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白き聖女の下剋上  作者: 上村 俊貴
白雪姫(この章からが本編です)
16/49

第3節「エルフの森へ(9)」

追記(2019年4月19日17時19分)


ツイッター等で読みにくい、というご指摘をいただきましたので、一行おきに変更しました。


内容は変えておりません。

「ニルダお姉ちゃーん!」


「どうしたの、カリサ」


 カリサの声に振り返ったニルダは、優しく微笑むと自分のもとにやってきた自分よりも背の高い妹の頭にポンと手を置く。


「聞いて聞いて、私また新しい魔法覚えたの」


「すごい! さすがは私の妹ね」


 ニルダが頭を撫でてやると、カリサはたちまち頬を緩ませ、目を細める。


「えへへ、そうでしょ〜?」


「うんうん、本当にすごいね、カリサは。きっと将来は私以上の魔法使いになるわ」


「もう、お姉ちゃんったら、そんなことあるわけないでしょ?」


「そうかしら? お姉ちゃんはカリサならできると思うけどなあ」


 ニルダの言葉に偽りはなかった。


 そもそも多くの場合、純血のエルフより、ハーフエルフの方が魔法の才に優れている。


 これはニルダとカリサの間にも当てはまることだ。


 カリサはまだ幼いため、このことに気がついていないが、純血のエルフである自分が今のカリサの年齢の時に到底できなかったような魔法を、今のカリサは扱うことができるのだ。


 カリサの方が優秀なのは明白だった。


(本当はこの白雪姫(シュネーヴィトヒェン)だってーーー)


「お姉ちゃん?」


 一人思考の海に沈んでいたニルダを、カリサの声が現実へと引き上げる。


「ごめんごめん、それで、何の話だったかしら?」


「私が新しくできるようになった魔法の話をしてたんだけど、聞いてなかったの〜?」


「あー、うん、ごめん。少し考え事をしてたの、許してね。もう一回話してくれる?」


「うん、いいよー、私が使えるようになったのはねーーー」


 カリサが説明した魔法は、とうとう今のニルダでも使えないレベルのものにまで至ってしまっていた。


 ニルダが、族長である父にカリサの成長を伝え、白雪姫(シュネーヴィトヒェン)を所有権を決まりより少し早くカリサに譲ることができないかを相談しにいった間に、カリサは忽然と姿を消していたのだった。



