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待って悪役令嬢! 俺、このゲーム知らない!!  作者: 逢月 悠希
4.俺、このゲーム嫌い 〜第3学年後編〜

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72.どっかの誰かさん

 俺たちはひとまず、学園に戻ってきたバセットと合流した。

 そこでアリオーソの『冗談抜きで死ぬ』という発言に心当たりがあるか、と単刀直入に聞いてみたところ……。


「えっ!? 君、『コモモ』にアレルギーがあったの……?」


「アレルギー?」


「あ、そういう単語は存在しないのか……えーと……」


 ゲーム的には『バセットにコモモを渡すと嫌がられる』という話だったけど、実際のところはそんな可愛らしい話では無かった。……普通に、普通に絶望的な話が出てきた。


「とりあえずざっくりまとめたら、君がコモモに触れた場合、何かしら身体症状を起こすってこと、かな?」


「そうですね。ヴィルレーさんたちには結構重い部類だって言われました。申し訳ない話ですが、かなり気を遣ってもらってて……」


 バセットは、コモモを食べると呼吸困難や意識障害の類を起こすらしい。

 ごく少量だろうが火を通そうが何をしようが駄目で、果肉どころか果汁もアウトらしい。

 しかも果汁に触れると皮膚がかぶれるらしい——つまり、『皮の上から持つのがギリギリのライン』ということだ。


 そりゃ主人公からコモモ渡されたら嫌がるだろうね。

 ……いや、『嫌い』どころか『命の危機』レベルじゃないか! 


 主人公を傷つけたくないからだろうけど、コモモを渡されても怒り狂わない、事情も言わないゲームのバセットが紳士すぎる!!


「好き嫌いせずに食べてたら治るって言われたんですけど、好き嫌い以前に……その、なんというか。普通に怖いんですよね、情けないですけど」


 どうやら最低な奴らがいたみたいだな?

 本当に最低な奴らがいたみたいだな?

 これは紳士対応というか、純粋に分(・)か(・)っ(・)て(・)な(・)い(・)が正解と見たぞ。


「やめて、駄目。本当に駄目」


「それ、ヴィルレーさんたちにも言われました。まあ、食べずに済むなら食べたくないです……やっぱり、苦しいのは嫌なので……」


「お願いだから食べないで」


 これ、ヴィルレー家に引き取られるまでの事情も気になりすぎるけど、今はそれを聞いている場合ではないし、話させるべきではない。

 そしてバセットがこれなら、アリオーソの方も事情が見えるというか……。


「もしかして『スノウフィラ』にも、その手の案件があるのかな……?」


 俺の絶望交じりの呟きには、明里さんが答えてくれた。


「そういえば、贈り物としてスノウフィラが届くと、カデンツァ家ではすぐに処分しておりました。今にして思えば、お父様かお母様か弟が何らかの症状を起こすのかもしれません。わたくしは詳細を存じ上げなかったのですが……ただ、嫌いなのだと思っていたのですが……」


 それは、『公爵令嬢ヴィオレッタ』としての知識だ。

 多分、スノウフィラって贈り物として人気なんだろうな。本当に綺麗な花だったから、納得ではあるんだけど。……ただアレルギーっていう概念があるだけで。


「花ってことは花粉かな……嘘だろ。クレメンティ先生が派手に吸ってたみたいな話してたし、アリオーソはバセットを接触させるなとも言ってたし、床石動かしたらスノウフィラの花粉とコモモの果汁が飛び散る罠を仕掛けられてたとか言わないよな……?」


 そんなピンポイントでアリオーソとバセットがやられる罠仕掛けてくることあるかよ。

 これはリュートを含む革命第二派が最悪なのか? それともゲームの仕様の方か?


