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待って悪役令嬢! 俺、このゲーム知らない!!  作者: 逢月 悠希
3.どうしてこうなった 〜第3学年前編〜

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28.裏ルート

 恒例行事、温室のコンサバトリー。

 奏音ちゃんの言葉が気になりすぎた俺たちは、翌日すぐに転生者会議を開いた。


 そうして彼女は、息を吐き出す。


「今、『リュートルートの個別ルート』に入っている可能性があります。フラグイベントの再現はしていませんが、もう勝手に個別ルートに入っているかもしれません」


「リュートルートの個別ルート?」


「透さん、昨日は『レベリングしすぎたかも』って言ってましたけど、レベリング以前に『攻略対象全員初期レベルが高かった』可能性があるんです。

 リュートルートに行くと、何故か攻略対象全員、初期レベルが通常ルートより高いんです。見極めポイントのひとつが、さっきの場面でラウダが使う魔法の種類なんですけど……」


 奏音ちゃんが意味の分からないことを言い始めたけど、少なくともこの時点で明里さんが途中から戦えなくなることが確定した。


「……」


 明里さんが顔を覆う。

 責任感じなくて良いから……。

 それで責任感じられたら、俺は目を覚ました瞬間から詰んでるんだから……。


 ……それはそれとして。


「多(・)分(・)とか可(・)能(・)性(・)ってことは、奏音ちゃん目線でも少し怪しい感じ?」


「ですね。あたし、実はリュートルートの個別ルート、何個かエンディングまで行けてないんですよ。純粋なリュートルートはクリアできたんですけど」


 多分これ、リュートルートがさらに分岐してるんだと思う。

 どんな構造になってんだよ、このゲーム。


 ここで明里さんが顔の横にスッと手を上げた。


「あのね、私、リュートルート分岐ポイントがまず分かんなかったの。うっかり途中で分岐ポイント踏んだのかもしれないから、参考に教えて欲しい」


 確かに、俺か明里さんがしれっとやらかした可能性はある。

 そのせいで通常ルートから外れたのだとすれば、一大事だ。


「分岐は踏んでないと思いますよ。転生以前の問題が起きてるので」


「え?」


 けれど、そうではないらしい。

 奏音ちゃんは何とも言えない顔をして笑っている。


「ゲームに関してはそもそも、分(・)岐(・)手(・)段(・)が(・)ふざけてたんで」


「ふざけてた」


「……リュートルートに入るための手段は『通常ルートの全エンディングを見てからもう一回逆ハーエンドをクリアして、さらに周回を開始する』です」


「そんなの分かるかーっ!!」


 ……うん、俺もそう思う。

 制作チームはプレイヤーで遊んでるとしか思えない。


「私、初手で逆ハー行っちゃったから……逆ハーに行かない動きしかしてなかったの……」


「普通にやると逆ハー行きますもんね」


「そう!」


 ——普通にやると主人公のバラバラ殺人事件が起きるとか、一体どんなゲームだよ!!


 これ、多分逆ハーエンドに入った時点で投げ出したプレイヤー、いっぱいいたと思う。

 少なくとも俺は投げる。……奏音ちゃん、ホルマリン漬けエンドと並んで逆ハーエンドがトラウマだって言ってたから、まず相当酷い展開になるのは確定だし。


 俺は心の中で鳥セレ制作チームをしばきながら、2人の会話に耳を傾けた。


「そもそも、鳥セレって初手は逆ハーエンドに行くの想定っぽいしね。攻略対象のセリフ聞いて『共通イベント以外は他の攻略対象を徹底的に無視しないと駄目』って気づける仕様なのはありがたかったな」


「個別ルートもバッドエンド行くと割とヒントくれますもんね。攻略サイト見なくても通常攻略対象のハッピーエンドには割と行けますし」


「まあ、それでも私、国は滅ぼしまくったなぁ……ラウダが国滅すの見ながら毎回泣いた……最期のセリフが、本当に辛くて……」


「『オレなんて、生まれてこなきゃ良かったね』ですよね? 演出のせいで破壊力エグいですよね……あれはあたしも泣きました。あと、アリオーソバッドエンドのラストもエグくないですか?」


「分かる〜! 『恨んでくれて構わない。罵ってもらって構わない。だからどうか、俺を嫌いになってくれ』でしょ!? あの表情でそれ言われて、嫌いになれるわけなくない!?」


「そうです! あの一言で最推しになりました!!」


「分かる! 分かる!! 大好き!!」


 明里さんも奏音ちゃんも楽しそうでなにより。


 ——ここが『鳥セレ』の世界じゃなければな!!