 カリサの話を聞き終えたステイシーは、カリサにいくつか確認したいことがあった。


「じゃあカリサちゃんのお姉ちゃんが、白雪姫(シュネーヴィトヒェン)の使い手ってことなのかな?」


「はい、私の姉、ニルダ=レヤードが白雪姫(シュネーヴィトヒェン)の現所有者です」


「現所有者、ってことは白雪姫(シュネーヴィトヒェン)は代々受け継がれていくものなの?」


「そのとおりです。白雪姫(シュネーヴィトヒェン)は私達、族長の家系であるレヤード家の女性に代々受け継がれています」


「そして今の所有者がカリサのお姉さんのニルダさんってわけか」


「はい、そういうことになります」


「「エルフの森」の白雪姫(シュネーヴィトヒェン)があるってエドの地図で知ってたから、もしかして、とは思ってたけど、レヤード家は白雪姫の直系なのかな?」


「驚きました、ステイシーちゃんは白雪姫の本名を知っていたのですね」


「まあね、たしかルーシー=レヤードっていう女性でしょう?」


「どちらも正解です。私達レヤード家は白雪姫、ルーシー=レヤードの直系の一族です」


「じゃあ、白雪姫はエルフの結婚したってことか?」


 そうでなければ、エルフであるカリサの一族が、白雪姫の直系ということにはならないだろう、と考えての発言だったが、カリサは首を横に振る。


「いいえ、それは少し違います。そもそも白雪姫はハーフエルフですから」


「整った目鼻立ちに、黒く美しい髪。


スラリと伸びた四肢に、艶めかしい身体付き。


その容姿は、その白く透き通った肌に至るまで、長きに渡り老いることはなかった、ね。


ただの伝説だと思ってたけど、白雪姫がハーフエルフならただの伝説、ってわけじゃないんだろうね」


「白雪姫がハーフエルフだということは、エルフくらいしか知りませんから、ステイシーちゃんみたいにただの伝説だと思っている人は多いでしょうね」


「そういえば、この前白雪姫の話をしてもらっ時は容姿についてそこまで言ってなかったな」


 エドマンドの記憶が確かなら、とりあえず美人だ、ということくらいしかわからないような内容だったはずだ。


「うん、だって完全に後付だと思ってたしね。エドに嘘を教えるわけにはいかないと思ったから」


「そこまで信じられない内容なのか? 白雪姫って伝説の魔法使いだったんだろ? 別にそれくらいできてもおかしくないんじゃないのか?」


 事実、ステイシーは、本人曰く少なくとも二百年は生きているらしいが、見た目は十代である。ならば伝説の魔法使いである白雪姫が同じことをできても不思議ではない。


「いや、それはないよ」


 珍しくキッパリと言い切ったステイシーは、少し不機嫌そうに見えた。


 どうしてステイシーの機嫌が悪くなったのかエドマンドにはわからないが、今は一旦棚上げし疑問を解消するべく質問することにする。


「どうしてだ?」


「もし容姿をある年齢で止めようと思えば、体内時計の針を止めるしかない。


これはどうやっても不可逆的処理になるから、一度やってしまえば二度と戻せない。だからーーー」


 そこで一度間をおいたステイシーの言葉をエドマンドが引き継ぐ。


「白雪姫が容姿を保とうと思えば、不老不死になるしかない、ってことか?」


「少し違うけどほとんど正解。やっぱりエドは頭の回転が速いね。


正確には、容姿を保った上で普通の生物の様に死ぬことができないのは、純粋な人間だけなんだよ。エルフやハーフエルフなら死ぬまで同じ容姿でいることもできるから」


 今の発言は本当に予想外だったのか、一瞬目を丸くしたステイシーは、エドマンドの発言を補足した。


「確かにエルフや私たちハーフエルフは、好きなタイミングで容姿を止めることができます。


とはいえ、大抵の場合ある程度年齢通りの容姿にしてますけどね。そうしないと混乱してしまいますし」


「じゃあ、白雪姫がエルフかハーフエルフって可能性は考えなかったのか?」


 エルフやハーフエルフ特有の性質についてここまで明るいステイシーなら、白雪姫がエルフかハーフエルフだという推論は容易だったはずだ。


しかし、先ほどの反応を見るに、ステイシーはその可能性を何らかの理由で排除していたようだった。


「その時代、つまり千年以上前ってことになるけど、エルフは人間に差別されてたんだよ」


「差別って?」


 一口に差別と言っても、エドマンドが知っているだけでも、かつて公然と行われ虐殺にまで至った黒人やユダヤ人に対する差別から、表面上は無いとされながら存在している雇用や給与面での女性差別まで、いろいろな程度がある。


