32. 魔女と公爵とざまぁ 1
三十二話目です。よろしくお願いします。
侍女さんの後をついて行く。
窓の外の庭園を見ながら歩いていたから、前方から歩いてきた男に気付かなかった。すれ違いざまに声を掛けられる。
「そこの娘、待て」
周りを見渡すが私と侍女さん二人しかいない。娘?え?私の事か?声のした方に向くとバーデン公爵と侍従が立っていた。
「私でしょうか?」
「お前しかおらんだろうが。お前とは以前会ったな?…そうか、祝勝会でユリウスが連れていた娘だな」
バーデン公爵の口がいやらしく持ち上げられる。
「あの時は名前すら聞けなかったな。娘、名は?」
「……」
「言わぬか。まあいい」
頭の先から足先まで舐めるように見られて気分が悪い。あの時もそうだった。
まったく人をなんだと思っているのか。
「そう言えば…確か祝勝会の時に、ロッテと呼ばれていなかったか?家名を持たぬのか。ユリウスにしてやられたな。お前は何者だ?」
「答える必要があります?」
男が口の端を上げてニヤついた笑いを浮かべる。
「もしかして平民か?ふむ、平民にしておくには美しいな。私はバーデン公爵だ。娘、私の茶に付き合え」
復讐の機会を相手から用意してくれた。でも、ユーリに知らせておきたい、どうする私?
「無理です。ユリウス殿下を待っておりますので」
「少しの時間で良い。茶に付き合え。平民が公爵である私の言う事を聞けないのか?」
「私の身はユリウス殿下の保護下にあります。殿下の許可無くしては動けません」
公爵は嫌そうな顔をした。
「ふん、ユリウスか。あ奴らは気に食わん。いつも私の邪魔をする…」
公爵は側にいた侍従に顎で指示を出す。
「お嬢様、申し訳ありません。どうぞ公爵様のお茶にお付き合いください」
侍従が私の腕を取って連れて行こうとする。
「嫌です。ユリウス殿下に言いますよ」
私が断ると公爵が嫌な笑い方をしながら言う。
「ユリウス如きに何が出来る。娘、お前が断ればお前の家族に害が及ぶやもしれんぞ?」
今、私の家族と呼べるのは師匠とミラルカだけだ。彼らに危害を加えられる筈もないが…とことん性根の腐った男だ。
幸い、師匠は旅行中だ。もし師匠に手を出したら痛い目を見るのは公爵の方だ。…それ、見たかったかも。
「…分かりました。侍女さん、殿下に伝えて下さいね。バーデン公爵様のお茶に誘われて断れなかったと」
公爵は侍従に目配せをして直ぐ顔を私の方に向けた。侍従は侍女さんがユーリに伝えるのを阻むだろう。
「行くぞ、娘」
「…分かりました」
公爵の後ろをとことこと歩いて行く。ある一室に連れてこられた。部屋には侍女が一人居た。
部屋の真ん中にテーブルとソファがある。普通の部屋だ。おかしな所は見当たらない。
公爵が侍女に言い付ける。
「お茶を二人分用意しろ。いつものやつだ。分かっているな」
「…はい、かしこまりました」
返事をする侍女の手が僅かに震えている。この侍女は公爵のやる事が分かっていて、いつも手伝わされているのだろう。
侍女がお茶の用意の為に部屋を出る。
貴族の娘なら男と二人きりなど許されるものではないが、平民だからと甘く見ているのか。
公爵は先にソファに座り、私にも座るよう命令してくる。仕方なく公爵の対面のソファに座る。
「名はロッテだったな。お前はユリウスの何だ?」
「婚約者ですが」
「平民が婚約者だと?嘘をつくな。ユリウスの愛人か?」
ムカつく。何だよコイツは!愛人って失礼だな。
「違います。本当に婚約者です」
「まあいい。そう言う事にしておいてやろう」
何なんだ本当に?小馬鹿にした様に笑う公爵にイライラする。そうしていると侍女がお茶を運んで来た。
「お待たせ致しました」
公爵と私の前にお茶を置いていく。侍女の顔色が悪い。お茶に何か仕掛けたんだな。
「さあ、お茶を飲むがいい」
「…いただきます」
何が入っているのか知らないけど、魔女である私に毒や薬物は効かないからね。一口飲んだ…何だ、眠り薬か。
お茶を飲み切ってカップをソーサーに戻す。
「平民では飲めないようなお茶だ。美味いだろう」
「え…え、そう…です…ね」
本当は欠片も効いてないけど、薬で眠くなってきたように振る舞う。
テーブルに突っ伏して眠ったふりをする。
「少し早いような気もするが…薬が効いたか」
公爵は立ち上がり扉を開けて侍従を呼ぶ。
「裏口に馬車を用意しろ」
「はい、かしこまりました」
公爵は壁の方に歩き何かを回していた。目を閉じているので分からないが、何か重たいものが動く気配がする。
私に近付いてきた公爵は、膝裏に手を入れて私を抱き上げる。先程、何かが動く音がした方へ向かっているみたい。
前方から風が流れて来て、狭い通路を抜けている感じがする。暫くすると扉が開く音がした。外に出たのだろう瞼を通して光を感じる。
「旦那様、馬車はこちらです」
「ああ」
この声はあの侍従だろうか?
いつもこんな事をしているのか、手慣れた様子で馬車に乗せられた。私を椅子に寝かせ反対側に公爵が座る。
嫌だわあ…視線が刺さる。どうせ値踏みでもしているのでしょうね。私が自分の娘だなんて思いもしないで。
馬車は街の中を走る。さて、どこへ連れて行ってくれるのかしら?楽しみだわ。
あの侍女さんがユーリに伝えてくれてたら良いんだけど、きっと公爵の侍従に阻まれてユーリに会えなかったんじゃないかと思う。ユーリが心配してなきゃ良いけど…。
最後まで読んで頂きありがとうございます。




