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白き聖女の下剋上  作者: 上村 俊貴
白雪姫(この章からが本編です)
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第3節「エルフの森へ(12)」

「ほんとに、ステイシーちゃんは何者なんでしょうね……」


 ステイシーの殺気にやられ失禁してしまっている大の大人を見ながら、カリサはひとりごちる。


「そうでした、コリンズちゃん、今解いてあげますからね」


 カリサは片手に持っていたワンドをコリンズに、正確にはコリンズの拘束具に向けて構えた。


(さて、安請け合いしたものの、どうやって拘束具だけ破壊しましょうか)


 カリサが思いつくだけでも、コリンズの拘束具を破壊する方法は複数存在する。


 例えば、ステイシーはカリサの拘束具を破壊する際、白属性魔法の基礎、修復系の魔法を応用しその効果を反転させることで、拘束具を急速に劣化させた。


(まあ、一番簡単なのでいいでしょう)


「風よ、彼の者を包み、あらゆる害を妨げ給え、風威防層(ウィンドレイヤー)。水よ、我がもとに集まりて、鋼を貫く刃となり給え、水威切断(アクアセーバー)


 魔法により、肌と拘束具の間を風の防具で守られた状態になったコリンズに向けて、カリサは同じく魔法で自身の右手に生まれた水の刃を振り下ろす。


「ふう、成功、ですかね。コリンズちゃん、怪我はないですか?」


 カリサの水の刃によって拘束具の全てと目隠しは無事破壊され、コリンズを拘束しているものは全てなくなった。


「ああ、問題無い。久しいな、カリサ。なんで、戻ってきてしまったのか、と思わなくもないが……ともかくありがとう、助かった」


 拘束具があった場所が少し擦過傷気味だが、それ以外は目立った怪我は無いようだ。コリンズも手足を動かして自分の状態を確認し、改めて問題がないことを確認したのか一人頷いていた。


「元気そうで良かったです。私がここにいるのにはいろいろな事情があるのですが、その説明は後にしていいですか? 私もエドくんの様子を見に行きたいので」


「ああ、さっきの声だけ可愛らしい化物が言ってた奴か。ではさっさとこんな所からは立ち去るとしよう」


 コリンズは立ち上がると、依然として腰を抜かしている見張りの男を一睨みしてから、馬車の後ろの出口の方へ向かう。


「化物って……いえ、確かに化物並に強いかもしれませんが、ステイシーちゃんはいい子ですよ?」


 馬車の後方で何やら探し物をしている様子のコリンズの方に向かいながら、今までの目にしたステイシーの魔法の実力を思い出し、化物と言われてもカリサには否定はできなないな、と思った。


「にわかには信じがたいが、カリサが開放されてる時点でいい子ってのは確かなんだろう。それにしたってあの殺気は尋常じゃない。いったいそのステイシーちゃんとやらは何者なんだ?」


「うーん、何者なんでしょうね?」


 カリサの適当な答えに、コリンズは思わずため息をつく。


「得体の知れない奴に助けられそのまま一緒にここまで来たのか? 全くお前は相変わらず呑気だな」


「そんなこと言われても、本当にわからないんですってば」


「あーはいはい、おっ、これかな?」


 呆れたように返すコリンズに、カリサはムッとなって言い返すが、軽くあしらわれてしまう。


「何を探してたんですか?」


「これだ」


 そう言ってコリンズが取り上げたのは一振りの剣と思われる何かだった。


「なんです、これ?」


 普通の剣よりかなり細身で、刃も片方にしかついておらず、極めつけには僅かに反りがある。少なくともカリサの常識の中にある剣とは大きく異なる形状をしている。


「ニホントウ、という種類の剣だ。その中でもこれは私の一族に代々伝わる業物でな。一太刀すれば大樹を薙ぎ、一太刀すれば百の武士(もののふ)を切り伏せる、などと言い伝えられている。まあ平たく言えば、めちゃくちゃよく切れる、ということだ」


