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白き聖女の下剋上  作者: 上村 俊貴
白雪姫(この章からが本編です)
13/49

第3節「エルフの森へ(6)」

追記(2019年4月18日11時30分)


ツイッター等で読みにくい、というご指摘をいただきましたので、一行おきに変更しました。


内容は変えておりません。

 一人の少女がいた。


(ああ、またこの夢だ)


 白銀の髪に青い瞳を持ったその少女は、類稀なる天才だった。


 齢五つにして、見よう見まねで麦わらを振り魔法を成功させると、その魔法は全く新しい魔法であったし、麦を病気知らずにしたし、収穫量も倍増させた。


 歳が十を数える頃には白属性魔法を極め、ありとあらゆる傷を癒やし、ありとあらゆる病をたちまちのうちに打ち払った。


(その少女は、私だ)


 その少女は両親の愛情を一身に受けて育ったが、十一歳のある日、とある事情から少女はその村を、すなわち両親のもとを離れなければならなくなる。


(行っちゃだめ!)


 幸か不幸か十一歳にしては聡明だった少女は、両親と離れ離れになる寂しさを押し殺し、両親のもとから去る決心をする。


 その時少女は、何年経っても自分が自分であると両親や幼い弟がわかるように、白属性魔法の最上級、レベル十に属する魔法「不老不死(エターナルライフ)」を開発し、自身に施した。


(そんなことしたって、意味ないのに……)


 場面は移り、少し様子の変わった村の風景が映し出される。


 変わった村を変わっていない少女は歩く。


 我が家があった場所には、見覚えのない家が立ち、見覚えのない男性が家庭を築いていた。


(この時の私は知らない。


あの男性があの幼かった弟だということを)


 少女は寂しげに微笑むと、そっと村を後にした。


 降りしきる雨の中、一人泣き続ける少女を慰める者はもういない。



(またあの夢、か)


 ベットの中、目を覚ましたステイシーはゆっくりと目を開く。


 どうやらまだ夜明け前らしい。


 目の前にはエドマンドの背中があり、後ろにはカリサが寝ている気配がある。


 ステイシーは二人を起こしてしまわないようにゆっくりとベットから立ち上がると、窓を開けてその縁に肘をついた。


(うん、夜風が気持ちいい)


 寝ている間に泣いてしまっていたのか、涙に濡れた目元を拭うと、ステイシーはゆっくりと空を見上げ、物思いに耽る。


(あの時行かなければ、なんて、考えてもしょうがないのになあ)


 先ほどまで見ていた夢は、遠い遠い昔のステイシーの記憶。


 実に三世紀前の出来事だ。


 エドマンドに伝えた二世紀生きているというには間違いではないが、正確には少なくとも二世紀生きている、というだけで、実のところステイシーの年齢は三百を超えている。


 ステイシーが開発し、それ以降誰一人として到達していない白属性魔法の極地、レベル十に属する唯一の白属性魔法「不老不死(エターナルライフ)」。


 この魔法は、一度発動すれば解くことはできない。


 結果としてステイシーは死なないどころか、死ねもしないのだ。


(使っちゃったものはしょうがないけど、後悔したことがないといえば嘘になるかな)


 精神と身体も成長を完全に止めることで、不老を実現するこの魔法は、些細なものから重大なものまで、様々な問題を引き起こした。


 些細なことで言えば、ステイシーはもう一生胸も身長も成長しない。


 対して重大なことで言えば、ステイシーの中の寂しさが消えないことだろう。


 十一歳で精神年齢が止まったステイシーは、今でも両親に甘えたいと思ってしまうなど、常に心の何処かではぬくもりを求めている。


 そこまで考えても、ステイシーは視線を室内へと、ベットで眠るエドマンドへと向けた。


(君が私の弟子になった時は、本当に嬉しかったなあ)


 ダンジョンの管理者となり、長い間一人の時間を過ごしていたステイシーにとって、エドマンドという弟子の誕生は、何よりも心待ちにしていたことだった。


 実のところ、ステイシーはエドマンドのことをただの弟子以上に大切に思っている。


 彼女の中では、エドマンドはもう家族同然なのだ。


 あって間もない者を家族同然に扱うことの異常さはわかっているつもりだが、そんなことがどうでも良くなるくらいには、ステイシーの孤独は深かった。


(君は私より強くなったら、君が私のお兄ちゃんになってくれると、嬉しいな)


 家族になる、ということと恋愛感情が繋がらないのは、十一歳の心を持つステイシーには仕方がないことなのかもしれない。


(今はまだ君は強くないし、私のことを完全には受け入れてくれていないみたいだけど、これくらいは許してくれるよね?)