 ……原作大崩壊させてること考えたら、前者だろうな。

 リュートからすればアリオーソは元同僚みたいな存在だし、バセットは親を懐柔してたことを考えたら、ふたりが持ってるアレルギーの情報は普通に抜けるだろうしな。


「……」


 やることが、あまりにも姑息すぎる。

 オルフェウスには悪いけど、ゲームどころかリュートのことも本気で嫌いになる。


 諸々の事情を理解して、シベリウスは深々と息を吐いた。


「あー、もう……アリオーソに関してはお説教だね。兄さんもだけど、私も把握してなかった案件だよ。まあ、兄さん宛の花束持ち運んでた姿は何度も見たことあるし、その中にスノウフィラが混ざってた可能性は普通にある。だから、過剰摂取しなきゃ症状出ないのかもだけど……本人も油断してたんだろうけど……」


 即座に撤退許可を求めてきたってことは、アリオーソは自分がそういう体質ってこと自体は把握してたわけだもんな。

 ゲームのアリオーソがスノウフィラを嫌がる事情も、間違いなくそこにあるわけで。


 騎士ども。主人公に対して明後日の方向に突き抜けた紳士対応をするな。

 頼むから主人公にアレルギーの申告をしてくれ。

 頼むから明後日の方向に突き抜けた自己犠牲をするな。


 ……多分これ、ファンブックか何か見ないと載ってない情報だったんだろうな。

 事情を知らなかった奏音ちゃんは、かなり辛そうな顔をして口を開いた。


「アリオーソ様と一緒に行ってたのが先生方で、本当に良かったですね……先生方が処置してくれるなら、どうにかなりそうですし……明日戻ってくれるなら、事情も聞けそうですし……」


 何にせよ、彼らの帰還待ちになりそうだ。

 俺たちは解散して、状況説明を待つことになった。



 ◇



 翌日。

 アリオーソはちゃんと帰ってはきたんだけど、かなりの高熱を出してしまっているみたいで身動きが取れず、自室にこもることになってしまった。

 それでもお見舞いとかそういうのは後で、先に先生方経由で情報共有をして欲しいと言っているらしい。

 その要望に応えるような形で、俺たちは再び貴族用会議室に集まっていた。


 全員が集まったのを見計らって、ジェズアルド先生が口を開く。


「君たちは革命第二派の話よりも間違いなくアリオーソ君の話を聞きたいだろうから、そちらを優先するぞ」


 その判断はありがたい。

 絶対に心ここに在らず状態になるからな。

 ……俺だけじゃなくて、全員揃って。

 そういう性格してるのを分かってるからこその判断なんだろうけどな。


「彼はスノウフィラの花粉を受け付けない体質をしているそうなんだ。少量であれば、くしゃみをするくらいで済むようだが、過剰に吸い込んでしまったせいで呼吸困難を起こしたようだ」


 そういえば、コラーレ兄弟の実家は病院だったはずだ。

 施設が近くにあったからこそ、呼吸困難に対応しきれた、ということだろう。

 先生方がその場で学園に連れ帰らない判断をしたってことは、相当にヤバかったってことだよな。……結構、重篤な症状が出たんだろうし。


 奥歯を噛みしめている俺を見て、クレメンティ先生はゆるゆると首を横に振った。


「どうやら自己申告の類は一切していなかったようだし、学園への体質報告も無かったんだ。だが、普通に日常生活を送っていれば、間違いなく、そのような環境に置かれることは無い。

 だから、申告の必要は無いと思っていたそうだ。……本人もかなりショックを受けているようだから、あまり触れない方が良いとは思うぞ」


 俺の予想通りで、地下空間にはスノウフィラの花粉とコモモの果汁が飛び散るような罠が仕掛けられていたらしい。

 その罠をコラーレ兄弟ではなくアリオーソが引き当ててしまったのは『運が悪い』としか言いようが無いんだろうけど、あの子は捜索慣れしてるわけだからな。その辺知ってたら、メタ読みである程度は行けるよな。

