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待って悪役令嬢! 俺、このゲーム知らない!!  作者: 逢月 悠希
4.俺、このゲーム嫌い 〜第3学年後編〜

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56.悪魔の証明

 ——1週間後、貴族用会議室。


 集まったのは俺と明里さん、そしてシベリウスとアリオーソだ。

 シベリウスから軽く話を聞いた上で、俺と明里さんは苦笑した。


「まあ……とりあえずシベリウスがあの時、意図的にNG出したのはよく分かったよ」


「言った内容に関しては本当に思ってたことだし、今も思ってる。そこだけは嘘じゃないけどね」


「……疑ってないよ」


「ありがとう。……だからこそ、私は兄さんに負けないように成長しようって思えたわけだしね」


 要するにシベリウスは渡り廊下で2回同じ場面を演じることで、妙な反応をする人間を明確に暴き出そうとしたらしい。成(・)長(・)に関してはしすぎな気はするけど、そのことは今は置いておくとして。


 シベリウスは軽く息を吐き、何とも言えない顔をして笑った。


「台本を読んだ段階で、検証に使えそうだなって思ったんだ。後ろ暗いものがある人間なら、あれは反応するよ。私がかなり感情的な立ち回りをするしね」


 かなり感情的な立ち回り、それも革命の『被害者』としてだ。

 確かにあれは、何らかの自覚がある人間なら大なり小なり反応してしまうかもしれない。


「剣術演習の時は兄さんたちも勢揃いだったから耐えたみたいなんだけど、それでも兄さんたちが出てった後がかなり怪しくてね。だからアリオーソとラウダに下で潜んでてもらったんだ。誰も見てないところなら、何かしら見せてくれるかもって思って」


「俺らが渡り廊下の下で、ついでに先生方に渡り廊下の上を任せた。ま、上に行ったのはいつもの奴らばっかだったし、誰も反応しねぇとは思ったがな」


「なんで僕に教えてくれなかったの……」


「兄さんにそんなこと教えたら演技に影響出ると思って」


「わたくしも放置されましたが……?」


「君に言ったら兄さんに伝わるでしょ。それだと意味ないじゃん」


 ……否定は、できない。


 恐らく奏音ちゃんも除け者になっていたことも気になったが、天啓組ということで括られたのかもしれないなと判断した。そもそも、本題はそこではない。


 アリオーソは机の上に持っていた書類を広げた。


「……で、該当したのは男爵家か子爵家の生徒。共通項は『実家が傾いている』ことと『ここ数年で不自然に持ち直した痕跡がある』ことだ」


 出てきたのは4名の生徒の名前と成績、実家の状況等々——顔と名前の照合だけじゃないのかよ!?


 流石に俺の護衛はしてなかったとはいえ、これをよく1週間で調べ上げたな。

 どこに何が潜んでるか分からない以上、騎士団関係の伝手は使えないわけだし、単独調査だろうな……相変わらず過労死が心配になる子だな……。


「……」


 そして俺は、覚悟を決めて『彼』の名前を口にする。


「バセットというか、オフィクレイドもそうだったんだね?」


 言いたくなかった。

 本当に言いたくなかった。


 ——頷かれたくも、なかった。


 今回、ラウダとコラーレ兄弟、そして奏音ちゃんを外しているのは、俺たちがここに集まっていることをバセットに悟られないようにするためだ。

 彼らにはあえて外をうろついてもらうことで、本人を変に刺激することを防いでいる。


 俺は剣術演習の講義を利用した原作再現のことを思い返す。

 あの時のバセットは自然に奏音ちゃんを助けに行けていたし、何なら俺と役割を変わると申し出てもいた。……シベリウスに脅される役を、だ。


 今となっては役を変わらなくて良かったのか、変わった方が良かったのかが分からない。

 ……ひとまず、気になることを確認しよう。


「剣術演習の時は結構平然としてたように見えたんだけど。つまり、今回だけ反応した感じ?」


 アリオーソは再び頷いた。


「だな。アイツの場合はたまたま大声とかその辺にビビッて逃げたって可能性もある。だが、状況が状況だけに放置できねぇからラウダに追わせたんだ。……まあ、寮の部屋に篭って出てこなくなったっぽいから、調査不能ってことで戻ってきてもらったんだが」


 アリオーソはさらに紙を追加した。

 念のため調べた、というところかな。


「オフィクレイドも男爵家だしな。アイツには悪いが、ガッツリ調べさせてもらったよ」


「……」


 冷静でいようとしてはいるけど——辛そうだな。

 アリオーソはずっと俺の側にいるけど、つまり優先順位を下げているんだろうけど、何だかんだでバセットのことを大事にしてるのは分かってる。弟みたいな存在なんだろうな。


 彼がバセットに対してやったのは、実質『悪魔の証明』だ。

 弟のように思っている子に後ろ暗いものはないと、そう判断できる材料を探し回った。

 本当の目的は逆なのは分かってる。でも、バセットに対しては絶対にそうなった。


 ……その結果が、これだ。

 オフィクレイドにも、他の4つの家と同じような傾向があったんだ。


「バセットは王国騎士団枠で入ってなければ、確実に学費未納で除籍処分だったろうな。オフィクレイドに学費出してる余裕はねぇってか……申し訳ないが、そもそもあの家がアイツに対して無理してまで学費を出すとは思えん」


