表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白き聖女の下剋上  作者: 上村 俊貴
白雪姫(この章からが本編です)
10/49

第3節「エルフの森へ(3)」

追記(2019年4月17日13時26分)

ツイッター等で読みにくい、というご指摘をいただきましたので、一行おきに変更しました。

内容は変えておりません。

「ごめんごめん大丈夫?」


 ステイシーがワンドを振り、すばやくエドマンドの手を回復すると、エドマンドの手の痛みはたちまち消えていった。


「それじゃあ気を取り直して、もう一本の枝を持ってさっきみたいに前に突き出してくれるかな」


「了解」


 エドマンドが先程同様太めの枝を持ち前に突き出すと、再びステイシーが剣を振るう。


 スパッという音ともに、エドマンドが持っていた枝は真ん中あたりできれいに切断されていた。


「今度は随分きれいに斬れたな。もしかしてこれが、さっきの水の膜の力か?」


「そうだね。水に膜が張られることで、摩擦を軽減する効果と、刃こぼれしてるところを補う効果があるんだよ」


「それでこんなに変わるのか」


 エドマンドは切断されなかった一つ目の枝と、切断された二つ目の枝を見比べる。


「まあね、なにせ青属性魔法の中には水だけでものを切断できる魔法もあるくらいだし」


「これでも十分基礎的な魔法ってことか」


「そういうことだね」


 ステイシーが再びエドマンドから距離を取り剣を構えたので、エドマンドも先程の枝からステイシーに視線を移した。


「次は何属性を見せてくれるんだ?」


「次は緑属性かな。これはわかりやすいと思うよっ!」


 ステイシーは今までよりも速く剣を振るった。


「いや、ただ速く降ってるだけじゃないのか?」


「確かに見た目的にはそうかもね。でも、私がかけてる力はさっきまでと同じなんだよ?」


「つまりどういうことだ?」


 ステイシーはやれやれと首を振る。


「じゃあ復習だけど、緑属性魔法は主にどういう魔法だったっけ?」


「えーっと、風とか……あっ」


 エドマンドは緑属性が風を操ることを思い出した時点で、ある発想へと至った。


 それは、風を操る魔法と剣の組み合わせの定番の一つとも言えるもの。


「正解、だと思うけど、一応聞いておこうかな」


「風で剣を加速させてるんだな」


「そういうこと」


「じゃあ本当にステイシーは今まで通り剣を振ってるわけか」


「うん。緑属性の術式の効果で剣が速く動くようになってるだけだね。でも感覚的には、速く動かせるようになった、っていうよりかは、剣が軽くなった、って感じのほうが近いかな」


 ステイシーは左右にすばやく斬り返して見せる。


 どうやら緑属性魔法による補助は、てっきり直線的な動きのみを加速できると思っていたエドマンドに想像よりもよっぽど柔軟な動きができるようだ。


「これはかなり使いやすそうだな」


「確かに今まで一番わかりやすいかもね。それじゃあ店に戻ろうか」


「あと二つあるんじゃないのか?」


 まだ白属性と黒属性が残っているのに、店へと戻ろうとするステイシーを、エドマンドは呼び止める。


「それなんだけど、どうやっても実演できないんだよね」


 振り返ったステイシーは苦笑交じりに答えた。


「というと?」


「白属性は使用者の軽傷を治癒する効果だけど、私じゃ機能してるのかどうかわからないし、黒属性は斬られた相手の速度を落とす効果なんだけど、いくらすぐ治せるとはいえ天下の往来でエドを斬りつけるわけにもいかないし」


「なるほど、それは確かに実演できそうにないな」


「でしょ? だから赤青緑の三属性の効果を見て、での感想でいいんだけど、実際にこの剣の効果を見てみてエドはどう思った?」


「そうだなあ、使いこなせるかは別として、それなりに強い剣だとは思った」


「使いこなせるかはわからない、か。正直でよろしい。だけど、流石に君でもこれは使いこなせるようになると思うけどね」


「そうかな?」


「うん、それだけ簡単に扱えるようにしてあるシリーズだからね」


「わかった、ステイシーがそう言うならこの剣にするよ」


「いいと思うよ、って、そもそも私のおすすめなんだけど。じゃあ買ってきちゃうね」


「お願いします」


 こうしてエドマンドは、基礎術式剣・(エレメンタル・ファイブ)を買ってもらったのだった。



(朝か)


 窓から射し込む朝日で目を覚ましたエドマンドは、ベットから出て一つ伸びをし部屋を見回した。


(それにしても、この窓はどうなってるんだろうな?)


