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待って悪役令嬢! 俺、このゲーム知らない!!  作者: 逢月 悠希
4.俺、このゲーム嫌い 〜第3学年後編〜

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78/90

78.攻略対象たちの恋愛事情

 俺が開き直ってぶっちゃけトークをしていると、布擦れの音がした。

 アリオーソが布団に沈んでた。寒気がするのか、身体に布団を巻き付けてる。……やっぱりこれ、解散した方が良くないか?


 俺が解散の流れを作ろうと皆を見回すと、肝心の彼がケラケラ笑いながら口を開いた。


「ははっ、恋愛小説なら納得だ。俺の婚約者が永遠に決まらない理由が分かったな。俺は悪くないな」


 弱った状態で爆弾発言をするな。

 俺は色(・)々(・)と(・)知ってるんだぞ。


「言っとくけど俺は条件付きでオルフェウスの記憶が見えるんだからね? 社交の場に行かないどころか婚約者候補に塩対応しまくって、相手を泣かせて1週間で破談になるのを10回も繰り返したの知ってるんだからね? 

 そして「長男が結婚して子どももいるし、血筋も残せるし、もう良いや」って親御さんが諦めたの知ってるんだからね?」


「いや、本気で興味ねぇんだよ……別に女性そのものに苦手意識があるとかじゃねぇんだけど、純粋に興味がねぇんだよ。そして露骨に擦り寄ってくる奴は論外っていうか」


「露骨に擦り寄ってくる子が苦手なのは分からなくもないけどさ」


 アリオーソは侯爵家次男、しかも王太子付きの護衛騎士っていう肩書きだけで、もう果てしなく強い。

 そこに恵まれ過ぎた顔面と学園においてもかなりの優等生、王国騎士団基準でもエリートっていう補正もバッチバチに効いてる。


 なのに、婚約者がいないのはおかしい。

 引く手数多だろうに


 アリオーソは毒殺未遂事件をきっかけに病んでしまったから婚約破棄したんだと思ってたんだけど、そんなことはなかった。最初から婚約してなかった。

 だから俺は気になって、かなり早い段階でオルフェウスの記憶を覗いていた。

 ……その手の案件に興味が無いのは知ってたけど、思ってた以上に酷かった。


 特に『破談10回』がわざとなのかどうなのかは審議。

 この子は頭が良いし、わざとやってても驚かない。嫌すぎて上手く立ち回った可能性はある。

 

 ——でも、相手を泣かせるな。


 確かに乙女ゲーム的なメタ要素もあるんだろうけど、普(・)通(・)に(・)悪(・)く(・)は(・)あ(・)る(・)から指摘する。


 するとアリオーソは、俺の視線から逃げるようにラウダの顔を見た。


「俺は悪いかもしれねぇし、原作だとシベリウスは悲惨なことになるのは分かってるし、オルフェはヴィオレッタ嬢との関係性が終わり散らかしてるから、婚約者がいても恋愛小説が成立するってのは分かってる。

 さらに言えば原作のバセットは遊び人になっちまってるけど、本質的には女性が苦手なのは変わらねぇんだろうし、先生方は元から研究命でその手の案件に興味がねぇってのも透けてる……が、ラウダのその辺の事情って聞いたことねぇな」


 初手の「俺は悪いかもしれねぇし」が面白過ぎるんだけど、バセットとコラーレ兄弟に関してはアリオーソの指摘通りだと思う。そうなると、ラウダは浮き位置になっちゃうね。

 恋愛小説が成立するってことは、相手がいないのは確定なんだと思うけど。


「えっと、ね……トラウマってほどじゃないんだけどさ」


 ラウダは、淀んだ目を俺たちに向けた。


「学園入学前の話なんだけどさ。オレの能力を聞きつけたか(・)な(・)り(・)年(・)上(・)の(・)怪しいお姉さんに口説かれながら精神操作魔法ぶち当てられまくって、浮遊魔法で逃げ回る羽目になった話……聞く?」


