22. 騎士と魔獣と回復薬(ユーリ視点)
二十二話目です。よろしくお願いします。
北の辺境伯の領地に来て一週間が過ぎた。状況は思っていた以上に酷かった。倒しても倒しても際限なく湧き出て来る魔獣。
辺境伯の兵は言わずもがな、騎士達の疲労もピークを越えている。終わりの見えない戦いに士気も下がってくる。
疲労からか負傷者も多く、ロッテのくれた回復薬はとても助かったが無限では無い。底が見えてきている。
平和が長く他国と戦争をする事も無い為、軍を持っていない。それは近隣の国々も同じで他国からの救援も望めない。
それでも国を守る為、人々を守る為に戦わなくてはいけない。
瘴気溜まりは森の奥にあり、魔獣もそこから来る。森から出てくる魔獣は辺境伯の兵に任せて、騎士団は森の奥へ向かう。
瘴気溜まりの大きさと何故、大量の魔獣を吐き出しているのに、瘴気溜まりが小さくならないのか原因を調べる為だ。
襲い来る魔獣を倒しながら進む。
「ユーリ!次来るぞ!」
騎士仲間のオスカーから声が掛かる。
「どこだ!」
「右から六頭!」
六頭を二人で切り捨て更に奥へ進む。魔獣の大きさは大型の犬くらいで討伐も難しい物ではない。ただ数が多い。
「負傷者は後方に下がり手当を受けろ!残った者で陣形を整える!」
団長が叫ぶ。
「怪我はないか?オスカー」
「俺は大丈夫だ。ユーリこそ大丈夫か?」
「ああ、掠り傷くらいだ」
二人共肩で息をしながら話す。
「後どれくらい倒せば終わるんだろうな?」
「分からない。でも俺達がやらなきゃ誰がやってくれる?」
ふとロッテの事を思い出す。休みを取らずに薬作りをして、また床で眠っていないだろうか?食事はちゃんと取っているだろうか?
こんな大変な状況なのにロッテを思い出すと笑みが溢れる。無意識にピアスを撫でていた。
「あれ?ユーリお前ピアスなんかしてたっけ?」
「ああ、遠征前に貰ったんだ」
「へー彼女か?」
「…友人だよ、今はまだ。そう言うオスカーはどうなんだよ」
「俺もいるよ大事な人」
「そうか、なら絶対に生き残って帰らないとな」
「ああ!絶対だ」
魔獣を倒しながら、少しづつ瘴気溜まりのある森の奥へ進んでいく。瘴気溜まりに近づくに連れ、魔獣の数も更に多くなってきた。
「もう少しで瘴気溜まりに到着するな」
「ああ、気を付けろよ。瘴気溜まりに近くになって魔獣の数も増えたし、凶暴さも増しているみたいだ」
オスカーに注意を促しながら、自分も辺りに注意し進む。
突然、瘴気溜まりから巨大な影が現れる。魔獣だ。それもとても大きく、まるで山のようだ。
「なんだあれ?大きすぎないか?」
オスカーが焦ったように言う。
「俺もあんなのは見た事がない」
「ユーリ!オスカー!あれは大きすぎる!騎士団全員であたるんだ!」
団長から指示が飛ぶ。
俺もオスカーも他の団員も一斉に斬りかかる。この魔獣は強い。爪や牙に切り裂かれ負傷していく騎士が増えていく。
オスカーは弾き飛ばされた弾みで木に打ち付けられ気絶している。今、立っているのは俺と団長だけだ。
相手の魔獣もこちらの攻撃を受けて、全身に傷を負っている。それでも力を振り絞り魔獣が俺に向かって来た。牙を剣で止めた所に、横から団長が切り込み魔獣の目に剣を突き刺す。
魔獣が首を振って団長を引き離し、飛び退いて俺達から距離を取る。団長は地面に叩きつけられて、剣を支えに立ち上がろうとするが痛みからか中々立ち上がれない。
そんな団長に向かって魔獣は炎の息を吐き出す。団長は逃げられない。
「団長!!」
俺は咄嗟に団長を突き飛ばした。炎の息は容赦なく俺を焼いていく。炎に包まれる俺を見た団長の目が驚愕で見開かれている。
「ユーリ!!」
俺は立っている事が出来なくて地面に倒れ込んだ。あれだけの炎を受けて、まだ生きているのが不思議だ。
意識を失いかけている俺を薄い魔力の膜が覆って行く。ロッテの魔力だと分かる優しい光だった。
「ロ…ッテ…」
約束破ってごめん。俺、帰れなくなったみたいだ…。好きだよロッテ……。
気絶から回復したオスカーが、俺の姿を認め、叫び声を上げながら魔獣に斬りかかって行く。さっきの炎の息が最後の力だったのか、殆ど抵抗も無くオスカーの剣に頭を貫かれて魔獣は崩れ落ちた。後には魔獣から出た魔石があるのみ。
魔獣の最期を確認して、オスカーが駆け寄って来る。オスカーは友である俺の姿を見て立ち尽くしていた。
「ユーリ嘘だよな。お前、絶対に帰るって言ってたじゃないか。死なないよな。ユーリ、ユーリ!」
なんだよ、オスカー泣いてるじゃないか。俺は大丈夫だよと言いたい、でも声が出ない。
「ユーリ!返事をしてくれ!俺が不甲斐ないないばかりに!お前が身代わりになる事なんて無かったんだ!」
団長も呼んでいる、でも…眠いんだ。このまま眠らせて…。
「オスカー!救護班だ。早く救護班を呼んでくれ!まだ息がある。ユーリを救護テントに運ぶんだ!」
その言葉にハッとしたオスカーは急いで救難信号の魔道具を使った。
暫くの後、救難信号を受けた救護班の団員と護衛の騎士数名がやって来て、負傷した者達を救護テントに運んで行った。
俺の意識は深い闇の中に落ちていく。
この戦いで、多くの騎士が負傷し撤退を余儀なくされた。
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