役者
翌朝目が覚める。
ノンアルは俺より先に起きて、
食事の支度をしている。
なかなか優秀な奴じゃねぇか。
俺は今の立ち位置に少しの違和感を感じる。
このままで、
俺は生き残れるのか?
生物としての直感。
海千山千の厄介者達。
その頭として、
魔物を討伐する。
そんな事が俺にできるのか?
俺は殴り合いの喧嘩が苦手だ。
正直弱くはないが、
無双というほどではない。
喧嘩が弱い人間が不良達の頭なんて、
務まるのか?
舐められて、
お終いじゃないか?
そう思った。
「恩を売るか、利益で従わせるか、得だと思わせるか。
あとはヤバいと思わせる、ですね」
ソーダはそう言った。
恩を売る。利益で従わせる。得だと思わせる。
これは、
処刑を逃れられる事、
徴税が不要な事、
将来的に真人間としての生活も可能な事、
この三つでクリアできる。
これだけでも、
大半の者はついてくるだろう。
ただ、
これだけだと弱い。
ヤバいと思わせる。
これは俺にとって必要不可欠だ。
ではどうする?
俺は毒を使う。
毒を使う相手には、一応気を使う。
尊敬はされないが、殺されないように、従いはする。
まず、
この辺りを、
アピールするべきだ。
そうすれば、
利益だけではついてこない連中もついてくる。
しかし、
頭の良い奴はどうだ?
この人は単純だ。
そう思われては舐められる。
キレるポイントを計算されて、
うまいように使われるかもしれない。
どこでキレるかわからない頭のほうが、
統率を取りやすい。
じゃあ……。
どうする?
そうだ。
「うぇ~いっ」「ひゃっほぉ~っ」
と行動原理の読めないキャラ作りが一番だ。
幸い俺はモヒカン。
昔の俺の事を知っている者は、ほとんどいない。
真面目な中学生が、
高校進学で高校デビューを果たすように。
俺も異世界でサイコキャラデビューを果たす。
……
俺は手始めに、
ナイフを常に手に持つことにした。
サイコキャラは、
だいたい武器を持って、
いつもニヤニヤしている。
ナイフを持ってニヤニヤする。
目を細める。
このまま、
テーブルに向かおう。
「団長。おはようございます」
ノンアルは頭を下げる。
「よう。昨日は眠れたか?」
しまった。
気を使ってしまった。
「はい。おかげさまで」
ノンアルは少しうれしそうだ。
「そうか」
俺は椅子に座った。
「食事を用意しました」
目の前に食事が運ばれる。
パンと野菜と豆のスープ。
そしてスプーンがあった。
「いただきます」
思わず手をあわせる。
しまった。
またやってしまった。
ノンアルも見様見真似で、
手をあわせ、
いただきますという。
「団長。
これは何の儀式ですか?」
ノンアルは興味津々だ。
俺は答えに困る。
神様への感謝だとか、
サイコキャラじゃない。
俺はナイフで
パンを切り刻み、
口にもっていく。
おぉ。
これはなかなかのサイコっぷりだ。
ノンアルも真似をして、
パンをナイフで切り刻み、
口にもっていく。
ノンアルの顔は心なしか、
誇らしげだ。
ノンアルもサイコキャラっぽくなっている。
「これ、ナイフでパンを切り刻むのは、なんか食べやすいですね」
ノンアルは言った。
これはまずい。
食べやすくするために切り刻むのは、
サイコじゃない。
「食べやすい?
それは違う。
これは獲物を切り刻む練習だ」
そう言った。
ノンアルの目は輝く。
「獲物を切り刻む練習。
めっちゃカッコいいじゃないっすか」
ノンアルは興奮している。
おいおい。
サイコキャラだぞ。
憧れてどうする。
あぁそうだ。
いただきます。
について回答をしてなかったな。
なんて言おう。
「なぁ。俺はさっき“いただきます”と言っただろう」
「はい。あれは何ですか?」
「あれはな。
これからお前の命を奪う、
でも安心しろ。
俺の中で生かしてやるよ。
俺と楽しい人生を送ろうぜ。
という意味なんだ」
そう言った。
上手く言えたような気がするが、
どうだ。
俺は目を細める。
ノンアルの目は潤んでいる。
「団長はお優しいんですね」
ノンアルは言った。
なに?
優しいだと。
それはマズい。
「優しい?
笑わせやがる。
命を奪うんだ。
優しいわけねぇだろ。
ただな。
たとえば村を襲う。
それで食料を奪ったとするだろ。
その食料は俺のなかで生きる。
その食料はさっきまでは村人のモノだったが、
いまは俺の体の一部なんだ。
わかるよな」
自分で言ってて、
わかるようなわからないような気がする。
「はい。わかります」
なんか勘違いしているような気がするけど、
まぁいいか。
サイコキャラはそんな事をいちいち気にしない。
俺はスープの野菜をナイフで突き刺し、
口に運ぶ。
よし。これもサイコキャラっぽい。
ノンアルも真似をする。
続いてスープの豆をナイフで突き刺そうとする。
豆がすべって、
刺さらない。
ノンアルも困って、
こちらを見る。
俺は気が付かない振りをして、
野菜を先に食べていく。
サイコキャラがスプーンなんて、
使えない。
かといって、
豆がナイフですべり続けるサイコキャラも、
絵面が悪い。
どうする?
どうしたらいい?
そうだ。
俺はスープの入った木の器を掴み、
口の中に一気に流し込む。
そして噛む。
これだ。
俺は豆と野菜スープの飲み方、
サイコキャラバージョンを確立した。
ノンアルも目を輝かせ、
木の器を掴み、
口の中に一気に流し込む。
そして噛んだ。
うむ。
完璧だ。
俺はふとナイフに目を向ける。
ナイフには野菜のカスがついていた。
俺はティッシュを探す。
もちろんそんなものはない。
台所で洗おうかと考える。
しかし、
サイコキャラがナイフを台所で洗うのか?
答えは一択だ。
俺は舌を出し、
ナイフを舐めた。
怖い。
緊張が身体を走る。
舌に鉄の味を感じる。
すこしズレれば舌は切れる。
ノンアルは、
目を見開いて驚いている。
真似をしようとするが、
躊躇している。
よし。
そのまま、
舐めるのはやめろ。
俺は祈った。
「やめとけ。
舌を切るぞ」
俺は目を細めて、
そう言った。
俺はナイフを腰のケースにしまう。
口の中に少しの血の味を感じる。
ちょっと切ってしまったようだ。
でも、
ここで舌を切ったとは言えない。
俺は唾液の自己治癒力に任せることにした。




