40.定番の闇堕ち枠
誤字報告、いつも本当に助かってます。
申し訳ありません……。
「……んじゃ、話すかね」
アリオーソは宝石を加工して作ったピアスを外し、机の上に置いた。
とんでもなく便利なことに、これは身体から離すとスマホでいうスピーカー機能が発動する。
元々、彼は騎士団員としてこれを使っていたから、使い方を熟知していた。
そして……本当に、本当に嫌なことに。
ラウダからの連絡だった。
『ごめん、急に。早めに連絡した方が良いと思って』
早めにとか言うな。嫌な予感しかしない。
もう絶望的なレベルで、嫌な予感しか、しない。
『母さんがさ、オレが入学して半年くらいのタイミングで変な手紙受け取ってて。内容がヤバいというか、普通に国が滅びそうな案件、というか』
「……」
ほらー!!
『あの……』
……って、黙り込みは良くない。
俺はどストレートにラウダに質問することにした。
「革命勧誘?」
『わ、すごい。……天啓?』
「その、僕はふわっとしか知らないんだけど……うん」
厳密に言うと、ある。
間違いなく、ある。
俺はリュートが革命に絡みまくっていることを知っている。
でも詳細を聞かれると厳しい。
明里さんも奏音ちゃんもいない状況で、詳細を聞かれたくない。
だからひとまず、この場は誤魔化すことにした。
純粋に疑問を返すことにした。
「なんで、今それが……?」
そう、届いたタイミングが意味不明すぎる。
ラウダ側もこの質問が来ることは察していたようで、ノータイムで答えを返してきた。
『どうもね、なんか学園には送らず、手紙の存在も伝えず、オレが帰ってきたタイミングで渡して欲しいって言われたみたいなんだ。なのにオレがなかなか帰らないから、困ってたみたいで』
「そ、そっか……」
『やっと帰ってきたー、やっと渡せるーってなったみたい。……まあ、読んだ瞬間にそういうわけの分からない事態になった理由が分かったよね』
一拍の、間。
そうしてラウダは、話を続ける。
『この国はもう駄目だ。一から作り直すしかない。だから、君の力を借りたい。どうか力を貸してくれ。神に選ばれし君に、革命の旗頭になって欲しい。いつか必ず、迎えに行く。その時は共に、腐ったこの国を滅ぼそう』
「え……?」
『……。今のはね、オレが2年前、助けてもらった時に言われた言葉』
彼は小さく「ごめんなさい」と呟く。
『あなたたちに助けてもらうまでは、正直、これを支えにして耐えてた。……なんでかな? 大火傷まで負わされたってのに、当時は『実家に帰る』って選択肢がオレの中には存在してなかったんだ』
たまたま、事前に話を聞いていた。
だからこそ、彼の話が分かる。
それは恐らく、アリオーソも同様だ。
この子も、ラウダの事情を知っていたんだと思う。
『だから『早く迎えに来て』って、……心のどこかで、ずっと思ってた』
……そのせいで、俺たちは何も言えなかった。
俺たちの心境が分かってるんだと思う。
ラウダはそのまま、流すように話を続けた。
『オレ側が色々と滅茶苦茶だったから、言ってくれた人の顔は見れてない。でも、手紙に書いてある内容は全く同じだったし、時期的な意味でも……あの時、助けてくれた人はこの人なんだって確信した』
カサリ、と。
向こう側で小さく紙の音がした。
『手紙の差出人は、リュート・ベリーニ・ラヴェル。……流石のオレも、毒殺未遂事件起こした人間の名前くらいは知ってる。あの事件は革命の始まりを示してたんだろうなって、理解したよ。まあ、おかげで酷い目に遭ったけど……』
ラウダは電話の向こうで、「ふふ」と小さく笑った。
『この状況であえて言うけど、オレはこの計画に乗ってた可能性があるよ。時期的にも、相当に精神やられてたし。……手紙は休学か退学を想定して置いてったんじゃないかな』
ラウダは心無い貴族のせいで、心身共に深刻な傷を負っていた。
ただ、彼が平民だったから。……そんな、くだらない理由で。
通常ルートだろうが裏ルートだろうが、ラウダのその過去は変わらない。
その時点で、彼には革命軍側に堕ちる理由が存在する。
『やっちゃ駄目なのは、手を取っちゃいけないのは、当然分かってる。でも、申し訳ないけどさ。ヴィオレッタ様が未来を変えていなければ、あなたたちが助けてくれなかったら、天啓が無ければ。……どこかのタイミングで、理性が負けちゃってたかも』
ゲームでラウダが実家に帰れていたのかは分からない。
だが、彼が帰ろうが帰らなかろうが、結末はきっと、変わらない。
ラウダは手紙以前に、リュートに口頭で唆されているからだ。
理性を保ち切れるか保ち切れないか。