 エドマンドがステイシーを避ける理由が、ステイシーを一応女性として扱っているためだということに全く気がついていないステイシーは、エドマンドに眠りが深くなる魔法をかけた後、その腕の間に潜り込む。


「頑張ってね、私の未来のお兄ちゃん」


 ステイシーはエドマンドにそう囁くと、再び眠りに落ちていったのだった。



(ん? 何だこれ?)


 顔をくすぐる柔らかな感触と、かすかな石鹸の香りで目を覚ましたエドマンドは、ゆっくりと目を開けると、状況が飲み込めずそのまま硬直した。


(どうしてステイシーがここで寝てるんだ?)


 昨夜寝る前のこと。


 前日同様一部屋しか取ることができなかったエドマンドたちは、再び一つのベットで寝ることになったわけだが、そこで昨日とは異なる問題が発生した。


 小柄なエドマンドとステイシーなら二人で寝ることができたこのベットも、流石に三人で寝られる面積はなかったのである。


 これ幸いと自分が床で寝ることを提案したエドマンドだったが、あえなくステイシーに却下され、最終的にステイシーが魔法空間収納(マジックチェスト)から出した小さなベットを壁と備え付けのベットの間に置くことで解決することになった。


 その後当然のように、出来上がった大きな一つのベットで寝る流れになったわけだが、エドマンドの最後の抵抗のかいあってステイシー提案のエドマンド真ん中案は回避し、エドマンドは一番端で寝たはずなのだ。


 しかし、今は目の前にステイシーが寝ており、後ろからはカリサの寝息が聞こえる。


 つまり、エドマンドが真ん中で寝ている、ということなのだろう。


 更に言えば、確かにステイシーは隣に寝ていたが、今のように横を向いて寝ていたエドマンドの片腕に頭を置き、腕の中にすっぽりと収まる形で寝た記憶はない。


(寝てる間に潜り込んだのか? それなら起きそうなもんだけどな)


 昨日はカリサの話を聞いただけでほとんどこの部屋から動いていないというのに、そんなに疲れていたのだろうか、と疑問に思うエドマンドは、ステイシーの魔法で眠らされていたことなど知る由もない。


 そんなことを考えていると、不意にステイシーが寝返りをうち、エドマンドと向かい合う形になる。


 エドマンドの目と鼻の先に、ステイシーの顔が迫り、寝起きのためか未だに少しぼんやりとした頭で、ステイシーの寝顔を眺める。


 よく整った目鼻立ちに、目を瞑っていてもよくわかる長いまつげ、うす桃色の小さな口も可愛らしい。


(近くで見ると、やっぱり可愛いな)


「それは、近くで見ないと可愛くない、ってことかな?」


「…………」


「どうしたの、エド?」


「おはよう、ステイシー。起きてたならそう言ってくれ」


「おはよう、エド? ごめんごめん、君がどんな反応をするか気になってね」


「だからって、頭の中まで除くことないだろ、ったく」


 エドマンドは今しがた自分が考えていた事を思い出し、顔を赤くする。


「ええ、別にいいじゃん? 減るもんじゃないし? それに私のこと可愛いと思ってくれて嬉しかったし?」


「俺の精神力が減るからできるだけ控えてくれると助かる」


「そうだなあ、どうしようかなあ?」


「いや、本当に勘弁してくれるとーーー」


「なーんてね。実はこの魔法「心理読解(リーディングハート)」は黒属性魔法な上に一回の持続時間が一分間しかないから、私でもそんなに長い間発動し続けるのは無理だから安心していいよ」


「全く、脅かさないでくれ」


「でも、そんなに嫌がるなんて、なにか私にかくしておきたいことでもあるのかなあ?」


 未だ密着したままのステイシーが、更に顔を近づけながらエドマンドに問いかける。


「……っ、そんなことをないけど」


 エドマンドはロリコンではない(と思う)が、流石にここまで密着されるとドキドキしてしまう。


「? どうしたの? なんか心臓バクバクしてるみたいだけど?」


 本気でわからない様子のステイシーは、心配そうにエドマンドを見つめる。


(まあ、男と一緒に寝ることに抵抗がない奴が、こんなことで恥ずかしがるはずもない、か)


 ステイシー=マレット、あらゆる成長が十一歳でストップしている彼女は、エドマンドの動悸の理由をまだ知らないのだった。



「んんん~、おはようございます。二人とも早いんですね、ってステイシーちゃん? どうしてエドくんに回復魔法をかけているんですか?」


 エドマンドが動悸の理由を説明しあぐねている間に、なにかの病気だと勘違いしたステイシーによって回復魔法をかけられている時、一人すやすやと眠り続けていたカリサが目を覚ました。


「それにしても、いい朝ですね」


 ベットから起き上がり一つ伸びをすると、その拍子に薄い寝間着にかろうじて隠されているカリサの大きな胸がぷるんと動く。


 なんだかバツが悪くて目をそらしたエドマンドだったが、それをカリサに気がつかれてしまう。


「どうしたんです、エドくん? 急に明後日の方向を向いたりして」


「いや、それは、なんというか、その、な?」


 もしかしてカリサも「そういうこと」がわからない娘なのだろうか?