「えっ」


「オレ、遡ったら貴族の血が入ってるのは確定だからね。変な意味で囲い込むつもりだったんじゃないかな。オレに精神操作魔法は入らないも同然だけど」


「……」


「あのお姉さんの思い出が強すぎるし、身近に歳が近い子もいなかったから、恋とか愛とか言われてもなーって感じ」


 ……これ以上掘り下げるのは、やめよう。


 要するに『変質者に追い回された嫌な思い出があるから、恋愛なんて考えたことない』だ。

 ラウダに関しては多分セレナが元々孤児ってだけじゃなくて自分より年下で、しかも純粋無垢な感じの女の子だから成立するんだろうな。


 明里さんも奏音ちゃんも何も言わなかったから、アリオーソの件といいラウダの件といい裏設定なんだろうけど、ちょっと反応に困るな……。


「あの、さ……」


 ラウダはちょっと口をモゴモゴさせた後、目を逸らした状態で口を開いた。


「バセットは一切問題ないんだけど……その、先生方がセレナに手を出すのってちょっと犯罪臭しない……? 19歳差だよね……? えっと、貴族基準だと大丈夫なのかもだけど……」


「……」


 それは、俺も、思う。

 しかも原作のコラーレ兄弟って、かなりア(・)レ(・)だからな……。


「私から補足入れとくね。……ラウダ。貴族基準でも19歳差は結構、アレ」


 基本的に『訳アリ』パターンっぽいからね。そこまで行っちゃうと。

 貴族基準でも平民基準でもコラーレ兄弟がセレナに手を出すのは、犯罪臭がヤバい。


 ていうか原作だと途中までは確定でセレナを共有する感じの流れになるし。

 その時点でヤバいを加速させる要素がマシマシというか。


 そこまで話が出て、アリオーソが結構しんどそうな声で問いかけてきた。


「……っ、なあ、そもそもなんだけどよ。小説で取り扱ってんのは、マジで恋(・)愛(・)なのか? 依(・)存(・)、の間違いじゃねぇのか? ……俺ら全員、健全に恋愛できる精神状態じゃねぇだろ……?」


 おいやめろ。

 そんな苦しげな声で根底を覆しに行くな。


 シベリウスとラウダは頷くな。

 そしてこっちを見るな! 俺は肯定することしかできないぞ!?


「俺も正直、思ったよ。何ならラウダと会うよりも早い段階で指摘したよ。この小説おかしくないかって」


「だよなぁ」


 今でも『おかしい』っていう感想は変わってない。攻略対象全病みの鬱ゲーはヤバすぎる。

 リュートも結局は変な方向に、何が思想的なヤツに関連するような形で病んでるようなもんだったし。……本当に攻略対象全病みだったわけだし。


「そうだ、明里さんと奏音ちゃんの名誉のために言っとくね。どちらも結果的に読む羽目になっただけで、読むことから逃げられなくなっちゃっただけで、変な趣味してるわけではないらしいから安心して欲しい。何なら最近は困り果ててるし」


 恋愛小説じゃなくて依存小説疑惑が出ちゃったから、全力でフォローを入れておく。


 あのふたりの性癖が歪んでる疑惑が出ちゃうからな。

 ぶっちゃけ俺はゲームを手に取ったのは実(・)質(・)事(・)故(・)って知った時にはだいぶ安心したしな。


「まあ……ベースが恋愛小説っぽい何かみたいな何かだし、このままオルフェウスとセレナと結ばれるような終わらせ方になるんだろうね。依存小説疑惑あるけど、一応そういう方向で落とすんだと思うよ。

 極力排除してくれてはいたけど、此処に関しては恋愛描写になるんじゃないかな。ヴィオレッタと婚約破棄して、セレナと婚約し直す感じになりそうだなって思ってる。泣きながら抱き着いたりとか、元からその手の描写も多いしね」


