77.国が滅ぶ系の恋愛小説
「許可取ってきたから教えます。ヴィオレッタの中身は朝比奈明里さん、23歳。セレナの中身は月ヶ瀬奏音ちゃん、18歳だね。下の名前は明里と奏音だね」
——翌日。
言うまでもなく、緊急転生者会議が勃発した。
俺が初対面時点でオルフェウスじゃないと見抜かれていたことを聞いたふたりは笑いながら『自分たちの正体も明かしてきてくれ』と言い出した。
まあ、俺どころか「全員中身が違う」って見抜かれている時点で、それどころか自分たちがゲームの登場人物って理解されてる時点で、もう隠す意味がないもんな……。
ふたりの正体と年齢を教えてみた結果、どう足掻いても下がらない高熱に襲われて横になったままのアリオーソが絶望した。
「明里の方も若すぎて大概にキツいんだが、奏音の方はマジで俺らと同い年って考えて良いんだよな……?」
「うん……」
そうだね。
俺たちは全員、日本って国で死んだからこの世界に来てるわけだし、奏音ちゃんの死因に関しては君ら目線でも盛大に判明してるもんね。
「……」
これにはアリオーソどころか、シベリウスとラウダも黙り込んだ。
分かるよ、奏音ちゃんこそ45歳が入り込んでて欲しかったよね。
……死因的に、あの子だけは絶対にありえないんだけどさ。
ショックでアリオーソの熱がさらに上がらないか心配になったんだけど、約束は約束だ。
ほどほどで解散宣言をするつもりではあるけど、のんびり話してから帰ろう。
「俺が保護者目線になるの分かる? 君らは当然だけど、他の2人が若すぎるんだよ」
21歳と16歳で死んだ子たちだぞ。保護者したくもなるだろ。
するとラウダは眉をひそめて口を開いた。
「透の享年27歳も大概だと思うんだけど……」
「えっ」
「27歳で死んだ人感がないんだよね、あなたの振る舞いって。もっと悲壮感あっても良くない?」
27歳で死んだ人感っていうパワーワードが生まれちゃった。
この子たち、油断してたらすぐにパワーワード言う。
「そ、そうか……?」
「あなたは何でそんな達観してるのさ……」
俺がラウダを困惑させていると、シベリウスが割り込んできた。
「とりあえず、前世の話聞かせて? 本題みたいなものだし。アリオーソ的な意味で余裕があったら他の話もするってことで」
アリオーソ的な意味で。
うん、大事だと思う。昨日より症状が重そうというか、だいぶしんどそうだし。
「前世の話って言ってもな。……『営業』って言って、色んなところに行って、物を買ってもらう契約をしまくる仕事してたってことくらいしか」
俺の前世って割と普通なんだよな。
めちゃくちゃ話すことがあるかって言われたら、微妙というか。
……その『割と普通』が相当に恵まれてるってことは、もう十分に分かってるんだけど。
営業という言葉を聞いたシベリウスは、軽く首を傾げてみせる。
「なるほど? 口先勝負してたってこと?」
「言い方」
口先勝負とか言うな。
詐欺師みたいじゃないか。悲しくなるだろ。
「でも、まあ……あながち間違いではないかもね。とにかく商品を良いように語る必要があるわけだし。とにかく魅力的に説明するというか」
「透が『告発者庇護令』を一発で通した理由がよく分かった。得意だったんだね」
「そりゃどうも。営業成績は良かった方だしね」
告発者庇護令は正直、後世に語り継ぎたいレベルのファインプレーだったと思ってる。
……恥ずかしいから語り継がないけど。絶対に語り継がないけど。
そしてシベリウスはかなり気まずそうに、おずおずと口を開く。
「その、聞いて良いのか分からないけど、成績良かった人が何で死んじゃったの……?」
あー、そうだよな。
気になるよな。笑うなよ……?
「階段から落ちて頭部強打」
「えぇ……?」
やめてくれ。
俺も情けないとは思ってるんだよ。
「い、言い訳させて欲しい。両手が荷物で塞がれてて。足元は見えないし、荷物守らないといけないから……当然受け身も取れなくて。誰も巻き込まずに済んだのが不幸中の幸いというか」
「え……命の危機だよ? 荷物なんて放り捨てるべきだったんじゃないの?」
「いや、高価なものだから……壊すわけにはいかないというか……」
弁償事案になったらヤバいし。
アレがいくらすると思ってるんだ。投げれるわけないだろ。
「命より大事な荷物ってある……? そもそも足元見えない状態で階段上り下りって正気じゃなくない……?」
「? 普通じゃないか……?」
よくやってたし、歩道橋上り下り。
でも、関係ない通行人に多大な迷惑掛けてただろうなって、今さら思う。
アリオーソが布団の中でもぞもぞして、身体を起こした。
こら、寝てなさいって。
「透、当時の睡眠時間は?」
質問したかったのは分かったけど、寝てなさい。
……で、睡眠時間か。軽く数えてみるか。
「平均して3時間くらい? あ、でも通勤時間に寝てた分も入れれば、4時間くらいはあるかな」
この世界って割と日本式で助かる。
普通に24時間でカウントできるから、そのまま言えるしね。
「休日は?」
「月に1日あるか無いかくらい? 忙しいときは消し飛ぶけどね」
「なんだよその最悪の労働環境は!!」
「年中無休の24時間護衛少年が言うセリフじゃないかな!?」
確かにブラック気味の企業ではあったけど、君の労働環境と比べたら絶対にマシだ!
