第3節「エルフの森へ(4)」
追記(2019年4月17日13時43分)
ツイッター等で読みにくい、というご指摘をいただきましたので、一行おきに変更しました。
内容は変えておりません。
「着いたー!」
「着いたね」
夕暮れ時、マジックアワーと呼ばれることもある薄明かりの頃にステイシーとエドマンドは一つ目の宿場町に到着した。
「良かったね、まだ空いてる部屋あるみたいだよ」
到着と同時にどこかへ姿を消していたステイシーは、宿を探しに行っていたらしい。
あれだけの距離を歩いて疲れ一つ見せないとは、華奢な少女然とした見た目に反して凄まじい体力である。
エドマンドが自分の認識より体力がなく、今現在疲れ切っていることからすると、この世界の体力はレベル依存なのかもしれない。それならステイシーの見た目と体力が一致しないのも納得である。
「助かった、この状態で野宿は辛い」
「えー、情けないなあ、エドは。そんなに疲れたの?」
「そりゃあれだけ歩けば疲れるだろ」
「そうかなあ? 今日くらいの距離なら普通の人でも歩くと思うよ?」
(電車も車も無い時代の人たちってのは凄いんだな……)
「とはいえ、見たところ疲れているのは本当みたいだし、宿についたらどうにかしてあげるよ」
「頼んだ」
「さあ、宿はこっちだよ」
ステイシーはくるりと踵を返すと、軽やかな調子で歩いき、一軒の宿屋の前で足を止めた。
「一人部屋が一部屋しか空いてなかったから私と相部屋だけど、大丈夫だよね?」
少しの間とはいえ、同じ家? というかダンジョン内の居住空間で共に生活していたのに、何を今さら、と思わなくもなかったが、素直に答えておくことにする。
「ああ、問題ない」
「りょーかーい。それじゃあ行こうか」
扉を開け中に入ったステイシーは、この宿の主人らしき人物と二三言葉を交わし、階段を上がっていく。
「ここか?」
ステイシーについてきたエドマンドは、ステイシーが立ち止まったのに合わせて立ち止まる。
「そうだね、どれどれ?」
先ほど宿の主人から受け取ったらしい鍵を差し込み鍵を開けると、ステイシーは部屋の中を物色し始めた。
「なかなかいい部屋じゃないか」
ステイシーの言っていた通り、一人部屋らしいその部屋は、ベットが一つしかないことを除けば、基本的に清潔感のある良い部屋と言えるだろう。
「じゃあ俺が下になにか敷いて寝て、ステイシーがベットで寝るって感じか」
いくらステイシーが超人じみている、というか魔人そのものだとしても、流石に男のエドマンドがベットに寝て、女の子のステイシーを床に寝かせる、というのは気が引ける。
「どうしてエドが床で寝るの? このベットなら二人で寝てもそこまで狭くないと思うけど?」
さもそうするのが当然であるかのように言うステイシー。
「いやいや、それは流石に、なんだ、色々とまずいだろう?」
「色々とまずいの? 何が?」
色々は色々なのだ。口に出して言うことが憚られるからぼかしたというのに、追及されてはたまったものではない。
「えっと、それはだな……」
案の定言葉に詰まったエドマンドは、ステイシーが自分をいじって遊んでいる可能性に思い至りステイシーの方を見るが、どうもエドマンドが言っていることが本気でわからないようだった。
「本当にどうしたの? もしかして、私と一緒に寝るのがそんなに嫌なの?」
エドマンドが同じベットで寝ることを拒否した理由を、自分と一緒に寝たくないのだと勘違いしたステイシーは、どこか寂しそうにこちらの様子を伺っている。
それにしても、本人は無自覚なのだろうが、誰かに聞かれでもしたら大きな誤解を生みかねない発言だ。
「そんな訳ないんだが……、ああ~、もうどうとでもなれ! わかった、ステイシー、俺もこのベットで寝るよ。それでいいだろ?」
あの様子だとステイシーがなにかしてくるということはないだろうし、自分が何もしなければ何も起きないはず、と結論づけたエドマンドは覚悟を決める。
「うん、もちろん」
ステイシーは、エドマンドの発言に少し寂しげになっていた表情をパッと明るくした。
かくして二人は一つのベットで寝ることになった。
*
「おーい、おーいってば! もう、いい加減起きなさーい」
体を持ち上げられ、そのまま再びベットに落とされた衝撃とともに、エドマンドは目を覚ました。
「いててて、ったくもうちょっと普通に起こせないのか」