「はい、その、なんですか?」


 椅子に座らされて回復魔法をかけられていたエドマンドの下にやってきたカリサは、前かがみになってエドマンドの顔を覗き込んできた。


 その仕草から、エドマンドの疑惑は確信へと変わった。おそらくカリサもエドマンドのことを、というより異性全般のことを意識していない。


「いや、えっと、なんでもない、本当なんでもないから、な」


 先ほどのステイシーよろしく顔を近づけてきたカリサに、エドマンドはなんとか平静を装って答えることに成功する。


「? そうですか?」


 納得はしていない様子だったが、とりあえず諦めてくれたようだ。


「はい、おしまい。どう? もうなんともない?」


「ああ、大丈夫だ」


 そもそも最初から何ともないのだが、面倒なのでステイシーの勘違いに話を合わせる。


「良かった良かった、それじゃあ朝ごはんを食べたら今日こそ出発しようか」


「そうだな、昨日は結局出発できなかったし」


「すみません、私のせいで……」


 エドマンドの言葉で非難されたと思ったのか、カリサは申し訳なさそう頭を下げた。


「いやいや、カリサちゃんは何も悪くないよ。ね、エド?」


「当然だ。カリサ、非難してるように聞こえたならすまなかった」


「そんな、謝らないでください。助けてもらったのは私の方なんですから」


 軽く頭を下げたエドマンドに、カリサは再び頭を下げ返す。


「まあ、私たち全く急いでないから、本当に気にしなくていいからね、カリサちゃん。


それで話を戻すけど、今日次の宿場町まで行こうと思うんだけど、どうかな?」


 ステイシーは昨夜出した小さめのベットを魔法空間収納(マジックチェスト)にしまうと、同じく魔法空間収納(マジックチェスト)からテーブルと椅子を取り出し、部屋の真ん中に置いた。


「とりあえず座って話そうか」


 ステイシーに促されるまま二人が席につくと、ステイシーは一枚の紙をテーブルの上に広げる。


「これは世界地図、ですか?」


 その紙は、ダンジョンでステイシーにこの世界のことをいろいろと教わった時に見た、この世界の世界地図だった。


「正解だよ、カリサちゃん。エドには前に見せたよね?」


「ああ、確かに見せてもらった」


「今いるのがここ、この線の上の点ね。ちなみにこの線が一昨日歩いて、今日歩いていく街道」


「ってことは、「エルフの森」まで後五分の四くらい残ってるってことか?」


「うーんと、うん、そうだね、だいたいそのくらいかな」


「私、こんなところまで連れてこられていたんですね。検問所を越えたのはわかっていたので、少なくとも隣国であることはわかっていたのですが」



「まあ、奴隷運搬用の馬車で運ばれてたんじゃわからないよね」


「そうですね、馬車には窓もなかったですし、扱いは人というより荷物でしたから」


「大変だったんだな」


「そうですね、でも、お二人が助けてくれましたおかげで、どうやら無事家にも帰れそうなので、そんなに気にしてないですけどね」


「ならいいけどさ」


 本人がこう言っているのだから、これ以上は気にしない方がいいのだろう。


 エドマンドは視線を地図へと戻した。


「いいかな? 見ての通り今日の行程には国境も無いし、これといった検問所も無い。だからそんな気負わなくて大丈夫だよ」


「了解だ」


「わかりました」


 エドマンドとカリサがそれぞれステイシーに了解したことを伝えると、ステイシーは満足そうに頷く。


「それじゃあ、朝ごはんにしようか」


 そう言ってステイシーは、いそいそと朝ごはんの支度を始めたのだった。

読んでいただきありがとうございます。


ステイシーの過去が少し明らかになりましたね。


まだステイシーにはいろいろあるんですが、それはまた次回以降に。


次回は、無事カリサを仲間に加えて出発します。


明日も読んで頂けると嬉しいです。


それでは。



追記(2019年4月18日11時30分)


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