表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/7

取引

部屋中に満ちる殺気。

衛兵たちの薄ら笑い。

そして妙な気持ち悪さ。


俺も目を閉じる。

転生して早々、

処刑だなんて、

次はどこに行くのだろうか?


俺はそんな事を考える。


「なぁ盗賊。お前は死にたいか?」

騎士団長は尋ねた。


「はぁ。死にたい奴なんかいるわけねぇだろ」

俺は騎士団長を睨みつける。


騎士団長はふっと笑い、

「そうか。そうだな。じゃあお前を無罪放免にしてやろう」

そう言った。


なんだ?

無罪放免。

そんなにウマい話があるわけない。


「どうせ、なにか条件があるんだろう」


「盗賊のくせに頭が回るじゃないか。そうだ、条件がある」


「なんだ?」


「魔物を討伐する勇者になれ。そうしたら無罪放免にしてやる」


魔物を討伐する勇者?

なんでわざわざ盗賊なんかを……。


「なんでわざわざ盗賊なんかを勇者に任命する?

人手不足だとでも言いたいのか?」

俺は薄ら笑みを浮かべる。


「おい。説明しろ」

騎士団長は侍従らしき一人に命令をした。


「今この国に勇者職をする者は、ほとんどいない」

侍従らしき男は言った。


「勇者職をする者は、ほとんどいない……。

人気職だったんじゃねぇのか?」


「あぁ。ただ多くの勇者が魔物との戦いで命を落とした」


「そうか……。でも全員じゃねぇだろう」


「そうだ。全員ではない。生き残った者の多くは戦意喪失をし、田舎で暮らし始めた」


まさか。

勇者がスローライフだとぉ。


「まさか。激務に耐えかねて、ゆっくりとのんびりとした生活を送りたいとか言ってるのか?」


「あぁ、その通りだ」


「それで……、

褒章は無罪放免というだけか?」

俺は尋ねる。


「それで十分だろうが」

近衛騎士団長は机をたたく。


緊張が走る。


「十分なわけねぇだろうが。

魔物と戦って生き残る。

魔物を倒し続けるなんて、処刑されるより大変じゃねぇか。

無罪放免というより、魔物による処刑と言ったほうが良くねぇか」


衛兵のひとりが、笑いをこらえるように口元を押さえた。

騎士団長の眉がぴくりと動く。


こいつら。

勇者をただの使い捨ての道具みたいに見てやがる。


「じゃあ、ここで終わりにするか?」

近衛騎士団長は言った。


「あのさ。俺らが生き残れるわけねぇって思ってるだろ」


そこにいた皆が目をそらせる。


「じゃあな。

こういうのではどうだ?

俺が勇者を団として率いる。

あんたらが勧誘しているのは元盗賊だ。

盗賊はな。単発では雑魚だ。

でもな、集団になれば、まぁそこそこ戦える」


「バカも休み休み言え。お前らを集団にすれば、こっちが厄介だ」

侍従らしき男は言った。


「まぁ待て。話を続けろ」

近衛騎士団長は言った。


「勧誘と団長は俺がやる。条件は無罪放免と、徴税なし。あとは装備をくれ」


「徴税なしだと……。お前、この国では貴族も王族も全て皆三割の徴税がある」

近衛騎士団長は目を細める。


「おいおい。盗賊から税金取れると思っているのか? それに取ったことあるのか?」


沈黙が走る。


「徴税に関しては上の許可がいる。国庫に余裕がないゆえ、装備品もたいしたものは出せんぞ」


「装備品は、亡くなった勇者や兵士たちの使っていたもので良い。

ただ、

そこそこ強かった者の遺品みたいなものが良い。

俺らみたいな盗賊する連中は単純だからな。誰それが使っていた槍だとか、防具だというと、それだけで強くなった気がする」


「縁起が悪いと毛嫌いされるものだが良いのか?」


「盗賊が気にすると思うか?」


「そうだな。ちょっと待て」

近衛騎士団長は、部下に徴税なしの件がいけるかどうか確認をとってくるように指示をする。


「街や宿で使う税は払う。所得に対する税だけ無税で良い」

俺は叫んだ。


近衛騎士団長の部下は、近衛騎士団長をまっすぐ見る。

「それでよい」

と近衛騎士団長は言った。


二十分ほど時間がたち、近衛騎士団長の部下は戻ってきた。

近衛騎士団長に耳打ちをする。


「盗賊。

お前を今から勇者団の団長とする。

装備もやろう。

徴税もなしで良い。

ただ取引に関する税は払え。

あと村や人を襲えば、問答無用で処刑だからな」


「魔物からは奪ってもいいんだよな」


「あぁ、いくらでも奪え。それがお前らの褒章になる。おいソーダ。いろいろ世話をしてやれ」

騎士団長は侍従らしき男に言った。


「ソーダです。よろしく。なんとお呼びすれば?」

ソーダは頭を下げる。


「オクラだ」

俺は思わずそう言った。


「じゃあ、団の名前もオクラ団としましょうか?」


俺は少し考える。

「ヤマノウエ団」

そう言った。


「ヤマノウエ……。ヤマノウエ団のオクラ団長ですね。では、これから勧誘に向かいましょう」

ソーダは言った。


「ちょっと待ってくれ。この恰好で勧誘に行くというのか?」


ソーダは、上から下まで観察する。


「どのようにしたいと?」


「まず俺の服装を返してくれ」


俺は牢獄の入口近くに、ゴミのように積んであった中から、自分の持ち物を回収する。

全てがぼろっちい。

これじゃあ箔がつかないな。


「まず装備が欲しい」

俺はそう言う。


「ではついてきてください」

牢獄から三十分ほど歩いたところに、倉庫があった。

かび臭さと、汗のにおいが混じった不快な場所。


「ここにあるのが、兵士や勇者達の遺品です。

あの左端のほうにあるのが、

そこそこ強かった勇者や兵士たちの装備品です」


俺は左端の装備品から、

装備を探す。

軽量の胸当てと短剣、鋲のついた肩当てや籠手などを選ぶ。


服は比較的キレイそうなものを全体から探し、身につけた。


そこそこ恰好は決まった。


あとは髪型だ。

真ん中だけ長く、モヒカンのようだが、

ずいぶん長く剃っていないらしく、

見た目はぼさぼさの汚い長髪でまったく決まっていない。

しかも太めのモヒカン。


俺は太めのモヒカンが嫌いだった。


「この真ん中だけを残して、横をナイフで剃ってくれ」

俺はソーダに言った。


「なんでそんなトサカみたいな頭にするんだ?」

ソーダは不思議そうな顔をする。


「弓を撃つときに便利なんだ」

俺はそう言った。


「じゃあ、全部剃ればいいのでは?」


「だめだ。ここに髪の毛があることで、強そうに見えるんだ。いいからやってくれ」


「わかった。やってみよう」


ソーダは慎重に髪を剃り始めた。

太めのモヒカンから、

細めのモヒカンに変えた事で、

腰辺りまであった長髪が、ばさりばさりと落ちる。


一つ一つの髪束が落ちるたびに、身体の元の持ち主から、

俺……、

いやオクラに魂が遷移しているような感覚があった。


仏教では髪は煩悩の証。

だから煩悩から離れるために、剃髪する。

モヒカンはどうなのだろうか。

社会との接点という煩悩は捨てている。

しかし、

音楽という煩悩からは離れられない。

そんなところなのだろうか?


そんな事を思った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