8. 魔女と騎士と呪い
八話目です。よろしくお願いします。
扉のノブに手を掛け回そうとした時、ジェラルドが焦った様に声を掛けてくる。
「ま、待って下さい魔女殿!」
私はゆっくり振り返った。
「なんだい。もう用はないだろう?」
「お願いします。魔女殿の言う通りにします。呪いを解いてやって下さい」
「初めからそう言ってくれりゃあ良かったんだよ。解呪にさっきの魔石が必要だから寄越しな」
ジェラルドが魔石を渡してくれたので受け取る。
「申し訳ない。私は部屋の外で待機しています。何かあったら呼んで下さい。くれぐれも宜しく頼みます」
「ジェラルド殿、部屋を出る前にあの騎士の蔦模様の起点が知りたいから服の下を見てくれるかい?」
「分かりました。少々お待ち下さい」
ジェラルドは騎士に掛かっている布団をめくり、シャツの前を弛める。
「魔女殿、蔦は心臓を中心に拡がっている様です」
「分かった、ありがとう。服はそのまま蔦の起点が見えるようにしておいておくれ」
「分かりました」
ジェラルドは騎士から離れて私に近づく。
「魔女殿、お願いします」
「大丈夫だよ、ワシに任せな」
私が頷くとジェラルドは部屋の外に出ていった。扉に内側から鍵を掛ける。
「さあ解呪をやってしまおうか」
指輪を外しローブのポケットに入れる。元の姿に戻り銀色の髪が流れる。
ベッドの騎士に近づき、左手に魔石を持ち呪文を唱えながら、右手の指先に魔力を込める。心臓の上に呪いの核が見えた。核を掴みゆっくり蔦の紋様を引き剥がしていく。
呪いにも色々な形がある。今回のは表面に見えているから分かりやすかった。
引っこ抜いた蔦を魔石に触れさせると表面に絡みついていく。呪いは掛けた相手に返すのが簡単で良い。
「よし、これで剥がし終わったわね」
騎士のシャツのボタンを留めて、布団を掛けてやる。顔を見ると、まだ熱はある様だが呼吸も落ち着き静かに眠っている。
「後はゆっくり休めば回復するでしょ。後で、この魔石の呪いも解いてやりたいなあ」
魔石を見ると、表面を黒い蔦が覆っている。
「ま、この魔石を貰えたらだけど」
ローブのポケットから指輪を出して指に嵌める。また老婆の姿になった。
扉の鍵を開け、扉を開いてジェラルドに声を掛ける。
「終わったよ」
「ありがとうございます。魔女殿!」
部屋に入って来たジェラルドはベッドに駆け寄る。容体が落ち着いて眠っている騎士を見て安心した様だ。
「まだ熱はあるが、一、ニ日ゆっくり休ませれば回復するだろうさ」
「助けて下さり、ありがとうございました。魔女殿」
ジェラルドが頭を下げる。
「ワシは仕事をしただけじゃよ。報酬はきっちり払って貰うからの」
「勿論です、魔女殿。報酬は十二分にお渡しいたします」
「それから、この魔石はワシが引き取らせて貰っても良いかの?ちょっと気になる事があるんじゃよ」
「ええ、構いませんが気になる事とは?」
「この魔石の主は魔獣では無いかも知れん。それを調べたいのでな」
「分かりました。どうぞお持ち下さい」
「ありがとうよ」
ジェラルドに礼を言って魔石を鞄に入れる。
「それじゃあワシは帰るとするよ」
「魔女殿。では報酬をお渡しいたします。如何程お渡しすれば?」
危ない危ない。解呪のお金を貰い忘れる所だった。師匠はいつも解呪は金貨三枚貰ってたから私も同額貰っても良いかなあ?でも今回は簡単だったから…。
「金貨二枚で良いよ」
「ではこれを」
ジェラルドが革袋を差し出してきた。受け取るとずっしり重い。中を見ると金貨がぎっしり入っていた。
「少し多すぎやしないかい?」
「いえ。金貨二枚は安すぎです。大切な部下を助けて頂いた感謝の気持ちです。どうか受け取って下さい」
少し迷ったけど、くれるって言うんだから、ありがたく受け取る事にした。騎士団て太っ腹。
ジェラルドは笑って言う。
「王都の神殿で解呪を受けたら、金貨二十枚は必要ですよ」
「そういう事なら、ありがたく貰っておくよ。それじゃあワシは帰るとするか」
鞄に革袋を仕舞い、いそいそと扉に向かう。
「魔女殿、お気を付けて」
振り返らず手を振って部屋を出る。
宿の外に出ると夜の帳が下り始めていた。いつものロッテの姿に戻ろうかと思ったが、老婆のまま帰る事にした。
鞄のお金は明日、村の銀行に預けよう。大金は持っているのが怖い。まあ、西の森の魔女の家に泥棒に入る物好きもいないだろうけど。
エレアの所にも行こう。きっと心配してるだろうし。色々聞かれるだろうな。
鞄からランタンを取り出し灯す。鞄はマジックバッグだから色々入れてある。これは自分で初めて作った魔道具、便利。
面白そうな魔石も手に入ったし、少しウキウキした気分でランタンを軽くを揺らしながら西の森に向かって歩き出す。
仕事が上手く行って、大きな収入を得た私は浮かれていて気付かなかった。先程、解呪した騎士に魔法を解いた私の本当の姿を見られていた事に。
最後まで読んで頂きありがとうございます。




