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5. 老魔女と弟子と誘拐 2

五話目です。

少し時間が戻ります。

屋敷の扉を風魔法で吹き飛ばす。その音に家人が慌てて出てくる。執事姿の男が走って来た。


「何事ですか!この屋敷はポルテ伯爵の屋敷だと知っての狼藉ですか!」


「そうともさ、知ってての狼藉さ。この家の人間が魔女の弟子を拐ったんだよ」


執事は顔を引き攣らせる。


「当家に魔女様の弟子が?そんな馬鹿な!」



「何の騒ぎだ!」


二階から上等な服を着た口髭の男が、怒鳴りながら下りてくる。この男がポルテ伯爵だろう。


「あんたがポルテ伯爵だね。ワシの弟子を返して貰うよ」

「あ、あの娘が魔女の弟子?ただの村娘じゃ無かったのか?」


自白してくれてありがたいねえ。魔女の弟子だろうが、村娘だろうが拐って良いはずがない。伯爵の顔は青を通り越して白くなっている。



屋敷の奥からロッテの魔力を感じる。魔力を感じる方向へ進む。屋敷の者は誰も動かない。伯爵も固まっている。


伯爵の側に黒衣の男がいた。この男からわずかな魔力を感じる。魔力持ちは魔力持ちが分かる。こいつがロッテを拐ったやつだな。



ロッテの魔力の痕跡を頼りに、廊下を奥へ奥へと進んでいく。地下へ続く階段を見つけ下りていくと、突き当たりに扉があった。扉を開けるとロッテが石を手に座り込んでいた。



ワシの姿を認めてロッテが飛び付いてくる。


「師匠!」

「ロッテ無事かい?この頬は?」


ロッテの頬は赤く腫れ上がっていて痛々しい。ロッテは少し笑って言う。


「打たれちゃいました。でも師匠が来てくれるって信じてたから、頑張りました私」


ロッテに回復薬を飲ませる。頬の腫れは瞬時に治った。


「さあロッテ、家に帰ろう」

「はい、師匠。助けに来てくれてありがとうございます」


「当たり前じゃないか」


ロッテの頭を乱暴に撫でる。へへっとロッテが笑う。


 


地下室から出て、屋敷のホールを抜け外に出る。直後に騎士団が到着し、ポルテ伯爵以下が捕縛されていく。


屋敷の者の殆どがロッテが居る事を知らなかったようだが、後は騎士団が処理してくれるだろう。


屋敷から出る時、ジェラルド団長とすれ違う。


「団長、後の事は頼んだよ。ワシは西の森に帰る」


「は、お任せ下さい。弟子殿がご無事で何よりです」




ロッテを抱えて転移魔法を唱える。


家の前に転移すると、レーテが立っていた。家の中で待っていろと言っていたのに、外でずっと待っていたんだろうね。仕方のない母親だ。


ロッテは母親を見つけて我慢していただろう涙をこぼしながらレーテに抱きつく。そんなロッテを力一杯抱きしめるレーテ。


抱きしめられて、ちょっと苦しそうなロッテを見ていると笑いが漏れる。そんなワシにロッテは苦笑いをして『師匠〜助けて〜』って。


ロッテが無事で良かったよ本当に。



あの後、ポルテ伯爵がどうなったか知らない。風の便りで領主が代わったとだけ聞いた。


数日後、ワシの元に国王から謝罪の手紙とお詫びの品が大量に届き、王に苦情を言いに行ったのはまた別の話。




ロッテが誘拐される事件はあったが、それ以外は穏やかな生活が続いた。



しかし、この平穏な日常は簡単に崩れた。ロッテが十二歳の時レーテが病に倒れた。ワシの薬も効かず、医者も手の施しようが無かった。日に日に衰弱していくレーテに何もしてやれず悔しかった。


レーテの最後の時間をロッテと二人きりにしてやった。二人で何を話したのかは知らない。


ロッテと話した数時間後、レーテは眠るように逝ってしまった。


レーテは森の奥に埋葬した。ロッテは泣いて泣いて。目が溶けてしまうんじゃないかと思うくらい泣いて。


三日三晩、泣き通したロッテは四日目の朝、部屋から出てきた時には泣いていなかった。



「師匠、母さまを弔ってくれて、ありがとうございます。今日からまた魔女の修行頑張ります。よろしくお願いします」


「強い子だねロッテ、頑張りな」


「はい。私がいつまでも悲しんでると、母さまが安心出来ないでしょ?私が元気な姿見せなきゃね。それに私にはやらなきゃいけない事が出来たから」


「やらなきゃいけない事って何だい?」


「師匠にも秘密。母さまとの約束なの」


ロッテは舌をペロッとだして笑った。


ワシはロッテの頭をぐりぐり撫でまわしてやった。


「さあ、今日の分の薬作りをしよう」

「はい、薬草取ってきます」


ロッテは倉庫にある乾燥させた薬草を取りに行った。まだ泣きたいだろうに。レーテ、ロッテの事は任せな。ワシがあんたの代わりに立派に育ててやる。




月日は矢の様に過ぎていく。

 

ロッテは十六歳になっていた。ワシが居なくても十分な効き目の薬を作る事が出来る様になった。魔法も上手く扱える。


ロッテを独り立ちさせてもいいかもしれない。そろそろワシも引退かねえ。




「え!?旅に出る?師匠、本当ですか?」


薬を作っていたロッテがびっくり顔で振り向く。


「ああ、お前も十分魔女としてやっていけるだけの実力を身に付けた。独り立ちしてもいい頃だ」

「そんな、師匠!」


「そんな顔をおしでないよ。ワシももう百五十歳。今が旅に出る最後のチャンスなんじゃよ。それに一人じゃないからの」

「え!?」


ワシが呪文を唱えると目の前に黒猫が現れる。


「リズ〜久しぶり!全然呼んでくれないから、ボクの事忘れちゃったと思ったよ」

「久しぶりだね、ネロ」


「し、師匠。その猫は?」


ネロを抱き上げロッテに見せてやる。


「ワシの使い魔のネロだよ」

「ネロだよ〜、君はリズの弟子?」

「は、はい。ロッテと言います」

「よろしくねロッテ〜」


「ネロと一緒に世界を見て回るのがワシの夢だったんじゃ。叶えさせておくれ」


ロッテは少し考え込んで。


「分かりました。師匠…旅が終わったら、ここに帰って来てくれますよね?」


「当たり前じゃないか。ここはワシとレーテとロッテの家だ」



一週間後、ワシは旅に出た。世界中を回って色んな物を見てくるよ。旅から帰ったらロッテに一杯、土産話を聞かせてやらなくてはな。


「ネロ、行くよ」


にゃ〜んとネロが鳴く。のんびり二人旅だ。



そして、ここから先はロッテの物語だ。



最後まで読んで頂きありがとうございます。

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