31. 魔女と王子と本当の気持ち
三十一話目です。よろしくお願いします。
サラサさんに案内されてユーリが待つ応接室に行く。私が部屋に入ると、ドアを少し開けたままサラサさんは外に出ていく。
ユーリも楽な服装に着替えて、ソファで本を読んでいた。
「ユーリ、話があるんだけど良いかな?」
「何?そんな所に立ってないで座りなよ」
ユーリの前のテーブルを挟んだソファに座る。
「で、話って何?」
大きく息を吸い込んで吐き出す。
「ユーリに返事をしようと思って」
ユーリは読んでいた本をテーブルの上に置いて私の方を見た。
「私、ユーリの気持ちに応えられない。だから、もう二度と会わないようにしよう」
「何故?俺の事嫌いになった?」
「そうじゃない。でも私に貴族の生活は無理。ユーリは貴族として生きて行く方がいい。だから、ここでお別れしよう」
「それだけ?俺が納得出来る理由でなければ引き下がるつもりは無いよ」
「私は魔女よ。魔女は辞められないし、辞めたくない。貴族として生きる貴方とは一緒に居られないわ」
「なんだ、そんな事?」
ユーリが笑う。何なの?私、真剣に話してるんだけど。
「何笑ってるの?私、真面目に話してるんだけど」
「だって、ロッテが望むなら平民になっても良いと思ってるし。陛下は俺の判断に任せるって言ってくれてる」
思わずテーブルの上に身を乗り出す。
「そんな簡単に捨てられるの?平民になったら簡単に陛下や王妃陛下、貴方のお母様や兄弟達にも会えなくなるのよ」
ユーリは身を乗り出した私に顔を近付けてくる。
「心配してくれるんだ。嬉しいな。なら、もう一つ案があるんだ。臣籍降下して西の森を領地に貰って森の家に住むんだ。ロッテは社交界なんて出なくて良いし、領地経営は俺がやる。ロッテはいつも通り魔女の仕事してくれればいい」
「そんな都合いい事…。そんな我儘が通るの?」
なんだか気が抜けた。ソファにぽすんと座り込む。
「私、ユーリは貴族の世界にいる方が幸せだと思ってた。…他の令嬢と踊ってた時、ずっと笑顔だったし…」
「あー、あのダンスね。あれは仕方なく踊ったんだ。まさか、しかめっ面で踊る訳にも行かないだろう?もしかしてロッテやきもち焼いてくれてる?」
「し、知らない!」
「貴族なんて未練はないよ、あんな堅苦しい生活。それが嫌で一騎士として騎士団に入っていたんだから。だから、どっちを選んでくれても良いんだ」
ユーリが私の隣に移動してくる。
「で、ロッテは俺の事好き?好きだよね」
「何でそうなるの?」
「だって、俺が領地経営でロッテが魔女のままを『都合いい事』だと思うって事は、俺と居る未来を考えてくれたからだよね」
「そっそうなる…のかな?」
「ね、ロッテ。俺の事好きって言って」
ユーリが笑顔で、なんだか思う通りに転がされてる気がして悔しい。
「悔しいから言わない!」
悩んでた自分が恥ずかしくて、ぷいっと顔を背ける。
「俺はロッテが好きだよ。ロッテもいつかはちゃんと言って欲しいな」
ユーリに頭をぽんぽんされる。これは嫌いじゃない。
「あ、そうだ。ロッテに渡すものがあったんだ」
ユーリは立ち上がって、棚から小さな箱を持ってきた。箱の中には腕輪が二つ入っていた。
「前の腕輪は溶けてしまったから、改めて嵌めてくれる?今度は意味を理解した上で」
「…うん」
これを着けるって事はユーリと恋人をして、いつかは結婚するって事。ちゃんと分かってる。
「ありがとう。明日、陛下に報告に行きたいんだけど、ロッテも一緒に来てくれる?」
「…分かった」
「そう、良かった。今日はここに泊まって」
ユーリは私の額にキスをして、頬にもキスをする。真っ赤になって固まってしまった私。
ユーリはベルを鳴らしてサラサさんを呼んで、私の泊まる部屋を用意する様にと言い付けていた。
『帰りたい』と言う言葉は言い出せなかった……。今夜は眠れそうにない。
翌朝、サラサさんと侍女さん達の手によって、磨かれドレスを着せられた。今日は夜会では無いので、シンプルなドレスだ。
馬車で王宮に向かう。
「陛下に報告するだけだから」
ユーリにエスコートされ、連れて行かれた場所は謁見室だった。道理でユーリも正装な訳だ。謁見室には国王陛下と王妃陛下以外にも数人、人がいる。
国王陛下にユーリが挨拶をする。
「国の太陽たる国王陛下にご挨拶申し上げます。本日は謁見の機会を賜り感謝申し上げます」
「よい。楽にせよ」
「はっ」
「本日は私、ユーリ・フォン・ベルナーとの婚約を西の森の魔女ロッテ嬢に了承頂けた事をご報告申し上げます」
ぬな!お付き合いすっ飛ばして婚約?聞いてないんですけどぉ。口をパクパクさせている私を置いてけぼりにして話は進んで行く。
「おお!やっとか。ヤキモキしておったぞ!」
「まあまあ!これでロッテちゃんが娘になるのね!」
ロッテちゃん!?
玉座から王妃様が駆け下りてくる。ガシッと私の手を握られた。
「ロッテちゃん、お母さまと呼んでくれて良いのよ」
「王妃陛下、気が早すぎます」
ユーリが嗜めるが、王妃様は止まらない。
「陛下、取り急ぎユリウス殿下の婚約の手続きを取ります」
「頼んだぞ宰相」
「かしこまりました」
部屋にいた人の一人は宰相だったようだ。宰相が部屋から出ていくと側にいた人達も付き従って部屋から出て行った。
無事報告を終え謁見室から出て、はあ…と息を吐く。
「ユーリ、色々すっ飛ばし過ぎなんですけど」
「良いじゃない。ロッテを取られたくないからね」
廊下を歩いていると、騎士団団長のジェラルドがユーリの元にやって来る。
「ユーリ、今、良いか?ちょっと団長室まで来て欲しいんだが…」
ユーリが私の方を向く。
「私なら大丈夫だよ。行ってあげて」
「すまない。すぐ戻るから」
ユーリは辺りを見回し、近くにいた侍女に声を掛けるとジェラルドと行ってしまった。
「お嬢様、ユリウス殿下より客室に案内するよう申しつかりました。こちらへどうぞ」
侍女さんに付いて、客室に向かう事にした。
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