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白き聖女の下剋上  作者: 上村 俊貴
白雪姫(この章からが本編です)
14/49

第3節「エルフの森へ(7)」

追記(2019年4月18日18時21分)


ツイッター等で読みにくい、というご指摘をいただきましたので、一行おきに変更しました。


内容は変えておりません。

 実はこの宿には下に食堂があり、宿泊者は割安な値段で食事をとることができるのだが、昨日の朝も今朝もステイシーはこの部屋で料理をしていた。


「それにしてもすごいですね、ステイシーちゃんは」


「そうなのか?」


 ステイシーが部屋の一角に魔法空間収納(マジックチェスト)からダンジョンにあったものと同等の規模の調理場をそのまま取り出して料理している後ろ姿を見て、カリサは唖然としている。


「そうなのか、って。エドくんはすごいと思わないんですか?」


「いやいや、まさかまさか。俺だってすごいってことはわかるよ。


でも、どれくらいすごいのかがよくわからないんだ。


カリサの目から見ても、ステイシーってやっぱりすごいのか?」


「それはもちろん。


例えば今やってる事だって、並の魔法使い、いいえ、かなり優秀な魔法使いでも、今ステイシーちゃんがやっていることは真似出来ないと思います」


「ステイシーのやつ、そんなにすごいことしてたのか。確かに料理は上手だと思うけど」


「いえ、料理ではありませんよ。


もちろんステイシーちゃんの料理は昨晩いただいて美味しいことは知っていますが、そうではありません。


気が付きませんか? ステイシーちゃんが今いる調理場をよく見るとわかると思うんですが」


 そう言われてエドマンドは調理場の方をよく見てみるが、いたって普通の調理場と右へ左へと手際よく動き回るステイシーの姿があるだけだ。


「よくわからないんだが、普通の岩でできた調理場ーーー? 岩?」


「気がついたみたいですね」


「ああ、そういえばあの調理場は全部岩製だな」


 ダンジョンでステイシーが調理している様子を見慣れいたエドマンドは、よく磨かれた岩出で来ているとはいえ、全部が岩でできた調理場があることの違和感に気がついていなかった。


「そうです、あの調理場は床から調理台などに至るまですべて上質な岩、おそらくは大理石でできています。


対してこの宿は完全な木造。普通に考えればあれだけの量の岩の重さには耐えきれません」


「確かに」


 この宿のお世辞にも頑丈そうとは言えない柱や梁を思い出し、ようやく今目の前にある光景の不可解さを認識する。


「ですから、おそらくステイシーちゃんは魔法空間収納(マジックチェスト)の入り口を閉じていないのでしょう。床と壁に沿って魔法空間収納(マジックチェスト)の入り口を開けることで、部屋の隅にあの調理場を存在させているのではないかと」


「へえ。それってすごいのか?」


 正直そのすごさがエドマンドにはよくわからなかった。


「とてつもなく。特にすごいのは、魔法空間収納(マジックチェスト)の入り口を維持しながら、普通に料理をしていることですね」


「料理してるだけなのに?」


 エドマンドから見れば、ただ楽しそうに料理しているようにしか見えない。


「そうですね、では実演したほうがいいかもしれませんね」


 そう言ってカリサは、ポケットから紙に包まれた飴玉を取り出す。


「これは昨日ステイシーちゃんからもらった飴玉です。これを今からエドくんの手の上に落としますね」


「え? あ、ああ、わかった」


 唐突に始まったカリサによる魔法の実演に、エドマンドは面を食らってしまったが、どうにか手のひらを上にして待機することに成功する。


「いきますよ? 我が魔力よ、空間を開き彼我をつなげよ、空間筒(ワームホール)


 呪文を唱えた後、カリサが下に落とした飴玉は、空中でその姿を消し、エドマンドの手の少し上に忽然と現れる。


「おお、すごいな!」


「はあ、はあ、はあ……そう、ですか?」


 なぜだかわからないが、カリサの息はすっかり上がってしまっていた。


「いや、本当にすごかった。だけど、どうしてそんなに息が上がってるんだ?」


 カリサは時間をかけてゆっくりと息を整える。


「それはさっきの魔法、空間筒(ワームホール)を使ったからです」


「その空間筒(ワームホール)っていう魔法は、どんな魔法なんだ」


「空間系、と呼ばれる魔力の属性を問わず使用できる特殊な魔法の内の一つで、レベル三に分類される魔法ですね。


この空間系の魔法は、習得の難易度、消費魔力ともにトップクラスなので、私ではレベル三の空間筒(ワームホール)を一回使っただけでかなりのスタミナを魔力とともに失ってしまう、というわけです」


