↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
待って悪役令嬢! 俺、このゲーム知らない!!  作者: 逢月 悠希
3.どうしてこうなった 〜第3学年前編〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/65

32.見学者に自我が出始めた

 剣術演習。

 今日は学年合同で演習を行っているらしい。

 でもわたしは魔法演習にしか参加しないから、ただの見学者だ。


 演習場から、音と音が響く。

 その様子をぼんやり眺めつつ、わたしは見学席の様子も見ていた。


 ……そこでふと、気になったことがある。

 それはオルフェウス殿下とアリオーソさんが、講義に参加していないことだ。


 魔法演習もだけど、実技系の講義に関しては見学でも出席扱いになるらしいから、それでも良いんだとは思う。

 でも、どうしたって気になってしまう。


『……』


 わたしは目立たないように気をつけながら、オルフェウス殿下の右足を見た。

 オルフェウス殿下は目立つから、見ないようにしても視界に入ってしまうんだけど——多分、どこかの関節を曲げるのが難しいんだと思う。


 だから、演習に関しては見学することしかできないんだろうな。

 アリオーソさんに関しては、間違いなくオルフェウス殿下の付き添いだ。何も言わないけれど、主人から離れる気がないってことかな。


 かつて王国騎士団に所属していたアリオーソさんは、間違いなく剣が得意なんだろうし、一昨年の途中までは剣術演習の成績もトップだったらしい。……本当に、勿体ないと思う。


 オルフェウス殿下は、そのことをどう考えているんだろうな、と思ってしまう。


『……』


 そんなことを考えていると、アリオーソさんと目が合ってしまった。

 しまった、と思った時にはもう遅い。彼はオルフェウス殿下から離れて、わたしの腕を掴んだ。


『きゃっ!?』


『来い』


 拒絶なんて、できるはずがない。

 そのまま外に、連れていかれる。


 見学席と廊下を隔てる重い扉が開いて、閉じる。

 わたしはすぐに、アリオーソさんに頭を下げた。


『ご、ごめんなさい……!』


 見ていたせいで、不快な思いをさせてしまったのだと思う。

 というより、警戒させてしまったのかもしれない。

 従者なら、そうなって当然だろう。


 ……でも、


『違う。……前から、お前の力が気になっていた』


『え……?』


『……お前の力は、『麻痺』の類にも効果はあるのか?』


 間違いない。

 アリオーソさんは、わたしの聖なる力に興味を示している。

 そして、その力をオルフェウス殿下に使って欲しいんだと思う。


『分か、りません……試したことが、ないので……』


『……』


『でも、無理だと思います。塞がってない切り傷の類なら、間違いなくどうにかできるのですが……』


 それこそ同室のシベリウスさんや、時々会うのは良いけれど、いつ見ても怪我をしているラウダさんに使ったことがある。


 ただ、それが限界なんだろうなって思ってる。

 何となくだけれど、そう思う。


 アリオーソさんは、わたしの顔を見ている。

 けれど、ここではないどこかを見ているようにも感じた。


『そうか。……すまない』


 そう言って立ち去ろうとする彼の腕を、思わず掴んでしまった。


『……』


『あ……っ! すみません……』


 手を放す。

 振り返ったアリオーソさんは驚いているようにも、不機嫌そうにも見えた。


 もう引くことはできないし、引く気もない。

 わたしは、覚悟を決めて口を開いた。


『わたし……! 頑張ります! 頑張って、力を強くします!』


『……』


『そうすれば、いつかきっと……!』


 根拠はない。

 根拠はないけれど、いつかできると信じている。


 ——わたしの聖なる力は大昔、『光の聖女』が持っていたものなんだってことを、この学園に入学してから知った。


 光の聖女は、死者を蘇らせるようなことだってできたらしい。

 だとすれば……頑張れば、きっといつかは麻痺を治すようなことだってできるはずだ。


『……』


 アリオーソさんは目を丸くして、それから、眉尻を下げて笑う。

 笑った姿を、初めて見た。でも、それ以上に……酷く悲しそうにも見えて、胸が痛んだ。


 見学席と繋がる扉が開いた。

 カツン、カツンと杖が床に付く音がする。


 ずるずると右足を引きずりながら、オルフェウス殿下が酷く不快だと言わんばかりの顔をしてわたしを睨んでいた。


『貴様、ふざけているのか?』


『え……?』


『期待を持たせるような言い回しをして、アリオーソを誑(たぶら)かすつもりか?』


『そ、そんな! そんなことは……!』


『大方、根拠は光の聖女伝説だろう? ……馬鹿げた話だな。あんなもの、信憑性も何もない。そんなおとぎ話を、お前は信じているのか?』


 何も否定できない。

 わたしの話の根拠は、光の聖女伝説だ。


『……』


 酷く苛立った様子のオルフェウス殿下はわたしから逸らして、アリオーソさんを見る。


 そして、持っていた杖を——



 ◇



「オルフェ」


「……」


「おい、オルフェ」


「……辛い」


 ——殴れるかよ!


 フリだとしても、殴れるかよ!!

 辛い、ただただ辛い。なんなんだよこのゲーム。悪魔かよ。


「お前なぁ……優しいのも大概にしろよ、途中まで頑張ってたじゃねぇか……台詞の9割終わってたってのによぉ……」


 アリオーソはオルフェウスの忠臣だ。

 そんな彼が、主人から離れてでも縋りたかったのがセレナの力だ。

 もはや闇しか見えていなかったアリオーソの心に、微かな光を灯したセレナの言葉。


 それを否定したあげく、この後、容赦なく固い杖で彼の頭を殴るなんて……そんな、そんな真似……!


