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待って悪役令嬢! 俺、このゲーム知らない!!  作者: 逢月 悠希
3.どうしてこうなった 〜第3学年前編〜

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33/65

33.こんなこと聞きたくなかった

 もはや人払いなんて微塵も必要なくなった温室コンサバトリーでの転生者会議。

 今回は俺、明里さん、奏音ちゃんがそれぞれ議題を持ち寄るような形で集まることになった。


 ……明里さんと奏音ちゃんが大量に紙を持っているのがすごく気になるんだけど、最年長ってことでトップバッターにされてしまった。


「えーと、そのー……」


 でも言いにくい。ちょっと言いにくい。

 何せ、案件の片方はふたりの最推し(アリオーソ)絡みの話だ。解釈違いで殴られたらどうしよう。


 とはいえ、黙っていては何も始まらない。

 覚悟を決めて、俺は口を開いた。


「なあ、『鳥セレ』って、び、BLエンド的なのとか……ある……?」


 言いたくなかった。

 心底言いたくなかった。


 まんまるになった赤紫の瞳とターコイズブルーの瞳を見ていると「冗談だ」と言いたくて言いたくて仕方がなかった。


 俺がどうしようもなくなって質問したことは分かってくれたみたいで、明里さんは困ったように笑ってくれた。


「多分無いかと。でも二次創作だと『アリオル』が最大手だって聞いたことがあります。内容は知りませんが鳥セレですし、アリオーソのバッドエンド的にオルフェウスが監……」


「やめてそれ聞きたくないやめてやめてやめて」


 違うんだ。

 確かにアリオーソが関わってるんだけど、違うんだ。


 そして俺が今入っている肉体はオルフェウスなんだ。色んな意味でやめてくれ。

 一応、『裏ルート』でその類の展開が発生していないかが気になった俺は、続けて奏音ちゃんを見る。


「んー、完全に分かんない奴を除いて考えたら……強いて言えば、コラーレ兄弟の裏バッドエンドで発生する可能性はあるかもです。バセットはそれっぽい流れが一切なかったので、多分無いかなって思うので」


「そ、そうか……」


「ただ、二次創作だとコラーレ兄弟とオルフェウスのカップリングが割とありま——」


「なんでそういうこと言うんだよやめてやめてやめて」


 明里さんはともかく、奏音ちゃんは絶対に確(・)信(・)犯(・)だ!

 俺が嫌がるって分かってやってきたな!? 許さない!!


 それはそれとして……困ったことに、もう片方はコラーレ兄弟絡みの相談だ。

 しれっとコラーレ兄弟がやらかしているんだ。洒落にならない。本当に勘弁してくれ。


「そうですね、他には……」


「やめてやめてやめて」


 これは油断するとシベリウス辺りの名前が出かねない。

 シベリウスのそれ系話題は聞きたくない。あの子はオルフェウスの可愛い弟だ。

 ……そうなる前にと、即座に俺は口を開いた。


「ひとつめ。アリオーソがラウダを貴族寮ってか、自分の部屋に連れて行きたがってる。理由はラウダのメンタルが果てしなく心配だから。最近はあの優等生、講義中に寝落ちするレベルで夜寝れてないっぽい。

 アリオーソはシーン再現計画の言い出しっぺなだけに、かなり責任感じてんだと思う。ラウダだけは役どころもちょっと特殊だしね。あの子だけは今の姿とのギャップがあまりにも無さすぎるし、やっぱりしんどいんだと思う」


 これは今朝、アリオーソが相談してきた案件だ。

 ゲームのシーン再現をすると決まった時点から懸念していたけど、どうやらラウダがトラウマを抉りに抉られているせいで、少しずつ弱り始めているらしい。

 あの子は俺たちの前では見せないけど、同じクラスならそりゃ異変に気づくし、状況を聞きやすいよなって思った。


「何かしらに怯えてるっぽいから、誰かしら一緒にいた方が良いんじゃないかって考えたみたいでさ。実際、ラウダって結果的にずっと1人部屋だし、貴族寮は普通に他の人が泊まれるようにできてるから、物理的な問題は無いし、俺的には妥当な判断かなとも思ってる」


 そもそも形骸化していた上にリュート騒動のせいで今は禁止されているが、昔は貴族寮に侍女の類を連れ込む高位貴族がいたみたいだ。

 その名残りで、貴族寮の部屋はどの部屋もプライバシー配慮が可能な形で数人が寝泊まりできるようになっている。


 俺が城に軟禁されている時期に王国騎士団が学園内調査をした関係で、アリオーソはその辺りのことを知っていたみたいだ。


「……で、勝手に動かず、ラウダにも話を通さず、天啓的にセーフかどうかを俺に確認しにきたんだよ。俺は仮にBLエンドがあるなら多分ヒロインと悪役令嬢は死ぬと判断したから、答える前に相談しにきた」


