猪豚討伐
猪豚型の魔物について、管理官に尋ねたところ、
グンダラー樹海という地域に、
猪豚型の魔物が多数出没するという情報を得た。
グンダラー樹海へは、ここから馬で一週間ほどかかる。
それに多数出没するなんて、危険すぎる。
そこで、
俺らはグンダラー樹海から、はみ出た個体を狙う事にした。
樹海の周辺から徐々に数を削っていく作戦だ。
我ながら、
堅実な作戦だ。
俺は皆の前で作戦を発表した。
「今日はこの街の一番近くの森を探索し、猪豚型の魔物を狩る」
「なるほど。街に魔物がこないようにするという作戦だな」
ビアは頷く。
あぁそうか。
そういう風にも見えるのか?
「さすが親分。お優しいですね」
ノンアル達は感心している。
ヤバイ、
また優しいと勘違いされている。
「お前ら、勘違いするな。優しいからじゃない。あまり遠いところだと、調理ができねぇし、肉を売りにいくのが面倒だろう」
俺は間違いを訂正する。
「捌くときの事まで考えてくださるなんて、親分は子分思いなのですね。俺がんばります」
テキーラは目が潤んでいる。
……なんか腑に落ちないが、
まぁ良いだろう。
「じゃあ行くぞ」
俺らは台車をひいて、森に向かう。
街から近いとはいえ、
森は重苦しい雰囲気だった。
台車を入口周辺で停める。
「では、あっしらは偵察に向かいます」
ノンアルとテキーラは言った。
「頼む」
俺の一言で、
二人は森に入っていった。
ドブロクとビアは周囲を警戒している。
俺は二人が警戒しているので、
ひたすらボーっとしていた。
三十分ほど経ち、
二人は戻ってきた。
「ここから五分ほどの場所に、猪豚型の魔物を一体見つけやした。
ですが気付かれてしまったので、投石して倒しやした」
とテキーラは言った。
「あっしのほうは、十体ほどの群れを発見しやした。テキーラの場所と離れているので、テキーラの方から回収したほうがいいかと思いやす」
とノンアル。
「群れに見つかると厄介だな」
俺は呟く。
「じゃあ、親分たちは回収に向かってください。俺は群れを偵察して、動きがあれば、知らせるか、攪乱させます」
ノンアルは俺をまっすぐ見る。
「よしわかった。行こう」
俺は回収に向かう。
猪豚型の魔物は倒れてはいたが、
完全に死んではなかった。
俺はナイフを手に、魔物の首筋にスーッとナイフを入れる。
血がぶしゅーっと飛び出す……。
いや飛び出さない。
俺の思考は止まる。
しまった。切れないナイフだ。
皆は心配そうに俺を見つめる。
どう誤魔化そう。
「ボロ布かなにかはあるか?」
俺は尋ねる。
「これをどうぞ」
ドブロクはボロい布を手渡す。
「血しぶきを防ぐために使いたいが良いか?」
俺は尋ねる。
「どうぞ。道具の手入れの布ですので、もうそろそろ替えようと思っていたところです」
とドブロク。
俺は布で魔物の首筋を押さえ、切れるほうの短剣でスーッと入れる。
血は飛ぶことなく、すーっと消えるように、布をつたい地面に吸い込まれていく。
「親分さすがですね。それなら穢れない」
皆感心している。
「血抜きはここで済ませたほうがいいか?」
俺は尋ねる。
テキーラは風向きを見る。
「血抜きは早いほうが良いですね。
臭くなりやすから。
幸い群れの風下ですんで、ここでやっても構わないかと。
俺がやりやすんで、周りを警戒しておいてください」
俺たちは頷き、
テキーラは作業にかかった。
十分ほどで、血抜きは終わり、
俺たちは台車に向かった。
台車に積み終わったころ、
ノンアルは戻ってきた。
「戻りやした」
「ありがとな」
俺は短く答える。
「群れのほうは気付いてはいなさそうでしたね」
「そうか。お陰で安心して作業ができた。また頼むぞ」
「へい」
「じゃあ、皆お疲れさん。帰って肉を食らうぞ」
俺が言うと、
皆頷いた。
これがヤマノウエ団の初陣だった。
実質テキーラが活躍しただけに思えたが、
別にそれでも良い。
しかし、
俺は少し困った。
鋲の件だ。
評価基準がなかなか難しい。
今回一番活躍したのは、
多分テキーラだ。
狩りもしたし、血抜きもした。
しかし、
ノンアルも偵察にいったし、
ドブロクもビアも護衛をしたし、
荷物も運んだ。
評価基準が難しい。
しっかりと決めないと、
いずれ反発が来る。
俺は、
想定もしていなかった悩みに直面したような気がした。
街に戻ると、
あの屋台の兄さんとばったり会った。
「これ狩られたんですか?」
「あぁそうだ。今から捌こうと思ってな」
「食いきれます?」
「うちから仕入れるか?」
「はい。喜んで」
「じゃあ、ついてこい」
屋台の兄さんはついてくることになった。
屋台の兄さんは少し緊張しているようだ。
「あの、これは何の集まりで?」
「俺たちは勇者団だ。当面この猪豚型の魔物を中心に討伐する」
「あの。もし良かったら……」
兄さんは愛想笑いをしている。
「あぁ、良い取引になると良いな」
「はい。できる限り、高く買い取らせて頂きます」
「兄さん。お前あれか。安く仕入れる方法とか知ってるのか?」
「もちろん。知ってますよ」
「酒はどうだ?」
「酒なら市販の二割……、いや三割引きで仕入れられますよ」
「じゃあ、代金の一部を酒の現物で取引するのはどうだ?」
「あぁ良いですね。
それなら、うちも利益を出しやすいし、団のほうにも利益がある」
「じゃあ、そういうことでやろうか?」
「はい。わかりました」
そんなこんなで、
あっさりと取引は成立した。
俺らは、
アジトに戻り解体を始める。
俺はふとあることに気が付く。
「この皮はどうする?」
「俺には皮の加工はできません」
テキーラは作業をしながら答える。
「普通はどうするんだ?」
「塩漬けにして、革職人に売ることが多いですね」
「塩漬け?たしか塩って高くなかったか?」
「はい。高いです」
「この街に革職人はいないのか?」
「いますよ。知り合いにいます。紹介しましょうか」
兄さんが言った。
「あぁ頼む。塩漬けしてなくても、買い取ってくれるかなぁ?」
「定期的に入手できる取引先は貴重なんで、買い取ってくれると思いますが。じゃあ俺、聞いてきます」
と兄さんはアジトを出て行った。
十分ほどで、兄さんは一人のオッサンを連れてきた。
解体現場を見ながら、
「そうだな。一頭当たり5Gでどうだ」
そう言った。
「わかった。じゃあ頼む。兄さんありがとうな」
取引は成立した。
それから、
俺らは今日と明日の朝で食べきれる分を確保し、
あとは屋台の兄さんに全部売った。
そして、
金と酒を手に入れた。
俺たちは焼肉を始める。
多量の肉を前に皆のテンションは異常に高かった。