「……」


 アリオーソは、呆れた眼差しを俺に向けている。

 分かってる。分かってるよ、やらなきゃいけないってことは。


「なあ、オルフェ。お前って……」


「ん?」


「……。いや、何でもない」


 ぷいと顔を逸らすように、アリオーソは近くにいたシベリウスへと視線を向ける。

 今回も彼に出番はない。だからこそ全力でカンペを持ってもらっていた。


 アリオーソと目線で会話をしているような状態な彼を見て、厳密に言うと『彼ら』を見て、俺は本気で——申し訳なくなった。


 そんな中、奏音ちゃんと明里さんがコソコソと話し合っている。

 俺のやらかしの被害者たちのことも気になるが、今はふたりを優先すべきだろう。


 少し足早に、俺はふたりのところに向かった。


「今の笑い方……好き……」


「うん、好き……尊い……」


 本人の近くで語彙力を失わないでくれ、頼むから——本当にアリオーソの身体にならなくて良かったと思いながら、オルフェウスで良かったと思いながら、ふたりに声を掛ける。


「ごめん、そのー……もう一回、やろうか……」


 明里さんはともかく奏音ちゃんは必要だ。

 推しを尊く思っている途中に申し訳ないなと思いつつ、奏音ちゃんに戻るように促す。


 すると、


「それなんですけど……って、あたしたちだけじゃなくて、エキストラさんたちの近くで話した方が良いですね」


 今回、とんでもない数のエキストラにご協力いただいている。

 ……というより、見学に来ていた人たちを本当に見学席に入れてみた。


 事実上のエキストラ役を依頼したところ、全員快く承諾を通り越して、湧き上がるレベルで喜んでくれた。

 どうやら俺たちに『エキストラ役を依頼されること』を心待ちにしている人間が一定数存在するらしい。


 裏方係も少しずつ増えているし、いつの間にか見学しながらひたすらペンを動かし続けているヤバい教員も現れた。文学の先生って話だけど——何をする気なんだろう。怖い。


 見学席からしれっと脱走していたエキストラ役もとい見学の人たちを前に、奏音ちゃんではなく明里さんが声を張り上げる。


「皆様! ご協力いただき、ありがとうございました! 最低限やらなければならないところまでは行けたので、ここまでで大丈夫ですわ!!」


 おっ! やった!!

 これは多分、アリオーソがセレナに好感を持つことと、オルフェウスがセレナに対して不快感を露わにすることが大事なシーンだったんだな。

 ギリギリそこまでは行けたから大丈夫ってことなんだと思う。


 これで、教員が失敗を秘匿した結果、裏庭で魔物が大繁殖する一大事件を起こせる!

 もう問題ない! やらなくて良い!


 ……って思ってたんだけど、どこからともなく悲しげな声が聞こえた。


「続きは……やらないの、ですか……?」


 変な意味で、ざわついてしまった。

 見学席にいた人たちが、しょんぼりしている。


 明里さんは、狼狽えた。


「えっと……」


「その! あの……っ、変な趣味してて申し訳ないんですけれど、オルフェウス殿下に殴られて……それでもバランスを崩した殿下をお支えして、小さく謝って見学席に戻るアリオーソ様が見たいのです!」


 アリオーソ、お前のせいか!!

 そんなことを言われた張本人は、照れ臭そうに笑っていた。


「……ははっ、何だか照れくせぇな」


 流石プレイヤーキラー、格が違う。

 暴言を吐かれようが暴力を振るわれようが、主人であり親友を思い続ける一途さが評価されまくってる(らしい)男、格が違う。


 ……そう思っていると、俺の方を見ている人たちもいた。


「オルフェウス殿下は普段穏やかだからこそ、激昂している姿が愛おしくて……あっ、申し訳ありません! 愛おしいというのは、深い意味はなくって……」


 ——オルフェウスもかよ。


 とりあえず、とりあえず、俺は頑張って笑うことにした。

 オルフェウスなら、ここは笑う。綺麗に微笑むところだ。


「変な風には受け取ってないから安心して? ……そっか。そう言ってもらえるのは、ありがたいな。えーっと……」


 俺は、明里さんを見る。

 頼む。頼む、断ってくれ。


 そう思っていると、彼女は親指を立ててこちらに突きつけてきた。

 よし、彼女は味方だ! これで解放さ——


「もう1度やりましょう! オルフェウス殿下!」


「……。うん」


 その日。

 俺は裏庭で大繁殖して“セレナ”に襲い掛かってきた魔物たちに向かって、全力で魔法をぶつけて全力で斬りかかって全力で八つ当たりをした。


【Tips:ゲームにおけるアリオーソ攻略】

 ちょっと進めたら強制イベントでこの手の案件がある&正解選択肢が比較的どころかかなり分かりやすいタイプで、割と攻略しやすい攻略対象。

 正解選択肢が分かりやすいのは攻略対象の中でもアリオーソは派手に病んでいるだけで、理性は相当に残っている(※主人公を殺さない&奇行に走らない的な意味で)というのが大きい。

 ただし基本的にオルフェウスと行動している都合上、個別ルートに入るのはちょっと大変。

 そしてルートに入った後も油断すると爆速で猛獣用の檻に入れられる。攻略しやすいとはいえ最後まで油断は禁物。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。