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待って悪役令嬢! 俺、このゲーム知らない!!  作者: 逢月 悠希
4.俺、このゲーム嫌い 〜第3学年後編〜

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52.色々よくないと思うぞ!

 突然の男子高校生たちによる自己晒し大会が終わった後、すべての始まりのラウダが小さく手を上げた。


「学園成績で思い出したんだけどさ。そのー、ちょっと、悩んでて……」


「剣術演習?」


「違うよ!!」


 顔を赤くしながら、ラウダは自前のレイピアを取り出した。

 縦に構えて、左手を添える。……これ、何か魔法使うな。


「——我らと外界の間に、見えざる帳(とばり)を。今、此処に境を定める。音を遮り、視界を惑わせ、我らを認める余地すら残すな」


 地面に広がった魔法陣を見るに、オルフェウスには使えない魔法だ。

 でも、効果は知っている。動きを見るに、アリオーソとバセットも分かってそうだ。


「……?」


 残念過ぎることに何が何だか分かっていなさそうなシベリウスの手を引いて、俺はラウダに近寄った。


「アノマニス」


 キィン、と甲高い音が鳴った。

 内側にいるから、見える。直径5mくらいの結界が上空に向かって伸びている。


 ん? かなり高いな? 

 学園覆ってる結界より上行ってるな?


 ……とりあえず、何のことか分かってなかった上に現在進行形でぽかんとしてるシベリウス。

 君に関しては後で勉強会な。


 これは認識阻害結界。

 分類的には結界魔法の一種だけど、アリオーソが言ってた隠密魔法の一種でもある。


 隠密魔法は位置探知、追跡、隠蔽、偽装……その手の、特殊どころ。

 使い手が結界魔法のプロフェッショナルっていうのもそうだけど、使用時に出てきた特殊な魔法陣を見たら、何が展開されるのかは普通に察する。


 ていうかラウダも「分かるもの」だと判断してたから説明しなかったんだと思う。

 ——そう、隠密魔法は暗殺とか侵入とかその辺に使われがちだから、王族貴族なら知っとかないとヤバい奴だから!