「それで、魔法空間収納(マジックチェスト)は、空間系の魔法ってことか」


「そういうことです。魔法空間収納(マジックチェスト)は空間系の魔法でレベル五属する魔法です。


通常なら一度使用しただけで、へろへろになってしまうんですが」


 ステイシーが以前、魔法空間収納(マジックチェスト)は理論上誰にでも使えるけど、使える人はほとんどいない、と言っていたのはこういう事情があったからなのだろう。


「ステイシーは何の気なしにバンバン使ってるが」


「だからすごいんですよ。それに空間系の魔法は総じて、発動している間中集中し続ける必要があります。


今ステイシーちゃんがやっているように料理の片手間に維持できるものじゃないはずなんです」


「なるほどなあ」


 エドマンドとカリサがそんなことを話している間に、朝食を完成させたステイシーが、料理を持って二人の座っているテーブルにやってきた。


「おまたせ~。今朝の料理はバケットサンドとポタージュスープだよ〜」


 ステイシーは手際よく自分とエドマンドたち二人の前に料理を並べると、自分も席につく。


 ちなみに、今目の前にあるバケットサンドが、エドマンドの知っている、すなわち現代日本のそれと全く同じかどうかは定かではない。


 初めから言葉は通じたため、おそらく概念的に一番近い日本語に変換されているのだろう、とエドマンドは考えているが、食材が微妙に違ったところで味に大した違いが無いようなので大して気にしていなかった。


「それじゃあ、」


「「「いただきます」」」


 三人は手を合わせ、同時にいただきますと挨拶した。


「うん、美味しいな」


 一口頬張ると間の厚切りベーコンから溢れる肉汁とトマトの果汁が口の中で混ざりあい、ジューシーでとても美味しかった。


「美味しいです。ステイシーちゃんは本当に料理が上手なんですね」


「えへへ〜、そうでしょうそうでしょう」


 エドマンドとカリサに自分の料理を褒められ、ステイシーご満悦な様子だ。


「そういえば、私が料理してる間二人で何か話してたみたいだけど、何の話してたの? なんかこの辺に空間系の魔法を使った形跡があるけど」


「よくわかりましたね、これでも私、結構魔法には自信があったんですが……。そんなにわかりやすく魔法の跡残ってますか?」


「いやいや、普通の魔法使いならわからないレベルだと思うよ。でもこれじゃあ私の目は誤魔化せないかな。


どれだけ魔法が上手でも、私は魔法が使われればわかっちゃうからね。


もし私に気づかれないようにしたいなら、魔法を使った後に隠蔽しないと」


「はあ、本当にすごいですね。なんというか、次元が違います」


「そんなことないって〜、多分これくらいのことならカリサちゃんもそのうちできるようになるよ。それで、空間筒(ワームホール)なんて使って何の話ししてたの?」


「魔法名までわかるんですね……。大した話じゃないですよ、ステイシーちゃんがどのくらいすごいのか、ということをエドくんに説明していたんです」


「なにそれなにそれっ、すっごく気になる話だね。具体的に聞かせてよ」


「さっきステイシーちゃんがやってた魔法空間収納(マジックチェスト)の入り口を開きっぱなしにして料理する、というのがどれだけ難しいことか、ということを実際に私が同じ空間系の魔法を使うことで説明してあげました」


「ああ、あれね。まあ慣れれば大したことじゃないんだけど、もしかしてカリサちゃんから見てもすごいことなのかな?」


「当然です。あんなことできる人ステイシーちゃん以外知りませんよ」


 そう言われステイシーは、褒められているのにも関わらず、複雑な表情になる。


「うーん、それが本当なら今後は少し気を付けないといけないかもね」


「何に気をつけるんだ?」


 専門的な魔法の話についていけずにいたエドマンドが、理解できる話題になったことに気がついて会話に入ってきた。


「何に、ってわけでもないんだけど、あまり目立ちたくはないからね。


魔法が使える人がいる前では、魔法空間収納(マジックチェスト)はあんまり使わないようするよ。


カリサちゃんも私の魔法のことはできるだけ秘密にしといてもらえるかな?」


「わかりました。何故目立ちたくないのかはわかりませんが、ステイシーちゃんがそう言うならできるけ黙っていることをお約束します」


 ステイシーの素性を知らないカリサは少し疑問なようだったが、とりあえずは素直に従ってくれるようだ。


「うん、よろしくね。もちろんエドもだよ?」

「ああ、わかった」


 ステイシーが魔王の配下である、ということを知っているエドマンドは、初めからステイシーのことを言いふらす気は無かったし、そのことをステイシーも知っているだろうが、カリサに疑われても困るので余計な事は言わず了解しておく。