「へえ、すごい剣なんですね」


「使ってみるともっとよくわかるのだがな……」


 あまり自分の剣の凄さが伝わっていない様子のカリサに、コリンズは少し不満げだ。


「少し気になりますね。そうだ、ステイシーちゃーん!」


 馬車の後ろから降り、ステイシーがいる方に回り込んで来ていたカリサは、エドマンドが戦っているであろう場所を見ているステイシーに呼びかけた。



(ったく、またこのパターンかよ……)


 相変わらず回復しかしてくれないステイシーに心の中で文句を言いながら、再び奴隷商人に向けて剣を構える。


「おいおい兄ちゃん、いい加減諦めたらどうだ? あんたじゃどう頑張ったって俺には勝てやしねーって」


 何度叩きのめしてもすぐに回復して立ち上がるエドマンドに、いい加減疲れが見え始めた奴隷商人が諦めるように促してきた。


「そんなこと言われてもなあ」


 エドマンドが振り返ると、見えるのはこちらにワンドを向けながら、笑顔で手を振っているステイシー。


(はい降参、ってわけにもいかないんだろうなあ)


 エドマンドが視線を奴隷商人の男に戻すと、ステイシーは頷く。


「そういうことで、もう少し相手してもらうぞ」


「ったく、めんどくせー、なっ!」


 疲れた様子の奴隷商人だが、それでもエドマンドよりは強く、エドマンドは剣で受けることもできずに吹き飛ばされる。


「はい回復ー」


 そして回復されて立ち上がる。


 先程から幾度となく繰り返されたやり取りに、戦っている当人達は辟易していた。


 エドマンドが剣を構え、もう一度同じことをするのか、と奴隷商人が顔をしかめた時、ようやく変化が訪れる。


「よっと」


 馬車の荷台から、一人の少女が日本刀によく似た剣を持って降りて来たのである。歳の頃は十五、六といったところだろうか。


「加勢するぞ、少年」


 ただ、エドマンドが気になったのは年齢でも、日本刀に似たその得物でもなく――。


「獣耳?」


 そう獣耳だ。少女の肩にかかる程まで伸ばされた金色の髪の中には、その髪色の同じ金色の毛並みの狐耳がピンッ、と立っていた。


「戦闘中にそんなことが気になるとは、変わったやつだな君は。私は−−っと」


 こちらが話しているのを好機と見た奴隷商人が切りかかってくるも、謎の少女は持っていた剣で軽くあしらってしまう。


「うむ、悪くないぞ、商人の男」


「チッ、何が悪くないだ、この化物」


 先程エドマンドと戦っていたときとは打って変わって、奴隷商人の顔には余裕がない。


「おいおい、それはちょっと失礼じゃないか?」


 謎の少女は苦笑すると、再びエドマンドへと向き直る。


「少々邪魔が入ってしまったな。私はベタニア=コリンズ、狐の獣人ヴォルペの長の娘だ」


「なるほど、獣人、ね」


 ステイシーからそのような存在がいるとは聞いていたが、実際の姿はエドマンドの予想とはかなり違っていた。


「ああ、獣人だが、それがどうかしたのか?」


「いや、ごめんごめん、なんでもないんだ、気にしないでくれ。俺はエドマンド=ウォーレン。一応冒険者ってことになってる。俺のことはエドマンドでもエドでも好きに呼んでくれ」

「わかった、それではエドと呼ばせてもらおう。私のことはコリンズと呼んでくれ」


「了解だ。それで加勢してくれるってことだったけど……」


 そう言ってエドマンドはステイシーの方を見る。


「うーん、まあコリンズちゃんの実力も把握しておきたいし、いいよ、許してあげる」


「よしっ、それじゃあ早速−−」


 どーーーん。


「いっちょ上がり、だな」


 爆音に驚き振り返った先では、隕石でも落ちたのかというほどの大きなクレーターの向こうで、気絶した奴隷商人に上に座るコリンズの姿があったのだった。 

読んでいただきありがとうございます。


前回から文字数を少なくしています。


なんでも一気に読むには3,000字くらいがいい、という情報を手に入れまして、早速実践してみたわけです。


コリンズがしっかり登場しましたね。


獣耳ですよ獣耳!


しかも狐ですよ!


最高じゃないですか……。


すみません、要するになんで狐耳かと言われれば、完全に趣味、ということです。


明日も読んで頂けると嬉しいです。


それでは。

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