第3節「エルフの森へ(8)」
追記(2019年4月19日17時08分)
ツイッター等で読みにくい、というご指摘をいただきましたので、一行おきに変更しました。
内容は変えておりません。
「エドー、ファイトー」
「エドくーん、頑張ってくださーい」
「あいつら……」
ゴブリンと対峙するエドマンドの後方、数メートルばかり離れたところで、ステイシーとカリサはのんきに応援している。
ゴブリンのレベルは五。
三体で襲ってきた彼らに、一人一体ずつ倒そう、という話になったのはかれこれ一時間前のことだ。
エドマンド以外の二人はたやすくゴブリンを屠り、今は後ろでステイシーの出したテーブルと椅子、そして同じくステイシーの出した紅茶とお菓子でティータイムと洒落込んでいる。
ちなみに、エドマンドが死にそうになっているのにどうして二人があんなにのんきなのかといえば……
「グハッ」
というようにゴブリンの持つ短剣によって、何度目かわからない致命傷をエドマンドが受けると、
「それっ」
とステイシーワンドを振り、エドマンドを全回復させるからである。
つまり、エドマンドは死ぬどころか、怪我をする可能性もほとんどないのだ。
「ほらー、さっさと倒しちゃいなよー」
「そんなこと言われてもなあ……」
「それじゃあ、私の戦いを思い出してみたら?」
「ステイシーの戦い、ねえ?」
一応思い出してみるが、あれはおそらく参考にならないだろう。
そのくらい、ステイシーとゴブリンの戦闘は一方的なものだった。
*
「じゃあ私から行くね」
ステイシーは、先ほど自分が張った白い微光をまとっている結界を操作し、中に囚われている3体のゴブリンの中の一体を外に出す。
「それで、どうやって倒してほしーーーっとと。逃げちゃだめだよー」
ステイシーがエドマンドと話している間に逃げ出そうとしたゴブリンは、ステイシーによってステイシーと同じ半球の結界に囚われてしまう。
仲間をおいてでも逃げ出そうとした、ということは、彼我の戦力差が理解できているのだろう。
「いやー、ごめんごめん。それで、エドはどうやって倒してほしい?」
「なんかもう、可哀想だからできるだけ楽に殺してやってくれ」
「えー、それじゃあ何の参考にもならないと思うよ?」
「じゃあ、何かしら俺の参考になるとステイシーが思う倒し方で」
「そんな投げやりな。まあいいけどさ。じゃあいくよ?」
ステイシーがゴブリンにむけてワンドを向けるが、一向に何をする気配もない。
「だめだね、うーんどうしようかなあ」
首をかしげながら、ひとしきり考えていたステイシーだったが、ようやく何か思いついたように手を打った。
「よし、じゃあこうしよう」
「魔法効果向上・七」
「筋力強化・七」
「敏捷性強化・七」
「知力強化・七(レベル1セブン)」
「対魔法強化・七」
ステイシーが魔法名に合わせてワンドを振るたびに、相手のゴブリンが薄白い光に包まれる。
「すごい! 見てくださいエドくん、レベル七の魔法ですよ!」
「それがどれくらいすごいのか今ひとつわからないんだが……。ていうか、あれってもしかして相手のゴブリンを強化してるのか?」
ステイシーが発動する魔法の光はすべて相手のゴブリンに発生している。
その光の色から白属性魔法だと思われるが、白属性魔法に攻撃魔法はほとんど無いというステイシーに教わったことが本当なら、ゴブリンは強化されている、と考えられるのだ。
「ええ、理由はわかりませんがそのようですね。たぶんあれ程の強化魔法をかけられれば、あの程度のゴブリンでもかなり強いと思いますよ」
カリサのその言葉を裏付けるように、ステイシーと対峙していたゴブリンの姿が突如として掻き消える。
「おっとと、危ない危ない。いい感じだね」
轟音とともに舞った土煙がはれると、先ほどまでステイシーがいた場所にゴブリンの拳が突き刺さり、大きなクレーターを作っていた。
エドマンドには全く見えなかった一撃を、その言葉とは裏腹にたやすく躱したステイシーは、バックステップで距離を取ると、ウンウンと頷く。
「これくらいなら、しばらくは私とでも遊べるかな」
