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白き聖女の下剋上  作者: 上村 俊貴
白雪姫(この章からが本編です)
17/49

第3節「エルフの森へ(10)」

「そういえば、白雪姫(シュネーヴィトヒェン)が伝説同様の強さなのか、という一番最初の質問にまだ答えていませんでしたね」


 すっかり脱線しきっていた話題を、カリサが思い出して修正した。


「そうだったね。じゃあ早速聞かせてもらうけど、今の白雪姫(シュネーヴィトヒェン)はどれくらいの強さなのかな?」


「そうですね。私たちエルフが知っている白雪姫(シュネーヴィトヒェン)のフルスペックと比較して五割ぐらいの強さでしょうか」


「ずいぶん弱体化してるね。なにか理由があるの?」


白雪姫(シュネーヴィトヒェン)は、その初代所有者、つまり白雪姫と性質が近い人物が使うほどその力を強めます。具体的には身体的特徴と血統的特徴が近いほどその力を強めるんです。個々人の力量により差は生じますが、一般に、レヤード家の者であれば誰でも二割程度、女性であれば誰でも同じく二割程度、ハーフエルフであれば誰でも同じく二割程度、黒髪であれば誰でも同じく二割程度、だと言われています。以上四つの性質の内、その所有者の持つ性質の数分引き出せる性能が合算されます」


「じゃあカリサは八割程度まで白雪姫(シュネーヴィトヒェン)の力を引き出せるってことか?」


 カリサの説明が本当なら、レヤード家で女性でハーフエルフで黒髪なカリサは、八割の力を引き出せるということになる。


「そうですね、そういうことになります。ちなみに誰が使っても、例え一つの性質も持っていない者が使ったとしても、個人の力量次第で二割までならその力を引き出せると言われています。だからこそお姉ちゃ……姉は、五割の力を使えているのです」


 一瞬お姉ちゃんと言おうとした事を何事もなかったことのように流したカリサだったが、その耳はほんのりと赤くなっていた。見た目に反し、カリサの内面は案外子供っぽいのかもしれない。


「でもそれならなんでカリサじゃなくてニルダさんが白雪姫(シュネーヴィトヒェン)を受け継いだんだ? カリサのほうが適任だろうに」


 適性が高いものが他にいるなら、そちらに所有権を移すべき、というのは効率を考えれば当然の発想だ。人間より高い知性を持つというエルフが、その考えに至らないわけはないだろう。


「ああ、それは簡単なことですよ。私が百五十歳になってないからです。白雪姫(シュネーヴィトヒェン)の所有権は百五十歳にならないと得られませんから」


「じゃあカリサが百五十歳になったらカリサが白雪姫(シュネーヴィトヒェン)の所有者になるのか」


「その予定です」


「なるほど」


カリサの話が一段落したのを見計らって、ステイシーはワンドを取り出すと、焚き火にかざす。


「さて、それじゃあそろそろ寝ようか」


 言葉とともにステイシーのワンドから放たれた白い光が焚き火を包むと、光が消えた頃には焚き火そのものがその場から姿を消していた。


「そうだな」


 先ほどまでカリサの話に集中していたため気が付かなかったが、ステイシーの寝るという言葉を聞いた途端、エドマンドは思い出したように精神的疲労を感じ、睡魔に襲われる。


「そうですね」


 話疲れたのか、カリサも少し眠たそうに目をこすっていた。



(どうしてこうなった?)


 いや、途中からわかってはいた。


 ステイシーが張ったテントは一つ。


 大きさに問題はないが、だからといって中に仕切りを作れるほど大きくもない。


 結果として、エドマンドの右側にはステイシー、左側にはカリサが寝ていた。


 健全な男子なら、こんな状況で寝付く事は容易ではないだろう。


 ちなみにこの配置はステイシーの提案である。


 なんでも「一番弱いんだから、真ん中で」、ということらしい。


 本当かどうか怪しいが、そのほうがもしもの時にエドマンドを守りやすいとかなんとか。


 そして二人ともエドマンドの方を向いて寝ているため、どちらを向いてもステイシーかカリサのどちらかと見つめ合う形になってしまう。


(もうこれは、俺が慣れるしかないんだろうか)


