ゴールのない盗賊とゴールのある勇者団
ノンアルを勧誘した頃には、
もう日が傾いていた。
俺らはソーダから、みすぼらしい宿屋兼居酒屋に連れてこられた。
「オクラ団長。
ここがヤマノウエ団の本部として提供されます。
潰れた宿屋兼居酒屋ですが、寝泊りと食事はできます。
大所帯になれば、もっと大きなところに行きましょう」
ソーダは言った。
部下ができた途端、
団長として丁寧に扱ってくれる態度が気に入った。
「ありがとうな。団長として丁寧に接してくれて」
俺はソーダに囁いた。
ソーダは何も言わず、笑顔を見せた。
男ながらキレイで清々しい笑顔で、
少し癒された。
「当面の食料はそちらに用意しております」
「あぁ、ありがとうな」
「牢には話を通しておきますので、必要になれば牢で勧誘をしてください。あとは毎日管理官が調整役として参りますので、必要なものなどは、その者におっしゃってください。
では私はここまで」
ソーダは頭を下げ、出て行った。
ここがヤマノウエ団のアジトか。
そう思うと少し感慨深いものがある。
「オクラ団長。これからどうしますか?」
ノンアルは言った。
「そうだな。飯を食うか」
「はい」
俺たちは食事の準備をしだす。
パンとチーズ、少しの野菜入りのスープだけだった。
「肉食いてぇな」
俺は呟く。
「オクラ団長。肉が好きなんですか?」
「あぁ。大体毎日肉を食っていた」
「毎日ですかぁ。相当立派な盗賊だったんでしょうね。あっしなんか、月に二回干し肉にありつけたらいい方で」
ノンアルはうなだれている。
この世界じゃ、
肉は高級品なのか。
それに干し肉?
この世界には肉屋がないのか?
「肉は高いのか?」
「そりゃ高いですよ」
「そうか。お前は何の肉を食ったことがある?」
「何の肉? さぁ何の肉なんでしょうね。そこまではわかりません。ただ赤身があって、堅くて、でも噛むとうま味が出てくるんですぁ」
ノンアルの顔はだらしなくなっている。
「肉を食いたいか?」
「はい。食いたいです」
「そうか……、わかった」
俺はその日は早めに休み、
明日に備えることにした。
掃除がされておらず、
少しかび臭い寝床で、雑魚寝をする。
隣からは、
ノンアルの寝息が聞こえる。
俺は身体に残る盗賊の記憶をたぐる。
どうも、
俺は盗賊の一味で、
毒を使うタイプだったらしい。
力が弱いが、
狡賢さで生き残っていたようだ。
力自慢からは、
卑怯者、
薄気味悪い奴として敬遠されていたようだ。
生まれてすぐ母親が亡くなり、
八歳の頃、
アルコール中毒の父親にボコボコに殴られた挙句、
知らない街に捨てられた。
生き残るために残飯を漁って、
生活した。
九歳の頃、盗賊団につかまり、
下働きとして生かされた。
毒はその盗賊団にいたカリンという男に教わった。
俺はカリンの下で働いた。
役目はだいたい、
村に忍び込み、
用心棒を毒で無力化させることだった。
子供の小さな体。
そして子供相手の警戒心の薄さを利用し、
危険ではあったが、仕事は楽だった。
ある日の事、盗賊団で村を襲い、
たらふく酒を飲んだ。
珍しく酒を浴びるように飲んだカリン。
俺を肩に抱き、
「盗賊にはゴールがない」
そう言った。
「ゴールってなに?」
そう尋ねた。
「俺らが一所懸命に働いても、普通の村や町に住めない」
「なんで、お金ならいっぱいあるでしょ」
「お金があってもな。普通に村や町では使えないんだ」
「なんで?」
「不審な奴が大金を持っていたら怪しまれるだろ。
そうしたら盗賊だとバレて捕まる」
「じゃあ、なんで宝石とかお金とか獲るの?」
「まぁ、使えるところもあるんだ。裏でな」
「裏で使えばいいんじゃないの?」
「まぁそれもそうなんだがな。裏はなんでも値段が高い。足元を見てるからな」
「普通の村や街に住むのがゴールなの?」
「住むのがゴールじゃねぇ。幸せになるのがゴールなんだ」
「幸せ?」
「あぁ幸せだ。よかったって思える気持ちだよ」
「じゃあ。俺は幸せだよ。毎日ご飯が食べられる」
「それはそうだな。
でもな。他にもあるんだ。
安全だって思えることだ」
「安全?」
「あぁ。俺らの仕事はいつも危険と隣り合わせだ」
「ちょっと待ってよ。俺らは村人を襲う方だ。危険と隣り合わせなのは、村人のほうじゃない?」
「へへへ。違いねぇな。でもな。俺らは騎士団からも、村人からも、他の盗賊からも命を狙われる」
「そうか……。村人を襲うのは、盗賊くらいだもんね。でも俺らは騎士団からも狙われる」
「そうだ。そうだ。そして騎士団はめっぽう強い」
「じゃあ騎士団から襲われない状態がゴールってこと?」
「あぁそうとも言えるな」
……
俺は考えた。
村人を襲うのは、盗賊くらい……。
そう思っていたが、本当にそうなのか?
戦争になれば、騎士団も村人を襲う。
歴史の授業でも習ったじゃないか。
騎士団も、盗賊も、暴力装置であり、略奪装置なのだ。
そして国は他の国から財産を奪っても、戦勝国になれば罰せられない。
しかし盗賊は他の人から財産を奪ったら、罰せられる。
なぜだ?
騎士団が名誉ある仕事で、
盗賊が罪であるのはなぜだ。
やってる事は同じ。
暴力なのに……。
決定的な違いでもあるというのだろうか。
考えてもわからなかった。
ただ一つ言えることがある。
盗賊にはゴールがなかった。
しかし、
勇者団にはゴールがある。
魔物から財産を奪うことで、
土地や家を買うことができる。
魔物たちがいなくなったあと、
魔物から奪った財産で、
商売を始めることだってできる。
俺はカリンと一緒に、
ここまで来たかった。
でもカリンはもういない。
俺の魂と、
この身体の記憶が交差し、
曖昧な感情が頭を支配する。
カリンには会ったこともないのに、
妙に義理立てする感情がある。
俺は気が付く。
この身体との結び付き自体が、
もう仲間関係なのだと。
団を作るというのは、
この仲間関係の拡張なのだと。
そして、
団というのは、
それぞれの思いの集合体なのだと。
そう気が付いた。