「君が普通の方法で起きなかったのが悪いんでしょ? まあ私も、魔法で疲労回復してあげない方がよく寝れるかなあ、と思って昨日回復するのはやめたわけだから、責任の一端は私にあるとも言えるけど」
「そういえば宿についたらどうにかしてくれるって、いてて、何だこれ? 全身がめちゃくちゃ痛い」
先ほどステイシーによってベットに落とされた時に軽く打ったところだけでなく、エドマンドは全身に痛みを、特に脚を中心とした下半身に痛みを感じた。
「まあそうなるよね? 実を言うと、エドの体力じゃあの距離を歩くことは不可能だったんだよ、普通ならね」
「どういうことだ? ってて」
「説明したいところだけど、先に回復してあげた方が良さそうだね。全能力回復」
ステイシーはワンドも取り出さず、呪文も唱えず、ただ魔法の名前を何気なくつぶやいただけに見えたが、その何気ない動作に反してエドマンドの痛みはあっという間に無くなった。
「それでさっきの話の続きだけど、繰り返しになるけど、エドの体力じゃ昨日歩いた距離を歩くことはできない。でも、昨日は歩けたでしょう?」
「そうだな」
機能のことを思い出したエドマンドは、うんうんとうなずく。
「あれは、私がエドに強化魔法をかけてたからなんだよ」
「強化魔法?」
「そう、強化魔法。具体的には、基礎体力強化っていう強化魔法をかけてたんだけど、やっぱり気づいて無かったんだね」
「ああ、全く」
そもそもそんな素振りを全く見せていないのに気づけという方が無理な話である。
「だよね。まあ今回は私も気付かれないようにやったから、気が付くはずないんだけど」
「なんだよ、気付かせる気無かっーーー」
「この無能亜人種が!」
「ーーーったん、じゃ、ねーか? 何だ、今の?」
エドマンドの言葉を遮るように響いた怒声に、二人はあたりを見渡す。
「あっ! あれじゃないかな?」
ステイシーが指差す先では、一人の女性が大柄な男に引きずられていた。
「ステイシー、あれはなんだ?」
「奴隷、だろうね。あの女の人、鉄の首輪と腕輪と足輪に鎖がつながってるし、見たところにハーフエルフみたいだしね」
「奴隷って、そんなの街の中にはいなかったじゃないか」
エドマンドの知る限り、あの街で奴隷と思われる人を見たことはない。
「そうだね、確かにあの街は奴隷の数が多いほうじゃないし。エドが見たことなくても不思議じゃないかもね」
「それじゃあ、あの街にも奴隷が居たってことか?」
「居たよ。まあでもあそこまで酷い扱いはされてないと思うけど」
全身のいたるところに痣ができている奴隷の女性を見ながら、ステイシーはその主人らしき大柄な男性に非難の目を向ける。
「助けられないかな?」
「エドってかなりのお人好しだったんだね。うーん、そうだなあ、奴隷は基本的には所有物扱いだから、平和的にいくなら交渉して買い取ることになるし、手段を選ばないならあの人を倒して奪うことになるだろうね」
「お金は無いし、かと言ってあの人を倒すのもたぶん無理だろうしなあ」
奴隷の主人らしい男性は、ステータスを見たところレベル十のようだ。
ステイシーよりは断然弱いが、エドマンドが敵う相手ではない。
「しょうがない、とりあえず私が話だけ聞いてくるよ。私もあれは流石に、見ててちょっと気分悪いしね」
「いいのか?」
「言っておくけど、話を聞いてくるだけだからね? 私だって面倒事は避けたいしね」
「それだけでも十分助かる」
「それじゃあちょっと行ってくるね」
ステイシーはトコトコと、ステイシーの正体を知っているエドマンドから見ると、わざとらしく子供っぽく見えるようにして歩いていくと、今もまさに奴隷の女性に暴力を振るわんとしている奴隷の主人らしき男性に話しかける。
「ねえーおじさーん、どうしてお姉さんを殴ろうとしてるのー?」
「なんだお前? ガキは引っ込んでろ」
「ねえーねえー、なんで、お姉さんを殴ろうとしてるのー?」
ステイシーを完全にそこらの少女だと思い込んだ男性が、ステイシーを追い払おうとするが、ステイシーは構わず同じ質問を繰り返した。
おそらく今のように空気を読まずに追及できるように、ステイシーは努めて子供っぽく振る舞っているのだろう。
(けど、あのタイプの人にそんなことしたら)
「ああもう、うるせーガキだな!」
(ほら言わんこっちゃない。キレちゃったよ)
