34. 魔女と騎士と公爵夫人
三十四話目です。よろしくお願いします。
公爵夫人に日当たりの良いサロンに案内された。席に着くと侍女さんがお茶を入れてくれる。
「改めて、ソフィア・ボーデンですわ。ソフィアと呼んで下さいましね」
「ソフィア様。私はシャルロッテ・ロンメルと申します。ロッテとお呼び下さい」
ソフィア様は居住いを正し頭を下げた。
「ロッテ様、夫がご迷惑を掛けましたわ」
「頭を上げて下さいソフィア様。助けて頂いたのは私です」
「あら、ロッテ様は一人で対処なさってたみたいですけど?」
「母さまの恨みを晴らしただけですよ」
二人でくすくす笑いあう。
「やはり貴女はマルガレーテの娘だったのね。どことなく雰囲気が似ていますもの」
「あの時は母さまを助けて頂きありがとうございました。母さまがいつも感謝していました」
「マルガレーテは元気なの?」
「母さまは亡くなりました」
「そう…もう一度会えたら、夫のした事を謝りたかったのだけど…」
ソフィア様は思い出した様に尋ねてくる。
「ねえロッテ様、夫に何の魔法を掛けたんですの?」
「ああ…公爵はこの先ずっと、女性には役立たずになる魔法です」
目をまん丸にしたソフィア様はけらけらと笑い出した。
「まあ可笑しいこと。ざまぁみろだわ」
暫く笑っていたけれど、ソフィア様は笑うのを止めて悔しそうに呟いた。
「私が気付いた時には何人もの娘が犠牲になってましたわ。下位貴族や平民の娘には金銭を渡して口を封じていた様です」
「ソフィア様…」
「陛下にも夫の所行を訴えましたのよ。陛下から何度も忠告やお叱りを受けても、夫は何も変わらなかった。勿論、私も何度も夫に止めるよう言いましたわ。でも聞き入れて貰えなくて…辛かったわ」
「でも、もう大丈夫ですよ。公爵は女性に不埒な事は出来ないんですから」
「そうね。ロッテ様のお陰ね」
ソフィア様が私の手を取って言う。
「ロッテ様、貴女もこの公爵家の娘なのだから、ここに一緒に住まない?公爵家は私の一人息子が継ぐけれど、貴女は義妹なんだもの。きっと良い嫁ぎ先を見つけてくれるわ」
ソフィア様の言葉を聞いたユーリが慌てて話に入って来る。さっきまで空気だったのに。
「ソフィア様、お待ち下さい。ロッテは私の婚約者です」
「ロッテ様、そうなの?」
「まあ…そう言うことです。ですから、ありがたいお話ですが、私は公爵家の人間にはなりません」
「でも殿下に嫁がれるなら公爵令嬢の身分は邪魔にはならないわ」
「私は魔女ですから。身分は必要無いと陛下から言質を取ってますので大丈夫です」
「そうなの?残念だわ。折角娘が出来ると思ったのに…」
ソフィア様は本心からがっかりされた様だ。申し訳ないが今更、貴族令嬢にはなりたくない。ユーリとだって婚約はしたけど、結婚するかどうかは…分からないんだから。
私は西の森の魔女だもんね。
「それはそうとユーリ、よくここが分かったわね?」
「ああ、ロッテには王家の影を付けてあるからね」
なんでしょう、また聞いてないんですけど。
「ユーリ、また私聞いてないんですけど?」
「そりゃあ、ロッテに言ったら魔法で逃げちゃうだろ?だからさ。それに王都にいる間だけだから」
当たってはいるけど反論はする。
「見張られているみたいで、すんごく嫌。影の人を外してくれないと、ず〜っとユーリの事は殿下呼びしますけど良いですか?」
「だって、ロッテが心配じゃないか。今日だって勝手に公爵に付いて行ったりさあ。薬が効いてたら何されてたか分からないんだよ?」
「でも、大丈夫だったじゃない」
「今日はね。でも次は?大丈夫じゃないかもしれない」
ユーリの気持ちも分からないではない。心配してくれるのも嬉しい、だけど嫌なものは嫌なのだ。引かないよ私。
「私は魔女だもの。自分の身は自分で守れるわ!」
二人の会話を黙って聞いていたソフィア様がぼそっと言う。
「殿下の負けですわよ。これ以上しつこくしたら嫌われちゃいますよ。それにず〜っと殿下呼び、良いんですか?」
肩を落としたユーリが呟く。渋々と言った感じで。
「…分かった、影は外す。だから無茶だけはしないで本当に。心配なんだ」
「しない様に心掛けるわ」
ソフィア様がパンッと手を叩く。
「さあさ、仲直りなさいな。痴話喧嘩は見ていて面白いけれど、本当に別れちゃうのは嫌だから。ね?」
ソフィア様のお陰で、ニ人の間に流れていた空気が霧散する。
「ユーリ、心配してくれるのは嬉しいけど信頼もして?本当に自分で対処出来ない時はちゃんと頼るから」
「分かった。信頼するから頼ってくれ。約束だ」
「うん」
恥ずかしいけどユーリと指切りをする。
「ロッテ様、一度私の息子、貴女の義兄にも会ってやって下さいな。夫に似ず真面目で婚約者に一途な子なんですのよ」
夫に似ずの所で、妙に力が入っているソフィア様が可笑しくて笑ってしまう。
「ええ是非。私もお義兄様に会ってみたいわ」
「約束よ。また絶対来てね」
「指切りしますか?」
「もちろんですわ!」
ソフィア様とも指切りをする。いつでも来てと言われたので、今度の日の曜日は義兄も居るらしいので遊びに来る事にした。次に来る時は私自慢の回復薬を持参しよう。
和やかにお茶会は終わり、ソフィア様に見送られてユーリと帰路に着く。帰るのはもちろん西の森の家だ。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
次話で完結となります。