「シベリウス……君、仕事はできるのに……なんで隠密魔法が分からないんだよ……」


「これは流石に駄目だって思ったから、勉強し直すね……」


「そうだね……」


 俺は唐突に残念さを発揮したシベリウスからラウダへと視線を移す。

 会話が終わるのを待っていたと思しき彼は、「ねぇ」と話しかけてきた。


「オルフェウス殿下。学園防御結界に向かって攻撃魔法ぶつけて欲しいんだけど」


「ん?」


「お願い。割るくらいの勢いで行ってみて」


 ああ、なるほど。だから認識阻害結界か。

 ラウダの要望を理解した俺はレイピアを取り出して構え、頭の中に浮かんだ文を口ずさんだ。


「——北天に輝く銀の光よ、遍(あまね)く生命(いのち)を凍てつかせる白き大地の力よ。我が呼び声に応え、此処に集え」


 魔法の詠唱、なぁ……。

 最初はちょっと、いや、だいぶ恥ずかしかったんだけど、慣れた。


 余計なこと考えてても普通に発動するから、この身体は凄いなって思う。

 それはそれとして、いい加減に集中しよう。

 俺は軽く息を吸い込み、目を閉じた。


「……永久に砕けぬ氷晶よ、玲瓏(れいろう)たる音を奏でよ」


 パキパキと氷が固まる音がする。

 イメージするのは、向こう側が見えるくらいに透き通った氷の塊。


「……その響きを刃となし、その煌(きら)めきを鉾(きっさき)とせよ」


 塊が割れ、鋭利な断面が剥き出しになる。

 イメージ……ではなく、実際にそれが現れているのは分かっている。


 目を開き、問題なく魔法が展開されていることを確認する。

 魔法陣の上に立つ俺の息は白く染まっていた。だが、不思議と寒くはない。


「汝、凍てつく白銀の牙となりて、我が仇なす敵を穿(うが)て」


 そしてレイピアを結界へと向ける。


「フロストランス!」


 オルフェウスが最も得意とするのは、氷撃系の攻撃魔法。

 その中でも一撃の火力が最も高い魔法を選んだ。

 結界を割るのなら、広範囲展開よりもこの手の魔法の方が良いだろう。


 フロストランス。

 その名の通り、氷の槍を放つ高難度の攻撃魔法。


 オルフェウスがこれを使えるのは知っていたけれど、小回りが利かない関係で授業では使っていない。だから、実際に放つのは初めてだ。


 結構な勢いで行ったけど、結界に弾かれると思うと安心して——


「ん?」


 バリン、と。

 ……絶対に聞こえてはいけない類の音がした。


「ねぇ、アリオーソ」


「なんだ、オルフェ?」


「前に結界強度上げたって言ってなかったっけ?」


「……」


 ——結論から言うと、旧式結界が1枚、その上から張った新式結界3枚のうち2枚が逝った。


 旧式1枚と新式1枚が完全に終了して、もう1枚は何とか氷の槍を止めてはいた。

 つまり、限(・)り(・)な(・)く(・)ア(・)ウ(・)ト(・)な(・)セ(・)ー(・)フ(・)だ。……そこで止まってるけど、余裕で貫いてはいる。


 これは認識阻害結界が無かったら大騒ぎになっていたはずだ。

 普通に大事件だ。大惨事だ。


 俺たちが困惑している間に、ラウダがせっせと結界を直していた。

 ……直せるだけで怖いんだけど、想定されるこの後の流れのせいでさらに怖い。


 とりあえずラウダが仕事を終わらせるのを待ってから、俺は彼に話し掛けた。


「もしかしなくても、君は4枚全部行ける感じ?」


「うん。……絶対にマズいと判断してたからやったことはないんだけど、行ける自信しかないんだよね」


「だよね……」


「それがさ」


 おい、まだあるのかよ。

 4枚全割り可能って時点で絶望案件なのに、まだあるのかよ。


 ラウダはしれっと剣を杖に持ち替えた。


 ……おい。


 そして杖先を、直したばかりの結界へと向ける。


「——雷、破邪の刃となれ」


 おい! 

 前(・)に(・)聞(・)い(・)た(・)時(・)より詠唱短くなってるぞ!!

 それで行けるってのか!? 嘘だろ!?


「サンダーボルト!」


 細い電流が飛ぶ。

 細いもんだから、遠くに行かれてしまうとちょっと見えにくい。

 でも、とりあえず結界4枚をあっさり貫通したのは見えた。


「……」


 もう揃いも揃って黙り込むしかなかった。

 やったことも問題だが、使った魔法も凄まじく問題だ。

 いつまでも上を見ているわけにはいかない。俺はラウダに話し掛ける。


「ねえ、『サンダーボルト』って君が使える中だと、かなり弱い魔法だよね」


「うん……」


 サンダーボルトは原作再現をしている最中にラウダが使った魔法だ。

 杖を使って、なおかつ弱い雷撃魔法を使ってと指示した結果、出てきたのがサンダーボルトだ。


 ……要するに、彼に全力で舐めプさせた時に出てくる魔法だ。


 あの時はあの時で「通常ルートなら使用魔法は『スパーク』だった」、「裏ルートなら『サンダーボルト』だが、それにしても詠唱が短かった」という困惑案件が発生していたが、どうやらあれでも詠唱は長めにしてくれていたらしい。


「答えがある程度分かってて聞くんだけどさ。強い魔法使ったら、さらにレイピア使ったら……どうなるのかな?」


「少なくとも、結界は全部吹っ飛ばす自身はあるかな……」


 ラウダはしれーっと結界を直す。

 かなり綺麗に穴を開けたみたいで、ヒビ割れすら入ってない。


 なんだこれ、突然の『俺TUEEE』が始まったか?