 シベリウスの演技に反応してしまう人間。

 剣術演習の時であれば、純粋にシベリウスの狂演に驚いてしまった可能性もあった。


 でも、今回はそうじゃない。

 彼らは恐らく『シベリウスが革命のスケープゴートにされたことによって、すべてを狂わされた被害者である』という、あまりにもリアルな展開に反応した。


 第2学年と第3学年にも該当者はいそうだが、今回は第1学年にターゲットを絞った。

 狙いを定めたのは、剣術演習の講義時に不自然な反応を見せた生徒だ。

 シベリウスが外見的特徴をアリオーソとラウダに伝え、1週間前の原作再現時に注視するように指示したらしい。


 上手い手であり、残酷な手でもあると思った。

 ——いくら貴族とはいえ、15、16歳の子に一切反応するなという方が無理な話だから。


 彼らは不意打ちを仕掛けられたようなものだし、そもそも家が傾いている時点で貴族らしい教育を十分に受けられていない可能性すらある。

 いずれにせよ、あれを見てポーカーフェイスを貫け、というのは無茶だ。


 アリオーソは、並べた5枚の紙に視線を落とした。


「コイツら全員、実家が変(・)な(・)援(・)助(・)を受けてると見ていい。反応を見るに、革命に加担して、その対価を受け取ってるって判断するのが妥当だろうな。そして、それをきっちり把握してる。そうなってくると、実家が何やってんのか把握してねぇヤツもどっかにはいるかもな」


「……」


「厄介だからラヴェル侯爵家が引き起こした革命の名残りだと思いたかったが、なんか違う感じがするんだよな」


 ラヴェル侯爵家が主となって動いていた革命は、200年前の祖先の雪辱を晴らすことを目的としていた。しかし彼らはリュートを除いて全員摘発済みだ。


 もちろん、上手く逃げ延びている面々もいるとは思う。そっちに関しては今でも調査が続いているって話も聞いている。

 でも、今回出てきたのは実家が傾いていた下級貴族だ。そして、革命そのものに平民であるラウダやコラーレ兄弟が勧誘を受けていたことを考えると……


「もはや、ラヴェル侯爵家の案件とは別の革命を起こそうとしてるって考えた方が良さそうだね」


 ——自ずと、答えはそういう方向に向かっていく。


「そうなってくると、首謀者はリュートかな? ラウダとコラーレ兄弟勧誘してることを考えたら」


「陽動かもしれんが、ラウダに関しては直々に勧誘してたからな。しかも、アイツが言われた言葉が『一から作り直すしかない』だろ? 言い回し的に貴族社会の廃止とかその辺目指してるって言われても驚かねぇし、しかも天啓の内容がなー……」


 そしてアリオーソは明里さんを見る。

 先ほどの辛そうな様子からは一転して、困っているような、呆れているような……とにかく、何とも言えない顔をしていた。


「この際だから言わせてもらうわ」


「ええと……?」


「ラウダの奴、台本読みながら苦笑いしてたぞ。『あの人たち何も言わないけど、天啓通りに行ったらオレは国を滅ぼす可能性があったんだろな』って」


 あっ。

 明里さんは目を泳がせてから、頷いた。


「はい……」


「普通に認めんのかよ」


 でも、そうなんだよ。

 厳密にいうとワンクッションあるけど、ラウダは国を滅ぼすんだよ。


「その、流石に『あなたは国を滅ぼす可能性があります』とは言えず……」


「安心しろ。俺どころかラウダも『絶対に言えない』っつってた」


 アリオーソはかなり気まずそうにしている明里さんを見て、呆れ返った様子で笑っている。


「ラウダ以外に劇物はいるのか?」


 劇(・)物(・)って言うな!?

 聞くな!?


「オルフェウス殿下の独裁王ですわね」


 これは既に言ってる。

 これで逃げ切るしかない。


 ……でも、


「俺は何もしねぇのか?」


 おい、やめろ。

 俺と明里さんは、うっかり顔を見合わせてしまった。


「……」


「するんだな。この際だから言ってくれや」


 もう言うしかない。

 明里さんは、諦めて口を開いた。

 ……ごめん。


「その……アリオーソ様は、オルフェウス殿下に命じられ、殺人鬼化してしまいますの。ありとあらゆる人間、それこそ顔見知りを含め、少しでも主君に危害を加えそうな人間を片っ端から殺害して回るようになってしまいますわ」


 アリオーソルートの話じゃなくてオルフェウスルートの話で行ったか!

 嘘じゃない、これなら行ける!! 誤魔化しきれる!!


 アリオーソは目を丸くした後、「あー」とか「えー」とか言葉にならない声を漏らした。


「な、情けねぇけど、それに耐えられる気がしねぇ……」


「えっと……」


「……。やっぱ耐えらんねぇのか」


「はい……」


 そうだね。

 君は全自動自害遂行機だからね。

 殺人鬼になった場合は耐えられなくて遂(・)行(・)しちゃうんだよ。


「私は?」


 おい、割り込むな。

 これ以上明里さんに任せまくるのも申し訳ないから、今度は俺が答えることにした。


「君は何もしないんだよね。ただひたすら晒し首になるだけで」


「わー、それはそれで逆に嫌だねぇ。そうならなくて良かった、あははっ」


「僕も君の首を晒さずに済んで良かったと思ってるよ」


 シベリウスは剥製製造機になりますだなんて、口が裂けても言えない。

 だから勝手に晒し首にすることにした。もしかすると殺されるだけで晒し首にはならないのかもだけど、晒すことにした。インパクトで逃げ切る。


 殺戮魔王と全自動自害遂行機、それから独裁王が透けるのはもう諦めるとして、剥製製造機とホルマリン漬けとヒロイン磔刑男はどうにかなりそうだから逃げ切る。


 このまま放っておくと、話が明後日の方向に行きそうだ。

 ……余計なことが追加で透けそうだし、なんか別の話に持って行った方が良い気がする。


 同じことを考えたと思しき明里さんは深く息を吐き出し、余計なことを聞いてきたふたりを見据えた。

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