 バセットもアリオーソほどじゃないだろうけど、騎士は騎士でも斥候型として育成されてるっぽいし、普通に狙い撃ちできると思う。腹立たしい話だけど……。


 俺たち全員の気持ちが落ち着くのを見計らって、クレメンティ先生は話を続ける。


「出てきた情報についてはこの場で共有しておくぞ。アリオーソ君は把握しているから、二度手間にはならない。そこについては安心してくれ」


 色々と思うところはあったけど、ひとまずコラーレ兄弟の説明を聞く。

 バセットが『リュートの目的は身分制度の廃止なんじゃないか』って言ってたけど、それに関してはもう確定だって話だ。

 彼らが持ち帰ってくれた情報がダミーって可能性も無くは無いけど、特殊な鍵と特殊な場所から出てきた案件だし、この世界はゲームの世界だ。

 ……だからこそ、ここは変に穿って見なくても大丈夫だと信じたい。


 地下空間からは、革命第二派に関与している貴族の名簿も出てきたみたいだ。

 残念ながら摘発済みの名前しか出てこなかったけど、逆を言えば全(・)員(・)摘(・)発(・)済(・)み(・)という証拠が得られたとも考えられる。

 それと合わせて、王都の地下に張り巡らされていた通路の情報もあったみたいだ。……これに関しても閉鎖済みだったから、情報としては微妙なんだけど。


 ただ、有力な情報も出てきてはいる。

 革命第二派の仲間入りしている平民の名前と、勧誘に失敗した者の名前だ。ラウダとコラーレ兄弟の名前が後者に含まれていたから、多分、間違いないと思う。


 あとは『都市ごと』勧誘しに行った場所の情報も出てきた。

 まあ、そっちは上手く行かなかったケースが多いみたいだけど。


 でもこれ、どう扱ったら良いんだろう。

 実質、出所がラウダとコラーレ兄弟ってこともあって、扱いにはかなり困るな。

 ゲームに直接関連してる人間以外は敵味方の判断が付きにくいし、参ったな……。


「その、おれが存在忘れてたっていう体で、鍵持ってたことにします? 場所も言い忘れてただけで、知ってたことにしても良いですよ? 追加証言みたいな感じで扱ってもらって」


「君はもう良い。君はもう背負わないで。お願い、やめて」


 しれっとバセットが犠牲になろうとしてきた。

 もう本当にやめて欲しい。次こそどうなるか分かんないから、本当にやめて。


 その流れを見ていたラウダが、軽く手を上げた。


「もうさ、オレが勧誘されてたって話を出すしかなくない? 怪しいカルト教団か何かの誘いかなって思って存在忘れてたけど、仲良ししてたバセットがそれ絡みの案件に巻き込まれたの見て、『これカルト教団じゃなくてヤバい案件じゃない?』って判断して申告してきた的な」


「わたしたちも勧誘されていた流れにしてもらって構わないぞ。事実だしな」


「そもそも、これを伏せるなら名簿を片方抜かないといけなくなるからな。伏せること自体が好ましくないと思う」


「んー……」


 俺からしてみれば、ラウダとコラーレ兄弟が『平民』ってのが引っかかるんだよなぁ……。

 変に疑い掛けられて、拘束される展開になったら嫌だしな……そもそも、バルカローレ王国がそ(・)う(・)い(・)う(・)国(・)だから革命の危機に陥ってるわけで……。


 そこで俺は思いついた。


「もうこの際だからリチェルカータ家を巻き込まない? あの家は身分ってものを気にしない傾向があるし、ラウダと先生方の名前が出てきてもフラットに判断してくれるだろうし。

 ただ、念のためアリオーソに聞いてみようかな、お父さんに『出所は聞かないで欲しい』っていう前置きが通用するかどうかを……」


 本当に申し訳なさすぎるんだけど、今回の最大の被害者ってアリオーソだしな。

 なんか見つけた怪しい地下室に侵入したら、派手に被弾した。

 捜査継続が厳しいから、代わりに調べ直して欲しいっていう説明が通用すると思うんだよな。


 ……あの子の親が『なんか』の部分の出所を、聞かないでくれれば。


 じゃないと情報の出所を伏せることはできても、代わりにあの子が『護衛対象の王太子から離れて好き放題に動き回ってる』って話になりかねないから。いくらなんでも、それはアリオーソが可哀想すぎる。


 するとシベリウスが手を上げた。


「アリオーソが出所を強制的に吐かされることになったら、私が学(・)園(・)脱(・)走(・)中(・)に(・)たまたま見つけたってことにしよう。それで、なんか不自然に使われた痕跡のある地下室を見つけたってことにしよう。

 鍵は地下室の扉に刺さってたことにして、興味本位で地下室に降りてみたら、地下室というより『地下通路』だった。かなり広いし、単独での探索継続は危ないと判断して帰ってきた……みたいな感じで」


「えっ」


「でも、明らかに怪しいから放置するのもよくないなってことで、探索に特化した能力持ちのアリオーソと土地勘が働く先生方を行かせたら、やっぱり色々あったってことで。……で、アリオーソは問題行動をした私を庇って、出所を言いたがらなかったってことにしよう」


「君はそれで良いの!?」


 ……それで良いってことになった。



 ◇



 情報共有が終わって、俺はアリオーソの部屋に向かった。

 あまり触れない方が良いとは言われたけど、純粋に心配だった。


 細かいことには触れずに、様子を見るだけ見て帰ろう。


 同室で生活中のラウダはともかく、シベリウスも一緒に行くみたいだ。

 さっきの件があるから、それでかな……?