もはや逃げ出そうという気配を微塵も感じさせないゴブリンだが、自分の攻撃を躱したステイシーを警戒しているのか、攻撃は仕掛けてこない。
「じゃあ今度はこっちからいくよー? 召喚・蒼き湖」
言葉とともに現れた大量の水によって、ステイシーとゴブリンのいる結界が満たされる。
「これで君には時間制限がついたはずだよね? ほら、早くしないと死んじゃうよ?」
この状況なら両者ともに息ができないかような気がするが、どういう原理かゴブリンとともに水の中にいるはずのステイシーの声はしっかりと聞こえているため、何かしらの手段でステイシーは呼吸可能なようだ。
ステイシーによって早急に勝負をつけなければならない状況に追い込まれたゴブリンは、水中で動くコツを掴むと、再びステイシーへと迫る。
「流石に飲み込みが早いね。まあ、知力も強化してるし当然か。
でもあまいあまーい。創造・氷板」
ステイシーの目の前に現れた氷の板に行く手を阻まれたゴブリンは、回り込んだ先でもう一枚の氷の板を見つけ、それの足場にステイシーの背後に回り込む。
ゴブリンが腕を振り下ろし、勝利を確信したであろう瞬間、その腕は弾け飛び、周囲の水を赤く染めた。
「ふふっ、引っ掛かったねー? 水圧操作って言ってね、大した魔法じゃないけど、一定領域を最大減圧すれば、侵入した生物の体を自身の内圧で破裂させることだってできるんだからバカに出来ないよね。
ありがとね、ゴブリンさん。だけどこれでおしまい。
創造・氷柱」
水中に生成されたつららがゴブリンを貫き、その息の根を止める。
それと同時に結界内の水がどこへでもなく消えていき、同じく解除された結界の中からステイシーが出てくる。
「どうだった? 参考になったかな?」
そう尋ねたステイシーは身体はおろか服すら全く濡れていなかった。
*
(あれのどこを参考にしろってんだよ)
エドマンドは大量の水も召喚できないし、水中で呼吸することもできない。
正直何を参考にすればいいのかさっぱりわからなかった。
「もうちょっと具体的に教えてくれ」
「例えばだけど、君の攻撃が三回に一回くらいしか当たらない理由はなんだと思う?」
なんだと思う? と言われても、それがわかればもっと当たっていると思うエドマンドだったが、一応言われたとおり考えてみる。
「敵が攻撃してくる方向が毎回違うんだから、当たる当たらないなんて運じゃないのか?」
エドマンドより早く動くことができるゴブリンは先ほどから前後左右いたるところから攻撃を仕掛けてきていた。
自分から接近しても再び距離を取られてしまうエドマンドは、ゴブリンが攻撃してきたところでカウンターを入れるしか攻撃手段がないため、相手の攻撃がくる方向がわからないと攻撃がはいらないのだ。
「うーん、そこまでわかってるなら自分で気がついてほしいんだけど、わからないかな? ほら、さっき私がとどめを刺した時のことを思い出してみて」
(確かに、氷の壁を避けたゴブリンが後ろから攻撃したら、そこにあった罠に引っかかたんだっけか)
「なるほど、なんかわかった気がする」
おそらく、ステイシーが言いたいことは、こういうことだろう。
というか、それを前提としてこの場所に結界を張ってエドマンドとゴブリンを入れたんじゃないか、というほどおあつらえ向きな場所が存在する。
「ここで戦えってことかー?」
結界の端、エドマンドの背丈より少し大きいくらいの岩が隣接しているおり、その間に人一人入るのがやっとくらいの隙間に駆け込み、エドマンドはステイシーに問うた。
「正解。やっと気がついたね」
そう、相手の攻撃がくる向きがわからないなら、その向きを絞ってしまえばよかったのだ。
この岩の隙間は後ろが結界の壁であるため、相手の攻撃は上か前からしかこない。
その後、攻撃が当たる回数が格段に増えたエドマンドは、無事勝利を収めたのだった。
*
「いやー、すっかり日が暮れちゃったね」
「そうですね。今日はここで野宿でしょうか」
「そうだね、たぶんそうするしかないだろうね」
ゴブリンとの戦闘の後、再びしばらくの間街道を歩いたところで、日が暮れてしまった。