 このゲームにBLエンドがあるとしたら、もう何かす(・)ご(・)い(・)雑(・)に(・)ヒロインと悪役令嬢が殺されそうだなっていう偏見があった。このゲームは軽率にそういうことをしてくる。

 ゲーム設定的にアリオーソとラウダの組み合わせに関しては絶対にありえないとは思ったけれど、それでも俺は、この鬱ゲーのことを1mmも信用していない。だからこそ、勝手には答えなかった。


 そしてアリオーソのフォローは、とんでもなくありがたい。……殺戮魔王爆誕阻止的な意味で。

 でも、目の前のふたりが雑に殺される可能性が少しでもある時点で勝手な行動はできない。

 俺が何を考えているのか分かっているのか、明里さんは「ありがとうございます」と言って笑う。


「私は良いと思いますよ。実際、ラウダのイベント再現がとんでもなく心配なのは事実ですし、ただでさえバセットが相当に気になる状態なので。……しかもバセットの件は他の攻略対象に相談しにくいですし。その、現実のバセットは心理的な部分の秘匿が酷すぎるので」


「……。ごめん、バセット関連でも似たような話がある」


「あれぇ……?」


 アリオーソは事前相談だったが、こちらは事後報告だ。

 とはいえ、話を聞くと「事後報告でも仕方ない」としか言えなかった。


「コラーレ兄弟がバセット捕まえて研究室という名の教員寮に放り込んでる。理由はバセットが体調崩し倒してるから」


「え……」


「あの兄弟は基本的に単独行動しないのに、ジェズアルド先生がひとりで動き回ってたんだよね。気になって、話を聞いてみたら判明した。どうも、今は手が空いてる方が面倒見てるらしい。

 とにかく熱が下がらないっぽい。ぐったりして食事取るのすら怪しいのに、バセットは実家が実家なせいで、病院行くハードルがかなり高いっぽくてさ」


 厳密には面倒を見ているというよりは『見張っていないと、這ってでも講義に参加するか、無理矢理訓練の類を始めそうだから』という話だった。

 そしてどうも現代日本と同じシステムが採用されているみたいで、寮生とはいえ病院に連れて行くと流石に実家に連絡が行く仕様っぽいし、治療費請求とかはそっちに行くみたい。

 バセットの場合は色んな意味でそれが難しいみたいだし、残念ながら理解できてしまう。早急に入院しなければいけない案件ではないから、とコラーレ兄弟が対応しているみたいだ。


「過労か心労かなーって話なんだけど、こっちもコラーレ兄弟に投げっぱなしで大丈夫かな? 医療関係って意味じゃ、一番頼りになるしさ」


 話を聞いたタイミングでは一瞬『バセットがホルマリン漬けにされたらどうしよう』とは思ったが、今のコラーレ兄弟なら問題無いだろう。

 懸念事項としてはバセットとコラーレ兄弟の裏バッドエンドを奏音ちゃんが回収できてないことだけど、奏音ちゃんは難しい顔をしながらも頷いてくれた。


「バセットに関しては、ここから先で起こしたくないのに普通に起きそうで困ってる要相談イベントがあるんです。むしろ、このタイミングでコラーレ兄弟に頼るようになってくれてた方が良いかもです」


 起こしたくないのに普通に起きそうで困ってるイベント、で急に明里さんが頭を抱えた。


「そ、そうだ……バセットにはア(・)レ(・)がある……!」


 ヤバい。どう考えてもヤバいイベントがあるらしい。

 心底嫌な予感がしつつ、俺は明里さんに説明を求めた。

 すると彼女は、頭を抱えたまま、重々しく口を開いた。


「……。ゲーム的にはだいぶ終盤の方の話なのですが……バセットが庶子だって明確に判明するイベントがあるんです」


「うわ……っ!」


「同じ下位クラスにいる貴族に絡まれて『お前にそっくりな庭師がうちの別荘で働いてるぞ。お前、庭師の子だったんだな。本当に庶子だったんだな、可哀想に』って言われる場面をたまたまセレナが見てしまうって内容なんですけど……」


 ——なんだその悪趣味なイベントは!?


「……。現実のバセットが下位クラスじゃなくて上位クラスにいるのが怖いな。嫉妬心とかでやられなきゃ良いんだけど」


「ですね……」


「見てないとこで勝手に発生する可能性があるし、コラーレ兄弟が程よくバセットの面倒見ててくれないかな……ゲーム本編的にこういうのって、行けそう?」


 そう聞けば、明里さんは首を横に振る。


「現実のコラーレ兄弟はかなり協力的ですし、今の彼らなら医療従事者の性質の方が強く出ているような気がするので、言わなくても勝手にやってくれる気がします。

 でもバセットの方が嫌がって逃げ出す気しかしません。ゲームのバセットは基本形態が単独なので。遭遇する時とイベントの時は確定でひとりで行動してるので。まあ、裏ではモブと一緒にいるのかもですが……」


