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待って悪役令嬢! 俺、このゲーム知らない!!  作者: 逢月 悠希
4.俺、このゲーム嫌い 〜第3学年後編〜

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70.苦手なものくらいあるよな

「オルフェウス君、ちょっと良いか?」


 背後から双子のどちらかに声を掛けられた。


「ラウダ君が持ってきた鍵で師の家の地下室が開いたのだが」


 おい、なんで勝手に行ってんだよ。

 危ないから誰かしら連れて行く流れになってたろ。


 中にはまだ入ってないんだろうな? 入ってない? 分かった、まだ良い。まだ良しとしよう。


「そうだな……アリオーソ、今日行ける?」


 俺は護衛都合で真横にいたアリオーソの顔を見た。

 元々知っていた剣の腕前的なものもそうだけど、最近判明した能力がとにかく強い。

 サポートに特化した少年をつけておけば、彼らも安全に帰ってこれるだろう。


「……っ」


 ……って思ったんだけど、アリオーソの顔色がちょっと悪い。


「え、大丈夫?」


 一体どうしたのかと聞こうと思ったんだけど、彼は「任せろ」と言って何故か俺の側を離れて行ってしまった。いや、マジでどうした!?


 追い掛けたけど、身体能力に差がありすぎて当然のように追いつけなかった。


 ——さて、これはどうしたものか。


 俺は明里さんと奏音ちゃんを呼んで、緊急転生者会議を開催することにした。



 ◇



「暗所恐怖症と閉所恐怖症疑惑、だと……?」


 そう言うと、明里さんは苦笑する。


「厳密に言うと苦(・)手(・)のレベルだとは思います。片方だけならともかく、合わさると駄目なんだと思います。それを明言する描写があるわけではないんですけどね。ゲーム内でのアリオーソは基本的に冷静沈着な振る舞いをするのですが、この条件に該当する場所に呼び出すと、あからさまに嫌そうな反応をするので……」


 ——俺は、絶望した。


 知らなかったとはいえ、18歳の少年に苦手なものを突き付けたらしい。

 どうにかこうにか撤回したいんだけど、多分「苦手だ」と言いたくないし、バレたくもないんだと思う。


 追い回しても捕まらないし、通信機能付き宝石で呼び出そうにも反応が無い。


「行く前に何とか阻止したいな……」


 これは他の子たちについても色々と聞いておいた方が良さそうだ。

 アリオーソにひたすら連絡を送りながら、俺は明里さんと奏音ちゃんに攻略対象たちの苦手な物について聞くことにした。口を開いたのは、奏音ちゃんの方だった。


「さっきから話題になっている通りで、アリオーソは閉所と暗所を合わせた場所に呼び出すと嫌がります。体育倉庫みたいなところに呼び出すと一言も喋らなくなります」


「うーん、露骨」


 なんで体育倉庫に呼び出す必要があるんだよって思ったけど、そこには触れないことにする。


「あと『スノウフィラ』って名前のちょっと珍しい白い花があるんですけど、これを渡すと、まあ……びっくりするくらい嫌われますね。オルフェウス以外は全員共通なのですが、初手は許してもらえます。知らないなら仕方がないなって感じで。その関係で2回目以降はえげつないです」


 そりゃそうだ。

 むしろ初手は許してくれる辺り、優しいと思う。

 鳥セレが唐突にプレイヤーに思いやりを見せてきた。怖い。

 オルフェウスが『例外』なのは気になるけど、多分、話の流れで出てくるだろうから聞かない。


 スノウフィラってなんだろなと思っていると、明里さんが「これです、これ」と温室内の花を指さしてくれた。

 スノウって付くから察してたけど真っ白で、ユリのような形状をした綺麗な花だ。綺麗な花だから、コンサバトリーに植えてあるんだろうな。


 ……なるほど、学園内で入手できてしまうタイプの花なのか。

 そして多分、逆にスノウフィラ渡すと喜ぶ攻略対象がいるんだろうな。


 奏音ちゃんは、そのまま話を続ける。


「シベリウスは中盤までは渡り廊下に呼び出すと嫌がります。終盤は本人が渡り廊下に現れるようになるので、場所のNGが無くなります。渡すと嫌がるものは無いです。例外的に、何をあげても喜ぶキャラです。ただし上昇値は小さいんですけど」