 窓に近づいたエドマンドは、しげしげとその縁や表面を観察する。


 外からこの部屋まで入ってきた時のことから考えて、ダンジョンに入ってからそれなりに進んだところにあると思われるのだが、窓の外の景色はダンジョンの外のそれである。


(開けることはできないみたいだし、窓というよりは外を映し出すディスプレイに近いものなのかもしれないな)


 ひとまず窓について考えることをやめたエドマンドは、家でいうところの居間にあたる部屋へ向かう。


 部屋に入ると、ちょうど出来上がった朝食の皿を持ったステイシーが、振り返ってエドマンドを見止めた。


「おはよう、エド。早いね」


「ああ、おはようステイシー。ってかそれを言うならステイシーのほうが早いだろ」


 朝食が完成しているということは、少なくとも調理時間分は早く起きているはずなのだ。


「私の早起きは日課みたいなものだし、大したことじゃないよ。さあ早く食べよう」


「そうだな、冷めても美味しいんだろうけど、出来たてが食べられなら出来たてを食べたほうがいい」


「その通り。それじゃあーーー」


 二人は揃って手を合わせた。


「「いただきます」」


「うん、美味い」


「えへへ、ありがと。やっぱり誰に食べてもらえるってのはいいものだね」


 エドマンドの素直な感想に、ステイシーははにかんで答える。


「俺の方こそ、寝床だけじゃなくて美味い飯まで食べさせてもらえて助かってるよ」


「そりゃあ私は君の師匠だからね。他にもどんどん頼ってくれていいんだよ?」


 こうして胸を張っていると、ステイシーもなかなかに頼もしいものだが、見た目のせいでどうしても可愛らしさが残ってしまっていた。


「できるだけステイシーに頼りきりにならないように頑張るけど、どうしてもの時は頼りにしてる」


「ふふっ、素直でよろしい。それじゃあ、朝ごはん食べ終わったら出発の準備だからね」


「了解、と言いたいところだけど、具体的には何を準備すればいいんだ?」


「うーん、そうだなあ。もしもの時に備えた野営道具一式とか非常食の類は私が持ってるから、エドの持ち物は自分の着替えと、昨日買ってあげた基礎術式剣(エレメンタル)(クインテット)ぐらいかな」


「ステイシーの荷物は、いつもの何もない空間に手を突っ込んでいろいろ取り出すあれで持っていくんだろう?」


「ああ、これのこと?」


 ステイシーは、いつものように虚空に手を突っ込むと、中から胡椒を取り出しスープにふりかけた。


「そうそう、それそれ」


「そうだね、私の荷物は基本的にこの魔法、魔法空間収納(マジックチェスト)で持ってくつもり」


「その魔法、魔法空間収納(マジックチェスト)って名前だったのか」


「そういえば説明してなかったね。この魔法は、自分の魔法空間につながる入り口を作って、そこからものを出し入れする、っていうものなの。だから、エドからは今まで私が何もない空間に手を突っ込んでるように見えてただろうけど、私から見ると魔法空間の中を見ながらものを取り出してたってこと」


「魔法空間って、誰でも扱えるものなのか?」


「一定以上の魔力を持つ魔法使いなら、理論上は練習次第で誰でも使えるはずだけど、並の努力じゃ無理だろうね。そもそも魔法空間そのものが、空間と空間の間に魔力を流し込んで制御する必要があるんだけど、この時点でかなり難しいから」


「俺には使えないってことか」


「今のままならそうだね。でも私が魔法を教えるんだからいつかはできるようになると思うけどね」


 ステイシーがそう言うならそうなのだろうと、素直に思えてしまうのだから不思議なものだ。


「ごちそうさまでした。さて、それじゃあ出発しようか」


 朝食を食べ終えたステイシーは、食器を片付けると、外に出る通路へと向かう。


 エドマンドも食器を片付けるとその後に続こうとするが、前日のことを思い出し慌てて手を合わせる。


「ごちそうさまでした」


「はい、お粗末さまでした。今度は忘れなかったね?」


 エドマンドが忘れずに挨拶したことに、ステイシーは満足げだ。


「流石にな」


 そんなやり取りをしながら、二人は賑々しく部屋を後にしたのだった。



「はい、確かに確認しました。どうぞお気をつけて」


 偽装した身分証明書を提示したステイシーに、街から外に出る門の検問所いた衛兵は快く通行を許可した。


「ありがとー」


 問題なく機能している偽装身分証明書を見たエドマンドは、安心して自分の偽装身分証明書を見せる。


「はい、確かに確認しました。どうぞお気をつけて」


「ありがとうございます」


(本当に何事もなく通れるんだな)