「二人ともありがとね。それじゃあ朝ごはんも食べ終わったことだし、出発しようか」


「そうだな。ごちそうさま、ステイシー。美味かった」


「わかりました、私も出発の準備をします。とはいえ私はなんの荷物もないんですが……それと、ステイシーちゃん、ごちそうさまでした」


「はい、二人ともお粗末様。片付けは私がやっておくから、二人は準備ができたら宿の前で待っててね」


「了解」


「了解です」


 この後、エドマンドの前だというのに隠しもせずに着替えだしたカリサのせいで、エドマンドは急いで支度をして部屋を出る羽目になったのだった。



 宿の主人との話を終えたステイシーは、二人のもとにやって来る。


「二人とも、準備は大丈夫?」


「ああ、問題ない」


 基礎術式剣(エレメンタル)(クインテット)を帯剣しているだけだが、現状でできる完全装備を整えたエドマンドは、力強く答える。


「私も大丈夫です」


 そう答えたカリサは、昨日着ていた白のワンピースの上から黒いローブを羽織り、そのローブのフードとかぶる、という出で立ちだ。


「ステイシー、さっきから気になってたんだが、カリサのそのローブはなんなんだ?」


 下に着ているワンピースだけでも、別におかしなところなどなかったのに、何故わざわざローブで隠したりするのだろう。


「ああ、このローブね。これには認識を変化させる効果があるんだよ。


カリサちゃんの顔を見てみるとわかると思うよ」


 言われるままにカリサの顔をのぞき込んだエドマンドは、どこかに違和感を感じる。


「うーん? 何か変な気はするんだが、どこだ?」


 いろいろの角度を変えて見てみるが、どこがおかしいのかがわからない。


「しょうがないなあ、カリサちゃんフードを脱いであげて」


 カリサがフードを脱ぐと、エドマンドはようやく違和感の正体に気がついた。


「耳か」


 そう、カリサにエルフの血が流れていることの証明とも言える尖った耳が、普通の耳になっていたのである。


「せいかーい。これなら普通の女の子にしか見えないでしょう?」


「確かに耳が普通なら、あとは人間と大して違わないからな」


「そういうこと。エルフとかハーフエルフとかの亜人種を差別する人はそこまで多いわけじゃないけど、いないわけでもないからね。


カリサちゃんが人間として認識された方が何かと便利なんだよ」


「やっぱりそういうのってあるのか? なんというか亜人種差別? 的なものは」


「あるある、普通にあるよ。まあ今言ったようにそういうことする人はそんなに多くないんだけどね、特にこの国ではほとんどいないよ」


「どうりで見たことないわけだ。でも何でこの国では少ないんだ?」


「この国はそもそも人間の国じゃないからね。


私たちがいた街は人間の領主が統治してるけど、全体としてはベルフェゴール魔王国、っていう魔王によって統治されてる国だから」


「てっきり、あの街だけで独立国家なんだと思ってたんだが違ったのか?」


「まあ、独立国家みたいなものではあるんだけど、あそこの領主は絶対に魔王討伐に加担しないことを条件に、あの街の自治権を魔王から与えられてるだけだから、正確には違うね」


「そもそも、今の魔王は人間の国家から攻められなければ人間の国を攻めることもないですから魔王国の中には結構な数の自治領があったはずですよ」


 そういうカリサの口調からは魔王への憎悪など微塵も感じられない。


「えぇ~」


 ステイシーが魔王の配下のくせにエドマンドを助けてくれたあたりから、どうにもここの魔王は魔王感がないな、と若干思っていたのだが、流石にここまでではないと思っていたエドマンドは脱力してしまったのだった。

読んでいただきありがとうございます。


この世界の魔王の認識について初めて話題になりましたね。


第0節とのつながりは察して下さい、ということで……。


その関連でですが、どこまで明記するかって難しいですね。


全部書いてしまえば、読者の皆様に誤解なく伝わるのでしょうが、それではくどすぎる文章になってしまいますが、あんまり省きすぎると意味不明な文章になってしまいますし。


難しいですね。


明日も読んで頂けると嬉しいです。


それでは。



追記(2019年4月18日18時21分)


ツイッター等で読みにくい、というご指摘をいただきましたので、一行おきに変更しました。


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