34.ファンレターの群れが現れた!
※3人だけ(実質2人)盛大に書き忘れていた容姿補足※
⑴ 初登場回に書き足してきましたが、ラウダの髪は短いです。前下がりショートボブ(前が長めで後ろが短め)っぽい感じです。
⑵ 同じく書き足してきましたが、コラーレ兄弟の瞳は琥珀色です。ほくろの位置以外は割と兄弟共通です。
突然、手紙の群れが現れてしまった——。
「なんでふたりが、そんなものを……」
「私か奏音ちゃんに渡したら届けてもらえると思ったのかと。私たちは『謎の移動劇団』の共同監督か何かだと思われてるみたいで……直接受け取るのも大変なので、試しに箱を置いてみたんです。そしたら、こんなことに……」
「あたしもそうです! 同じことやって、同じことになりました!」
「そんなバカな……」
明里さんと奏音ちゃんが、いつの間にか変な窓口にされていた。
ふたりはそれぞれ事前にざっくりと分類分けをしてくれていたみたいで、既に分類分けしたものを互いに重ねていき、束を完成させていく。
明里さんは気まずそうに笑いながら、俺にファンレターの束を渡してくれた。
……何故か、ヴィオレッタ宛のものを。
「アレなのは見なかったことにするとして、ファンレターの類は皆さんにお届けする感じで良いですか?」
「アレなの? ……あ」
「ヴィオレッタが、もうダントツで酷くて……」
明里さんによる悪役令嬢演技への賞賛が多いんだけど、チラチラと『私を罵ってください』的なメッセージが混ざっている。
あの迫真の演技が貴族の御子息と御息女に、ダメなタイプの性癖を開花させてしまった可能性がある——見なかったことに、すべきだろう。色んな意味で。
次は奏音ちゃんがシベリウス宛のものを差し出してきた。
「シベリウスも面白いんですよね、『どうしてあなたの良さを消すような役を演じてるんですか?』的なのが多くて多くて。シベリウスって出番が少ない上に、セリフも少ないですからね」
「分かる。本当に分かる。出番があまり無いからこそ、裏方で『しごでき』っぷりを発揮してくれるから助かるんだけどさ」
ファンレターを見る。
彼に関しては、どちらかと言うと走り回りに走り回って演出を彩っている姿に対する称賛が多い。
普段の堂々とした姿とは真逆の方向を走り抜いている演技の評価もあるにはあるんだけど、一定数『マネージャーついでに演者してます?』って書いてあって笑った。
違うんだ、信じられないと思うけど、違うんだ。
俺も未だに『シベリウスは本来アレ』っていう事実が信じられないけど。
あの顔の良いしごできが引きこもりコミュ障って事実が本当に信じられないけど。
「あ……そうだ」
流れ的にちょうどいい。
俺は奏音ちゃんに気になっていたことを聞くことにした。
「奏音ちゃんを……というか、『セレナ』を蔑むようなのはない? 大丈夫?」
第1学年、それも孤児院出身のセレナが王族と一緒に動いている様を全員が全員良いように受け取っているとは正直思えない。嫌がらせのような真似をされていないかは不安だった。
奏音ちゃんはターコイズブルーの瞳を丸くして瞬きを繰り返した後、へにゃりと笑う。
「まあ、裏で不満持ってる人はいるかもですが、少なくとも今のところは大丈夫ですね」
「そっか……」
「そもそも移動劇団は『聖なる力って存在を聞いたヴィオレッタに声を掛けられて、意気投合して周りを巻き込んで一緒に遊び始めた』って設定ですし、治癒の力はセレナにしか使えないので、不満の言いようがないのかもです」
幸い、現状それは無いらしい。彼女の表情を見るに、安心して良さそうだ。
……というより、公爵令嬢の友人に手を出す馬鹿はいないとも言える。ラウダ理論と同じだ。
「あたし、というかセレナ宛は『聖なる力が見てみたいです。良かったら役に組み込んでください。組み込みますよね!?』とか『入学してすぐにヒロイン抜擢されてるのすごいですね! でも納得です、演技上手いし、何より可愛いから!!』みたいなの来てます」