ブラックになってるのは大体全部俺のせいだけど!!
アリオーソは深々と息を吐き出す。
「睡眠不足と慢性疲労で階段から落ちた奴だろ……騎士団がそういうことやったら、大問題になるぞ……」
「労働基準法的な奴、騎士団にもあるんだ……」
あれ? そういえば、俺の元職場……大丈夫か?
俺、かなり目立つとこで死んだけど、会社が社会的に終わってないか?
真昼間の歩道橋は普通にヤバくないか? SNSで晒されてないか?
……よし、気づかなかったことにしよう。
「話題、終わりかな。俺は割と普通に生きて普通に死んでるから……そんなに話すことはないというか……よし、解散し——」
「お前が生きてた国のこと教えてくれよ。絶対にバルカローレとは違うだろ」
「えー……」
仕方がないから、適当に話すことにした。
主に、日本の制度とかその辺について。
小難しい話してたら、そのうちアリオーソが寝るかもしれないし。
そして、しばらく語ってみる。
「なるほどなぁ、随分と違う環境だったんだな……」
……寝てくれなかった。
「寝てよ」
「寝るかよ」
寝ないどころか、元気だ。
身体は絶望的に元気じゃなさそうだけど、頭の中がめちゃくちゃ元気だ。
「ま、環境は違って当然か。この世界は小説で描かれてる世界なわけだし。違う環境を描いた方がそりゃ楽しいよな」
「万物を受け入れる姿勢なの面白過ぎるからやめて欲しい」
俺は『あなたは小説の世界を生きています』って言われて秒で受け入れる自信ないけどな!?
主に俺のせいなんだろうけど、なんなんだこの子たちのメンタルつよつよっぷりは!!
ラウダは小説かぁ、と小さく呟いた。
「もしかしてこれ、恋愛小説? オレたちってひょっとして、セレナを取り合う恋のライバルだったりする?」
「原作読んだことあるの!?」
察しが良すぎる。どうしよう。
明里さんと奏音ちゃんにこの場にいて欲しい。
なんで俺だけが愉快すぎる攻略対象たちを抱えなきゃいけないんだ。
俺は原作知らないんだぞ!?
コラーレ兄弟とバセットに真実を告げるのは、バセットがもうちょっと落ち着いてからにしようって話にはなったけど、これは多分あの3人も最終的には「はいはい、なるほどね」ってなるのが目に見えてる。
そして俺の発言は実質ラウダの発言を肯定したようなものだ。
その結果、彼はとんでもなく怪訝そうな顔をしていた。
「なんで恋愛小説なのに国が滅ぶの……?」
それな。
「俺も恋愛小説なのに国が滅ぶ意味は分からない。未だによく分かってない」
「そ、そっか……って、もしかしてオレ、失恋のショックで国を滅ぼすの……?」
あ、それは分からないのか。
国を滅ぼすっていう最期は察せてても、明確な部分は分かってないって感じかな?
……分からないままで良いよ。分からないままでいて欲しい。
裏ルートのラウダバッドエンドって悲しすぎるからね。
「大丈夫。君はそういう恥ずかしい理由で国滅ぼしに行ってないし、何なら国滅ぼして当然レベルの目に遭うから何も気にしなくて良い」
「それはそれでどうなの!?」
君は悪ふざけで家族惨殺されるんだぞ!? 恋愛どころじゃない!
ていうか、よくよく考えたら裏ルートは割と全員恋愛してるどころじゃない! 乙女ゲームなのに!!
「そうなんだよ。恋愛小説なのに国はしれっと滅びそうになるし、君たちは悲惨な目に遭うんだよ。明里さんと奏音ちゃんが良い感じに弄ってくれてるけど、本当は『セレナ』と全力で恋愛するような話なんだと思うよ。国が滅びそうになってる横で」
「恋愛してるどころじゃなくない……?」
「俺も本気でそう思ってる。色恋沙汰に振り回される前に、早急に国をどうにかしろよって心の底から思う」
ゲームの登場人物にさえ疑問を持たれるの面白過ぎるんだけど。
申し訳ないけど、本当にアレなゲームだよな。鳥セレ。……色んな意味で。
ちなみに透の元職場は(社会的な意味で)よく燃えています。




