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待って悪役令嬢! 俺、このゲーム知らない!!  作者: 逢月 悠希
3.どうしてこうなった 〜第3学年前編〜

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42.革命勧誘と謎の鍵

 各々が用事を済ませる頃には、日が落ちて静かになっていた。

 この時間になると、学園内を行き交う人々はかなり少なくなっている。


 それを見計らって、俺たちは貴族用会議室に集合した。

 昔は図書室を利用していたなぁと思うと同時、結果的には良かったとはいえラウダに観測される事件を起こしたり、後々判明したけどコラーレ兄弟に遠くから覗き見されていたりと、あの場所での会議は結構問題があった。……我ながら、アホだったなと思う。


 そんなこんなで、現在の関係者は9人。

 転生者会議は相変わらず温室コンサバトリーを利用しているけれど、シベリウスが学園内に乗り込んできた事件以降は貴族用会議室を使っている。


 ——そもそも、貴族用会議室を使う案を出してきたのは当時15歳、しかも入学前のシベリウスだ。


 可愛い弟であることには変わりはないんだけど、シベリウスは多分、入学までの間に自分の能力をさらに磨き上げてきたんだと思う。

 リュートが脱獄した事件の影響でしばらく離れていたからこそ、彼の成長には目を見張るものがあった。


 俺はシベリウスが机を動かすのを手伝いつつ、幼さの残る横顔を眺める。


「兄さん、どうしたの?」


「この場所を使おうって言い出したのは君だったなーって思い出してたんだよね」


「……1年前に貰ったあの手紙、まだ取ってるから」


 それは、シベリウスをこれ以上置き去りにするのはよろしくないだろうと判断して「こういう状況だから、ここから先は手伝って欲しい! よろしく!」的なノリで送りつけた手紙のことだ。

 彼は手紙が届くと同時に、護衛の類をすべて振り切って学園に乗り込んできた。……あの時はシベリウス本人を含めて、関係者各位に申し訳なくなった。


「諸々落ち着いたら、改めて自分がどんな手紙送りつけたかを客観視したら良いよ。本当に酷いから」


「あっ、あっ、そうだ! 入学してしばらく経つけど、講義はついていけてる?」


「剣術演習だけは余裕」


「試験前に聞きにおいで。いや、早めに聞きにおいで」


「ありがとう。……それはそれとして手紙は読んでもらうから」


「ごめんなさい」


 ……勝てる気が、しない。

 シベリウスは勉強と魔法はちょっと苦手だけど、頭の回転がとにかく速いし、洞察力もある。

 さらに言えば、彼は王国騎士団から一目置かれる程度には剣術に秀でている。それこそ、王族だというのに騎乗戦の類も普通にこなせてしまうらしい。

 オルフェウスも学年成績の二番手を取れる程度には剣術に長けてはいるけれど、それでも身体的な能力だけなら明らかにシベリウスの方が上だ。


 今日のシーン再現で、改めて思った——この弟が剝製製造機になること自体が、もはや恐怖でしかない。


 でも、これって『病まなかったからこうなった』のレベルの話ではないと思う。

 なにしろ14歳の時点で、シベリウスがこんな感じに育つ片鱗(へんりん)は普通にあった。

 明里さんの言う通り、ここまでの能力を一切開示しないとは思えない。


 し(・)ご(・)で(・)き(・)シベリウスは、ちらりとコラーレ兄弟に視線を向けて、口を開いた。


「今日は不穏な物が届いていることに関する情報共有、でしたね。……ラウダの件は聞いてたけど、先生方のところにも届いていたそうですね」


 コラーレ兄弟はとにかく申し訳なさそうにしているけど、彼らは何も悪くない。

 俺たち側から指摘しないと存在を忘却していただけだから、本当に悪くない。


 悪くないどころか、本来はそれで良かったのだ。

 ……ただ、話が変わってきただけだ。


 そうしてくっ付けたテーブルの上に、コラーレ兄弟が持ってきた地図を広げた。


 クレメンティ先生はバセットを一瞥した後、口を開く。


「貴族相手に強気に出られなくて不便だと思ったことはある。それでもわたしたちは、自分たちが平民であることを、そこまで気にしていなかったんだ」


 彼が自宅で負わされていた傷について、言及できなかった。

 強いて言えばそれだけだ。ゆえに、存在を忘却していた。


「だから、真面目に読んでいなくてね。……扱いも適当で、申し訳ない」


 広げられた地図は王都のものだ。だが、今使っているものではない。

 オルフェウスの記憶によると、これは200年くらい前の地形を示すもののようだ。


 コラーレ兄弟がこの地図と、手紙が入った封筒を受け取ったのは2年前らしい。

 変なところにシワが付いている。……捨てていなかったことが奇跡だと言いたいほど、適当に投げられていたみたいだ。


 いや、彼らだからこそ捨てずに持っていたんだと思う。俺なら捨てる。

 手紙に書いてあった文言を含めて、胡散臭すぎるから即座に捨てる。


 ……そんな風に思ってしまうのは、『オルフェウスが平民じゃないから』かもしれないけど。


 ジェズアルド先生は、数枚に渡る手紙を地図の上に置いた。


「我々の能力については両親と兄が知ってはいるが、それ以上は言いふらしていない。どこから引っ張ってきたのか分からない能力だということもあって、コラーレ家の中でも禁忌事項として扱われていた。一家総出で調べてはみたが、前例のない事例のようでな」


