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待って悪役令嬢! 俺、このゲーム知らない!!  作者: 逢月 悠希
4.俺、このゲーム嫌い 〜第3学年後編〜

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57.『天啓』の限界点

「……」


 できることなら、このまま楽しく談笑を続けたかった。

 でも、そういうわけにはいかないだろう。

 明里さんは、意を決して口を開く。


「革命が起こる可能性があること自体は、把握しておりました。ですが、これ以上の詳細が何も分からずに困っていたのです。それでも、セレナ様が学園の外に出てしまうと、リュートに攫われて革命に巻き込まれてしまうということだけは分かっていました」


 攫われるのは嘘だけど、ふんわりと事実だ。

 だから奏音ちゃんは外に出てない。リュートとの接触を避けるためだ。


 シベリウスは「なるほどね」と呟いた。


「なるほどね? 申告漏れなのかと思ってたんだけど、セレナ嬢って本当に外に出てなかったんだね」


「そうですわね。それで革命を防ぎきるつもりでいたのですが……」


「つまりセレナ嬢が攫われなくても駄目だったって話だね。……代わりにバセットが巻き込まれたってわけじゃなさそうだけど、そこのとこはどうなの?」


 シベリウスは、それどころかアリオーソも「吐け」と圧を掛けてくる。


「……」


 圧を掛けられても困る!

 俺たちもよく分かってないんだから!!


 ……とはいえ、黙りっぱなしなのは良くない。

 でも『オルフェウスが殺される』とは言わない方が良いな。

 どんな化学反応を起こすか分からないし。


 これに関しては俺と明里さんの持ってる情報は完全に一致しているし、俺が取ろうか。


「実を言うと、最初からバセットの情報が一番足りてないというか……そうじゃなかったら、僕たちはこんな反応になってないというか……」


 予想外の答えだったんだと思う、というか当然予想外だと思う。

 シベリウスは青い目をまんまるにしていた。


「……。天啓、雑すぎない?」


「本当にそう思う。授けるならもうちょっと真面目に授けて欲しかった」


 ——まさか奏音ちゃんがバセットの裏バッドエンドと推定トゥルーエンドをクリアしていないからとか、バセット以外は何故かセルフで推定トゥルー案件をカミングアウトしてくれてるからなんて言えない。


 今回はもう、とことん悪い意味ですべてを天啓のせいにするしかない。

 何(・)故(・)か(・)バセットの扱いだけ異常に悪かったと言い張るしかない。


「だから、だから本当に申し訳ないんだけど……ここから先は、天啓が使い物にならない場面が出てきそうというか……これは皆の前でも言うけど……」


「はぁ……」


 ため息を吐かないで欲しい。


 とはいえ、もう『天啓に頼れない』は事実だ。

 明里さんと奏音ちゃんはバセット案件を突破した後は通常ルート展開に寄せて続けてみようかって話をしてるみたいで、それありきで台本を書いてるみたいだ。

 でも、申し訳ないけど意味を持たない気しかしない。通常ルートと裏ルートと展開に差が出てきてるし——結局のところ、俺たちが天啓頼りで行けるのはラウダまでだ。


 ……ということで、


「僕らに天啓を授けた神的な存在は僕とラウダの大暴れを全力で阻止したかったんだと思ってるんだよね。革命無視で世界が滅ぶから。革命より先に世界が滅びかねないから。最低でも僕らの大暴れは国家単位で怪しいから」


「そ、それは……そうだね……って、ラウダの大暴れは革命なんじゃ……?」


 そう思うだろ?

 違うんだよね。革命軍側の大誤算だと思うんだけど、違うんだよね。


「今のラウダは絶対にやらないって思ってるからぶっちゃけるけど、あの子は革命軍ご(・)と(・)国を滅ぼすよ」


「……そっかぁ、革命無関係にバルカローレは焦土になってたんだ」


「そういうことだね……」


 ごめんねラウダ。

 もう起こり得ない未来な上に、自分で察してるみたいだから裏で吐かせてね。


 それはそれとして、俺はシベリウスとアリオーソに念押しする。


「君らのことを信用して言ったんだからね? 口外しないでよ? 政治的な意味で考えたら、革命制止前にラウダを消した方が早いってなりかねないから。僕、それは絶対に嫌だよ」


 ラウダに限った話じゃないけど、俺は1回その『政治的な意味で』って概念で派手に病んでんだから頼むぞ。


 でも、その辺は理解してくれてるのかな。

 シベリウスもアリオーソもしっかりと頷いてくれた。


「うん、安心して。黙ってる」


「だな。俺もそういうのは望んでねぇ」


 そしてシベリウスは、何故かくすくすと笑う。


「最初から外に漏らす気はなかったけど、兄さんが独裁王化する可能性があるって話も口外禁止だね。言った瞬間に兄さんじゃなくてアリオーソが殺されそうだし。少なくとも私なら真っ先に消すね」


