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30. 魔女と王子と恋心

三十話目です。よろしくお願いします。

髪からドレスに滴が落ちる。


「みっともない姿ね。さっさとお下がりなさい。二度とユリウス殿下に近寄らないで」


私が反論しようとした時、ユーリが走ってくるのが見えた。


ユーリが私を庇うように前に立つ。


「彼女に何をした?」


怒りを隠そうともしないユーリがアネッサに問いかける。


「ユリウス殿下には私と言う婚約者がいるのです。だから身を弁えて下さるようお願いしていただけですわ」


「君との婚約は断わった筈だ」

「いいえ、ユリウス殿下。殿下はわたくしと結婚して侯爵家を継ぐのですわ。お父様が仰ってましたもの」 


「そんな話は無い」

「わたくしはずっと殿下をお慕いしておりましたのよ!貴方の妻になるのはわたくしですわ」


「俺には関係ない。今回の件は陛下にも報告する。何らかの処罰が下る故、覚悟をしておけ。早く俺の前から消えろ」


「そんな…あんまりですわ!」

「アネッサ様、お待ち下さい!」

「アネッサ様!」


アネッサは泣きながら走り去った。取り巻きの令嬢達も一緒に退散してくれた。


「ユーリ、ちょっと冷たいんじゃない?」

「曖昧にして気を持たせる方が悪いだろう?俺はロッテが好きなんだから」

「そうかも知れないけど…」


「ロッテの方が怒ってもいいんだぞ。ジュースを掛けられたのか?」

「大丈夫よ」


「大丈夫なもんか!風邪を引く。早く着替えに行こう」


まあ確かに濡れたドレスは冷たい。


ユーリが呼んでくれた侍女さんが、お風呂を用意してくれてドレスも着替えさせてくれた。こう言う時の為に予備のドレスを用意しているそうだ。


と言うか、こんな事がよく起こる王宮って一体どうなってるの?と思わなくも無い。



もう疲れちゃったから、ユーリに帰ると言おう。ユーリは大広間に戻っていると侍女さんが教えてくれた。


大広間に行くと、ユーリは令嬢達に囲まれて微笑みながら話をしていた。やがて一人の令嬢の手を取りダンスに行く。


綺麗だ。私みたいな偽物令嬢じゃなくて、本物の貴族の令嬢と王子様。立ち居振る舞いも間違いなく王子様だ。彼が生きてきた世界はここ、私とは違う。


そしてこれからも。


なんだかユーリが知らない人みたいで、彼の所に行く気にならなかった。王子様と結婚して、めでたしめでたしなんて夢物語だ。ユーリが本当にただの騎士なら良かったのに。


胸の奥がキリキリ痛む。この感情に名前を付ける前に蓋をしてしまおう。


ユーリにサヨナラを告げて森の家に帰ろう。そして二度と会わない。ユーリが追いかけて来られないような遠くに行ってもいい。会わなければすぐに忘れる…きっと。


胸の痛みを誤魔化すように深呼吸をする。そんな私の元に国王陛下によく似た顔の、銀色の髪に紫の瞳をした男が近付いてくる。


「こんな綺麗なお嬢さんが壁の花だなんて勿体ない。私と踊らないか?」


男は右手を差し出して来るが取る気はない。


「踊り疲れて休んでいるんです。お構いなく」


「そんな事を言わずに、さあ」


男は尚も私を誘う。今日は絡まれる日なんだろうか?


「踊らないって言ってるの。しつこい男は嫌われるわよ」


「小娘が生意気な事を」


私の言葉に苛立った男は私の腕を掴んで、無理矢理ダンスに連れ出そうとした。


いつの間に来たのか、私の腕を掴む男の腕をユーリが掴む。


「叔父上!止めて下さい。彼女は嫌がっています」

「ユリウス、私は可愛らしいお嬢さんをダンスに誘っているだけだ。腕を離しなさい」


仕方なくユーリは叔父上と呼んだ男の腕を離す。


「叔父上。彼女は私の母の親戚の娘です。他国からお忍びで来ているので、本当の名前は伏せています。ご理解下さい」


さり気なく、他国の身分の高い人間だから(嘘だけど)手を出すなと牽制してくれている。


男は私の体を舐めるように見てくる。全身に鳥肌が立つ。


「おやまあ残念だ。可愛いお嬢さん、ユリウスに飽きたら私の所においで。私の方が楽しませてあげられるよ」


「叔父上!」


「冗談だよ。またねお嬢さん」


男はにやにや笑いながら去っていった。


「ユーリ、ありがとう。助かったわ」

「ロッテも戻って来てたなら俺の所に来てくれれば良かったのに」


「ご令嬢と楽しくダンスを踊ってたし、邪魔しちゃいけないと思ってね」

「そんな訳ないじゃないか」


「それより、さっきの男は誰なの?」

「あれがボーデン公爵だよ」

「あの男がボーデン公爵…」


あんな品性の欠片もない男が父親だなんて。思っていた以上に最低な人間だった。


「あれが私の父親だなんて最悪だわ。知らないとは言え、娘の私にあんな視線を向けてくるなんて気持ち悪い」


自分の体を抱きしめてしまう。


「大丈夫か?ロッテ」


「…今直ぐ、あの男をぶん殴ってやりたい気分よ」


「叔父上は俺の母と折り合いが悪くてね。だから息子である俺に変に絡んでくるんだ」

「本当に最低な男だわ」



祝勝会も終わり帰路に着く。ボーデン公爵の顔を見る事が出来たし、人間性も見ることが出来た。復讐の機会はきっと来る。


ユーリの屋敷に戻ってドレスを脱がせてもらった。サラサさんが色々と世話をやこうとするのを固辞し自分で身繕いをする。


いつものローブに着替えると落ち着く。瞳を閉じて覚悟を決める。


さあ、ユーリとお別れの時間だ。



最後まで読んで頂きありがとうございます。


難産でした。切ない気持ちが伝わるでしょうか?

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