 終盤以降のシベリウスは苦手を克服しようと頑張ってるのかな。

 ゲームにおいてヤバいキャラクターなのは分かってるけど、その手の案件に関しては扱いやすい子みたいだ。


 ていうか、何を貰っても喜ぶのはちょっと闇を感じるな。

 奪われてばかりだったせいだろうな……。


「ラウダはとにかく髪に触れるとアウトです。バランスを取るためなのか、場所のNGはありません。エンカウント率が低いのと呼び出しに応じにくいだけで……そして渡すと駄目なのはマッチとかロウソクみたいな人為的に火を生み出すものと、ヘアゴムとかカチューシャみたいな髪に関連するものです。……今にして思えば、理由は明確というか……」


「そうだね……」


 真相を知った後だと、ただただ辛い。

 長く伸ばしていた髪を燃やされて大火傷を負わされた子に火を起こす道具と髪飾りの類を渡すのは鬼だ。

 その答えが推定トゥルーに行かないと出ないだろうことも含めて辛い。


「コラーレ兄弟も場所NGは無いのですが、兄弟からの呼び出しに応じないとメンヘラっぽくなります。あと、医学書とか薬草とか、医学関連のものを渡しちゃうと駄目です。……初見だと完全にトラップだな、とは思いますけど」


「こっちもまあ、分かるかな。プレイヤー視点でも分かりやすそう」


「そうですね。コラーレ兄弟も1回目のNGは許してくれますし」


 ホルマリン漬け兄弟でも1回目は許してくれるらしい。

 優しいな、そういう常識的な部分は残ってるんだな。


 ……いや、呼び出しに応じなければメンヘラっぽくなる、は結構怖いけど。


「バセットは苦手な場所は無いと見せかけて、屋上に呼び出すとじわじわ減ります。ストーリー上、何度か呼び出さないといけないので、その後のフォローが大事です。

 5回目くらいで『突き落とされそうになったことがあるから、高いとこ怖いんだよね』って教えてくれます。唯一、駄目な理由を教えてくれる攻略対象です。多分、チュートリアル役を兼ねてます」


「う……」


 あの子の場合は絶対に身内絡みだろ。身内に脅しかなんかでやられたんだろ。

 通常ルートでは攻略しやすい立ち位置だからチュートリアル役兼ねてるんだろうけど、扱いが酷すぎる。本当にこのゲーム嫌い。


「あとは何故か『コモモ』って名前の果物を渡すと露骨に嫌がります。だから、青果店で暮らしてて大丈夫なのかなってちょっと心配してます。それから装飾品の類を渡すと微妙に好感度が下がります。これもトラップですね。今にして思えば、納得ですが……」


 装飾品を嫌がるの、だいぶ辛い。

 そうだよな、ゲーム内ではチャラ男『を』演じてるんだもんな。


 ふたりとも補足入れてこないし、コモモに関しては名前的に桃っぽい果物って判断しても大丈夫かな?

 ヴィルレー夫人が張り切って作ってたお弁当の中に、桃っぽい果物は入ってなかったし。


「そして透さんたちはまるで行きませんが、オルフェウスは王族専用個室が駄目です。渡すと嫌がるのは薬品関係全般です。イレギュラーで、オルフェウスだけは初手から嫌われます。理由はお察しください。あと紅茶も駄目です。紅茶に関しては初手だけは許してくれますが、2回目以降はすごく嫌がります。お察しください」


「それはイレギュラーだな。無理で当然だろうな」


 ていうかオルフェウスに対してそれをやるのは人の心が無さすぎる!

 紅茶はともかく、残りの案件は本当に人の心が無さすぎる!!


 毒殺未遂の事件現場という名の王族専用個室に関しては、俺自身が存在を完全に忘れていた。

 なんでだっけ、と少し考えて……すぐに理由を思い出した。


「王族専用個室に関してはリーリエさん、つまりシベリウスの母親がしれっと学園に命じて入口を釘打ちしたっぽくて、物理的に行けないんだよな」


「ああ、だから話題にも上がらないんですね……」


「シベリウスを闇堕ちさせなかった影響がよく分からない場所に出ちゃって」


 リーリエさんって原作だと死んでるみたいなんだけど、生かした結果が『事件現場の封鎖』だ。本当によく分からない場所に影響が出た。

 そういえばあの人、俺の学園復帰をとにかく嫌がってたしな。嫌だって気持ちが表に出た結果がこれなんだろうな。


 それはそれとして、やっぱり引っかかるのはアリオーソの案件かな。


「ありがとう。うーん……現段階だとアリオーソが警戒案件、かな。いきなり突拍子もないもの出てきちゃったし」


 プレイヤー目線だとろくでもないのが一部混ざってるんだろうけど、推定トゥルー案件が出揃った今となっては結構納得のラインナップというか。だからアリオーソが意外過ぎて困った。

 何が困るって、どっちも『オルフェウスの記憶に無い』んだよね。本当に苦手なの知らなかったんだよね。

 明里さんは俺を見て、何とも言えない顔をする。


「言われてみれば、そうですね……ただ、プレイヤー視点から補足入れると、スノウフィラは完全にトラップ枠なんです。ゲーム内のアリオーソって、花そのものは好きなんですよ。1種類だけ駄目っていう話なんで……バセットもコモモ以外の果物は好きっていう厄介案件です。あ、彼らの駄目なものはそれぞれコラーレ兄弟とラウダの好きなものに該当します。すごく好感度上がります」


「やっぱりな! スノウフィラとコモモが好きな攻略対象もいると思ったよ!!」


 変なところでプレイヤーを油断させるな!

