第4節「ダークエルフ(1)」
「見つけた」
薄暗がりの中、浅黒い肌に長くとがった耳をしたをした男がそう言った。
男の前に浮かんでいる水晶の中には、一人のハーフエルフが眠っている様子が映し出されている。
「……やっとか、レーナー」
水晶を持つ男、レーナーと呼ばれたその男は、わざとらしく肩をすくめる。
「そういうなよシュパン。マーカーがついているとはいえ、マイヤーのマーカーは隠蔽が厳重で広範囲探査はほぼ無理なのはお前も知ってるだろ?」
レーナーが振り返った先には、鋭い目つきのレーナー同様浅黒い肌をした男が、壁に背を預けて立っていた。
「それはもちろん知ってるが、それを探すのがお前の仕事だろう?」
「おーおー怖い怖い、おいマイヤー、お前のせいでシュパンに怒られたじゃねーか」
軽く睨み返すシュパンにおどけて返すレーナーは、部屋の隅に向き直り、もう一人の仲間に話をふる。
「お前が無能なだけだ」
水を向けられたローブの男、マイヤーは端的にそう返す。
「おいおい、相変わらずの毒舌だな全く」
そう言いながらも、レーナーに怒った様子はない。
マイヤーの口の悪さは今に始まったことではないのだろう。
「それでマイヤー、ここからでもいけそうか?」
呆れた様子で二人のやり取りを見ていたシュパンは、レーナーの前の浮かぶ水晶を覗き込みながらマイヤーに尋ねた。
「無論だ」
「暴走させるのではなく、操ることはできそうか?」
「可能だが……どうしてだ?」
思いがけないシュパンの発言に、怪訝な様子のマイヤーだったが、しばらくしてその意味に気がついた。
「なるほどな」
「ああ、そういうことだ」
納得してそう返すマイヤーにシュパンは満足げに頷く。
「え? どういうこと? おいシュパン、マイヤー、つまりどういうことだ?」
二人で勝手に話が進んでる様子に、レーナーはなんのことか見当すらつかず、あわてて二人に問う。
「「…………」」
一人なんのことかわかっていない様子のレーナーに二人は無言で顔を見合わせた。
「おいってば、だからどういうことなんだよって!」
「お前は相変わらずの馬鹿だな……」
「全くだ」
吐き捨てる様に言ったマイヤーに、シュパンも頷きながら同意する。
「馬鹿って……、いやそうかもしれないけどさ……、なあ、教えてくれよ、なあ?」
諦めて頼みこむレーナーに、シュパンも諦めて説明してやることにした。
「はあ、お前はもう少し頭を使え。いいか? そもそもお前が発見したんだから、今やつがいる場所はお前が一番わかっているはずだろう?」
発見したレーナーにとってはあまりに当たり前なことを言うシュパンに、レーナーは何を今更、といった顔をする。
「それはそうだ、街道脇の平原だろ? それがどうした?」
ここまで言ってもさっぱりわからない、といった様子のレーナーに、シュパンは頭を抱えたい気持ちをこらえて、説明を続ける。
「そんな周りにほとんど人間のいないところでやつの魔力を暴走させても効果が薄いということだ」
「どうしてだ? 目的はあいつを殺すことだろう? じゃあどこでもいいじゃないか」
シュパンはとうとう頭を抱えてしまう。呆れて次の言葉が出てこないシュパンに代わり、マイヤーがため息を一つついてからレーナーへの説明を引き継いだ。
「ただ始末するだけなら、さらってきた時すぐ殺してしまえばよかっただろう? そうしなかった理由を忘れたのか?」
そこでようやくレーナーは理解できた様だ。
「そうだそうだ、そういえばそんな話だったな。なんだ、その、大きな人間の街に売りさばかれたところを狙って魔力を暴走させて、一人でも多くの人間を殺す、だったか?」
自分たちの今の目的はやつの始末だが、もっと大きな目的は、人間に対する復讐だ。その点から言えば、やつをただ殺すだけでなく、多くの人間を巻き込んで殺せたほうがいいに決まっている。
「ようやく思い出したか、この馬鹿は」
もはや呆れることもできず、マイヤーは疲れた様子だ。
「おお、正解か! さすが俺!」
ほとんどすべて説明されてようやく理解したにもかかわらず、なぜか自画自賛なレーナーに、シュパンとマイヤーは頭が痛くなる。
「……まあいい、それで、具体的にはどうやって操るんだ?」