 ついつい、今しがた提示した偽装身分証明書をまじまじ見てしまう。


「おーい、エドー? 何やってるのー?」


 少し先に検問所を通過し、道を少し行ったところで待っていたステイシーが、立ち止まっているエドマンドを怪訝に思い呼びかける。


「悪い悪い、今行く」


「もう、あんなところに突っ立てたら危ないよ?」


「ごめんごめん」


「それで、何してたの? なにか見てたみたいだけど」


 駆け足で合流したエドマンドと並んで歩き始めながら、ステイシーはエドマンド聞いてきた。


「いや、大したことじゃないんだけど、これが本当に使えたからさ。大したもんだと思って」


「ああ、そういうことね」


 偽装身分証明書を見せながら言うエドマンドに、ステイシーは得心が行った様子でうなずく。


「そりゃあ使えるよ、だってあの偽装身分証明書職人、つまりカロリーナさんは本物も作ってる人だし」


「は?」


「だから、私達の偽装身分証明書を作ってくれたカロリーナさんは、貴族とか大商人しか持ってない本物の身分証明書も作ってる人なの」


「そんなことしてカロリーナさんは大丈夫なのか?」


 普通に考えれば、公的な身分証明書を発行している人物が、偽装身分証明書を発行していると知られてしまえば、間違いなく罰せられるだろう。


「実は、彼女が作る偽装身分証明書って衛兵たちも知ってるんだよ。さっきの衛兵も知ってて見逃してくれたの」


「どういうことだ?」


「簡単に言うと、偽装身分証明書だってわかるように出来てるんだよ。だから、衛兵が偽装身分証明書しか持っていない人には認めていないこと、例えば選挙に参加することとかはできないの」


 つまり、この偽装身分証明書は実質的に通行許可証ということなのだろう。


 しかし、なぜそのような面倒なことをしているのだろう?


 全住民分の身分証明書を発行し、通行許可や参政権の有無を表記した方が合理的ではないだろうか?


「なんでそんなめんどくさいことしてるんだ? って顔だね? まあわからないでもないけど、どうもお偉いさんたちにはいろいろあるらしいよ? それに例えば全住民分の身分証明書を発行しようにも、それを管理するだけの能力が領主側に無いって話もあるしね」


「それもそうなんだろうけど、どうせお偉いさんの事情ってのは、投票者が増えれば、自身の支持率を維持することが難しい、とかそんなところだろう?」


(それにしても、この世界は特権階級としての貴族がいるのに、制限選挙とはいえ選挙制度があるのか)


 貴族が政治に参加しているのかどうかなど、詳しいことはわからないが、この世界では今現在が民主化への過渡期、ということなのだろう。


「そうだね、ってよくわかったね? もしかして、エドって冒険者としての知識はからっきしなのに、意外と頭は回る方?」


「意外と、は余計だ」


「ごめんごめん。でも頭が回るのはいいことだよ? 結局どれだけ魔法の練習をしたって、適切な場面で使えないと効果が弱まっちゃうからね」


「そういうもんか?」


「そういうものだよ。あっ、ほらっ、一つ目の宿場町が見えてきたよ」


 ステイシーが指差す先には豆粒ほどの大きさで、かろうじて人工的な建物の存在を認めることができた。


「遠くない?」


「うーん、そうだねえ、まあこのペースだと、ちょうど日没頃に着けるかどうか、ってところかな」


 ステイシーは背伸びをし、目の上に手をかざして目を凝らしている。


「本気で言ってるのか?」


「もちろん、さあ、歩こう歩こう」


 一日目から歩き通しになるとは思っていなかったエドマンドは、深々と一つため息をついたのだった。

読んでいただきありがとうございます。

ルビ機能の使い方を間違えてまして、

基礎術式剣・五のルビが

基礎術式剣・(エレメンタル・クインテット)

となっていました。正しくは

基礎術式剣(エレメンタル)(クインテット)

でした。

現在は修正されています。こちらの確認不足でした。今後気をつけたいと思います。

明日も読んで頂けると嬉しいです。

それでは。


追記(2019年4月17日13時26分)

ツイッター等で読みにくい、というご指摘をいただきましたので、一行おきに変更しました。

内容は変えておりません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