 ていうか明里さんの推し、アリオーソかよ。バセットじゃないのかよ。

 なんだあのイケメン、プレイヤーキラーかよ。


 困ったことに俺も微妙に分かるのが相当に悔しい。

 バセットには果てしなく申し訳ないんだけど、なんか『アリオーソなら仕方ないか』ってなるのめちゃくちゃ悔しい。


 そうしてふたりは、ハッとして俺を見た。


「わ、私! オルフェウスも大好きでした!!」


「あ、あたしもオルフェウスに監禁されるの好きでした!!」


「俺はオルフェウスであってオルフェウスじゃないし、君らは反応見るにアリオーソ以前に箱推しなんだろうし、そして奏音ちゃんのそれは誤解しか招かないから落ち着いてくれ」


 フォローのつもりで「オルフェウスに監禁されるの好きでした」って言うのは笑うしかない。

 とんでもなく焦ったのは分かるけど、本当に落ち着いて欲しい。


 ……そして俺は、割と本気で「良かったアリオーソに入らなくて」と思ってしまった。

 うっかりアリオーソに入っていたら、2人にしばかれ倒した自信しかない。

 オルフェウスは良くてもアリオーソの中身違いは許されなかった気がする。ごめんオルフェウス。


 奏音ちゃんはコホンと咳払いをして、真剣な目を俺に向ける。


「話を戻しますが……リュートルートは『リュートが2年前時点で逮捕されて、脱獄してて、本編開始時点だと逃走中』っていう状況でスタートします。ちょっと展開が変わります。通常ルートクリア済みありきなので、オルフェウスが毒で苦しむ場面の回想シーンからゲームがスタートします」


「それはリュートルートなの、ほぼ確定事項として動いても良いかもな……明里さんがヴィオレッタの中に入って、展開が変わっただけって可能性もあるにはあるけどさ」


 今はまさにその状況だ。

 ガチガチの護衛付きなら学園外に出られるようになったけど、いまだにリュートが捕まらないせいで割と不自由な生活を強いられている。


 そこでふと、ラウダの言葉を思い出した。


『独裁王と化すオルフェウス殿下って、どうして毒殺未遂事件の犯人が分かってないの?』


 毒で苦しむ回想シーンから始まるなら、条件だけなら“今回”と限りなく近いんじゃないか?

 だからこそ俺は、奏音ちゃんにそのまま質問として投げかけることにした。


「だったら、今回のオルフェウスって犯人がリュートだって分かってるんじゃないか? リュートがいる状態で毒の効果が出てるんだろ?」


 オルフェウスが毒で苦しむ場面からスタートしていて、なおかつヴィオレッタが犯行直後のリュートを目撃している。

 その時点で、オルフェウス本人もリュートが犯人だと分かっていそうなものなんだけど……?


「えっ、分かってないんですか!?」


「だよな!? やっぱ分かるのが普通だよな!?」


 奏音ちゃんは、心底不思議そうに首を傾げている。


「分かるはずなんですよ。リュートルートの場合はオルフェウスが自分で犯人言うので。でもヴィオレッタが放置する流れは変わらないので、通常ルートと同じように右足に麻痺が残ります。

 そして、リュートルートの場合は『親友に裏切られた』っていう前提が入ってくるせいでやっぱり疑心暗鬼に陥るんですよ。オルフェウスがそうなる時点で、他の攻略対象たちも結局は似たような状態でスタートします」


「ん……? 犯人疑惑でいじめが加速するラウダと毒薬の製造元になるコラーレ兄弟も、なのか?」


「変わらないんですよね……ラウダは理不尽に共犯扱い、つまり実行犯その2として扱われますし、毒薬は配合を変えるだけで効果が早く出るっていう謎仕様が発生するので、コラーレ兄弟なのは変わりませんし……」


「はあ……」


 ——救いが、ない。

 

 ラウダに関してはいじめる理由を探して手を出した、みたいなとこありそうだから一旦置いておくにしても、コラーレ兄弟が酷い。


 でも、配合を変えるってことは……?