「ねえーねえー、なんで、お姉さんを殴ろうとしてるのー?」
(マジか、それでも続けるんすか、ステイシーさん……すごい度胸だな。ん? いや違うか、そもそもステイシーの方が強いんだった。ってことは)
「いい加減にしろよクソガキ! 近くに親もいないみたいだし、お前のことも攫ってやるよ!」
(あーあ、やっちゃったよ。あのオッサン終わったな)
そこからは一瞬だった。
非我の戦力差は歴然。
殴りかかった男性だったが、初撃を軽々とステイシーにいなされてしまう。
何かの間違いだとでも思ったのか、再び殴りかかった男性だったが、同じくステイシーに軽々といなされる。
そんなやり取りを数回繰り返した後、すっかり息が上がっているにもかかわらず、なおも殴りかかってきた男性に対し、いい加減に面倒くさくなった様子のステイシーがすばやく関節を決めると、地面にうつ伏せにした男性の上に乗り取り押さえた。
「ねえおじさん、そこのお姉さん私にちょうだい? ねえ、いいでしょう?」
「このガキ、一体何者だ!」
バキッ。
「があああ」
「質問に答えてほしいなー、おじさん?」
軽々と男性の腕の骨をへし折ったステイシーは、そんなことを微塵も感じさせない可憐そのものと言って差し支えない笑顔で、男性に話しかける。
「わかった、やる、こんな女お前にやるから、だからもう勘弁してくれ」
「そう、ありがと、おじさんっ」
バキッ、バキバキバキッ。
「があ、がっああっ、がががあああああああっっ」
男性の背から降りると同時に、両腕の肩から下のほぼ全ての骨を砕いたステイシーは、その痛みで泡を吹いて気絶している男性の放置して奴隷の女性を連れて帰ってきた。
「あ、あのー、ステイシー、さん?」
「うん? どうしたのエド? 急にさん付けなんてして」
「いやー、あの、ですね?」
「うん」
「なにしてんの?」
「ああ、なんかあの人が殴ってきたからさ? 最初は受け流してただけだったんだけど、しつこくてしつこくて。だからなんて言うか、正当防衛?」
「いやいやいや、明らかに過剰防衛ですよ?」
殴ってきたから取り押さえて腕の骨をへし折りました、などと主張して正当防衛が成立するはずがない。
まして相手の男性は無手なのだ、いくらステイシーも無手だったとはいえ、やはり取り押さえた上で腕の骨をへし折り失神させるのはやりすぎだろう。
「そうかなあ? まあでも気絶しちゃってから骨折っちゃったところは治しといたし、大丈夫じゃない?」
「ええっと、それなら、大丈夫、なの、か?」
確かにそれなら証拠は残らないが、そういう問題なのだろうか。
「大丈夫大丈夫、たぶん」
「たぶんてお前なあ……。ステイシーがやりすぎたせいで、助けてきたはずのそこの女の人もすっかり怯えてるじゃないか」
「え、まさかそんなわけ」
ビクッ。
「ほらー、しっかり怯えてるじゃないか」
ステイシーが振り返った途端、ステイシーが男性から奪った鎖に継がれた女性は、怯えたように後退りしようとして鎖に阻まれる。
「うわああー、本当だね、すっかり怯えちゃってる」
「自業自得だな」
「えっと、お姉さん? 私はステイシー=マレット。安心してって言っても急には無理かもしれないけど、私達はあなたに乱暴する気は無いし、あなたが自由を望むなら、今すぐにでもこの鎖も首輪も、腕輪と足輪も取ってあげる。だからとりあえずあなたの名前を教えてくれないかな?」
依然としてステイシーを恐れている様子の女性に、ステイシーは努めて優しく語りかける。
そのかいあってか、女性はひとまずステイシーに敵意が無いと判断したようで、少し黙ったあと、ゆっくりと話しだした。
「私は、カリサ=レヤード、といいます」
それが、カリサとエドマンドたちの出会いだった。
読んでいただきありがとうございます。
そういえば、昨日第十回だったんですね……。
自分で上げといて一日遅れで気がつくとは……。
それから、前回の後書きに書いた、
基礎術式剣・五
ですが、そもそも
基礎術式剣・五
になってるところがあったので、それも修正していたんですが、書き忘れてました。
正しくは
基礎術式剣・五
なので、今後はそちらに統一します。
それでは、明日も読んで頂けると嬉しいです。
追記(2019年4月17日13時43分)
ツイッター等で読みにくい、というご指摘をいただきましたので、一行おきに変更しました。
内容は変えておりません。




