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白き聖女の下剋上  作者: 上村 俊貴
白雪姫(この章からが本編です)
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第4節「ダークエルフ(2)」

「今日はここで野宿かな」


 コリンズを救出し、奴隷商人達の記憶を消去し改ざんした後、街道を歩き始めて少しした頃には、もう日が落ちかけていた。


 わざわざ記憶までいじくる必要はないと思ったのだが、ステイシーいわく、


「こういう小さなことから、大きな厄介事はやってくるんだよ」


だそうだ。


 ちなみに、カリサの所有者だった男性の記憶もちゃっかりいじっていたらしい。


 なんでもないことのように人の記憶をいじくるとは、うちの師匠は本当に恐ろしい。


「じゃあ、私はいろいろ準備しちゃうから、みんなはちょっと待っててねー」


 エドマンドが、そんなことを考えているとは露ほども知らず、ステイシーはいつものように何も無い空間に手を入れ、調理器具やら食料やらを取り出していく。


「私もなにか手伝います」


「そう? じゃあこれを洗ってくれるかな? 水はそっちね」


 駆け寄ったカリサに、ステイシーは泥にまみれた何かを渡し、パチンッと指を指を鳴らすと、少し離れたところに蛇口のついた大きな樽が、それを乗せた台と一緒に落ちてくる。泥まみれの物体は何かしらの根菜だろうか?


「私も――」


「だーめっ! コリンズちゃんはまだ疲れてるでしょう? そっちで休んでてねー」


 そう言って、ステイシーはそこそこしっかりした作りの椅子を二脚投げてよこす。


「そうか? しかし私ならもうだいじょ――」


「コリンズちゃんは強情だなー、いいからそっちでエドと話でもしてなってー」


 こともなげに投げられた椅子をそれぞれ片手で受け止めたコリンズは食い下がるが、言い終わる前にステイシーに遮られてしまった。


 傍から見ていたエドマンドとしては、


疲れているだろうと言いながらそんな重そうな椅子を投げて渡すなよ、


とか、


そしてお前も何でもないように受け止めて話し続けるのかよ、


とか言いたいことは山ほどあったが、とりあえず黙っておくことにした。


「コリンズ、諦めようぜ? ステイシーはああ見えて言い出したら聞かないんだ」


「そうなのか? うむ……ステイシーのおかげで疲労も何もないのは本当なんだがな……」


 コリンズはまだ納得できていない様子だ。


 性格上周りが動いているのに自分一人じっとしていることが苦手なのかもしれない。


「それはそうなんだろうが……まあいいじゃないか、俺もまだコリンズのこと全然知らないしさ、いろいろ聞かせてくれよ」


「エドがそう言うなら、諦めてここで二人の料理を待つとするか」


 まだ釈然としない様子ながらも、コリンズは今の今までずっと持ったままだった椅子をおろし、一方に腰掛けると、同じくおろしたもう一方の椅子にエドマンドにも座るように促した。


「サンキューな。それでなんだ、基本的なことで申し訳ないんだが、コリンズ達獣人ってのは何なんだ」


 一つ礼を言って椅子に腰掛けると、エドマンドはコリンズに会った時からの疑問を投げかける。


「知らないのか? エドは弱いだけじゃなく、知識もないんだな……」


 呆れた様に言うコリンズだったが、そこにエドマンドを馬鹿にしている雰囲気は感じられない。


「いや、知ってはいるぞ? 確か身体能力高い亜人種だろ?」


 一応、ステイシーからそれぞれの種族と簡単な特徴は教わっている。


 ただ、裏を返せばエドマンドの知識はその程度、ということだ。


「それは間違っていないが、正解でもないな」

 そう言ってコリンズは立ち上がる。


「よく見ていてくれ」


 そして、近くに落ちていた木の枝を両手で持ち折ろうとするが……


「どうしたんだ?」


 エドマンドが疑問に思うのも無理はない。なぜなら、コリンズが手にした枝はいっこうに折れる気配がなかったのだ。


「……っはああ、はあ、はあ」


 しばらくして、コリンズは枝にかけていた力を抜くと、方で息をしながら再び椅子に腰掛けた。


 呼吸が整ったところで、再び話し始める。


「私たち獣人は、本来の力は普通の人間と同じなんだ。だから、こんな枝でも、そのままの力では折ることができない。信じられないならエドがこの枝を折ってみるといいだろう」