 そんなことを考えている間に、疲れのおかげもあってエドマンドも眠ってしまっていたのだった。



「それじゃあ、しゅっぱーつ」


 元気の良いステイシーの掛け声で再び街道を歩きだしたエドマンド達は、程なくして大きな馬車とすれ違った。


「ずいぶん大きな馬車だな」


 街道の道幅一杯に広がる馬車を避け、街道脇の草原に立っていたエドマンドは、自分の身長を優に超える程大きな馬車の荷台に思わずつぶやく。


「そうだね、何を運んでるんだろうね」


「…………」


 エドマンド同様呑気な反応をするステイシーとは対照的に、カリサは黙って俯いたまま馬車から死角となるようにエドマンドとステイシーの後ろに回り込む。


「どうしたの、カリサちゃん?」


 カリサの反応を訝しんだステイシーは、その原因と思われる馬車に目を向ける。


「なるほど、ね」


 自分の眼前と見たい場所を魔法空間でつなげ、その間に光を通すことで壁などに阻まれた場所でも見通すことのできる空間系魔法、透視(クレアボヤンス)を使用して馬車の中を覗いたステイシーは、少し顔をしかめてつぶやいた。


 ステイシーがカリサに向けていつの間にか取り出していたワンドを振ると、カリサの姿が空気に溶けるように消えていく。


「何をしたんだ? というか、そもそもカリサはどうしたんだ? あの馬車が見えてから様子がおかしいみたいだったが……」


「今カリサちゃんにかけたのは簡単な魔法だよ。蜃気楼(ファタモルガーナ)っていう複合魔法なんだけど、赤属性魔法で上の方の空気を温めて、青属性魔法で下の方の空気を冷すことで蜃気楼を発生させて、カリサちゃんの見える位置を高くしてるの。だからほら、上を見てごごらん」


 言われて上を向くと、エドマンドたちから十五メートル程上空にカリサが浮かんでいた。


「浮いてるように見えるな。でもあれじゃあ逆に目立っちゃうんじゃないか?」


 こんな遮るもののない草原で空中に人が浮かんでいたら、むしろ目立ってしまう気がするのだが大丈夫なのだろうか。


「まあ、普通に使えばそうかもだけど、今はあの馬車の御者にバレなきゃそれでいいわけだし」


 確かに屋根付きの馬車に乗っている御者からなら、上空に見えているカリサに気づくことは少ないだろう。


「そうかもしれないけど、ステイシーならもっと完璧に隠せる魔法だって使えたんじゃないのか」


「まあね。でも魔法っていうのは、最小の干渉で導きたい結果へと至ることが重要なんだよ。まだエドには難しいと思うから、後でゆっくり説明してあげる」


 そう言ってステイシーはカリサのいた(今もそこにいるはずだが見えはしない)方に向き直る。


「一応聞いておくけど、あの馬車はカリサちゃんが連れてこられた馬車ってことでいいのかな?」


 馬車の中にカリサがされていたのとよく似た拘束をされた少女の姿を見止めたステイシーは、念の為カリサに確認したのだ。


「そう、だと思います……。あの御者には見覚えがありますから、でもどうしてそれを?」


「ふふふふ、すごいでしょー? まあちょっと透視しただけなんだけどね」


「ちょっと透視しただけって……透視(クレアボヤンス)ほどの高等魔法をそんな簡単に使える人なんてほとんどいませんよ」


 姿は見えないが、声色からカリサが驚き半分呆れ半分といった表情をしている事は容易に想像できた。


「そうなの? じゃあ今後はあんまり使わないほうがーーって今はそこはどうでもいいんだよ。中に獣人の女の子がいたけど、もしかして知り合い?」


 ステイシーの言葉にカリサは見えていなくてもわかるほど大きく息を呑み絶句する。


「……ステイシーちゃん、その女の子はヴォルペですか?」


 絞り出すように言ったカリサの言葉は、確認でありながら、そうであると確信しているようだった。


「うん、たぶん。年の頃は十五、六じゃないかな?」


「そうですか、それなら間違いありません。その女の子はコリンズちゃんです」


「つまり知り合いってことでいいんだね?」


「そうですね、私が奴隷商人のところに連れてこられた時からそこにいた子で、怖がる私を慰めてくれた優しくて強い子です」


「なるほど、じゃあ助けよう。エド、いっちょ助けてきちゃって!」


「いやいやいや、なんで俺? 勝てないよ? 見ろよあの奴隷商人、すげー強そうじゃん!」


 御者もとい奴隷商人は、よくよく見てみるとかなりたくましい男性で、その上帯剣しているようだ。レベルは十。先ほどのゴブリンとの戦闘でレベル三になったとはいえ、どう見ても今のエドマンドが勝てる相手ではない。