 しかも、今は完全にオルフェウスルート準拠で行ってるしな。

 もう断罪婚約破棄する方向性でやってるし、ここからオルフェウスとセレナは割とイチャイチャする感じになるんだと思う。

 それはそれで奏音ちゃんというかセレナの名誉が心配だけど、今さらというか……って考えてたら、シベリウスが軽く首を傾げた。


「そうかな? オルフェウスだけじゃないような気がするよ」


「あれ?」


「恋愛描写はバセットも、じゃないかな? バセットの当(・)て(・)馬(・)臭すごくない?」


「いや! そんな……いや、あれは、確かに当て馬だな……」


 嫌すぎるんだけど、なんかバセットはお手本レベルの当て馬やってる気がしてきた。

 ラウダはうんうんと頷く。


「むしろバセットは最(・)初(・)か(・)ら(・)そっちに振り切れてると思う。最初から当て馬臭がすごかった。オレが恋愛小説って言った根拠のひとつだし」


「どこか影のある遊び人属性に当て馬を兼任させるのやめてくれ」


 頼むから、頼むからそんな悲しい役回りにしないでくれ。

 観客席から沼落ちって名前の犠牲者が続出するぞ。

 バセットを拗らせてる子、結構多いんだぞ。


 シベリウスはラウダの顔をチラリと一瞥して、くすくす笑った。


「まだそこまで台本が進んでないけど、最終的にバセットは『幸せになってね、セレナちゃん』で身を引くよ。あの感じだと。依存小説的な意味だと私も当て馬役やらされそうな気はするけど、少なくともバセットは確定だよ」


「う……」


 そのシーンを見た瞬間に泣いてNG出す気しかしないから、もしそうなるならオルフェウスの出番を消し飛ばしてくれって依頼しとこう。


 俺は『ずっと助けてくれてた存在がヒロインの幸せを願って自ら身を引く系の当て馬属性』が苦手なんだ。絶対にバセットそれじゃないか。

 しかも裏で「僕が横にいられなくてもいい。幸せになってくれるなら、それでいい」とか言いながら、微笑みながら静かに涙を流すタイプの当て馬じゃないか。


 み、見たくないな……。

 見る羽目になるんだろうけどな……。


 ……よし、現実逃避をしよう。


「恋愛関連に関しては今後のことを考えると奏音ちゃん、というかセレナが変な誤解されないかは気になるんだけどね。あの子は子爵令嬢だし、オルフェウスとそういう仲なんだって誤解されないかなって」


 ベッドの方から、酷い喘鳴音が聞こえてきた。

 途中からずっと黙ってるなって思ってたけど、声も出せないくらいしんどかったんだな。

 そろそろ本格的に寝かせないと。いや、強制的にでも寝かせた方が良い。


 解散って言おうとしたら、生理的な涙で潤んだ鮮やかな黄緑が俺を映している。


「別に……っ、オルフェウス、がその役回り、担うなら……何も、問題ないだろ……現実だと、オルフェウスとヴィオレッタは、理想、の、カップル……だって、話題に、なってるしな……変な風に、は、受け取、ら……れ……っ」


「今にも死にそうな状態で何を言ってるんだ君は!?」


 しかも最後まで言い切ることさえできずに、荒れに荒れた呼吸で打ち消されるような状態になってしまった。

 ていうか、布団の上から見て分かるくらいガタガタ振るえてるな……これはちょっとマズいんじゃないか? 

 夜に申し訳ないけど最悪コラーレ兄弟呼んだ方が良いかもというか、親御さん1日早く来れないかな……もう連れ帰ってもらうレベルの状況だと思うんだよな……。


「アリオーソ、本当に、本当に寝ようね。今日は解散しようね」


 どちらにしたって、もう強制解散だ。

 これは強制解散させないと駄目だ。


 ちょっと気になる話題だったけど、それを聞こうものならアリオーソの最期の言葉が理想のカップルの話になりかねない。


「と、透……」


「寝なさい。もう何も聞きません」


 まだ何か言いたそうだったけど、絶対にろくなこと言わないし、そもそも重症化してるから本当に駄目だ。俺たちがいたら、この子は絶対に寝ないし。


「はい、おやすみ!」


 俺はシベリウスの背を押して、逃げるようにして部屋を後にした。

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