第3節「エルフの森へ(5)」
追記(2019年4月18日11時15分)
ツイッター等で読みにくい、というご指摘をいただきましたので、一行おきに変更しました。
内容は変えておりません。
カリサ=レヤードと名乗った女性は、おどおどとした様子でステイシーの様子を伺っている。
「教えてくれてありがとう、カリサちゃん。確認だけど、君はハーフエルフってことでいいのかな?」
「はい、そうです、けど、どうしてわかったん、ですか?」
「そうだ、それは俺も気になったな。耳は尖ってるし、普通の人間じゃないってのはわかったけど、ハーフエルフなのかエルフなのかはわからなかったぞ?」
エドマンドに見えているステータスには、レベルと名前くらいしか表示されていない。
そのため、種族は見た目で判断するしかないのである。
「理由はいくつかあるけど、一つはこの胸だね」
ステイシーがカリサの胸を下から持ち上げると、その大きな胸がたぷたぷと揺れる。
(ナイスだステイシー)
エドマンドは、思わず心の中でサムズ・アップした。
「エルフっていう種族は、生命力が強くて長生きなんだけど、そのかわり繁殖能力が低いんだよ。
だから胸とかお尻とか、そういう性を象徴するような部分の発育は良くないのが普通なの。
有り体に言うと貧乳の方が普通、ってこと」
「なるほど、そう考えるとカリサの胸は不自然ってことか」
「そういうこと。
更に言えばカリサちゃんはお尻も結構肉付きがいい感じだし。
こういうグラマーな体型のエルフはほとんどいないと言っていいと思うよ。
そうだよね、カリサちゃん?」
未だステイシーに胸を揉まれていたカリサは、顔を真っ赤にしながらも質問に答える。
「あっ、ん、は、はい、そ、そう、で、すね、あっ」
「ステイシー、もうそろそろやめてあげた方がいいんじゃないか」
「おっと、そうだね。ごめんねカリサちゃん」
エドマンドに言われ、ようやくステイシーはカリサの胸から手を離した。
「それに、人間とのハーフであるハーフエルフは、逆に人間の特質を色濃く受け継いでグラマーな体型の持ち主が多いって言われてるから、ハーフエルフなんじゃないかな、と思ったんだよ」
「ほう、ハーフエルフってのはみんなカリサみたいな美女揃いなのか」
だとしたら、他のハーフエルフにもぜひあってみたいものである。
「エド〜? なんかいやらしいこと考えてない?」
まだ見ぬハーフエルフ美女に思いを馳せるエドマンドを、ステイシーはジト目で見てきた。
「いやいや、そんなわけないだろう?」
「ほんとに〜?」
慌てて取り繕ったエドマンドだったが、この様子では全く信用されていないのだろう。
どうにも、今といいカロリーナの時といい、ステイシーはエドマンドが胸の大きな女性に目を奪われることが嫌いなようだ。
「まあ今はとりあえず信じてあげる。
それ以外にも、この黒髪と黒い瞳も純血のエルフには珍しいね」
ステイシーが腰にかかるほどに伸ばされたカリサの黒髪をすくうと、カリサの髪がきらきらと朝日を受けて輝き、とても艷やかなことがよくわかる。
「純血のエルフってのはどんな髪色が多いんだ?」
「金色が一番多いかな? そうだよねカリサちゃん?」
「そう、ですね。そうだと、思います」
「もーう、そんなに怯えなくてもいいのにー」
(いや、その状態で怯えるなって言ってもなあ……)
少し頬を膨らませて拗ねたように言うステイシーは可愛らしいのだが、カリサが怯えている理由に全く気がついていないようなので、エドマンド教えてあげることにした。
「ステイシー、一ついいか?」
「うん、どうしたの?」
「自分の右手を見てみてくれるか?」
「え? いいけど……あっ!」
ステイシーは自分の右手に鎖が握られていることを思い出し、エドマンドが言いたいことを理解した。
「気がついたか?」
「うん、ありがとう、エド。そりゃあいつまでたっても怯えられちゃうよね」
ステイシーはまず鎖から手を離すと、いつものように虚空に、ではなく魔法空間収納に手を入れ、ワンドを取り出した。
鎖から手を離したにもかかわらず、全く逃げようとしないカリサの様子から判断するに、少なくとも二人のことを今すぐ逃げ出す程に恐れている、というわけではないらしい。
「ごめんね、カリサちゃん。拘束具を外してあげるのが先だったね」
ステイシーはワンドを一振りし、首を傾げる。
「あれ? 魔法が無力化されちゃった。なんでだろう?」
「これ、には、レベル五、以下、の魔法、を、無力化、する、術式が、組み、込まれてる、って、言われま、した」
何度もワンドを振っては首を傾げる、を繰り返しているステイシーに、カリサが相変わらず怯えた様子ながら、自分の拘束具に触れながら説明した。
「なるほどね〜。じゃあこれならどうかな? 全魔法消去・六」
珍しくステイシーが呪文を唱えて魔法を発動させると、カリサの拘束具が一瞬光を帯びた。
「たぶんこれで魔法を無力化する魔法を消せたと思うんだけど、それっ」
ステイシーがワンドを振ると、拘束具にヒビが入り、大きな音とともに崩れ落ちた。
「成功だね。カリサちゃんどこか痛いところとかない?」
「はい、大丈夫、みたいです。あの、ありがとう、ございます」
その後、カリサはしばらくの間自分の手足を確認するように動かしていた。
「どういたしまして。それでエド、これからどうするの?」
「どうする、って出発するんじゃなかったのか?」
「あーうん、それはそうなんだけど、カリサちゃんはどうするの?
