24. 魔女と騎士と完全回復薬
二十四話目です。よろしくお願いします。
余りの熱さに腕輪の周りに氷魔法を掛けるが、腕輪の熱は中々引かながった。
「な、なんで?」
『『…ロッテ…』』
「ユーリ?」
居るはずのないユーリの声が聞こえた気がして辺りを見回す。
「…ユーリに何かあったんじゃ…」
「ロッテ、どうしたのじゃ?」
「…友達が北の辺境伯領に魔獣討伐の遠征に行ってるの。その人から貰った腕輪が溶けていて…。今彼の声が…聞こえた気がした…」
体が震えて止まらない。両腕で自分の体を抱きしめる。北の辺境伯領には行った事が無いから転移魔法は使えない。
「どうしよう。どうしたらいい?」
「ロッテ、落ち着け」
「そうだ!回復薬!」
私は作業場に飛び込んで、鞄に入るだけ回復薬を詰め込む。戸棚に仕舞ってあった完全回復薬をポケットに入れた。
「ここから辺境伯領まで何日掛かる?どうやって行く?馬車が出てるのかな?」
部屋の中をウロウロと歩き回る。
「こりゃ落ち着かんかロッテ」
「ミラルカ…私どうしたらいい?分からない」
「北の辺境伯領じゃな?」
「うん」
「妾が連れて行ってやるわ!」
「どうやって?」
「表に出るが良い」
ミラルカに促され、鞄を手に外に出る。
「少し離れておれ」
そう言うとミラルカの体は馬ぐらいに大きくなった。
「妾に乗りゃ。北の辺境伯領など一瞬じゃ」
「いいの?ありがとうミラルカ」
ミラルカが少し屈んでくれたので背に乗る事が出来た。
「行くぞ、しっかり掴まっておれ」
「うん。大丈夫」
そう言うとミラルカの体が宙に浮かび、宛ら風のように駆ける。落ちない様にしっかりとミラルカの身体にしがみつく。
(ユーリ待ってて、すぐ行くから…)
ミラルカの宣言通り辺境伯領には直ぐに到着した。下に瘴気が広がる森が見える。森の七割方が瘴気に侵されてしまっていた。
瘴気溜まりからは留まる事なく魔獣が湧き出している。
「酷い…」
「ここまでとはな。…あやつめ…また仕事をサボりおって」
ミラルカの言葉の最後は聞き取れなかった。
森の入り口辺りにテントと騎士の姿を見つけたので、ミラルカに騎士の側へ下りてもらう。近くにいた若い騎士は目を丸くしていた。
突然、大きな犬(って言うとミラルカが怒りそうだが)が降ってきたのだから驚くわよね。
若い騎士に声を掛ける。
「そこの騎士さん、ユーリって人知らない?」
「!クラウゼ副団長の事でしょうか?」
「副団長かは知らないけど、黒髪で青い瞳の背の高い人よ」
若い騎士は少し言い淀んだ。
「…クラウゼ副団長は救護テントに居ます。でもお会いにならない方がいいと思います」
ミラルカから下りて騎士に詰め寄る。
「ユーリに何があったの!?」
「副団長は魔獣の炎に焼かれて瀕死の重体です」
「救護テントってあれ?」
森の入り口のテントを指差す。
「そうです…しかし、入れま」
騎士が肯定したので、まだ何か言ってたが聞き終わらない内に走り出した。
ミラルカが私を追ってくる。テントに駆け込もうとしたらテントの入り口にいた騎士に止められた。
「何者だ!ここには騎士団の者しか入れぬ!」
「この中にユーリって人居る?」
「居たとしても、お前に答える必要は無い!」
騎士の言葉で中にユーリが居る事を確信する。
「退きなさい!時間が無いの!」
「駄目だ!入るな!」
テントに入ろうとした私の腕を騎士が掴む。
「…離しなさい。私はユーリを助けるために来た魔女よ」
「ま、魔女?」
魔女と言う言葉に驚いた騎士の手が私から離れる。その隙にテントの中に滑り込む。
中は負傷者で溢れ返っていた。
テントの中を見渡すと隅の方に団長のジェラルドの姿があった。
ジェラルドの側のベッドに寝かされていたのは、かつて人間だったであろう黒い塊。全身が焼けていて炭の様だ。生きているのが不思議なくらいの。僅かに胸が呼吸しているのを証明するように上下している。
ベッドの傍らには治癒術師が懸命に治療を続けている様だか効果は無さそうだ。
これは本当にユーリなんだろうか。確認するように左腕を見るが腕輪は無かった。溶けてしまったのだろう。耳を見ると私の作ったピアスが鈍く光っていた。間違いないユーリだ、生きていてくれた。
魔女不可侵条約なんて無視してユーリに付いて来れば良かった。そうすればこんな事にはならなかったはずだ。
知らず知らず落ちていた涙を拭う。泣いてる暇はない、ユーリを助けなきゃ。
ポケットの中から金色の回復薬を取り出す。完全回復薬、これが間違いでないなら死者以外は回復させられる筈だ。
ユーリに近づくがジェラルドが立ち塞がる。
「君は誰だ?何故ここに入って来た!」
「私は西の森の魔女ロッテ。ユーリを助けに来たの。邪魔しないで!」
「西の森の魔女殿?」
困惑するジェラルドを押しのけ、ベッドの脇に膝をつく。
僅かに開いた口に回復薬を流し込もうとするけれど上手く中に入って行かない。
私は回復薬を口に含みユーリのそれに重ねる。焼けて固くなった唇、そのすき間から何とか回復薬を流し込んだ。微かに喉が嚥下したのが確認出来た。
瞬間、回復薬が効き始めユーリの体が光を帯びて元の柔らかい皮膚に戻って行く。
「効いた…良かった。良かった」
さっき止まった涙がまた流れてくる。暫くするとユーリの目が開かれた。
「…ロッ…テ…?」
「ユーリ!心配したんだよ!馬鹿馬鹿馬鹿!」
ベッドの上のユーリに抱きつく。
「ごめんロッテ。心配掛けた」
ユーリの手が私の背に回り抱きしめてくる。
「馬鹿…」
ユーリの心臓の音が力強く聞こえてきてほっとする。しばらくそのまま心音を聞いていた。
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