 コラーレ家は医療従事者の家系らしい。

 彼らに限らず、遡っていっても似たような感じの職につくケースが多かったそうだ。

 ……という感じに、ガッツリ手に職をつけるタイプの一族だ。


 一族の中で魔力を持って生まれてきた人間は、ゼロとまでは言わないがごく少数。

 強いて言えば、元から少し双子が生まれやすい傾向はあったらしい。だが、いずれも彼らのように得体のしれない特殊能力を持ってはいなかった。きっと能力が判明した時には大騒ぎになったことだろう。


「平民だろうと、魔力持ちの場合は暴走を防ぐために軽い訓練をすることになる。とはいえ、我々の場合は単独だと魔力が多いだけの謎人間だ。揃っていると変なことになること含め、噂が広まると確実に面倒事を招く。

 だから家に師を招く形で、そこそこ本格的な訓練をしていた。その訓練の様子を見られたか、師が言いふらしてしまったのか……どちらにせよ我々の能力を知っていれば、声を掛けられるのは当然のことだろうな」


 ——革命軍への勧誘。


 ラウダが告発してきた案件が、コラーレ兄弟にも該当していた。

 彼らの共通項は平民であり、規格外の能力を持つこと。

 まさかと思って聞いてみたところ、勧誘の手紙と謎の地図が出てきてしまったのだ。


「2年前なら、オレと同じくらいの時期に届いてたんだろうなーって思うんだけど……あ、オレの方も出しとくね」


 ラウダが懐から取り出した便箋と、コラーレ兄弟が机に置いている便箋は全く同じデザインをしている。

 ……これは、同じような形で勧誘を受けている人間が他にもいると判断して良さそうだ。


 そしてラウダは封筒に入っていたという鍵も一緒に置いた。

 地図も大概に意味が分からないが、一体どこの鍵なのか? 本人も言ってたけど、鍵だけ渡されても困るだろうに……って思ってたら、アリオーソが、ポツポツと何かを呟き始めた。


「前に見せて貰った保管室の鍵に似ている気がするが、入っている紋章が違う。魔導士団の物とも違う。いっそ見せた方が……いや、革命軍絡みなら、下手に口外しない方が……」


「……」


 対人スキルに特化した少年のおかげで、少なくとも王国騎士団と王国魔導士団が今現在使っている保管室の鍵とは違うことは分かった。


 ——本当に、突けば突くだけボロボロ情報を吐き出してくれる少年だな!?


 百歩譲って騎士団側の保管室の方はともかく、所属してない魔導士団の保管室の鍵のデザインをなんで把握してるんだよ! さては魔導士団の管理者と普通に交流してるな!?


「……」


 とりあえず俺は、アリオーソが気にしている鍵の紋章をじっくり見ることにした。


 確かに、随分と細かい意匠が入っている。

 なんだろう。波のようなデザインに見える。


 これを根拠に、オルフェウスの記憶を辿る。

 革命の話だ。そうなってくると……200年前に、何かしら関係している気がする。


 何かあったか?

 分からない?

 残念! 終了!!


 ……ってわけにはいかないから、真面目に考えよう。


「まずは200年以内に家紋を変えた貴族と、爵位を剥奪された一族の家紋を片っ端から調べるところから、かな。……家紋っぽいデザインしてるし」


 家紋のようなデザインをしている時点で、最初にやるべき行動はそれだろう。

 これでもかと調べ回る必要がありそうだ……というのもオルフェウスの記憶を覗いた結果、「これは自信が無いです」って感じだったからだ。


 やはり彼も人間と言うべきだろうか。オルフェウスの記憶も万能では無くて、時々変な抜けがあったり、かなり意識して引っ張り出さないと分からない情報が混ざっている。

 それこそ、リュートに関する情報はことごとくそうだ。何となく彼について考えること自体を身体が拒否しているような感じがするから、極力考えないようにしている。だから俺は、リュートに関する情報は現時点ではそこまで持っていない。


 ——それはそれとして、家紋に関しては「自信が無い」どころの騒ぎじゃなかった。


 どうもオルフェウス、デザインの類を覚えるのは苦手だったらしい。

 要するに……とんでもなく、あやふやだった。


 家紋って封蝋的なアレで使うんじゃなかったっけ?

 それなのに、現代の貴族でもちょいちょい怪しいぞ?


 急にオルフェウスが人間らしさを発揮してきた。今回の事案は、彼には一切頼れない。

 だからと言って考えないわけにはいかないため、俺は目の前の鍵にそっと手を伸ばした。

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