パンクスノットデッド
爺さんは、鋲を近くにあった革の籠手の上に並べる。
完全にパンク装備だ。
「これいくらする?」
「この鋲を一つつけるのに、加工賃込みで1Gだ」
「この鋲が大きくなれば、値段は上がるか?」
「これな。大きくなれば値段は上がるが、逆にあまり小さすぎるものは、かえって加工が難しいから値段は高くなる。この鋲の大きさなら、あまり値段は変わらない」
「沢山つけようと思うと、結構値が張るな」
「それはそうだが、それは逆にメリットでもある」
「メリット?どういうことだ」
「簡単だ。うちが儲かる」
爺さんは笑った。
「ははは。そいつはおもしれぇな」
「たとえばだぞ。お前は団を率いるのだろ。功績があったものには、この鋲を増やしていくとかどうだ?」
「騎士の勲章みたいなものか?」
「そうだ。そうだ」
「たしかにいいかもしれないな。わかった。考えてみるぜ」
俺はそう言い、
店を出た。
帰り道、
屋台から肉の匂いがする。
五本で1G。
なかなか安いじゃねぇか。
土産に買って帰ろう。
「おい。兄さん。これは何の肉だ」
俺は尋ねた。
「こいつは魔物討伐で出た肉だ。猪豚みたいな魔物だよ」
店主は言った。
「この店はいつもあるのか?」
「いつもではない。肉がいつもあるわけじゃねぇからな」
「そうか。とりあえず一本貰おうか」
「ほら」
手渡された肉に食らいつく。
なかなか美味い。
「美味いな。ところで兄さん。肉がない時は何をしてる?」
「ブラブラしてるよ」
男は笑った。
「そうか。今あるのは十本か……、それ全部貰うよ」
「じゃあさっきのはサービスにして、2Gでいいや」
「そうかありがとうな。その袋に入れてくれ。仲間に食わせてやりてぇんだ」
……
「帰ったぞ」
俺はアジトの扉を開ける。
アジトはやけにキレイになっていた。
荒くれ者のアジトとは思えねぇ。
まぁヤクザの事務所もキレイだからな。
別にいいか。
そうも思えた。
そういえば、
ヤクザの事務所がキレイなのは、
刑務所に入ると、
整理整頓と掃除を徹底させるから、
その癖が娑婆に出た時に、
発動され、
キレイだと聞いたことがある。
同様に軍隊に入ると、
整理整頓と掃除を徹底させるから、
その癖が社会に出た時に、
発動され、
軍人の住まいもキレイだと聞いた。
軍人とヤクザの家がキレイだっていうのは、
面白いじゃねぇか。
じゃあ、
荒くれ者のアジトがキレイでも不思議じゃねぇな。
そんな風に思った。
「肉の土産だ」
俺はテーブルに肉を置く。
皆集って来る。
「何本食っていい?」
テキーラは言った。
「店にあったのは、十本だけだった。だから一人二本ずつだ」
「親分。計算が早いな」
ドブロクが感心している。
こんな計算普通だろと思うが、
この世界のレベルなら、
そう思うのかもしれないな。
皆かぶりつく。
「こりゃうめぇな」
ドブロクはニヤニヤと笑う。
「親分。これは猪豚みたいな魔物の肉でしょ」
テキーラは言った。
「さすが、元猟師だな。こいつを狩ったことはあるか?」
俺は尋ねる。
「へぇ。五度ばかり狩りやした」
「そうか。このメンツでこいつを狩れるか?」
テキーラは皆を見る。
「そうですね。狩れると思いやす」
「お前ら。この肉を毎日食いたくないか?」
「食いたいっす」
ノンアルは手をあげる。
続いて、
皆も手をあげる。
「そうか。じゃあ当面の討伐の獲物は、この肉だ」
俺は言った。
(うぉー肉だ)
皆のテンションが爆上がりする。
「しかし親分。勇者の仕事は魔物討伐です。そんな肉食いたさにやってて、良いんでしょうか?」
ノンアルは心配そうな顔をした。
「テキーラ。こいつは獣か?それとも魔物か?」
俺はテキーラの目を見る。
「こいつは、人を襲う魔物です。こいつらに何十という村が滅ぼされました」
テキーラは言った。
「そういう事だ。
こいつは肉である前に魔物だ。
俺らは魔物を討伐する勇者だ。
そして倒した魔物が食えた。
美味かった。
それだけだ。
つまり、俺らはこいつらを食えばいい」
「へぇわかりやした」
ノンアルは頭を下げた。
「ところで問題は、これ一頭でどれくらいの肉が取れるかだ?」
「この人数では食いきれませんぜ」
テキーラは言った。
「じゃあ。こうしよう。
この人数で食いきれない部分は、この肉を売っていた屋台に売りに行く」
「それはいいですね。飯も食えるし、現金も得られる」
テキーラは頷く。
「じゃあ。これから毎日一頭ずつ狩ることにしよう」
皆頷く。
「じゃあ。今日は各々が戦闘の訓練だ」
そういうと、
皆、
自らの訓練を始めだした。
日中訓練を終え、
食事の準備を行い、
そして食事を取る。
「晩飯に肉が食えて、酒が飲めれば最高だな」
ビアが言った。
「猪豚を狩って、自分らの取り分を取ったあとに、肉を売り、その金で酒を買えばいいだろう」
俺は言った。
皆頷く。
計画性があまりなく、刹那的な気もするが、
それで良いだろう。
「それで、狩りだがどうしよう」
「親分の近くには俺が控えよう」
ビアは言った。
「あっしは斥候ではぐれた猪豚を探します」
ノンアルは言った。
「俺も元猟師だ。俺も探す」
テキーラは同調する。
「じゃあ。俺は親分の近くで遠くから来る魔物に備える」
ドブロクは頷く。
「じゃあ決まりだな」
俺は言った。
……
俺らは早々に寝る事にした。
この世界は娯楽が少ない。
音楽はあるが、
パンクもなければハードコアパンクもない。
静かな世界も良いが、
ノイズがないと生きにくい。
誰かに、
パンクスノットデッドと言っても、
ここでは通じる事はない。
パンクという共通言語がなくなった。
でもこの世界でパンクスが死んだわけではない。
初めから存在していないのかもしれない。
でも……、
パンクスの魂は、
人の心に小さく息づいている。
ここや、あそこで、
気付かれないうちに。
こっちでも、
元の世界でも、
世界はクソだ。
そう思い、
世界に中指を立てるのが、
パンクの生きざまなんだと俺は思った。




