51.可愛い男子高校生たち
——ラウダがやらかした。
昨日の剣術演習で、もう当たり前のように「追試です」って言われてきたらしい。
小テストみたいなのだからまだ良いんだけど、卒業試験は大丈夫だと信じたい。……留年しちゃうから。
彼は演習場の真ん中で、全力でバセットに手を合わせている。
「ごめん、ごめんね……!」
「じ、自分のことはお気になさらず……えーと、頑張りましょか」
「うん……」
せっかくだから、ということで俺とシベリウスとアリオーソも追試対策について行ってみた。
複数形だからオルフェウスの死亡フラグにはならないし、バセットの様子見にちょうど良いと思ったからだ。
「……」
——それはそれとして、俺はあまりにも危うすぎるラウダの剣捌きを見て困惑した。
どうも、背中の火傷痕を治せばいいという問題ではなかったっぽい。
まだ治って日が浅いから逆に感覚が鈍ってるのかもだけど、そうだと信じたいけど、本当に卒業試験は大丈夫なのか気になって気になって仕方がなくなった。
「ラウダ先輩! いつもそうですけど、左! 左側が無いことになってます!!」
「ご、ごめん!!」
バセットの説明どうなってんだ!?
ラウダが理解できてるから良いけどさ!!
左側が無い——のではなく、右側に注意が向き過ぎて左側が疎かになっている。ヤバいくらいに疎かになっている。
そのせいで、バセットはひたすら左側に特攻をしかけるような形になっていた。
ラウダに左側を取り戻してもらうべく、バセットはひたすら剣を振るい続け、ラウダはひたすら、すんでのところで握りしめた訓練用レイピアの刃で受け止め続け——
「うわっ! 折れた!!」
「あー……」
細いレイピアを盾にし続ければ、そりゃ折れるだろ。……口には出さないけど。
オルフェウスもだけど、ラウダは細身のレイピアを使っている。
得物としてレイピアを選んでいるのは分かる。
オルフェウスの知識のおかげで、それをチョイスした理由は分かる。
レイピアは剣の中でも特に、ガード部分とグリップ部分に魔法補助の装飾を入れやすく、しかも構造的な理由で装飾が刃に変な影響を与えにくいらしい。
ラウダは原作ゲームだとずっと杖使ってたっぽいんだけど、俺たちが第1学年の時点で救出に入った影響なのかな。
この子は魔法関連で本気を出す時は短い杖じゃなくて剣を抜くし、そのせいなのか謎履修をぶちかましている。
ただ……どうも、謎履修は第1学年からっぽい。
絶対に酷い目に遭っているから触れないけど。
別のレイピアを用意するラウダを見つめながら、騎乗戦がやれてしまうタイプの天才・シベリウスはぽつりと呟いた。
「なんで、剣術演習を履修しちゃったんだろ……」
「僕も正直、ずっと思ってる……」
「別に運動神経が悪いわけじゃなさそうなんだけど、どうにもこうにも……」
分かる。運動神経は悪くなさそう。というか良さそう。
じゃないと、虐めっ子という名の殺人未遂犯から全力で逃げ回り続けるのが無理ゲーすぎる。
……だから、ラウダの場合は純粋に剣が向いてないんだと思う。
変な履修してるの勿体ないなって顔してるけど、俺は知ってるよ。
シベリウス、君も魔法演習履修して追試喰らったの知ってるよ。
その横にいるアリオーソもだけど、君たちは魔法演習の追試常連組なの知ってるよ。
そんなこんなで頑張って、一旦休憩を挟むことにしたらしい。
流石は騎士団員というべきか、バセットは余裕そうだ。まったくと言って良いほど息が上がっていない。
「そのー……履修してる以上、在学中は頑張るしかないんすけど……ラウダさんって、卒業した後に剣を振り回す機会があるのかどうか分かんないっすけど……えっと、多分、得物は棍とか、そういう奴のが向いてると思うっすよ」
代案を出すという優しさを見せながら、バセットはラウダに「剣はやめとけ」と言い放った。
……バセットから見ても本当に、もう絶望的なレベルで向いてないんだと思う。
でも、棍は名案だ。
あれも魔法補助の装飾を入れやすいし、むしろ魔導士向けの武器だ。
運動神経が良いラウダなら、ただの杖よりは棍の方が向いていると思う。
……が、
「分かってる。でも、その……あ、諦めたく、なくて……」
すっごい弱々しく、遠回しに「棍は嫌です」と言われてしまった。
ラウダのこの発言には、全員の視線が集中した。
一体どうしてそんなことを言うのか、と。
だが、彼の場合はとんでもなく重い事案が隠れている可能性がある。
理由は聞いておいた方が良いかもしれない。場合によっては動く必要がある。
「あっ、その……深い、理由はなくて……その……」
……でも、そういうわけではないらしい。
ラウダは心の底から「こっちを見ないで欲しい」、「聞かないで欲しい」と言わんばかりに俯く。
誰とも視線を合わせないようにしている。なんか、顔が赤い。
俺は考えた。
どうして彼は剣にこだわっているのかと。
どうして、その理由を言いたくないのかと。
多分この間、ラウダ本人以外は全員考えていた。
考え抜いた結果——本当にこれだとしたら、明後日の方向に情緒が乱れそうな結論に至った。
「……。多分、皆が考えてるので、合ってる……」
マジで!?