「さらっと俺を消さないでくれ」


 ……言われてみれば、そうだな。

 オルフェウスが暴走した瞬間にアリオーソはとっつかまえて殺しといた方が安全だな。


 でも「私なら真っ先に消すね」とか言うな。

 怖い。アリオーソが描写外で殺されてそうなの含めて怖い。


 一歩間違えば真っ先に消されそうな男は苦笑しつつ、話し始める。


「さーて、俺が殺されねぇって分かったところで、本題に戻すかね。俺のせいで逸れてったとこがあるから、申し訳ねぇが」


 本題に戻す。

 それは大事なんだけど、困ったことがある。


 そしてその「困ったこと」に関しては、アリオーソも分かっていた。


「要するに、天啓の力に頼ったとて革命に関しては詳細不明だし、当然オフィクレイドその他が何やってんのかも分かんねぇってことで良いんだな?」


「まあ……そうなるね」


「ほんっと仕事してんのか仕事してねぇのか分かんねぇ天啓だな……」


「本当にね……」


 アリオーソはため息を吐き、テーブルに並べた紙を回収した。


「尻尾出すか分かんねぇけど、今はこいつらまとめて追っかけ回すしかねぇな。……困ったことに魔導士の家系はあるわ、そもそもオフィクレイドが騎士の家系だわってことで、外部には頼らず、もう行けるとこまで俺が動こうと思う」


 過労死しないでくれよ、本当に。


 ただ……やっぱり、辛いんだろうな。

 アリオーソはバセットについてまとめた紙を、じっと見ていた。


「……。次の天啓再現って3日後にある俺とオルフェとバセット、それからヴィオレッタ嬢の案件だよな? バセットに関しては、そこでなんか尻尾出す可能性はあるな。……アイツ、今は相当に揺らいでるだろし。内容が最悪だしな」


「あー……そうだったね。バセットのセリフがとにかく多い奴で……」


「バセットはいつ出てきてもセリフ多いけどな。そのせいで台本回すのが早くなるってか、なんつーか……こういうこと考えちまうのは、良くないんだが……」


「……言いたいことは分かるよ。今となっては、相当に酷なことやらせてるなって思うし」


 3日後にある天啓再現——それが、バセットの分岐イベントだ。

 このイベントを起こした後にバセットはオルフェウスを殺害し、最終的にはセレナに想いを告げて死んでしまう。


 やるかどうか本気で悩んだ直前2つのイベント再現を実行したのは、バセットの分岐イベント中に、彼がこの2つの件について触れてくるためだ。


 正直、いっそ分岐イベントを起こさなければ良いのではないかとも考えた。

 でも、ここまで来たら「すべてやるしかないだろう」と明里さんと奏音ちゃんに念押しされた。


 ——バセットの分岐イベントを起こさなければ、彼がどのタイミングでオルフェウス殺害を実行に移すか分からないからだ。


 シベリウスは青い目を細め、「それなんだけど」と話を切り出す。


「先生方から情報入ってるんだけど、あれ以来、バセットが講義に出てきてないみたいだよ。生真面目が服着て歩いてるような子なのにね」


「え……」


「もう天啓再現に出てくるのかどうかすら、怪しいかもしれないね」


 つい最近、バセットと打ち合いをした時のことを思い出す。


『まあ……あの人たちと戦う機会があったらあったで、全力で頑張りますよ』


 実技演習大会の、剣術部門。

 あの時はその第2学年代表に選出されたら、という話をしていた。


 あの人たちと戦う機会があったら。


 ——あの人たちと戦う機会は、存在しないから。


「まさか、あの子は最初から『出れない』って分かった上で……?」


 背筋が、凍る。

 口走ってしまったせいで明里さんたちの視線が気になったが、頭を振って嫌な考えを打ち消した。


「……」


 どちらにせよ、考えるべきは今じゃない。

 ……そもそも、それを阻止するのが、俺たちの『目的』だ。


 俺は深く息を吐き出してから、口を開く。


「出てこなかったら、出てこなかった時に考えよう」


 最悪な情報が出揃ってしまった——裏バッドエンドにおけるバセットのオルフェウス殺害の理由は『革命軍への貢献』で間違いないだろう。


 シベリウスとアリオーソは「何かの間違いであって欲しい」と考えていると思う。

 でも、バセットがオルフェウスを殺害する展開を知っている俺たち目線だと、彼はどうあがいても真っ黒だ。間違いでは、ないんだ。


「……」


 明里さんも、酷く沈んだ顔をしている。

 今のバセットを放置しておけば、俺が死ぬリスクが跳ね上がる。

 それでも「バセットを突き出せ」と迷わずに言えるほど明里さんは非情にはなれないんだろうし、俺だってそうだ。


 ……甘いのは分かってる。

 それでも、最後の最後まであの子を信じたい。


 だから俺は、何の心配も無いよと言わんばかりに、何も考えてなさそうに、そう見えるように顔に笑顔を貼り付けた。


「出てきてくれるって、信じたいけどね。本当に体調悪いだけかもしれないし!」


 そんなことはあり得ない。……分かってる。

 それでも「そうであってくれ」と願ってしまう、弱い自分がいた。

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