さっきの人も気絶してるだけだし、身寄りも無いみたいだし、おいていくわけにはいかないと思うんだけど」
「ああ、そのことか。カリサはどうしたい?」
話を振られたカリサは、少し考えた後、ゆっくりと話し始めた。
「私は、家に帰りたい、です」
「カリサの家はどこなんだ?」
「アルヴァンメンシュの「エルフの森」、です」
「なんだ、じゃあ俺たちと同じ行き先だな」
「そうなん、ですか?」
驚いた様子で、カリサはステイシーに問いかける。
「そうだよ。じゃあ一緒に行こうか」
ステイシーは頷くと、カリサに優しく微笑みかけた。
「はいっ、お願い、します」
その時カリサは、初めて笑顔を見せたのだった。
*
時は経ち、太陽が最も高くなった頃。
エドマンドは、昨日宿泊した宿の一室にいた。
(二人とも遅いな)
窓から外を眺め、射し込む陽光に目を細めながら、エドマンドはのどかな一時を過ごしていた。
(平和なもんだ)
魔王が君臨し、世界に四つのダンジョンが存在するとはいえ、そのダンジョンから少し離れれば、魔獣による被害も殆ど無く、いたって平和なものである。
その証拠に、エドマンドが眺めている宿の目の前の広場では、子どもたちが布を丸めたボールでサッカーのような遊びをしていた。
あの手の遊びは、どこの世界でも生まれるものなんだなあ、などと言うこと考えながら、エドマンドが出発もせずに宿の一室でぼーっとしているのには、もちろん訳がある。
*
時はさかのぼり、カリサを連れて行くことを決めた後の事。
「じゃあ出発、と行きたいところだけど、このままじゃあんまりにもカリサちゃんが可愛そうだから、とりあえず宿に戻るよ、それじゃ!
ああ、そうそう、エドは宿の部屋で待っててねー」
と言い残しステイシーがカリサを連れて消えてしまったのである。
かくして置き去りにされたエドマンドは、仕方なく宿の主人に事情を話し、昨日泊まったのと同じ部屋で待機している、というわけだ。
結局その後も、何をするでもなくぼーっとしていたエドマンドは、誰かが階段をあがる音を聞き、ようやく帰ってきたか、と立ち上ると、勢いよく扉が開かれる。
「たっだいまー。どうどう、カリサちゃん可愛くなったでしょう?」
ステイシーが自身の後ろに隠れていたカリサを、半ば無理やりな様子で前へ引っ張り出す。
そうしてエドマンドの前に現れたカリサは、先ほどとは見違えるようだった。
全身についていた泥などの汚れは洗い流され、ホコリを被り傷んでいた髪は綺麗に整えられていただけでなく、この短時間でどうやったのかはわからないが、先ほどとは比べ物にならない程に艷やかだった。
手足と首にあった拘束具による痣はステイシーの回復魔法によって治療され、全くわからなくなっている。
更に、先ほどの服かどうかも怪しかったボロ布から、純白のワンピースに着替えたカリサは、それこそ深窓の令嬢という言葉がふさわしい可憐さを持っていた。
「綺麗だ」
美少女と言って差し支えないステイシーと比べても遜色ない程に整った顔立ちをしているカリサが、今のように着飾っていると本当に美しく、綺麗だ、という感想は自然に出たものだ。
「そうでしょう、そうでしょう。やっぱり私の見立てに間違いはなかったね」
「……っっ。あ、ありがと、ごさいま、す」
自分が褒められたわけではないのに、自慢げに胸を張るステイシーと、顔を真っ赤にしてうつむいてしまったカリサとの対照的な反応は見ていて面白い。
「これ全部ステイシーがやったのか?」
「そうだよ、もうそれはそれは大変だったんだから」
どうやらエドマンドがのどかな時間を過ごしている間、ステイシーはカリサのためにいろいろなことをしていたらしい。