マジでこれ!? 嘘だろ!?
口に出したくなった。
口に出したくなったが、万が一違ったら申し訳なさすぎる。
——そして多分、全員が同じことを考えた。
誰も何も言わない。耐えている。
言わないがゆえに、全員が耐えているがゆえに、ラウダは『自分で』言うしかなくなった。
「その、ほら……け、剣って恰好良いじゃん……だから……その……」
「ん゛っ」
「オルフェウス殿下!!」
「ごめん! 庇護欲的な何かが……!」
「庇護欲的な何か!?」
だって! 普通に年相応で可愛いじゃないか!!
そうだよな、この子、男子高校生だもんな!!
男子高校生なら、格好良いものに惹かれるよな!!
実用性とかそういうのよりも前に、そういうのに目が行くよな!! 分かる分かる!!
「うぅ……」
「俺も! 俺もそういうのあるから!!」
「私もあるよ!!」
「自分だってありますよ!!」
——そして、現役男子高校生たちによる『ラウダをフォローする会』が発足してしまった。
「ほ、ほら、あれ、あれだよ。俺が髪伸ばしてる理由は話したよな? 意味もなく髪伸ばしてる理由は話したよな? だ、だから、気持ちは分かるっつーか……」
そうだった。
アリオーソも似たような案件持ってた。
まあ、『やってみたけど向いてない』とはちょっと方向性違うんだけどさ!!
「えっと、わ、私は、騎乗戦恰好良いなって思って、やってみたんだよね……!」
シベリウス! 君の場合は『格好良いと思ってやったら、できちゃった☆』なんだよ!!
それはフォローになってない!! 何なら傷口に塩どころかカラシとワサビだ!!
「自分もちょっと分かるっすよ。本当はアリオーソ先輩みたいな正統派な長剣使いたかったっすもん……筋肉が付きにくい体質だったんで、諦めただけで……」
バセットのそれはちょっと穿った気持ちで見たくなったけど、寮で食事取るようになってからも変わってないなら多分信じて良いな!? 信じるぞ!!
「……」
一通り喋った後、何とも言えない空気になった後。
……彼らは、一斉にこっちを向いた。
「オルフェ、お前も何か1つくらいあるだろ?」
「え?」
「私たちは全員言ったよ? 次は兄さんの番だよね?」
「え、えっと……」
「さ、流石に抜け駆けは良くないと思います!!」
——ごめん、オルフェウス!!
「く……暗い色合いの髪に憧れて、小さい頃に墨被ったことはある……あと、その流れで認識阻害魔法めちゃくちゃ練習したし、割と最近まで諦めてなかった……数年頑張ってたけど、あんまり向いてなかった……」
「ん゛っ」
「誰だ!? 今、笑ったのは!?」
そう、オルフェウスにも、ちゃんと変なのがあった。
俺は1つだけ知ってたんだ。昔、オルフェウスの得意な魔法を探った時に関連して出てきたんだ。
5歳くらいの時に『暗い色合いの髪に憧れて墨を被った』っていう黒歴史が!!
相変わらず負の感情は無かったけど、絶対にそうだろって思ったから言った。
違っても違わなくてもマジでごめん、オルフェウス。
……そして皮肉すぎることに、ラウダの案件に一番近いのがオルフェウスの黒歴史だった。
めちゃくちゃ顔を隠しながら、アリオーソは酷く声を震わせながら喋った。
「言われてみれば、ちっせぇ時にオルフェにめちゃくちゃ髪引っ張られたわ……単純に髪がなげぇから引っ張られてんだと思ったら……ま、認識阻害魔法ってか隠密魔法はことごとく評価されねぇから良かったんじゃね? 学園成績的な意味で」
「もうやめて……」
——オルフェウスに、あまりにも申し訳なさすぎるから。