「エドもそれでいいかな?」
「いいもなにも、辿り着けそうにないんだからそうするしかないんじゃないのか?」
「まあ、そうなんだけどねー」
ステイシーは街道の脇にあった野原に歩いて行くと、魔法空間収納から野営道具を取り出し、あたりに広げ始める。
「エドとカリサちゃんは、テント張ったりできる?」
「いや、全く」
特にアウトドア系の趣味があったわけでもないエドマンドは、テントなどホームセンターでみたことがあるくらいだ。
「私もやったことないですね」
「やっぱりそうだよね。わかった、じゃあ教えてあげるからやってみよう」
「いいけど、そんなに簡単に張れるものなのか?」
ステイシーが取り出した棒やロープ、大きな布などを見ただけでは、これがどうなってテントになるのか、エドマンドとカリサにはさっぱりわからない。
「大丈夫大丈夫、そんなに難しいものじゃないから」
ステイシーはランプに火を点けると、魔法空間収納から黒板を取り出し、何かを書き始めた。
「まず、これが屋根と壁の役割の布で二枚あって、こっちが床の役割の布でこれは一枚。ーーー」
こうして突然始まった野営教室を経て、日没後二時間ほど経った頃、エドマンドたちはなんとかテントとターフ、簡易的な炊事場などの設営を終えたのだった。
*
「「「ごちそうさまでした」」」
ステイシーが手早く作ったポトフを食べ終わった三人は、後片付けを終え、今は焚き火を囲んでのんびりしていた。
「夜は結構寒いんだな」
少し暑いくらいの昼間に対し、日が落ちると思いの外気温が下がり、少し肌寒いくらいだ。
「まあ、まだ春だからね」
(今は春だったのか)
この世界の暦については未だわからないエドマンドだったが、今の会話のおかげで、少なくとも春という季節が存在することは知れた。
「そういえばまだ聞いてなかったんですが、二人はどうして「エルフの森」を目指しているんですか?」
「そういえば言ってなかったね。私達はエドのお父さんが残した地図であるものが「エルフの森」にあることを知ってね。それを取りに行くところなんだよ」
「あるもの?」
「うん。エド、あの地図をカリサちゃんに見せてあげて」
「いいのか?」
「大丈夫なんじゃない? カリサちゃんが悪用するとも思えないし」
「それもそうか、カリサ、これがその地図だ」
「ありがとうございます。どれどれ……えっ!?」
「ねえ、すごいでしょ? なんとその地図にはね、あの白雪姫のワンドで同じ名を冠する伝説のワンド白雪姫の在り処が書かれているんだよ、ってカリサちゃん?」
「…………」
「カリサ? どうしたんだ?」
「…………」
「おーい、カリサちゃーん?」
ステイシーがカリサの肩を揺すると、ようやくこちらに気がついたカリサが顔をあげる。
「すみません、取り乱しました。でも、どうしてエドくんのお父さん、白雪姫の事を知ってしたんでしょう? 白雪姫が存在することはエルフの最高気密だというのに」
「え? ということは白雪姫のことをエルフはみんな知ってるってこと?」
「ええ、対外的には知らない、ということになっていますが、少なくとも私と同郷のエルフなら誰でも知っていることです」
「なるほどね、そういうことだったのか。道理で白雪姫だけ見つからないわけだ」
「なあカリサ、ステイシーから話には聞いてたけど、その白雪姫ってワンドは、実際に伝説と同じくらい強いのか?」
「そうですね、それについて詳しく話す事は、本当はいけないことなのですが、二人にはいろいろとお世話になっているので、特別にお教えしましょう。そのためにはまず、私と姉の話から始めなくてはなりません」
そう言って、カリサは白雪姫について語りだしたのだった。
読んでいただきありがとうございます。
白雪姫とそのワンドについて、少しわかりましたね。
次回はカリサとその姉についての話です。
明日も読んで頂けると嬉しいです。
それでは。
追記(2019年4月19日17時08分)
ツイッター等で読みにくい、というご指摘をいただきましたので、一行おきに変更しました。
内容は変えておりません。