「もーう、いちいちうるさいなー。男の子ならバシッと決めてみなよ。それにさっきみたいに私が回復し続けてあげるからさ。それ、行っておいで」


 そう言ってステイシーがワンドを振ると、エドマンドの体が浮かび上がり、馬車の方へと飛んでいく。


「おい、ステイシー! やめろって! いや、やめて下さい! マジでー!」


「いってらっしゃ~い」


 ステイシーの緊張感の無い声を最後に、エドマンドはいつの間にやらかなり離れていた馬車の前まで飛ばされていく。


「さてカリサちゃん、私たちはゆっくりそのコリンズちゃんとやらを助けに行こうか」


「え、あ、はい」


 突然エドマンドが飛ばされてしまったことに呆然としていたカリサは、ステイシーの声で我に返った。


「ステイシーちゃん、さっきの魔法はーー」


「ああ、あれはねーー」


 ステイシーが蜃気楼(ファタモルガーナ)を解除したことで、ステイシーの隣に姿を現したカリサとステイシーの二人は、エドマンドが飛ばされた方へとゆっくり歩いていった。



「いたっ! くない?」


 抵抗虚しくステイシーに吹き飛ばされたエドマンドは、轟音とともに地面に落下したのだが、どういう理由か痛みはなかった。

 ただ、痛くなければ問題無い訳では無い。


 なぜならーー


「なんだてめー! 突然目の前に落ちてきやがって、あぶねーじゃねーか!」


(ですよねー)


 こうして見つかってしまうからだ。


 どう見ても正面からやりあって勝てる相手ではない以上、不意をついて奇襲でもかけるしかないか、とエドマンドは思っていたのだが、あの師匠はそんなことはお見通しだったのだろう。だからわざと派手にエドマンドを登場させたのであろうことは容易に想像できる。


(ノーダメージで着地させられるなら音も無く着地させることだって簡単だろうに……)


「おい、聞いてんのかクソガキ!」


「あ、はい、聞いてます聞いてます」


 考え事をしていたため実はあまり聞いていなかったが、とりあえず適当に誤魔化しておく。


「じゃあ、なんでいつまでもそこにいんだよ! さっさとどきやがれ」


「えーっとそのー。なんといいますか、それはできないといいますか……」


「あん、どういう……。はは、ははははは、おいおい! まさかてめー、ガキ一人でいっちょ前に盗賊のつもりか? それで俺から荷物を奪おうってか? 笑わせてくれるじゃねーか。お前なんかがこの俺に勝てるってのか?」


「いや、そういうわけじゃないないんだけど。まあいいか」


 エドマンドが勝てるわけがない。全くその通りである。


 事実エドマンドにも全く勝算はない。しかしステイシーが許可してくれない限り、逃げることもできないのだ。


(戦うしかないんだよなー、ははは……はあ)


 諦めの極地へと至ったエドマンドは、腹をくくり御者席から降りてきた奴隷商人を正面から見据える。


「ほほう、ちっとはやるみてーじゃねーか。いいぜ、そっちからきな」


 こちらが剣を構えた姿を一瞥し、大体の実力を計った奴隷商人は、エドマンドに先攻を譲る程度には余裕なようだ。


「じゃあお言葉に甘えて、いかせてもらうっ!」


 言葉とともに、エドマンドの両手剣、基礎術式剣(エレメンタル)(クインテット)による横薙ぎの一撃が奴隷商人を襲った。

読んでいただきありがとうございます。

実は前回のゴブリン戦で、エドマンドのレベルも2上がっていました。

レベルが低すぎるときは一回の戦闘で1以上レベルが上がるあれですね。

そういえば、カリサレベルが出てきていませんが、特に意味はありません。出すタイミングがあれば出そうと思います。

明日も読んで頂けると嬉しいです。

それでは。

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