どれも無くなるべきものであることは変わりないだろうが、程度の違いがあることは異論が無いだろう。


「カリサちゃん、話しても大丈夫?」


「ええ、私は言い伝えで聞いたことがあるだけで体験したわけではないので。


自分で話すのは流石に嫌ですけど、聞く分には他人事、と言ってしまうのは先祖の方々に悪い気もしますが、少なくとも当事者では無いですから」


「了解。じゃあ話しちゃうね。昔エルフがされていた差別はそれはそれは壮絶なものだったんだよ。


それこそエルフという種族が絶滅に瀕してしまう程にね」


「種族を絶滅させるって、そんなことありえるのか?」


 カリサを見ている限り、少なくとも人間と同等以上の知的存在であろうエルフを絶滅させる、というのは容易なことではない。


 それこそ、人間すべてがエルフを殺し続けでもしない限り不可能だろう。


「ありえるよ。当時の貴族たちはその権力を示すためにエルフの耳を集めて、その量で自分の権力の大きさを誇示したの。


だから、自分の領内の人々がエルフを殺すことを推奨したし、それ専用に訓練した部隊を組織してエルフの国を襲撃したりもした。


結果として、人間による殺戮が始まる前、人間と同じくらいいたエルフたちはその数を十分の一にまで減らしたの」


「どうしてそんなことになったんだ? エルフたちは抵抗しなかったのか?」


 カリサをみているかぎり、エルフは魔法を使えるようだし、少なくともカリサは相当な強さだということが日中のゴブリンとの戦闘で判明している。


 エルフが本気で抵抗すれば、人間側も無傷では済むまい。


「抵抗しなかったんじゃないよ、抵抗できなかったんだよ。


エルフたちは人間なんかより高い知性を持っているし、寿命も長いし、魔力量も多いから当然エルフの方が文明として進んでた。


それこそ、千年前には今の人類の文化水準を超えていたらしいからね。


だけど、彼らは知性が高いがために、争うことをしなかった。


だから攻撃する手段を、敵を殺す手段を持っていなかったんだよ」


 高い知性とそれによってもたらされる完璧な理性によって、無益な戦闘行為を行わなかったがために、愚かな人間に殺されるとは皮肉な話である。


「だから人間に一方的に殺されたと」


「そういうこと。それに反撃して人間を殺しても人間側に自分たちを殺す大義名分を与えるだけだってわかっていたからね」


「確かにそんな状況でエルフが王家に嫁いでる、なんて考えられないな」


「でしょう? だけどそうなんだよね?」


「ええ、白雪姫は母がエルフのハーフエルフであった事は間違いありません。


ちなみに伝説に登場する白雪姫の母は純粋な人間です。


なので、一般的に知られる物語では実の娘を殺そうとしたことになっていますが、実際のところ彼女から見た白雪姫は義理の娘ということになりますから、そこまで非道な人物だった、というわけでもないのでしょう。


白雪姫の実母は王が旅をしていた頃に命がけで彼を助けたエルフの女性で、いわゆる妾、というものらしいですよ」


「なるほどね、確かにそのほうが自然かも。


まあ、貴族達なら実の娘を暗殺しようとしても全然不思議ではないけど」


 ステイシーの口調には多分に皮肉が込められており、過去に貴族との間に何かあったのではないかと思わせるものだった。


「私も半分は人間の血が入っていますが、その手の人間の行為はあまり理解できません。


なぜ同族同士で、しかも義理とはいえ家族同士で殺し合うんですかね」


 エルフの中で育ったカリサの価値観からすると、同族を殺す人間の行為は奇異なものらしい。


とはいえ、人間であるエドマンドにも人間を殺す人間の考えることはよくわからないのだが。


「それは難しい質問だね。たぶん自分が当事者にでもならない限り、私たち人間にもわからないと思うよ」


 どうやらエドマンド同様、ステイシーにもわからないらしい。


「そういうものですか」


「うん。強いて言うなら人間は理性よりも感情を優先しちゃうことがあるってことかな」


「そうなんですか?」


「そうだな、だめだってわかっていてもやめられないことってのは確かにあるな」


 流石にどれだけ憎くとも人を殺したことはないが、感情が理性を凌駕する、ということにはエドマンドにも思い当たる節があった。


「人間というのは大変なんですね」


「ふふっ、そうだね。でもカリサちゃんの中にも半分人間の要素が入ってるんだから、案外他人事じゃないかもよ?」


 ステイシーがいたずらっぽく微笑み、カリサの顔を除きこむ。


「確かにそうですね。そう考えるとなんだか怖くなってきました」


 素直なカリサは、ステイシーに言葉を真に受け不安そうな表情になってしまう。


「大丈夫大丈夫。感情が勝つっていうのは悪い事ばかりじゃないからさ」


 先ほど同様軽い調子でカリサを励ますステイシーは、本当に楽しそうに見える。


「そうですか? ならいいですけど……」


 まだ少し不安そうなカリサだったが、とりあえずは大丈夫そうだ。


「ステイシー、あんまりカリサをいじめるなよ?」


「も〜う、エドひどいな〜。ちょっと遊んだだけじゃないのさ」


「え? 私遊ばれてたんですか? ひどいですステイシーちゃん……」


「ごめんごめん。でも嘘は言ってないからさ? ね? 許して?」


 顔の前で手を合わせ、舌を出して謝るステイシーは、明らかに可愛い子ぶっているのだが、不思議と鬱陶しさは感じず、普通に可愛かった。


 思わず、なるほどこれがあざと可愛い、というやつか、とエドマンドはどうでもいいことを考えてしまう。


「じゃあ許します」


「優しすぎるだろ! カリサ、もっと怒ってやってもいいんだぞ?」


 あまりにもすんなりとステイシーのことを許してしまったカリサに、エドマンドは思わずつっこんでしまったのだった。

読んでいただきありがとうございます。


次回は、白雪姫関連の話とエルフの歴史をサラッと終えて、再び出発します。


ずいぶんのんびり進んでいますが、もう少ししたら物語が動く予定です。


明日も読んで頂けると嬉しいです。


それでは。



追記(2019年4月19日17時19分)


ツイッター等で読みにくい、というご指摘をいただきましたので、一行おきに変更しました。


内容は変えておりません。

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