……国を滅ぼすか、滅ぼさないか。
決して笑えない『殺戮魔王』の真相を理解しつつ、俺は口を開いた。
「ありがとう、教えてくれて」
ラウダがこれを話してくれたのは、革命軍側には堕ちないという意思の表れでしかない。
本人が自覚しているのかどうかは分からないが、その決意を聞かせてくれたことが素直に嬉しかった。
『んー、ありがとうも何も、あなたたちに話すのは当然のことだって思ってる。……その、安心して欲しいな。手紙読んだ瞬間のオレの感想は『乗るかバーカ』だったからさ』
「ははっ、そう言ってもらえると嬉しいな」
『とりあえず、諸々学園に持って帰る。えーと……シベリウス殿下の天啓再現があるんだっけ? それ終わってから全体共有ができたら良いかなって思ってるよ』
「そうだね。連絡回しとく」
『お願い』
これは間違いなく、革命軍側の誤算だ。
いくらリュートでも、ラウダが王族や高位貴族と深く関わる存在になるとは思っていなかっただろう。
そうでなければ、革命の旗頭に彼を選ぶことはなかっただろうから。
——ただ、ここで大問題が発生している。
『あと、何か鍵が入ってたんだよね。何の鍵なのかはさっぱりだから、これも学園帰った時に見せるね』
「……」
『謎解きでも仕掛けてきてるのかなぁ。迎えに来た時に教えるつもりだったのかも。まあ、今のオレの状況知ってるなら迎えに来る気はないだろうけど。……あ、もしかすると本当は追加で色々送りつけるつもりだったのかもね。オレ目線だと、鍵だけ渡されても困るし』
……本当にラウダが『下手な貴族より放置するとヤバい平民』と化してしまった。
本人はポヤポヤしているが、そういう状況じゃない。
事情を理解していないのだから仕方ないとはいえ、彼は自分の価値を分かってなさすぎる。
何なら彼の家族ごとガッツリ守らないとヤバいかもしれない。
そこに手を出されたら『乗るかバーカ』を光の速さで撤回されかねない。
でも露骨な行動をすれば、ろくなことにならないのは目に見えている!
俺はこめかみをぐりぐり刺激し始めた。
……もう、胃が痛い。
「君の実家があるエリアは定期的に見回り行かせようと思う。うん、重点的に行かせるね」
『良いの? 念のため全力で結界張って帰るつもりだったけど、そうして貰えるとありがたいな』
とりあえず、元々強化していた見回りをさらに強化しよう。
そしてアリオーソも、遠い目をして口を開く。
「お前に関しては一応、俺も迎えに行くわ。帰りもバセットが同行するんだろうが、一応行くわ」
『えっ、そこまでしなくても……バセット様だけでもびっくりしたのに……』
「良いから大人しく従え。共有目的で早く帰るとかそういうのは良いから、のんびり予定通り過ごせ。良いな?」
『う、うん……えっと、ありがとう……?』
「明日の夜7時だったな? 間違いないな? 家を出るのがその時間か?」
『家出るのは5時のつもりだったんだけど……結構、距離あるし……』
「あー……聞いといて良かったわ……5時な? 分かった。5時にそっち行く。俺が行くまで動くな」
『なんで……?』
「良いから動くな。勝手に動くな」
『えぇ……?』
段々可哀想になってきたけれど、これはちょっと譲れない。
王家の落胤疑惑と先祖返り疑惑の少年を放置するのはリスクが高すぎる。
——ついでに、ゲームの設定的な意味でもヤバすぎる。
そうだよな。
これ、鬱ゲーだもんな。そうなると定番だよな、闇堕ち枠。
全員最初から闇堕ちしてるから忘れてた。
今だからこそ、分かる。
俗に言う『なつき進化』するタイプだからこそ、追い闇堕ちさせるならラウダだよな。
マジで制作チームは手叩いて爆笑しながら、プレイヤーのメンタルをズタズタにするためのプログラム組んだんだろな。攻略対象に劇物を混ぜるな!!
初手でラウダを光落ちさせると決めた明里さんは天才だと思う。
あの子のファインプレー記録が更新されたな。
とにかく「勝手に動くな」と念押しした後、連絡を切る。
アリオーソは心底疲れたと言わんばかりに深々とため息を吐き出した。
「良いか? お前も余計なことすんなよ。ラウダが捕まるのもやべぇが、お前が捕まるのはもっとやべぇんだからな」
「流石に分かってる……」
本格的にアリオーソのライフワークバランスが心配になってきた。
彼のためにも、脱走を企てるのはやめよう。……俺は固く、決意した。
まあ、原作が乙女ゲームな時点でラウダどころか攻略対象全員『なつき進化』枠だと思うんですけどね。
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