 そして俺は大事なことを思い出した。


「……そういえばこの子、殺戮魔王だった」


「えっ?」


「あー、ごめんごめん! 気にしないで!」


 ——危ない、口に出た。


 そうだ。そもそも滅ぼす単位が『王都』じゃなくて『国』だった。

 なら、これくらいできて当然か。

 国を滅ぼすなら、学園防御結界くらいは余裕で破れないとお話にならないか。


 本当にこの子が俺たち側にいて良かった。

 ……間違いなく、原作より強くなってるし。


 認識阻害結界を解除し、ラウダは苦笑する。


「嫌な予感して、オレ、最近はかなり手抜きしてたんだよね……か(・)す(・)っ(・)た(・)だ(・)け(・)で(・)アウトなんじゃ疑惑があって……」


「アウト……だろうね……」


「それで、オルフェウス殿下はどんな感じなんだろって」


 彼の魔法演習手抜き行為には嫌な思い出が過るが、それは誰よりも本人が感じているだろう。

 だが、今回に関してはそうしてもらうしかない。

 そして彼の疑問は最もだし、ありがたくもあった——オルフェウスも大(・)概(・)だったからだ。


「教えてくれてありがとう、僕も手抜きする。君ほどじゃないだろうけど、普通に大騒ぎになりそうだし……」


「うん、その方が良いと思う……」


 ラウダは結界にかすっただけで4枚全部割りかねないけど、俺も1枚はサラッと割るかもしれない。

 そんなことになれば、各所が慌ただしくなって平穏な学園生活は遥か彼方へ飛んでいく。絶対に阻止しなければならない


「……」


 そして俺は、ちらっとアリオーソを見る。

 学園防衛的な部分は、どうしたって彼が窓口になる。ごめんね。


 意図を察したアリオーソは「ははは」と乾いた笑い声を上げた。


「それとなーく報告上げとくわ……3年にヤバいのが2匹もいるせいで、結界強度が足りねぇかもって」


「どのみち僕とラウダは卒業試験までは手抜きした方が良さそうだね。流石に卒業試験は全力出させてもらうよ?」


「お前らの全力と強化に強化を重ねた結界、どっちが強いか気になるなぁ。……結界が負ける気しかしねぇわ」


 いっそのこと、ラウダに結界張ってもらった方が早い気がする。

 でも革命案件が動いている状態で、王家の落胤(らくいん)疑惑と王弟の先祖返り疑惑を持つ少年を目立たせるわけにはいかない。隠れてて欲しい。


 とはいえラウダはちゃんと報連相してくるから本当にありがたい。

 報連相せずに唐突に『俺、またなんかやっちゃいました?』をぶちかましてきたら目も当てられない。自己判断して報連相できるのは良いことだと思う。


 そうして、何事も無かったかのように存在している結界を眺めていると、勉強はできないかもしれないけど仕事は凄まじくできるシベリウスが剣を数本持ってやってきた。


「流石に悔しいから、私たちの才能も見て欲しい」


 しれっと私た(・)ち(・)って言ったな?

 意味を理解したアリオーソは、シベリウスが持っていた剣を1本引っこ抜く。


「シベリウスは馬連れてきた方が良いんじゃね?」


「んー、一頭、連れ歩いてるんだけどね。一頭しかいないから、今回はやめとくよ」


「……お前に馬乗られたら勝ち目ねぇから、そうしてもらえると助かるわ」


 一頭連れ歩いてるってどういうことだ!?

 かなり聞き捨てならない言葉が聞こえたけれど、俺は声に出す前にオルフェウスの記憶を漁った。


 どうもシベリウスは『収納魔法』だけはとんでもない精度で使えるらしい。

 精度が凄すぎて、中で生物も飼えるらしい。多分、広大な草原みたいになってるんだろうな。


 ……そっか、そういえば収納魔法も評(・)価(・)対(・)象(・)外(・)だもんな。

 改めて考えると、この学園って結構、評価対象外の魔法多いんだな。

 どうもヴィオレッタの精神操作魔法も評価対象外らしいし。


「オレ、馬は間近で見たこと無いんだよね。大通り歩いてるのを遠目に見たことはあるけど」


「そう? じゃあ今度、裏山で走らせる時に誘うね。レランドは大人しい子だから、蹴り飛ばしたり振るい落としたりしないだろうし。乗ってみると良いよ」


「え? 良いの? ありがとう!」


 オルフェウスの記憶が『レランドはとんでもない速さで走り回って騎士を何人も病院送りにしたバケモノみたいな馬』だって言ってる。しかも『シベリウスによく懐いてるだけで、実際のところは全然大人しくない』って言ってる。

 そんなバケモノに乗せられそうになってるラウダの身が心配だけど、それ以前にシベリウスはしれっとそんな子を連れ歩くんじゃない。


「ねえ、シベリウス。君、ちゃんと許可取って連れてきた?」


「事後報告はしたよ」


「こら!」


 この子は剥製を製造しなくなった代わりにアグレッシブになりすぎだ!!