とりあえずレーナーは一旦放置することに決めたシュパンは、レーナーのあまりのアホさ加減に頭を抱えていた状態から顔を上げると、マイヤーにそう尋ねる。
「そうだな、シュパンの意識をやつの意識に一時的に上書きするのがいいだろう」
もちろんここからやつを操るだけなら、マイヤー本人が体を操る方法や、マイヤー本人の意識をやつの意識に一時的に上書きする方法、あるいはレーナーの意識をやつの意識に一時的に上書きする方法もある。しかし、それぞれの方法には、それぞれ問題がある。
まずマイヤーが体を操る方法は、明らかに戦闘力が低くなる。周りにいる人間たちの戦闘力は不明だが、マイヤーの魔法に依存した戦い方は、他人の体では出力が落ちる上、魔力属性が違えば全く魔法が使えない可能性があり、周りの人間に負けてしまう可能性がある。それではリスクが高すぎるだろう。
次にマイヤー本人の意識を一時的に上書きする方法だが、この方法はマイヤーが不足の事態に陥った際に、こちらの自分の体に戻ってこられなくなる可能性がある。これも同じくリスクが高すぎるだろう。
レーナーの意識を一時的に上書きする方法だが、レーナーは馬鹿なので論外だろう。
その点シュパンは使える魔法のレパートリーが段違いだ。やつの魔力属性や魔力の総量がどうであれ、シュパンなら問題なく対処できるだろう。
つまり、シュパンの意識を一時的にやつの意識に上書きする方法が一番確実なのだ。
「マイヤーがそう言うならそれは一番確実なんだろうな。すぐいけるか?」
説明するまでもなく、シュパンはマイヤーの言葉を信じる。
シュパンの事だ、おそらくされが最善だろうと瞬時に理解したのだろう。
「無論だ」
そう答えたマイヤーがワンドを振ると、シュパンを薄黒い光が包む。
「レーナー、俺の体は任せた」
しばらく完全に蚊帳の外だったレーナーは、突然そう言われて間抜けな声を返すことしかできなかった。
「へ? っとと」
それでも、意識を失い唐突に体の力が抜けたシュパンをギリギリのところでレーナーが受け止める。
レーナーは、ゆっくりとシュパンの体を床に横たわらせた。
「おお! すごいもんだな」
レーナーの前に浮かぶ水晶の中では、先ほどまで眠っていたハーフエルフが、隣で眠っている少女に水の刃を振り下ろしていた。
*
(さすがマイヤーだ)
他人の体に意識を移されるのは初めてではないが、それでもなかなか慣れるものではない。
しかしマイヤーの調整だろうか、今回はかなり自然に動けそうだ。もちろん異性のため多少の違和感は拭えないが、こればかりは仕方がない。
(こいつは、魔法使いか?)
寝ている様なので大丈夫だろうが、念の為に薄目で気づかれない様に隣の少女を観察する。
彼女の周囲には得物は見当たらない。それをもってシュパンは、彼女を魔法使いだと推測する。
もちろんなんの得物も近くにない上に、ワンドも見当たらないなら、彼女をただの少女だと判断することもできるが、ワンドを使わない魔法使いもいる以上、不測の事態を招かない為にも、魔法使いとして想定するほうが安全だろう。
潜入して何かをする時は用心するに越したことはない、というのがシュパンの考えだ。
(魔法の使用も直前までは控えるべきか……)
シュパンは慣れた様子でこの体の魔力を確認していく。
(赤と緑の二属性か、それと基本属性への魔力変換、か。なかなかのものだ)
シュパン自身は青属性の単属性保持者である。
当然一番使い慣れているのは青属性魔法だ。その青属性が無かったのは少し不安だが、一応魔力変換で青属性の魔法も行使できるようなので良しとすることにした。
(さてそれではさっさと済ましてしまおう。水よ、我がもとに集まりて、鋼を貫く刃となり給え)
そして、シュパンは心の中で詠唱し、ワンドの補助を借りることもなく発動した水威切断を、隣で眠る少女に振り下ろした。
完璧に首を落としたであろうその一撃は、少女の腕を半ばまで切り裂き止まっていたのだった。
読んでいただきありがとうございます。
ダークエルフたちが登場しました。
彼らは結構強いです。
具体的にはコリンズと同じくらい、でしょうか。
少なくともカリサよりは強いです。
明日も読んで頂けると嬉しいです。
それでは。