 差し出された枝を受け取ったエドマンドは、枝に力を込める。


 コリンズが全く折れなかった枝は、何ということもなく簡単に折れた。


 どうやら、コリンズの話は嘘ではないらしい。 


「どういうことだ? さっきはあんな馬鹿力で大の男を叩きのめしてたじゃないか」


 そればかりか、ついさっきだってステイシーが投げてよこした椅子を軽々と受け止めていた。


 それで力が人間と同じとはどういうことなのだろう?


「簡単な話だ。私たち獣人は生まれ持っての力が強いのではなく、筋肉の魔力効率が高い」


「すまん、その筋肉の魔力効率、ってのは何なんだ?」


 聞き慣れない言葉に、エドマンドは思わず聞き返す。


「エドは本当にステイシーの弟子なのか? 君の師匠は身体強化も使いこなしているように見えるんだが……」


「はははは、そういえば教えてなかったね〜」


 呆れた様子のコリンズに、料理を運んできたステイシーが返す。


「そういえば教えて無かったね〜、って、そんな適当な……」


「ごめんごめん、でも通常魔法も間ともに使えないうちに身体強化なんて教えてもしょうがないと思ってさ」


「それは確かにそうですね。身体強化は魔力の制御がある程度うまくなければ逆効果ですし」


 ステイシーの意見に、同じく料理を運んできたカリサ同意する。


「「そういうものなのか?」」


 その言葉に、エドマンドはともかくとして、コリンズまでもが一緒になってそう言っていた。



 夕食後、エドマンドに魔力による身体強化について教えていたはずのコリンズは、なぜかエドマンドと一緒にステイシーとカリサの授業を受けていた。


「いい? 二人とも。そもそも身体強化っていうのは、魔力で筋力と思考速度を向上させること、っていうのは、わかるよね」


 その言葉に、コリンズは頷くが、エドマンド今ひとつわかっていないようだ。


「エドくん、もしかして、どうして思考速度まで向上させるのかがわかりませんか?」


 それに気づいたカリサが、エドマンドに問いかけた。


「ああ、別に筋力だけ強化してもいいんじゃないか? それでも戦える気がするんだが……」


「いや、それじゃあだめなんだよ。


例えば、ただ何かを潰すとか、折るとかそういう動作なら、確かに筋力だけ強化すれば問題ない。


でもそれは対象が動かないから。


例えば戦闘時、自分と相手の相対位置関係が目まぐるしく変わる状況の中では、筋力だけ強化したところでむしろ逆効果でしかない。


ね、コリンズちゃん?」


「ステイシーの言う通りだ。


早く動けても、力が強くても、相手に当たらなければ意味がないからな」


 ステイシーの説明に、コリンズはうんうんと頷いているが、エドマンドはいまだ納得できない。


「早く動ければ攻撃も当たるんじゃないか?」


 相手より早く動けるなら、当然攻撃も当たるのではないか?


と思ってしまうのだが、違うのだろうか?


「確かにそういう考えもあるだろう。しかし実際はそんなに簡単ではないんだ。


たとえば、ふぁあああ……」


 コリンズのあくびに、エドマンドたちもつられてあくびをしてしまう。


「もう遅いし、今日はこれくらいにして寝ようか」


 ステイシーのその言葉に異を唱える者はおらず、今日は開きとなったのだった。

読んでいただきありがとうございます。


ついにエドマンドに賛同者が現れました。


結果は変わりませんでしたが……。


前回の話の続きは次回となります。


明日も読んでいただけると嬉しいです。


それでは。

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