 仕事ができるのもそうだけど、やんちゃなところも本当に原型留めてないな!?

 可愛いけど変なところで年相応の子どもらしさを見せるな!!


「ラウダ、レランドは全然大人しくないって聞いてる。怪我しないでね。いっそセレナ嬢を連れてった方が良いかも」


「あ、うん……」


 まあ、事後報告とはいえ、報告してるならまあ良いか……。

 もうどうしようもないと判断した俺はラウダに軽く忠告しつつ、問題児が持ってきた剣を1本手に取る。

 そして、明らかに馬の件で動揺していたバセットに話し掛けた。


「バセット。馬に乗ってなくても弟は怖いし、怖い弟には僕の護衛騎士を生贄に差し出したいから、お手合わせ願いたい」


「言い方! じゃなくて、はい! 良いっすよ!」


 オルフェウスはラウダと同じレイピア使いだけど、ちゃんと受け流すっていう技術を持ってるから安心して打ち込んできて欲しい。

 俺の場合はそれこそ『身体が覚えてる』から、多少は別のこと考えながらでもバセットの相手はできる。つまり様子見する余裕がある。


「……」


 この子は騎士団には顔を出してないみたいだけど、普通に動けてはいるね。

 手数で攻めてくるスタイルだから、ちょっとでもサボったらすぐに影響が出そうだ。

 誰も見てないところでこれでもかと訓練してるんだろうけど、剣の腕が鈍ったとか、そういうのは無さそうだ。そこに関しては安心できる。


 安心できるんだけど、油断すると負けそうだ。

 手数で攻めるスタイルなのは俺の方もだから、相性が悪い。


 ひたすら打ち合って、互いに間合いを取る。

 取ると同時に、ふたり揃って軽く隣を見る——シベリウスとアリオーソが、別次元の戦いをしていた。


「……」


 実技演習大会の剣術部門。

 第1学年代表と第3学年代表はこのふたりで確定だろうな。


 そんなことを考えてると、バセットがぽつりと呟いた。


「代表、絶対に選ばれたくない奴っすね……」


 あ、そういえばこの子。

 去年は第1学年代表になってた。


 第2学年代表がバ(・)ケ(・)モ(・)ノ(・)だったから、第3学年の先輩と良い勝負してたな。

 あの時は接戦で負けたのか勝ちを譲ったのか状態だったけど、良い勝負ができていたことは確かだ。


 ……でも、今年は第1学年と第3学年にバケモノがいる。


 確かに、これで第2学年代表に選ばれようものなら絶望案件だろう。

 とりあえず、俺はバセットに笑いかけた。


「頑張って?」


「しゅ、醜態晒すの確定で戦うのは嫌っすよ……っ」


 これはバセットが剣術演習で手抜きをするんじゃないかなって思ったけど、この子は手抜きなんか絶対にできない。そしてあのふたりがバケモノすぎるだけで、バセットは普通に優秀だ。


 ——だから、第2学年の代表に選ばれるのは彼だろう。可哀想に。


「醜態とまでは行かないだろうけど……うん……」


「醜態確定っしょ……あなたの周りにいる人たち、どうなってんすか……」


「えーと、前向きに言ったら……誇り、かな? 弟と護衛騎士だし」


 雑談を交わしながら、バセットの顔色を伺う。

 彼は軽く目線を下に落とした後、顔を上げて困ったように笑った。


「まあ……あの人たちと戦う機会があったらあったで、全力で頑張りますよ」


「あると思うんだけど……」


「分かりませんよ? 第2学年の2番手も大概なんっすから」


 ……そんなこんなで、俺たちは忘れていた。


 この場にいるのは、5人。

 打ち合いは1対1でやっていた。


「……」


「あ」


 こちらを見ている黒い瞳に気づくのが、かなり遅れた。

 『奇数』って良くないなって思いつつ——本来の目的が目的なだけに、普通に謝罪案件だった。


【Tips:実技演習大会】

 秋にある大会。剣術部門と魔法部門に分かれている。

 学年対抗戦で成績上位層が様々な形で戦い、最終戦は学年代表という名の『その年の成績トップ』が選ばれる。

 なお毒殺未遂事件が起こったタイミングが悪く、第1学年時はオルフェウスどころかアリオーソも棄権している。

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