 ノックをして、返事を待つ。

 起きてたみたいで、声はすぐに返ってきた。

 ただ、声を聞くだけで弱っているのは明らかだった。それでも俺やシベリウスが声掛けちゃうと無理して起き上がって扉を開けようとする未来しか見えないから、ラウダに先行してもらう。


 そしてラウダに招き入れてもらうような形で、俺たちは部屋に入った。


「! オルフェ……?」


「はい、そのまま。ベッドから出ない」


 俺たちの存在に気づいたアリオーソは身体を起こして立ち上がりかけたけど、それには待ったを掛ける。本当は横になったままでいて欲しかったけど、初手でそれは抵抗があるだろうから座った状態でいて貰おう。


「具合はどう? 元気じゃないのも大丈夫じゃないのも分かってるから、その手のは禁止ね」


 親友ではあるんだけど、この子の『王太子付きの従者』って立場はどう足掻いたって変わらない。

 ちゃんと症状を言えと念押ししたら、アリオーソはちょっと言葉を選びつつも話してくれた。


「……。今は熱が下がんねぇのと、若干息苦しいくらいだよ。そんなにヤバいことにはなってない」


 顔色が良いはずが無いし、呼吸も少し乱れている。脈も乱れているんじゃないかと思う。

 多分というか、間違いなく自己申告よりも辛い状況だと思う。


 それでもこの子は護衛任務を平然とやりそうだから、それに関してはストップを掛けようと思う。

 外に出ようとしたら、申し訳ないけどラウダに制止してもらおう。


 アリオーソは少し黙り込んでから、バツが悪そうな顔をして口を開く。


「申し訳ない……スノウフィラが駄目な体質なのは知ってたんだが、まさか、こんなことになるとは思ってなかったんだ」


 当たり前だ。

 彼もまさか地下に潜入してスノウフィラの花粉を大量に浴びる羽目になるとは思わなかったはずだ。


「君は悪くないよ。ごめん、苦しい思いさせて……何も知らなくて、ごめん」


 結果論だけど、バセットを行かせなかったのは正解だった。

 けれど、俺はこの子を苦手な環境に送り込んだ挙句、酷い目に遭わせたんだ。


 ……あれは実質、『命令』だ。

 行かせてくれとは言っていたけれど、この子の立場では拒否ができなかったのも事実だ。

 本当に、申し訳ないことをしてしまった。


 そしてアリオーソは、ぽつりと言葉をこぼした。


「……。『オルフェ』が知らないことを、『お前』が知ってるわけないだろ」


「え……?」


 ——この子は今、なんて言った?


 この静かな部屋で、彼の発言を聞き間違えたはずがない。

 アリオーソは鮮やかな黄緑色の瞳を揺らし、苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべてシベリウスを見る。


「……悪い、シベリウス。口が滑った」


 言うつもりはなかった、ということだろうか。

 シベリウスは、「困ったな」と言いたげに笑う。


「まあ、良いんじゃない? ……どっかでは、絶対に言わなきゃいけない話だったしさ」


 これは、シベリウスも理解していると判断して良い。

 何も言わないってことは、間違いなくラウダもそうだ。

 ラウダも『共有』されている。……もう、誤魔化せるはずがない。


 アリオーソは、深く息を吐き出す。


「……そうだな」


 彼の目が、『オルフェウス』の中にいる『俺』を射抜く。


「きっかけが俺のやらかしで申し訳ないんだけどよ」


「……っ」


 親友の身体に入り込んでしまっている俺に対する敵意は、残酷なほどに無い。

 アリオーソは困ったように、それでいて……どこか悲しげに、笑った。


「なあ、ど(・)っ(・)か(・)の(・)誰(・)か(・)さ(・)ん(・)。……そろそろ、腹割って話してくれねぇか?」

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