「あー……」


「本来はシベリウスとラウダは単独行動、逆にオルフェウスとアリオーソ、そしてコラーレ兄弟は離れないを通り越して、ハピエン直前までは基本単独行動しない代わりに他の攻略対象と交流を一切しない感じなんです。全員がゲームとは違う動きをしていますし、頑張れば単独行動型のバセットも団体行動を覚えてくれるかも……?」


 攻略対象が極端な単独行動か極端なペア行動しかしないってどうなってるんだよ。

 せめてバセットはもうずっと女の子と遊んでてくれよ。ゲーム描写が無い場所で遊んでるのかもだけど、チャラ男なら女の子とイチャイチャしててくれよ。

 ずっと女の子とイチャイチャしてるのもどうかとは思うけど、なかなかに重い闇を抱えてるタイプのチャラ男が単独行動するな。悲しくなるだろ。


 ……ていうか、アリオーソが変なところで原型発揮してるな?


 アイツ、現実でも絶対に誰かと一緒にいるな? 

 流石に講義の兼ね合いで別行動になるタイミングはあるけど、基本形態は俺の横だし、そうじゃなかったらほぼほぼラウダと一緒にいるな? 

 とにかく誰か護衛しないと落ち着かないんだな?


 ゲームがゲームなだけにありがたいけど、単独行動して良いんだぞ。

 君は自分の時間も大切にしろよ。ワークライフバランス大事にしろよ。


「ゲームのアリオーソも現実のアリオーソも単独行動しないのが気になってきたんだけど、今回ばかりは甘えようと思う。アリオーソがヤバくなってたら今度はラウダが言ってくると信じたい。俺たちはとにかく、バセットに集中しようか……」


「集中するにしても、バセットだけ学年違うのが痛すぎますね……私たちの視点でも、他の攻略対象の視点でも、どうしてもバセットだけはフォローが届ききらないというか……とはいえ彼は第2学年の中で誰かしらと交流してるとは思いますし、今のバセットなら親友とかいそうですけどね」


 そんな話をしていると、奏音ちゃんが不安げな顔をして呟いた。


「今のバセットでも多分、それこそ親友レベルの関係性を誰かと築くのはかなり難しいタイプだと思いますよ。……まあ、広く浅い付き合いなら、余裕で出来そうですが」


「え……?」


 理由は分からない。

 ——けれど、妙に説得力があった。


 どうして、と聞く前に、奏音ちゃんはゆるゆると首を横に振って笑う。


「気のせいかもなので、気にしないでください! ……それと、」


 彼女は明里さんに目線を向けると同時に身を少し縮こめて、申し訳なさそうに口を開く。


「もし明里さんが良かったら……あたし、明里さんのお部屋に時々上がり込んでも良いですか?」


「えっ? 良いよ? 時々とか言わずに、普通においで?」


 明里さんは何でそんなことを聞くんだろうと言わんばかりに首を傾げていた。

 俺も同じ感情だ。てっきり、もう行っているんだと思ってた。


 奏音ちゃんは「えへへ」と、どこか弱々しく笑う。


「情けないのですが、ひとりになりたくないなって思うことが時々あって。だから、時々で良いんで……」


「ずっと居ようか」


 ——明里さんのカウンターが異様に早かった。


「あ、いや! それは流石に、申し訳ないというか!」


「良いじゃん、オタクトークも心置きなくできるし! 私、小さい頃から『お泊り会』っていうイベントに憧れてたの。だから、やろうよ!」


「えっと……わ、分かりました……?」


 奏音ちゃんの気持ちは分かる。

 ……というか、気づいてあげられなくて申し訳なかった。


 ヒロインのセレナは、とにかく危険な目に遭いまくる存在だ。

 ゲームではなく現実である以上、奏音ちゃんが怖くならないわけがない。


 そもそも、これはアリオーソとコラーレ兄弟の件に釣られる形で吐き出してくれたようなものだ。

 きっかけがなければ、もっと追い詰められるまで黙っていた可能性がある。

 このタイミングで言ってくれて、本当に良かった。


 最終的に明里さんに押し切られた奏音ちゃんは困ったように、それでいて嬉しそうに笑いながら、持っていた紙をテーブルの上に置いた。


「えーと……その、あたしの話、なんですけどね」


 話題を切り替えるつもりらしい。

 奏音ちゃんが置いた紙を見て、明里さんは「あっ」と声を漏らした。


「これ、完全に私と同じ案件だね」


 明里さんも同じように、持っていた紙をテーブルに置く。


「枚数多いし、広げようか。ティーカップ、回収するね」


「すみません、ありがとうございます!」


 俺は机の上にあった空のティーカップを別の場所に置いて、ふたりに紙を広げるように促した——そして、紙から目を背けたくなった。


「嘘だろー……それ、絶対アレじゃん……」


 俺の反応を見て、明里さんはただただ苦笑する。


「ですね。見学者の方々からのファンレターの類と……ご(・)要(・)望(・)ですね……」


 ……もうやだ。

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