「まずカリサちゃんとお風呂屋さんに行って、その後回復系の魔法をいくつかかけてあげて、服を買いに行って、髪を整えてあげて、ってな感じで、もう大変だったんだから」
確かに、カリサと会ったのが今朝で、今が昼から夕方に移ろうとする頃合いであることを考えると、ステイシーは一日中動き回っていた事になる。
「お疲れさん、カリサもな」
「ありがとうございます、エドマンドさん」
「さん付けはいいよ、エドマンドでもエドでも好きに呼んでくれ」
どう見ても年上にしか見えないカリサにさん付けで呼ばれると、どうにも落ち着かない。
「わかりました、エド、くん?」
「うん、そんな感じで頼む。そういえばステイシー、今日はもうここに泊まる感じなのか?」
「そうだね、まだそこまで遅い時間じゃないけど、流石に今から出発してたら次の宿場町まではたどりつけないだろうし。
だから今日はまだ時間の余裕があるけど、エドはなにかしたいこととかある?」
「そうだなあ、俺はカリサのことをもうちょっと聞いておきたいな。
現状ハーフエルフってことと、「エルフの森」出身ってことしかわかってないわけだし」
エドマンドの意見にステイシーも賛同する。
「確かにそれはそうだね。これからしばらく一緒に旅をするわけだし、どれくらい戦えるかとか、得意な魔法属性とかは聞いておいた方がよさそう」
「わかりました、私のわかる範囲でお話します」
一日中ステイシーと一緒にいたためか、すっかりステイシーへの警戒を解いたカリサは、しっかりとした口調で話し始める。
「これは知っていると思いますが念の為、私はカリサ=レヤード、といいます」
「うん、それは知ってる。そうだ、今何歳くらいなのかな?
ぱっと見だと二百歳くらいに見えるけど」
「いやいや、ステイシーじゃないんだから、そんな年取ってっるわけ、ぐはっ」
無言でエドマンドの腹部に拳を突き刺したステイシーが、エドマンドににっこりと微笑むが、その目は笑っていない。
「エ〜ド〜? ちょっと黙っててねえ?」
「あ、はい、すみません」
エドマンドは、ステイシーに対して年齢のことは禁句なのだ、と肝に銘じる。
「えーっと、エドくん? 女性に年齢のことを言うときはもっと気をつけたほうがいいと思いますよ?」
まさかカリサにも注意されるとは思ってもみなかったエドマンドは、しばらく黙っていることにした。
「それで、私の年齢ですが、実はまだ百三十五歳です」
「え、本当に?」
「はい本当です。その反応を見るに、ステイシーちゃんはエルフに詳しいようですね」
「まあね、私の知識が正しければ、カリサちゃんの見た目ならだいたい二百歳なはずなんだけど、どうかな?」
「正解です。私の今の外見なら、普通のエルフは二百歳でしょう。私はハーフエルフなので、成長が早いんです」
「なるほど、そういうものなんだね。ハーフエルフは絶対数が少ないから、流石にそこまでは知らなかったよ」
「それから、私は赤属性と緑属性の二属性保持者です」
「おお、それは相性がいい二つを持ってるんだねえ。それならーーー」
その後もしばらくの間、ステイシーとカリサは魔法の話で盛り上がっていた。
内容が全くわからず、エドマンドが完全に置いてけぼりになっていることに二人が気づいたのは、すっかり日が暮れた後だった。
読んでいただきありがとうございます。
新キャラ登場です。
カリサ=レヤードというハーフエルフの少女です。
この娘が今後どのように絡んでくるかは次回以降のお楽しみ、ということで。
明日も読んで頂けると嬉しいです。
それでは。
追記(2019年4月18日11時15分)
ツイッター等で読みにくい、というご指摘をいただきましたので、一行おきに変更しました。
内容は変えておりません。