誤魔化してるのかと思ったけど、顔をほんのり赤くして照れてる。
この感じなら、大丈夫かな。……良かった。
「ん……?」
そして俺は、明らかに積み重なりすぎている2つの山に目を向けた。
「それは?」
「アリオーソとバセット宛のファンレターですね」
「ん゛ん゛っ」
——愉快すぎる。
確かにあのふたりは、普段の姿とのギャップがすごすぎて見惚れる。
しかも現時点だと飛び抜けて出番が多いから仕方がない。
明里さんは、片方の山を指で指し示した。
「アリオーソは限界オタクみたいなのが多数湧いてます」
「知ってた」
プレイヤーキラーが見学者もキラーしてる。ギャップが凄いからな。
ついでに言えば顔が良いからな。なにせ乙女ゲームの攻略対象だからな。
そしてよく考えたら、アリオーソって高身長の騎士だ。
圧を感じさせないために、普段の振る舞いには細心の注意を払っているんだろうなって思った。
演技中はそれを完全に解放するんだから、そりゃ大迫力にもなるよな。
もうあの子に関しては、黙って立ってるだけでもスタンディングオベーションだからな。
……ずるくないか?
奏音ちゃんは、スッと1枚のファンレターを手に取った。
「変化球で『アリオーソ様が王国騎士団に所属しているのは当然知っていましたが、だからこその迫力なのでしょうか。兄にも見習って欲しいです。同じく王国騎士団に所属しているのに、兄には全くと言って良いほど迫力がありません。威厳もありません。格好良くないです。』っていうのが」
「やめてあげて」
どこかの兄が吊し上げられた。
頑張ってくれ、どこかの兄。
明里さんはもうひとつの山について話す。
「バセットは優等生のチャラ男演技に魅せられた人たちが湧いてます。演技力大絶賛です」
「だ、だろうね……」
バセットはバセットでスタンディングオベーションが起こりがちだ。
仕方ない。どこか影のある遊び人属性は割といつの時代も人気だからだ。
勝手な印象だけど、あの手のタイプは財力を持つお姉さんを虜にするイメージがある。
油断して沼に落ちて帰ってこれなくなった子たちが多数いそうだ。
現実のバセットは『素が優等生』っていう属性が引っ付いてくる。そのギャップのせいで、さぞかし沼も深いだろう。道を踏み外さない程度に沈んだら良いと思う。……頼むから踏み外すなよ?
ただ、と明里さんは眉尻を下げて笑う。
「そこそこありましたが、『女の子で遊び慣れてる感じがすごく良いです! 私の肩も抱いて欲しいと思っちゃいました!』とか『バセット様って、いつ見ても本当に恰好良いですよね! キラキラしてます! 最高です!!』みたいなのは片っ端からお焚き上げすべきかなって」
「うーん、そうしよう。ファンレターくれた子には悪いけど、本人は派手な容姿をかなり気にしてるみたいだし……容姿とかその辺に触れてるのは、ちょっと……」
基本的に好意的な評価なのは分かっているが、実際のところはあまりよろしくはない。
バセットに見せるべきではないだろう。顔が良いのは分かるんだけどね……アイドルっぽいもんな……。
そして面白いことに——多分、ファンレターは全員分ある。
紙に囲まれた明里さんは、今度は違う束を指し示した。
「ラウダに関しては『第1学年の時の話は噂でちょっと聞いてますが、ひとりだけノンフィクション気味ですよね?』が多数でしたね」
「まあ、そうだよな。客観的に見ても気になるかぁ……」
第1学年の時のラウダはオルフェウスと張り合えるだけの実力を隠してるわ、平民デバフをとっぱらった結果、年度途中のクラス編入決めてくるわで相当に目立ったからね。
そりゃ諸々の現場に居合わせてなくても、大体のことは知ってるよね。それこそ、わざわざ調べた子もいそうだしね。……例のごとくラウダも顔が良いし。
