21. 魔女と騎士と遠征
二十一話目です。よろしくお願いします。
最近、増えた騎士団からの注文に違和感を感じつつも、今日も一日いつもと変わらぬ日常を過ごし、そろそろユーリが帰って来る時間になった。
穏やかな日が続き、日常と言うものはあっけなく崩れる物だと言う事を忘れていた。
帰って来て早々、話があるからとユーリに呼ばれ食事を作っていた手を止めた。
テーブルに着いてユーリの話を聞く。
「話って何?」
「前に北の辺境伯領で魔獣が増えていると言う話をしたのを覚えているか?」
「うん、だから私の回復薬が必要だったんでしょ?」
「そうなんだ。その辺境伯領の魔獣が辺境伯軍だけでは対処出来ないほど、大量に発生しているらしい。瘴気溜まりが大きな池みたいになっていて、際限なく魔獣が湧き出しているんだ」
瘴気溜まりは普通は水溜まり程度だ。ある程度、魔獣が発生すれば瘴気溜まりは自然に消えるらしい。
今回の物は規模が違うみたいで、瘴気を浄化出来る人間がいれば良いが我が国には存在しない。
「それで明日から北の辺境伯領に遠征に行く事になった。辺境伯領の魔獣を全て討伐し、瘴気が無くなるまで帰れないと思う」
ユーリの言葉をすぐには理解できず言葉に詰まる。
「遠征?北の辺境伯領まで?そんなに魔獣が増えてたの?」
「ああ、大分前から報告が上がっていたんだ。それで、一週間前に騎士団を派遣する事が決まったんだけど、言えなかった…」
ユーリは視線をテーブルに落とす。
「辺境伯領の魔獣がこのまま増え続けたら国がどうなるか分からない。だから俺は行く事を志願した。ロッテがいるこの国を守りたいんだ」
「…大丈夫なんだよね?魔獣討伐して瘴気が無くなれば帰って来るんだよね」
「大丈夫だよ、すぐ帰って来る」
ユーリは笑っているが、無事に帰って来れる保証なんて何処にもない。なんでそんな大事な事をギリギリまで言わないんだこの人は。何だか悔しくて泣きたくなる。
「騎士団からの薬の注文が増えてたのに、気付かなかった私も大概だけど、何でもっと早く言ってくれなかったの!出発が明日だなんて!」
「ごめん、ロッテに心配掛けると思ったら言えなくて…」
「馬鹿!早く言おうが遅く言おうが心配するのは一緒よ!」
明日出発するなら時間がない。急いで作りたい物がある。
「ユーリ、今日は私の作業の邪魔しないでね。食事が終わったら悪いけど部屋に行ってて」
「え!?今日はロッテとゆっくりしたかったんだけど…ごめん、怒ってる?」
「怒ってる。でも心配もしてる。だから今夜は私の好きにさせて。お願い」
「分かった。ごめんロッテ。ごめん」
「うん」
ユーリはまだ何か言いたそうにしてたけど、お風呂と食事を終えて自分の部屋に行ってくれた。
明日の朝までに、彼を守る魔道具を作って回復薬も作れるだけ作る。
「魔道具は師匠みたいに上手く作れないのが悔しい。もっと勉強しておけば良かった…」
顔を両手でパンッと叩く。
「今、私の作れる最高の守護の魔道具を作ろう!」
上質の魔石をピアスに加工して、守護の魔法を何重にも掛ける。無事に帰って来る様にと願いを込めて。
色んな色の魔石がある中で、魔石の色を紫にしたのは深い意味は無い…無いはずだ。
ピアスが出来上がったのは日付が変わった頃。今から回復薬を作る。回復薬は何本あってもいいだろうから、ユーリが出発する朝までに作れるだけ作る。
只管、薬作りに没頭していて気が付いたら日が昇りかけていた。もうすぐユーリは起きて来るだろう。
マジックバッグに作った回復薬を詰める。バッグは回復薬でパンパンだ。それでもまだ薬を作る。作りながらユーリが起きて来るのを待つ。
小鳥の鳴き声が聞こえる頃、ユーリが起きて来た。一階に下りてきても居心地の悪そうなユーリに椅子を勧め朝食を出す。会話も無いまま食事を終えた。
団服に着替え家を出ようとするユーリに話し掛ける。
「ユーリ、昨日はごめんなさい。貴方にこれを渡したくて。作る為とはいえ、遠征に行く貴方に冷たい態度を取ったわ」
「ロッテ…」
ユーリの手にピアスを乗せる。
「ピアス?作ってくれたの?」
「うん、気休め程度だけど守護の魔法が掛けてあるから」
「紫…。ロッテの瞳の色だね」
「べ、別に紫を選んだ訳じゃなくて偶々、上質な魔石が紫だっただけだからね!」
ユーリは嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとうロッテ。着けてくれる?」
「うん」
ユーリの耳にピアスを着ける。
「ありがとう。似合う?」
「うん、似合ってる。それからこれ。回復薬が入ってるから使って」
ユーリにマジックバッグを渡す。
「ごめん。回復薬まで用意してくれてありがとう。大切に使わせて貰うよ」
「ちゃんと帰って来てよね。約束だからね」
「うん。約束」
ユーリと指切りをする。
見つめ合う感じになって、恥ずかしくなった私が目を伏せたら、いきなりユーリに抱きしめられた。
「…本当は行きたくない。ロッテとずっとここに居たい。騎士なんて辞めてもいい」
そっとユーリの背に手を回し、ぽんぽんと叩く。
「騎士を辞めるなんて出来ないくせに。ユーリの嘘つき。誰かを護る事が出来る騎士の仕事が好きなのは知ってるよ」
「…ロッテには敵わないなあ」
「ふふふっ、私は魔女だもの。何でもお見通しさね」
体を離してユーリが言う。
「待っててくれる?俺が帰って来るまで」
「待ってるよ、ずっと」
ユーリは私の頭をぽんぽんする。
「ありがとう。行ってくるよ」
「いってらっしゃい」
ユーリは表情を引き締めて出て行った。回復薬の入ったバッグを抱き締めて振り返らずに。
出て行った扉に向かって言う。
「待ってるから帰って来てよね」
ユーリの無事を願う。無意識に左腕にある腕輪を撫でていた。
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