「通常ルートだと最後まで犯人不明だったよね? つまりリュートルートかどうかで『使われた毒が違う』って判断しても良いか?」


「そうですね。通常ルートだと遅延性の毒、リュートルートだと即効性の毒を使っています。だからこそ、リュートルートなのに分からないっていうのは……って、えっと、すみません!」


 ここまで話して、自分の話がいまいち伝わってないことに気づいたのだろう。

 奏音ちゃんは持っていたメモ帳をテーブルの上に置いてくれた。


「そもそもリュートルートっていうのは事実上の『裏ルート』なんです。裏ルートだと隠しキャラのリュートが攻略できるだけじゃなくて、通常攻略対象のルートに入ることができるのですが、全部バッドエンドです。

 つまり『裏バッドエンド』です……あ、個別ルート以外のエンディングもあります。通常ルートでいう全滅エンドは普通に存在しますね。他にもなんかあるっぽいんですけど」


「う、裏バッドエンド……」


 要するにこのゲーム、通常攻略対象に関しては個別ルートだけでもハッピーエンドとバッドエンドの2種類だけじゃなく、裏バッドエンドを含めた3種類存在するということだ。


 それなら『裏ハッピーエンド』も作れよ。馬鹿かよ。

 唐突にハピエン厨を自覚した俺は、心の中で制作チームを本気で呪った。


「とりあえずオルフェウスに投与される毒の違いについて聞いておこうかな。オルフェウスの影響力がえげつないのは変わらないだろうし」


 奏音ちゃんはこくりと頷いた。


「通常ルートのリュートは遅延性の毒をあらかじめ仕込んでおいて、回った頃にそれとなく様子を見にきた場面をヴィオレッタに目撃させます。裏ルートだと毒が回った瞬間をヴィオレッタに目撃させます」


「え、さ(・)せ(・)ま(・)す(・)なのか!?」


 それだとだいぶ話が変わってくるぞ!?


「はい。ヴィオレッタを言いくるめて場を掻き回すことありきの作戦なんですよ。本編中はずっと『毒殺未遂事件』って呼ばれてますけど、リュート的には最初から未(・)遂(・)想(・)定(・)なんです」


「み、未遂想定……?」


「あえて未遂にして権力を持つ立場のオルフェウスを荒れさせて、何かしらの混乱を追加で招くのが狙いだったんです。

 それこそ、オルフェウスとシベリウスを仲違いさせるだけでも大惨事ですし、運が良ければアリオーソも巻き込めますしね。……巻き込みますし」


 めちゃくちゃ狙い通りにぶちかましてやがる。

 リュート自身の『親友』って立ち位置も利用したんだろうな。


 ……その時点でオルフェウスは確実に荒れるし、荒れたわけだし。


「リュートルートに行くと毒が2種類あったって話が聞けるんですよね。今言った計画の話も聞けます。だから通常ルートと裏ルートで使われた毒が違うって話も分かるんです。……あたしは何とも言えない気持ちになりながらリュートを攻略しました」


「だ、だろうな……」


 颯爽と逮捕されたリュートはアホなんだと思っていたけれど、違った。

 彼は普通に計画通りに動いていただけだ。何なら計画を完璧に遂行してみせただけだ。

 動機はともかく、アホどころか有能なパターンだった。


 まあ、主人公に対してはやっぱり「お前はそれで良いのか?」ってなるけど……。


 要するに今回のリュートは実質ヴィオレッタに裏切られたようなものらしい。

 可哀想に。全然可哀想じゃないけど、可哀想に。


 奏音ちゃんはメモ帳に『警察』と書いて、上からバツ印を付けた。


「どちらにしても、リュートが俗に言う警察関係者を先に言いくるめているので、通常ルートだと真相判明に警察関係者が役立ちませんし、裏ルートに至ってはリュートが替え玉使って処刑そのものから逃げます」


「はぁ……」


 ——胃が痛くなってきた。


 とりあえず薄々分かってたけど、警察的な組織は役に立たないということが分かった。


 ただ、と奏音ちゃんは口を開く。


「とりあえず、あたしは純粋なリュートルートのフラグに関しては意図的に折るつもりでいました。リュートには学園ではなく街で会えます。つまり、単独で街に繰り出しまくれば攻略が進みます。逆に街に出なければ裏バッドエンド回収の流れです」


 どうやら街に出るか出ないかが分岐の最大ポイントらしい。

 リュートルートもだけど、裏バッドエンドのことも聞いておいた方が良さそうだ。


「奏音ちゃん、分かる範囲で教えてもらっても良いかな?」


「分かりました。話していくので、何か気になることがあれば、言って下さいね!」


 少なくとも、裏ルートの情報が役に立つことは確定だ。

 俺は明里さんと顔を見合わせて頷き、奏音ちゃんの話に耳を傾けることにした。

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