった。



「これでよし」


 ステイシーはしばらく進んだところで泉を見つけ、そこにカリサをつからせた。


「これは……なるほど、そういうことか」


 コリンズは、ステイシーの行動に納得するが、エドマンドは一体全体何をしているのかさっぱりわからない。


「どういうことなんだ、コリンズ」


 ステイシーに聞いても良かったが、何やらカリサに対して複数の魔法を使っているらしく、手が離せる状況ではなさそうなので、コリンズに聞くことにした。


「簡単なことだ。エルフというのは、自然の中にいればいるほど生命力が回復する。その特性を利用して、カリサを治療しよう言うことだろう」


 コリンズにも詳しいことはわからないが、見たところ、先ほどの戦闘の最後にステイシー使った魔法、個人時間遅延(パーソナルタイムレイター)は、かけた相手の体内の時間の進みを遅くする魔法のようだ。かけられたカリサが、死んではいないにもかかわらず、鼓動が極めて遅いことからも、おそらく間違いないだろう。それをしなければならなかった理由まではわからないが、ともかく急いで次の処置をする必要があったがために、ステイシーは結界を破壊する、という強硬手段に出たのだろう。


 しかしそんなことをすれば当然……。


「誰だ貴様ら!」


 とまあこのように、エルフの自衛組織が駆けつけてくるわけで……。


 意識不明のハーフエルフとそれに何かしら魔法をかけている少女に、人間の少年と獣人のコリンズ。この状況は、一歩間違えば、コリンズたちがエルフを襲っているようにも見えるわけで……。


 コリンズは頭を抱えたくなる衝動を抑え、駆けつけたエルフの自衛組織の構成員たちに、事情の説明を始めたのだった。



(まさか、コリンズにあんな才能があったとは……)


 理路整然と、それでいて嫌味にならないように、そして誤解を招いてしまうようなこともないように、にもかかわらずすらすらと、自分たちの事情を説明していくコリンズに、エドマンドは素直に感心してしまう。コリンズには悪いが、金髪ショートカットに狐耳に狐尻尾と、コスプレ小学生にしか見えないその見た目と、力と速さで圧倒するというその戦闘スタイルから、正直あんまり頭は良くないんじゃないか? と思っていただけに、驚きもひとしおだ。


 程なくして、無事誤解なく説明を終えたらしいコリンズが少し離れたところで見ていたこちらにやってきた。


「よしよし」


 どこか少し自慢げな様子のコリンズに、エドマンドはついその頭をなでてしまう。


「んなっ!?」


 コリンズの驚いた声に、自分のしていることに気がついたエドマンドは、とっさに手を退けようとするが、


「コリンズ?」


その手首をコリンズに掴まれてしまう。


「……いい」


「え?」


「だから……その……撫でてもいい……と、言っている……」


 俯いてしまっているのでよくわからないが、僅かに顔を赤くしたコリンズは、消え入るような声でそう言った。


「えーっと、じゃあお言葉に甘えて?」


 その後しばらく、エドマンドはコリンズの頭を撫でていた。


 コリンズは終始顔を紅潮させていたが、満更でもないようだった。

読んでいただき、ありがとうございます。


コリンズちょっとデレました!


コリンズちょっとデレました!!


コリンズちょっとデレました!!!


大事なことなので3回言いました。


明日も読んでいただけると嬉しいです。


それでは。

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