鍛冶屋
アジトへの帰り道。
俺は一軒の古ぼけた鍛冶屋を見つける。
入り口には少し錆びた鎖が飾ってあった。
鎖か……。
パンクの象徴みたいだな。
俺は鎖を身体に巻き付けた様子を想像した。
めちゃくちゃサイコじゃねぇか。
「ノンアル! 一足先に帰っておいてくれ」
「ちょっと待ってください。
あっしら牢から出てまもない状態です。
親分がいないと」
ノンアルは言う。
しかしな。
鎖を買うところとか、
鍛冶屋との会話とか聞かれたくねぇしな。
まぁいいか。
「じゃあ、ここで待ってろ」
俺は言った。
皆頷いた。
俺は鍛冶屋に入る。
(かーん、かーん、かーん)
鉄を叩く音がする。
そこには、でっぷりと腹の出た、
しかし腕から肩にかけての筋肉がごつい爺さんがいた。
「あんたがここの主か?」
「当たり前だ。ワシがひよっこの弟子に見えるか?」
「違いねぇな」
「それでなんだ。お前みたいな盗賊風情がなんの用だ」
「鍛冶屋の爺さん。俺は元盗賊だが、今は勇者だ」
「そうか。で、その勇者がなんの用だ」
「入り口に鎖があったろう。錆びてないやつはあるか?」
「ほれ。そこにあるだろう」
「これをくれ」
「金を払うなら、売ってやる。そこに代金が書いてあるだろう」
10Gか。
「払うよ。あとナイフあるか?」
「そこにある。うちのは切れ味が良いぞ」
「おい! 爺さん、このナイフの刃先がないやつ作れねぇか?」
「そんなもの何にする?」
「見せびらかす用だ。刃先付いてたら、口切るだろ」
「口切る? まぁいい。明日の昼過ぎにきな。値段は10Gだ」
「わかった! かっこいいの頼むぜ。鎖は今日もらっていく。10Gここに置くからな」
「あぁわかったよ」
俺は店を出た。
「お疲れ様です」
皆が挨拶をする。
「あぁお疲れさん」
おぉ、
なんか任侠映画みたいだ。
俺は少し興奮する。
「親分、何を買われたんですか?」
ノンアルは興味深そうに手の鎖を見る。
「鎖だよ」
「鎖なんて、何に使うんですか?」
ノンアルはじっと鎖を見つめる。
どう答えよう?
身体に巻くんだよ。
なんで巻くんですか?
カッコが良いだろう……。
ダメだ。
サイコっぽくない。
武器に使うんだよ。
うーん。
悪役っぽいが、
なんか微妙だ。
うーん。
適当に行こう。
「鎖を何に使うかって?
お前ら何に使うと思う?」
俺は言った。
「武器?」
ドブロクは答える。
「奴隷用?」
とテキーラ。
「罠か?」
ビアは首を傾げる。
「荷物運び用」
ノンアルは言った。
「これはな。
身体に巻いておく。
そうするとずっしり重い。
重くなれば、どうなる?」
俺はニヤニヤと笑う。
「動きが鈍くなりますね」
ノンアルは言った。
「そうだろ。動きが鈍くなる」
俺はさらに笑みを強める。
「でもそれじゃあ、親分危なくねぇか?」
テキーラは眉をひそめる。
「それだよ。テキーラ。俺の動きは鈍くなり、危なくなる」
俺は言葉をためる。
(ごくり)
唾をのみこむ音が聞こえる。
「危ないのは、楽しいじゃねえか」
俺は笑った。
「団長。危険なことはしないんじゃなかったのか?」
ビアは言った。
しまった。
自分の言った言葉と矛盾している。
どうしよう。
いや。
ここは逆に利用しよう。
「ふふふ。その通りだ。
仲間を危険なことには巻き込まねぇ。それは変わらない」
俺はニヤニヤと笑う。
これだ。
どうだ。
理解できないだろう。
「もしかして。
周りの連中が襲ってきても返り討ちにしてやるぞ。
そういう事か?」
ドブロクは言った。
「それなら合点がいく。
わざわざ普段から動きが遅くなるような装備にしておいて、
隙をつくる。
そして裏切者を早々に炙りだす。そういう事ですかぁ」
ノンアルは言った。
えっそうなのか?
いやでも、
それはそれでサイコっぽいじゃねぇか。
「この鎖は俺をしばるが…同時に世界もしばっているんだ」
「お前ぇら、なかなかキレるじゃねぇか。まぁそういう事だよ」
俺は言った。
皆驚いた顔をしている。
よし決まった。
それから帰り道は、
静かなものだった。
俺らはアジトについた。
「ここがお前らのアジトだ」
皆アジトを見上げている。
「この鎖の件、他の奴にはいうなよ。俺らだけの秘密だ」
俺は言った。
「はい。わかりやした」
皆そう答えた。
なぜかよくわからないが、
サイコキャラで士気は上がっているようだ。
……
俺らはアジトに帰り、飯の準備をした。
管理官が酒を五本ほど、
持ってきてくれた。
団員が集った祝いだそうだ。
「良い酒ですね。ゆっくりちびちび飲みましょう」
ノンアルは言った。
俺は考える。
サイコキャラなら、こういう時どうする?
答えはこうだ。
「はぁ? 何をいってやがる。なぁノンアル。お前は昨日汲んだ水を今日飲むのか?」
「いえ。その日のうちに飲みやす」
「そうだろ。じゃあ酒も同じだ。今日飲み干せ」
「でも、もったいないでしょ」
「馬鹿野郎、もったいないだぁ?
酒はある時に飲め。
命はある時に使え。
飯はある時に食え。
それだけだ」
俺はそういい、
コルクの栓を全部開けた。
我ながらもったいないと思ったが、
まぁいい。
皆、
嬉しそうに酒を飲んでいる。
明日、
二日酔いになる。
それでも良いじゃないか。
しばらく酒にありつけない。
それでも良いじゃないか。
盗賊は、
略奪したあとに宴を開き、
村人たちが必死にためた食料を、惜しげもなく食べる。
ゆっくりと食べれば、
村を襲わなくていいのに。
そう思う者もいるだろう。
しかし、
盗賊という稼業は命がけだ。
そして、
奪う側は、
持っていても奪われるという事を知っている。
だから、
刹那的だと思っても、
今食いつくすのだ。
勇者の仕事も盗賊と同じだ。
命がけであり、
他者の命を奪う。
命を奪う以上、命が容易に奪われる現実も知っている。
そして、勇者は常に移動する。
食いつくせるなら、
食っておいて、
手荷物は軽くしておいたほうが良い。
ただそれだけなんだろう。
俺はそんな事を考えていた。
勇者と盗賊がたいして変わらない現実が、
妙に笑えた。