 やっぱ性格悪いゲームだな!!


 俺は深々と息を吐く。

 ……うーん、相変わらずアリオーソからの反応が返ってこない。


「アリオーソに関しては、もう何が何でも捕まえる。今回はバセットに頼むのが正解な気がする」


「それが良いと思います。後はどうにかこうにか捕まえる作業を……」


 最近のアリオーソ、ちょっと心配なんだよな。

 俺のせいだからあの子を責める気はないんだけど、泣かせかけたばかりだし……。



 そんなこんなで、俺たちはアリオーソを捕まえることに成功した。

 コラーレ兄弟に捕まえたら言うように依頼してたんだよね。そりゃ行く前に合流できるというか。


 目立たないように夜に突入してもらうことになってたんだけど、直前にどうにかこうにか接触できた。本当に良かった。


 ……でも、


「精神統一した。大丈夫。……行ける」


「半日くらい精神統一しなきゃいけないような場所に行かないで欲しい」


 本当に駄目なんだな!?

 それくらい苦手な場所に行かないでくれ、頼むから。


 いなくなってからずっと連絡が取れなかったのは、どうも精神統一のせいっぽいな。

 どこにいたのか知らないけど、どっかで自己暗示か何かしてたんだな。


「アリオーソ、大丈夫だよ。バセットが代わりに行けるよって言ってくれてるんだしさ」


 代打はいる。何の心配もない。

 これ以上、無理はさせたくない。


 そんな意図を込めて言えば、アリオーソはゆるゆると首を横に振った。


「……つーか、頼むから行かせてくれ。自分が情けなくて嫌になりそうなんだ」


「情けないとか、そういうのじゃなくて……」


 するとアリオーソは、だいぶ恥ずかしそうに視線を逸らした。

 口元を手で覆っている。おい、どうした? 吐きそうなのか?


「その……俺は、えっと……度胸試しの類が、若干、苦手な、だけで……ほら、狭い場所って音が反響するだろ? 暗いとこって、何が出てくるか分かんねぇだろ? そういうのが……ちょっと……」


「ん゛っ」


「おい!!」


 アリオーソが急に庇護欲でぶん殴ってきた。

 なんか急に可愛いこと言い出した。


 度胸試し。

 つまり肝試し的なものが苦手。

 その関係で、暗くて狭い場所が苦手。

 錯乱するレベルでは無いんだろうけど、それでも両方合わさると『苦手』が強く出るんだろうな。


 まあ、オルフェウスが知らないのも無理はないと思う。

 護衛騎士としては明らかに弱点的な部分だし。言いにくい案件だと思う。


 とにかく頑張って、ひたすら隠してたんだろうな……。


「だ、だから……逃げずに立ち向かいたいというか……っ! 潜入系は俺が一番向いてんのは分かってんだよ……っ!!」


「いや、今回はバセットに……」


「行かせてくれって言ってんだろ! こんな情けねぇ理由で代わりなんか頼めるかよ!!」


 ……どうしよう、これ。

 とにかく無理はさせたくないんだけど、思(・)春(・)期(・)特(・)有(・)の(・)繊細なプライドを傷つけたくもない。


「わ、分かった分かった! ……分かったけど、心配だから通信機能付き宝石はずっと繋いだままにしといて。貴族用会議室で状況は聞いとくから。隠密魔法使えば、音は隠せるでしょ?」


「う……っ、了解。……俺が変な反応しても、笑うなよ」


「バセットに近くで待機しといてもらうから。駄目なら駄目でちゃんと言って」


「分かったよ……」


 これは真ん中を取る。

 行かせといて、本格的にヤバそうならバセットに突入してもらおう。現場近くには行っといてもらうか……。


 そんなこんなで俺たちは貴族用会議室に集合して、コラーレ兄弟とアリオーソの現場捜査実況を聞くことになった。

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― 新着の感想 ―
攻略対象の地雷、なにが埋まってるか全くわからない件w プレゼントで全般好きなのに1種類だけトラップ仕込まれてるのたち悪いなー
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