第1学年時の件については同じクラスの子なんかは一定数ちょっとじゃ済まないレベルで誰かから聞いてると思うし、ノンフィクション気味だって分かるのも無理はない。
内容によっては破棄すべきだろうなって思っていたけど、明里さんはスッとファンレターを1枚差し出してきた。
「でも馬鹿にしているわけじゃなくて『だからこそ、見ていると勇気が湧いてきます。辛い時もあると思いますが、どうか無理せず頑張ってください。』みたいなのばかりですね。なので、渡しても大丈夫なんじゃないかなって思ってます」
「……そうだね」
ただひたすらに、優しい言葉が並んでいた。
これなら大丈夫な気がする。
そんなことを考えていると、もはやラジオのパーソナリティ状態になっている奏音ちゃんが苦笑しながら紙を手に取った。
「別枠で『魔法教えてください。落第しそうです。助けてください。お願いします、お願いします。』みたいなのもそこそこ来てます」
「むしろラウダに聞くのは悪手だぞ。多分、殺戮魔王の因子って名前の才能で上からぶん殴ってくるぞ」
平和なら平和で良い。むしろ良かった。
現状、ラウダのイベントは割と飛ばしてるし、彼の場合は見学者がいない夜間にイベントが発生することも多い。
あんまり出番がない以上、ファンレターが24時間テレビのチャリティーランナーに届いてそうな応援メッセージと救援要請になるのは当然かもしれない。今の時点でこれなら、出番増えたら一体どうなるんだ?
……となると、
「コラーレ兄弟のファンレターはファンレターとして機能してるのか?」
彼らは顔の良さでは誤魔化しきれないレベルでヤバい上に密室イベントが多すぎる。
そのせいで見学者がいない(というか見学者を追い出している)ケースが大半を占めている。
一体どうなっているのかと思えば、案の定、かなり愉快なことになっているらしい。
奏音ちゃんは、吹き出しそうになりながら語り始めた。
「『教員枠当選おめでとうございます。ところであなた方の見分け方を教えてください。レポート出す時に毎回困ってます。良かったら髪型とか服装を変えてください。お願いします、見分けるためのポイントを作ってください。』みたいなのが多数」
「笑う」
そうして彼女は、再びラジオパーソナリティを開始した。
「『クレメンティ先生へ。多分新種の薬草を見つけました。ご確認ください。』……ってことで、現物が一緒についてます」
「直接持って行けよ」
「『ジェズアルド先生へ。医学の第5回講義、終盤の内容が自信無いです。私の解釈が合っているかどうか、今度相談しに行っても良いですか?』」
「自分で聞けよ」
「『チェロ草と間違えてコントラバス草を食べた気がします。ずっと身体が痒いです。どうしたら良いですか?』」
「手紙出してないでさっさと然るべき場所に行けよ!」
緊急性が高そうな奴はあとで優先配送しよう。
劇団監督たちをポストにしないで欲しい。
そして俺は、気づいた。
触れられていない束がある。そこそこ、ある。
「最後のそれ、オルフェウス宛か……?」
「はい」
問えば、明里さんはニコリと笑って俺に束を差し出してきた。
【Tips:ゲームにおけるバセット攻略】
攻略対象内で唯一「入学前からセレナのことを知っていて、なおかつ好感を持っていた」という特殊事例を持っているキャラ。そのため愛情でぶん殴るとコロッといく。初期好感度がちょっと高めなのが大きい。
とはいえイエスマンを求めているわけではないため、彼が作中でやらかすあれやらこれやらに関してはきっちり絞める(咎める)必要がある。
……そうしなければ倫理観を完全に失って磔にされるという面倒な側面がある。
だからこそ、常識の範囲内で可愛がっていれば落ちると言い切れる。アリオーソ同様に割とプレイヤーの感性と一致することが多いため、とにかく攻略しやすいキャラクター。




